企業の社会的責任(CSR)


基調講演に続くパネルディスカッションでは、坂井 萌様(経済産業省経済産業政策局経済社会政策室室長補佐)、松山 一雄様(サトーホールディングス株式会社代表取締役執行役員社長兼最高経営責任者)、前田 和夫様(メック株式会社代表取締役社長)、井口 譲二様(ニッセイアセットマネジメント株式会社株式運用部担当部長)、浅山 理恵(株式会社三井住友銀行執行役員品質管理部長)の5名がパネリストとして参加しました(モデレーターは足達 英一郎(株式会社日本総合研究所理事))。

はじめに、モデレーターから、2001〜2014年に各国で発表された「女性活躍と経営のパフォーマンスとの関係性」に関する43の論文のうち、正の関係があるとする論文が27編ある一方で、中立が10編、負の関係があるとする論文が6編あるという日本総合研究所の調査結果が示されました。女性活躍を推進しさえれば必ず企業価値向上に結びつくとは限らないとの認識のもと、どうすれば女性活躍推進を企業価値向上に結びつけることができるのかについて議論が行われました。


1.パネリストによるプレゼンテーション

(1)坂井 萌様「成長戦略としての女性活躍の推進」(経済産業省経済産業政策局経済社会政策室室長補佐)

日本は諸外国と比べて特に子育て世代の女性の労働力率が低い。第1子の出産を機に離職する女性が6割超という状況が20年以上続いており、仕事と育児の両立が大きな課題となっている。この背景には、労働者の長時間労働の問題と時間当たりの労働生産性の低さがある。また、諸外国では、経済・社会における女性の参画が進んでいる国ほど競争力と所得が上昇する傾向が見られるが、日本企業における役員の女性比率は約2%と、先進国の中で最低の水準である。こうした中、経済産業省では今後の経済政策として、女性や若者、障がい者、高齢者など一人一人が能力を活かし、多様な感性や技術力を発揮してイノベーションを起こすことが重要と考えている。

企業経営において、多様な人材が持つ能力を最大限発揮する機会を提供するダイバーシティ経営のメリットは4つあげられる。1つ目は、「多様な市場ニーズへの対応(特にグローバル市場のメインプレーヤーである女性顧客のニーズに応じた商品開発や販売戦略)」。2つ目は、「優秀な人材の確保」。3つ目は、「リスク管理能力(ガバナンス)や変化に対する適応能力の向上」。4つ目は、「ESG投資を通じた長期・安定的な資金調達」である。

経済産業省では具体的な施策として、平成24年度から「ダイバーシティ経営企業100選」を開始。優れたダイバーシティ経営企業を選定・表彰し、ベストプラクティス集として広く発信している。併せて、「なでしこ銘柄」を東京証券取引所と共同で選定し、女性の活躍推進に優れた上場企業を優良銘柄として投資家に紹介している。こうした取り組みを通じて、ダイバーシティに積極的に取り組む企業の裾野を広げ、女性活躍の加速化を推進している。


(2)前田 和夫様「女性の活躍推進への取り組みを企業価値につなげるために〜メックの取り組み〜」(メック株式会社代表取締役社長)

メックは、社名の由来にあるように、機械、電子、化学の3つを融合し、主にエレクトロニクス関連の界面処理を核とする技術開発力を基盤に、電子基板・部品製造用薬品の開発・製造販売および機械装置、各種資材の販売を行っている。

1969年の創業当初から「仕事を楽しむ」を社是としてきた。化学という分野は女性のエンジニアが多く、独特の感性が要求される分野でもある。創業以来、性別や職種を問わず、機会を均等に提供してきた。出産や育児のため休業する女性に対しては、必ず戻ってきてもらいたい旨を経営者の意思として伝えている。経営層や管理職層が、男女を問わず部下に期待を伝えることが重要である。長年にわたるこうした取り組みが、誰もが多彩な能力を存分に発揮できる企業風土につながっている。

制度としては、雇用は職種、性別を問わず同一人事体系である。このため自然に機会均等になっていった。育児休業は最長で1年6ヶ月間取得可能とし、育児短時間勤務は子どもが小学校3年生終了時まで認めている。男性の育児休業・短時間勤務の利用実績もある。

従業員の平均年齢は男性が42.1歳、女性が41.6歳であり、平均勤続年数も男性が13.6年、女性が13.4年と殆ど差がない。従業員の女性比率は約31%、女性管理職比率は約22%。取締役5名のうち1名が女性、監査役3名のうち1名が女性である。従業員172名のうち研究所に籍を置く者が76名、このうち24名が女性であり、研究開発本部長も女性が務めている。平成26年度には、「なでしこ銘柄」に選定された。


(3)井口 譲二様「女性の活躍推進を企業価値につなげるために何が必要か?」(ニッセイアセットマネジメント株式会社株式運用部担当部長)

日本の投資家の間で、非財務情報を考慮した運用の重要性が増している。アベノミクスの日本再興戦略をきっかけとして、日本の投資環境は激変した。スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードが制定され、中長期視点での投資が重要となっている。投資判断における視点が短期から中長期になるほど、四半期決算などの財務情報だけでなく、企業がどの方向に向かっているか、経営者がどのようなことを考えているかといった情報(非財務情報)が必要となる。当社の調査によると、アナリストは、非財務情報(ESG)の評価が高い企業に対しては、高い売上高予想、利益率改善を予想する傾向にあることが明らかになった。女性の活躍に関する情報は、従業員のモラルといったS(社会)側面での重要な投資情報、また、G(ガバナンス)側面でもダイバーシティの重要性が増し、女性の活躍は有用な投資情報となりうる。

日本の投資家による非財務情報を考慮した運用は始まったばかりだが、グローバルな投資家の間では、ダイバーシティなどの非財務情報を考慮する動きがさらに加速している。ICGN(International Corporate Governance Network:米欧の主要年金基金・運用機関が集まり、長期投資推進などについて話し合う団体)は、取締役会の多様化や女性の活躍を投資家がどう見ているか、投資先の企業がどうあるべきかを示したガイドライン“ICGN Guidance on Gender Diversity on Boards”を策定した。投資における企業の女性活躍推進の位置づけは、単なるCSR(社会的責任)ではなく、企業のコーポレートガバナンスの健全性を見極める重要なポイントとされている。投資家が、取締役会の構成において重視するのは「独立性(Independence)」「能力(Skill)」「多様性(Diversity)」の3つである。リーマンショックの原因の1つには、同質的な取締役会があったと言われている。取締役会における多様性は企業の健全化に貢献するという考え方が、グローバルな投資家や企業経営者の間に拡がっている。


(4)浅山 理恵「女性の活躍推進への取組みを企業価値につなげるために」(株式会社三井住友銀行執行役員品質管理部長)

三井住友銀行は、平成26年度「なでしこ銘柄」と「ダイバーシティ経営企業100選」に選定されたが、ここまでの道のりは平坦なものではなかった。女性総合職の採用は1987年から開始されたものの、採用比率は長期にわたり1割未満と少なく、また、職種を問わず、結婚や出産による退職も多かったため、従業員の人員構成は男性に偏った時代が続いた。2006年以降、全職種で採用人数を増やし、女性の採用比率も上げた結果、2015年4月には女性の比率が男性を上回るようになった。

弊行のダイバーシティ推進の歩みとしては、2005年に、女性従業員の比率が高く、既に管理職登用も始まっていたリテール部門で女性活躍の推進組織が設置されたのを第1段階のスタートとして捉えている。第2段階は、2008年の「多様性を強みに」を狙いとした人事部・ダイバーシティ推進室の設置以降。全部門が推進対象となったが、育児と仕事の両立支援と管理職登用が主で、軸足は女性に置かれていた。第3段階として、2014年に頭取直轄のダイバーシティ推進委員会を立ち上げた。女性に限らず、全従業員の働き方改革や、介護との両立支援に向けた施策を進めている。

両立支援制度としては、「育児休業制度」や「短時間勤務制度」等の基本的な制度整備のほか、育児をしながら働く女性従業員の声をもとに、「託児補給金制度」や「ビジネスネーム(旧姓)使用ルール整備」等を進めてきた。また、就業継続に向けた意識を醸成するため、出産前の「プレママ研修」、休業中の「育休復帰サポート講座」、復帰後の「ワーキングマザーミーティング」等のメニューを提供。最近では、部門毎に休業中のブランクを補完する研修も立ち上げるなど、単に「就業を継続する」という段階から、「仕事で活躍する」という意識への啓発に変化している。育児休業取得者数は、この8年で12倍にも増加した。2014年からは、パパママフォーラムとして「イクメン」の育成や、「イクボス連盟」への加盟など、男性を対象とする取り組みも開始した。前述のダイバーシティ推進委員会では、外部有識者からの意見やアドバイスを受け、部門に即した推進を行いつつ、全体的な進捗を図っている。2014年度末時点の女性管理職の人数は567名、比率は12.2%(2010年度末の約2倍)だが、直近では600名以上に増加している。さらに、2020年度末までに女性管理職比率を20%まで引き上げるという数値目標を掲げている。弊行としては、数値目標の達成を目指すのはもちろんだが、女性従業員がお客さまのお役に立ち、日本の成長に貢献することで、多様性の推進が弊行の力になり、日本経済の力になっていると実感していただけることを目指している。

2.女性の活躍推進を企業価値につなげるためには何が必要か

次に、モデレーターから、女性の活躍推進をきっかけとする組織の多様性向上が、企業価値向上につながる5つの道筋(※)の仮説について紹介した。また、ティッピングポイントとして、女性の比率がある値を超えなければ経営への効果や企業価値向上には結びつかないという考えを提示した。その後、組織の多様性を企業価値に結びつけるために企業がすべきことについて、パネリストからご意見を頂いた。


(※)多様性向上が企業価値向上につながる5つの道筋(パス)

  • 1サービス・品質の改善・向上
  • 1多様な視点からのプロダクト・イノベーション
  • 1プロセス・イノベーションによる生産性向上
  • 1優秀な人材の獲得・定着
  • 1ガバナンスの改善

坂井様は、女性の活躍支援として、まず育児と仕事の両立支援に取り組む企業は多いが、組織の多様性の向上を企業価値と結びつけ、戦略的に取り組んでいる企業はまだ限られるのではないかと指摘。今後は、多様な視点によるイノベーションの創出が企業競争力強化の鍵であり、ダイバーシティ経営の取組が一層重要になると指摘した。

松山様は、同質の人間が集まると空気を壊さないように話を進めがちで、あえて自分の意見を出さない。このため新しいアイディアが生まれにくいが、女性や異なるバックグラウンドの人材が入ることで、空気をあえて壊すような発言が出てくることがある。それがイノベーションや変化につながると述べた。また、個々の違いを強みにするダイバーシティの推進は大事だが、併せて、企業理念といった組織としての共通の価値観や目標を共有しなければ、経営への効果にはつながらないとも指摘した。

前田様は、一般的に消費財やサービス購入の意思決定者は女性が多いため、製品・サービス開発に女性の視点が入った方が良いこと、生産財の開発においても女性ならではの視点、直観力、粘り強さや観察力などを取り入れることで製品価値が上がる可能性があることを指摘した。また、メックでカスタマーサポートチームや品質保証の長を務める女性は率直で公平に物事を見るという能力が高く、確実に価値を生んでいると述べた。さらに、今後、高齢化社会の到来なども見据えると、テクノロジーの発展にダイバーシティという観点は不可欠であるという考えを示した。

浅山は、昭和の時代は、組織は人材の同質性を強みとしてきたが、時代が変わり、今後は個々の違いを強みにしていかなければならないと指摘。例えば、男女がいることで、コミュニケーションスタイルも多様になる等、営業の人材にもバリエーションがあった方が多様なお客さまに対応できることや、リスク管理の観点からも、取締役や監査部、品質管理部等でも多様な人材がいた方が多様な気づきがあると述べた。

井口様は企業価値分析の専門家である投資家の立場から、ESG評価の高い良い会社はマーケットからの評価も高く、長期的には株価パフォーマンスも高くなるという調査結果を提示。10月1日に開催された米国機関投資家連合大会でも、年金基金の幹部が運用委託先を決定する際、ダイバーシティにも目配りしているか否かを考慮するという発言があったことや、大手運用会社のガバナンス担当者から、取締役会にダイバーシティやマネジメントを見るスキルセットがあるかを考慮しているという発言があったことを紹介。グローバルな投資家を持つ企業は、ダイバーシティに配慮することが必須になっていることを指摘した。


3.統括

最後に、モデレーターから、6月に東京証券取引所が公表したコーポレートガバナンス・コードにおいても、「上場会社は、社内に異なる経験・技能・属性を反映した多様な視点や価値観が存在することは、会社の持続的な成長を確保する上での強みとなり得る、との認識に立ち、社内における女性の活躍促進を含む多様性の確保を推進すべきである」と明記されたことが紹介された。多様性の推進がコーポレートガバナンスのあるべき姿として公式化されたとも解釈でき、日本は今、大きな転換期を迎えているとの認識が示された。企業には、行動計画の策定や数値目標の設定等の義務が科されているが、多様性の推進に取り組む意義は必ずあるとして締めくくられた。

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