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環境経営の現場から

温暖化という地球規模の課題に対し「ハチドリの一滴」を落とし続けたい 株式会社金羊社 代表取締役社長  浅野 健 氏

環境問題に取り組み始めた経緯をお教え願えますか。

 会社の取り組みとしては、2003年1月にISO14001を取得したことが最初の環境活動ということになるでしょう。しかし、当時は取引先との関係や今後のビジネスへの影響を考慮し、ISO14001取得が経営のプラスになると合理的に判断したに過ぎませんでした。今から思えば、このことが、逆に、環境問題を深く考えるきっかけだったといえます。環境問題の根本を理解していない企業が「環境に配慮しています」とポーズを取ることに何の意味があるのか、本当の意味で社会貢献になっているのか、私は日々自問自答を繰り返しました。

 その答えを探るため、環境問題に詳しい講師を招き、社内で勉強会を開催しました。その勉強会で、私は1冊の小さな絵本※と出会いました。その本には「ハチドリの一滴(ひとしずく)」という南米に古くから伝わるささやかな寓話が描かれていました。

 ある日、平和な森で山火事が起きます。襲いくる炎から逃れようと、動物たちは必死で山から逃げようとします。ところが、小さなハチドリだけがみんなと逆行して山へ向かい、燃え盛る炎の上でくちばしから一滴の水を落とすのです。動物たちは「そんなことをして何になるんだ。おまえも早く逃げろ」と言いますが、ハチドリは何を言われても愚直に一滴の水を落とし続けます。そしてこう言うのです。「私は自分ができることをしているだけ」と。

 この話を読んだとき、私は目からウロコが落ちる思いでした。温暖化という地球規模の課題に対し、私たち中小企業は一滴の水を落とす程度のことしかできないかもしれない。でも、それはそれでいいじゃないか。一人ひとりがハチドリになれば、ひょっとしたら山火事を消せるかもしれない。誰が何を言おうと、正しいと思ったらそれをやり続ければいい、それだけのことじゃないか。そう思ったら、すべての迷いが消え去ったのです。

 私は、この思いを従業員一人ひとりと共有したいと考え、全員に絵本を配り、家に帰ってぜひお子さんに読み聞かせてほしいと伝えました。

その思いが、「紙ジャケ」や「エコジャケ」につながるのですね。

 弊社は、音楽や映像などエンターテインメント分野におけるCD/DVDのパッケージを企画から開発・製造・印刷・加工までトータルに展開しています。この分野では一昔前まで、大量生産のプラスチック製パッケージが主流とされていました。これに対し、弊社では長年培ってきた印刷技術をベースに、紙や木などのエコ材料を使用したパッケージを開発し、積極的に展開してきました。いわゆる「紙ジャケ」「エコジャケ」といわれるパッケージ製品です。紙はリサイクル可能なので環境によいのは当然ですが、私たちがエコ材料を使用する理由はほかにもあります。私たちは、CD/DVDに収録されている音楽や映像を単なる商業製品だとは考えていません。そこに収録されている曲や物語には、アーティストの思いが注ぎ込まれており、再生されることによってその思いは空間を揺るがし、多くの人の心を動かすのだと考えています。パッケージには、その大切な思いを包み込む役割があります。だからこそ、私たちはパッケージそのものにも、作品を表すような温かさや手触り、特別感を持たせたいのです。そのために、大量生産のプラスチックではなく、人に優しい紙や木などのエコ材料を採用しています。

 このような理念で展開してきた「紙ジャケ」「エコジャケ」は、おかげさまで多くのアーティストの方々からご支持をいただき、業界で高いシェアを得られるまでに事業が成長してきました。

プラスチック製よりコスト高という理由で反対されることはありませんか。

 確かに、コスト高という理由で提案が通らないこともあります。しかし、自身のコンテンツを発表するアーティストは、差別化したい、思いを伝えたいという理由で、コスト高になっても弊社のジャケットを選んで下さる方がたくさんいらっしゃいます。また、エコに関心を持つアーティストが増えてきたことも追い風になっています。

 デフレの時代ですし、消費者にとってもロープライスは望ましいかもしれませんが、一手間、二手間かかる商品には、何物にも替えがたい価値があると私は信じています。CDケースに入らないから嫌だという方もいらっしゃいますが、多様化の時代でもありますので、消費者の選択肢を増やすという意味で受け入れていただけると思っています。

製品以外の分野における環境配慮の取り組みについてお教え願えますか。

 弊社の工場でも、かつては「お昼休みは電気を消しましょう」「廊下の照明を半分消しましょう」といった、ありがちな省エネを推進していました。しかし、今ではこうした活動ではなく、別のアプローチで省エネに取り組んでいます。勤務中に電気を消す活動は、従業員の士気を下げてしまうばかりか、省エネ効果もほとんど上がらないことがわかったからです。そこで、もっと抜本的に消費電力を見直そうと考え、工場内の至る所に電力計を設置し、機械ごとのベンチマークを行い、消費電力を「見える化」しました。その数値を分析した結果、空調で約45%、動力で約45%、照明で約10%の電力を使用していることがわかりました。数値がわかっただけでは意味がないので、電機メーカーとの共同プロジェクトを立ち上げ、生産設備を待機電力の低い機種に切り替えたり、空調を最適制御するなどの工夫を図ることで、1カ月に100万円以上の削減効果を生み出すことができました。また、本社および御殿場工場では、屋上に設置した太陽光パネルによる自家電力も有効活用しています。

 さらに、工場の敷地内にはケナフというCO2吸収力の高い植物を植栽し、従業員の通勤用自動車による排気ガスを吸収させる取り組みも進めています。

「トキの野生化復帰支援プロジェクト」にも取り組んでいらっしゃいますね。

 毎年、7月と10月に従業員および、その家族と一緒に佐渡島でトキの餌場となるビオトープづくりのツアーに参加しています。雑草や木々をかき分け、汗水流して山奥まで歩いていくと、減反政策の影響で干からび、荒れ果てた土地が私たちを待っています。泥にまみれながら、この耕作放棄地の雑草を刈り取り、水を引き込み、トキの餌となるタニシやドジョウ、サワガニ、カエルなどが生息する肥沃な土地を再生する活動を行っています。私は、従業員に年に1回とは言わないから、5年に1回でもよいので家族一緒に参加してほしいと伝えています。環境問題は、現地に行かなくては本当の意味での理解はできません。たとえば、佐渡島に行けば、トキの問題だけではなく、減反政策によってどれほど土地が荒れてしまったかがわかるし、地元農家の方々の暮らしぶりも見える。農薬を使った稲作が自然にどのような影響を与えているか、実感として理解できるのです。そのような実情を目の当たりにすると感受性の鋭い子どもたちは、環境問題は新聞やテレビの中の出来事ではなく、私たちの身近で実際に起きているんだという事実を肌で理解してくれるのです。

 また、このツアーのよいところは現地で汗を流すだけで終わらないことです。トキの野生化は話題性があるので「トキが飛んだ」「放鳥された」など、ことある度にマスコミが取り上げてくれます。そうしたニュースや新聞記事が流れると、ツアーに参加した子どもたちは「お父さん、僕たちが行ったあの田んぼにもトキが来ているかな」というように家庭での会話が増えます。都会に住んでいたとしても、こうしたきっかけで親子に会話が生まれ、環境問題への関心がどんどん高まっていくわけです。さらに、弊社では佐渡島の有機栽培米「トキヒカリ」を毎年お歳暮に贈ることにしています。このお米を味わえば、ツアーに参加した人の家庭では、また佐渡島の思い出が花開くことになるというわけです。このように佐渡島で始まった物語は、都会に戻ってもいつまでも終わらず、環境問題への関心とともに雪だるまのようにどんどん大きくなっていくのです。

環境に関する今後の取り組みについてお聞かせ下さい。

 環境に配慮した印刷物をさらに広めるため、今後はフレキソ印刷に注力していく予定です。フレキソ印刷は、有害物質の排出が少なく、エネルギー消費も削減できる環境に最も優しい印刷方式といわれています。弊社では、2008年よりUVインキを採用したフレキソ印刷に取り組んでいますが、今後は、トルエンや酢酸エチルなどの有機溶剤を含まない水性インキを使用し、より環境にやさしい“エコ・プリンティング”を推進していく予定です。

会社概要

社名
株式会社金羊社
所在地
東京都大田区鵜の木2-8-4
資本金
1億6,700万円
事業内容
商業印刷、 出版印刷、 オーディオ・ビジュアルソフト関係付属品の製造、デジタルメディアの制作など。
TEL
03-3750-2101(代表)
URL
http://www.kinyosha.co.jp/

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.82(2010年3月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。

新しいウィンドウで開きます。『SAFE』Vol.82(2010年3月号)


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