環境ビジネス情報

印刷用ページを別ウィンドウで開きます



環境経営の現場から

食品残渣の肥料化を通じて都市における地域循環型リサイクルを実現 株式会社五十嵐商会 代表取締役社長 五十嵐 和代 氏

御社の沿革についてご紹介をお願いいたします。

 弊社の創業は、先代である父が浄化槽の清掃会社を立ち上げた1961年です。誰もが嫌がる仕事でしたが、先代の「人の役に立ちたい」という強い使命感のもとで始めた事業だと聞いています。先代は「人の役に立ちたい」「お客さまに喜んでいただきたい」という思いを常に抱いており、浄化槽の清掃でお客さまのお宅に伺った際にも、周辺の落ち葉まで拾い集めるなど丁寧な仕事を心がけていたそうです。その仕事ぶりがお客さまの信頼につながり、仕事が仕事を呼ぶ好循環を生むことになりました。先代は、「世の中に求められる仕事」「お客さまに喜ばれる仕事」を常に心がけ、その後もビルの清掃、汚水槽や貯水槽のメンテナンス、人々の安全に寄与する警備事業などへ事業の幅を広げていきました。食品リサイクル事業も、この思いの延長線上にある仕事だということができます。

食品リサイクル事業に着手されたきっかけをお教え願えますか。

 先代は「使える資源まで捨ててしまうような社会がいつまでも続くわけがない。近い将来、必ず資源を有効活用する時代がくる。その日のために、いち早くリサイクルの仕事に取り組まなくてはならない」と、何十年も前から話していました。その思いが実現に向けて動き出したのは2000年のことでした。学校給食から出る食品残 の有効活用を模索していた東京都練馬区が食品リサイクル事業の計画を構想し、その事業に弊社が協力することになったのです。しかし、事業開始に向けて準備を始めた矢先、突然先代が倒れ、入院生活を余儀なくされてしまったのです。それでも先代は亡くなる直前まで病院のベッドから指示を出し、この計画の実現に心血を注ぎ続けました。私が事業を引き継いだのは、先代が命を燃やし続けたこの計画を、白紙に戻したくないという思いからでした。しかし、意欲や熱意だけでは乗り越えられない数々の障壁が、この計画の前には立ちはだかっていたのです。

 まず直面したのが土地の問題でした。区内で完結できる地産地消型リサイクルを推進したいという練馬区の思いに応えるべく、当初は区内で購入できる土地を探していました。ところが、どれだけ探しても練馬区には購入できる工業用地がどこにもありませんでした。やがて、2002年1月の事業開始予定日が近づき、焦燥感を募らせていた私はふと先代の言葉を思い出しました。それは、北区の浮間に知人の工場があり、オーナーが土地を譲渡したいと話していたという言葉です。この場所であれば、練馬区の回収拠点からさほど遠くありません。すがるような思いで現地を訪ね、思いを伝えたところ、オーナーが理解を示してくれ、土地を譲渡していただけることになりました。

 こうして土地が見つかり、工場建設が始まってからも試行錯誤の連続でした。弊社が計画したのは、1日4.9トンの処理能力を持つリサイクル施設の建設です。しかし、当時はこれほど大規模な施設は数少なかったため、設備設計や工場建設のノウハウを持つ業者が少なく、そのため、弊社はさまざまな業者に頼み込んで工場建設への協力を呼びかけ、苦労を重ねながら施設の建設を進めることになりました。特に苦労したのが、近隣に対する臭いや騒音、振動などの防止策でした。

近隣へ配慮したさまざまな環境対策に取り組まれているそうですね。

 「IGARASHI資源リサイクルセンター」のある場所は工業用地ですが、周辺には住宅やマンションが近接しています。近隣住民に迷惑をかけず事業を運営していくには、振動や騒音、臭気に対する万全の対策が欠かせません。中でも、食品残 を扱う我々が最も気をつけなければいけないのが臭気の問題です。食品残 の運搬車両は住宅地を通りますから、工場だけではなく回収路における臭気にも注意を払わなくてはいけません。そこで考えついたのが保冷車での運搬です。荷台を常に外気より5℃低い温度に保つことで、外部への放臭を抑える工夫を凝らしました。さらに、分厚い防音壁を設けて騒音を1日の中で最も規制が厳しい夜間の基準値55デシベルを下回る数値にまで下げ、設備機器の足元に振動防止策を施すことで振動も夜間における規制値60デシベル以下に抑えるなど、あらゆる面で環境配慮策を講じました。しかし、設備での対策だけでは臭気を十分に抑制することはできません。そこで、我々が取った対策は、社員による徹底した清掃という人海戦術でした。工場内は機械の裏の裏まで、毎日徹底的に清掃を実施。もっとも雑菌が繁殖しやすい排水用の側溝は、毎日殺菌剤とブラシで清掃をした後、必ず乾燥させています。臭気の原因は雑菌の繁殖ですから、乾燥させることが一番の対策になるのです。このように3S(整理・整頓・清掃)を徹底し、工場内だけではなく屋外の側溝まで清掃することにより、食品工場にも負けない清潔さを実現することができました。操業以来、近隣から臭気に対するクレームがないのは、こうした地道な努力の結果だということができます。

2008年に稼働を開始した新規プラントについてご紹介をお願いいたします。

 2008年に堆肥化処理設備を刷新し、処理能力を従来の4.9トンから10.8トンに拡大しました。新しい設備では、さらなる臭気対策を実現するため「直接燃焼脱臭法」を採用しました。この技術は、市町村の清掃工場などでも採用されているもので、高温での燃焼処理によって臭気のもととなる細菌を死滅させるというものです。一般にダイオキシンを発生させる心配がない発酵設備では600℃で処理すればいいのですが、弊社では燃焼温度を700℃まで上げることでさらに高い無臭効果を実現しています。

 新しいプラントでは、環境対策だけではなく処理能力と肥料の品質を高めるための工夫も凝らしています。もっとも苦労したのが堆肥化処理設備のふるい器の設計でした。食品リサイクルの難しさは、どれだけ注意を払っても食品パッケージなどの夾雑物が原料に含まれてしまうことです。夾雑物は製品である肥料の品質に関わるため100%取り除かなければいけません。ところが、設計書通りに開発した装置では、何度繰り返しても夾雑物を完全に取り除くことができませんでした。そこで、弊社の技術者と設備メーカーの技術者が半年間必死になって試験と検証を繰り返し、ようやく最適な原料の運搬速度や振動率を導き出し、夾雑物を完全に取り除くことに成功しました。他にも、作業員の負荷を減らすために計量器を床に埋め込んだり、コンテナの設置台を床の高さに合わせるなど、さまざまな工夫を凝らしています。こうした細かな改良の結果、1日に10.8トンという高い処理能力を実現できるようになったのです。

御社で生産しているリサイクル肥料についてご紹介をお願いいたします。

 練馬区の小中学校を中心とする174カ所から回収した食品残 を使って生産しているのが「練馬の大地」と「リヴァイブ練馬(内城B菌)」です。内容はほぼ同じで、ペレットタイプに加工したものが「練馬の大地」、堆肥化処理設備で発酵させたリサイクル肥料をそのまま使っているのが「リヴァイブ練馬」です。もっとも大きな特徴は、肥料としてのバランスが優れていることです。これは学校給食を主原料としているがゆえのメリットです。たとえば、中華レストランで排出された残 を使うと塩分濃度や油分が上がってしまいますが、管理栄養士さんが毎日栄養バランスを計算してつくっている学校給食の残 は成分の偏りがありません。それに加え、弊社では高温でも活発に活動でき、土壌改良効果の高い「内城菌」という土壌菌を使用することで、肥料としての品質を高めることに成功しました。おかげさまで「練馬の大地」と「リヴァイブ練馬」は、その品質がクチコミで評判となり、練馬区内の農家や学校菜園だけではなく、全国の農業生産者の方にお使いいただいています。生産物もお米やお茶、さくらんぼなど幅広く使われており、農家の方々からは「成長が早くなった」「糖分が増した」「連作障害がなくなった」といった評価の声をいただいています。

今後の環境への取り組みについてお教えいただけますか。

 現在、騒音や臭気に関して法律よりも厳しい自主規制を設け、コンテナの洗浄に雨水や井戸水を活用するなど、さまざまな環境負荷低減策を進めていますが、今後はより地域のみなさまに貢献できる取り組みを進めていきたいと考えています。

 現在、弊社がお手伝いさせていただいている食品リサイクルの取り組みは、生ごみの排出から肥料として生まれ変わるまで練馬区周辺で完結しています。この都市型リサイクルは、環境教育の貴重なモデルになると考えています。毎日食べている給食、その残 がどうやって肥料となり、その肥料からどのような農産物がつくられているのか、全体のサイクルを学べるこの環境は絶好の環境教育の教材になると思うのです。環境教育の場として弊社の設備をご利用いただけるのであれば、工場に見学コースを設けるなど最大限の協力をしたいと考えています。

 また、弊社では、2010年9月に中国の上海交通大学に招かれて食品リサイクルの取り組みに関する講演を行ったのですが、それ以降、現地の環境工学の教授や学生との交流が続いています。これからは中国でも都市型の食品リサイクルが重要になるといわれていますので、技術支援や人材交流などの形で、国際的な貢献をしていきたいと考えています。

会社概要

社名
株式会社五十嵐商会
所在地
東京都練馬区三原台2-1-27
資本金
1,000万円
事業内容
廃棄物の収集・運搬・処分、資源リサイクル、清掃、警備、環境衛生
TEL
03-3922-7547(代表)
URL
http://www.igarashisyoukai.co.jp

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.87(2011年1月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。


環境経営の現場からトップへ

印刷用ページを別ウィンドウで開きます

このページの先頭へ戻る