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環境経営の現場から

ミドリムシの力で、世界中の人々を健康にし、地球温暖化問題の解決に貢献する 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長 出雲 充氏

ミドリムシを活用した事業に取り組んだ経緯を教えていただけますか。

 大学在籍中に、バングラデシュを訪れたことが今の仕事の原点となっています。バングラデシュは貧しい国なので、みんな飢えているとの先入観を持って訪れたのですが、現地に食べ物がなくて困っている人はいませんでした。調べてみると、米などの穀類はとれるので食欲は満たせるものの、野菜や動物系の食べ物がとれず、多くの人が栄養失調状態にあることがわかりました。飢餓はないけれど、栄養失調が蔓延していたのです。子どもたちは元気に走り回っていますが、栄養が欠乏しているので病気にかかりやすく、結果的に死亡率の増加につながっていました。日本では出合うことのない、しかし世界に確実に存在する本当の貧困と出合い、そのときに抱いた栄養問題への気づきが、創業の原点となりました。貧困国の栄養問題を解決するには、豊富な栄養素を誰もがとれるようにしなければならない、そのために必要なものは何か、調べている中で出合ったのがミドリムシでした。

なぜ、ミドリムシに目を付けたのですか。

 健康的な生活を送るには、野菜や動物系の栄養をバランスよく摂取する必要があります。ミドリムシは、わずか0.05ミリメートルの藻の一種で植物のように光合成を行って栄養分を体内に蓄えるだけでなく、動物のように細胞を変形させて移動することができます。このような性質を備えている生物は、ミドリムシ以外に存在しません。しかも、太陽光と水、CO2で成長でき、栄養素の生産効率はなんと稲の約80倍ともいわれています。ミドリムシは植物に含まれるビタミンCや葉酸、動物に含まれるDHA、EPA、ビタミンB1と、両方の栄養素を備えています。また、細胞壁がないため効率的な栄養吸収が可能です。このような高い栄養価を誇るミドリムシを原料にした機能性食品を企画・開発するために設立したのが、株式会社ユーグレナです。社名は、ミドリムシの正式名称である学名のユーグレナから名づけました。

事業化に向けてご苦労された点を教えてください。

 2005年に会社を設立し、ミドリムシを売り込むため数百の企業を訪問しました。多くの方はミドリムシに関心を持ってくれるのですが、いつも「実績はありますか。他社でうまくいったら我々もやりますよ」と言われてしまい、3年間はほとんど実績が上がりませんでした。ところが、2008年に伊藤忠商事が出資してくれたことを機に、潮目が変わります。伊藤忠商事の採用が信頼となり、名だたる大手企業がミドリムシの採用を決断してくれました。また、2010年に新日本石油(現JX日鉱日石エネルギー)と日立プラントテクノロジー(現日立製作所)からお声が掛かり、ミドリムシの油脂分を使ったバイオエネルギーの研究開発プロジェクトも立ち上がりました。その後は、産官学連携が進み、さらなるミドリムシの可能性が見いだされ、製鉄所や火力発電所などで排出されたCO2をミドリムシで固定化する実験が始まったり、肥料や飼料への応用、抗酸化作用を活かした化粧品、水質浄化、バイオプラスチックの開発など、さまざまな分野で事業化に向けた研究が行われています。

栄養失調の心配がない日本でミドリムシの需要はあるのでしょうか。

 人間が健康に生活するための必須栄養素という面から見ると、日本人のほぼ全員が栄養が足りない状態にあります。日本の市場には、肉も野菜もサプリメントもあふれていますが、動物系と植物系の両方の栄養素をバランスよくとれている人はほとんどいません。その影響が、アレルギーやホルモン異常など体調不良として表れている可能性もあるでしょう。このような状況の改善に、弊社の機能性食品の「緑汁」や「みどり米」、「ユーグレナ・バー」などがお役に立てると考えています。

 しかし、商品の普及に向けては、大きなチャレンジがあります。それはミドリムシという語感から、多くの人がイモムシやアオムシを思い浮かべ、食品として敬遠してしまうことです。実際にはミドリムシは、ワカメやコンブなど「藻」の仲間で、味や風味も海藻に近いのですが、なかなか正しく認識してもらえません。弊社が2012年12月に株式上場を果たした背景には、より多くの人にミドリムシの存在を正しく認識してもらいたいという思いが込められているのです。

ミドリムシで事業化に成功しているのは、世界でも御社だけだと伺いました。

 1970年代には、アメリカ航空宇宙局(NASA)が宇宙開発の視点で研究を進めたり、1990年代には、ミドリムシを使った医療、医療品の開発、CO2固定、バイオ燃料化などさまざまな研究が行われました。いずれの研究でもミドリムシの機能は実証されましたが、事業化にはことごとく失敗しました。最大の壁は屋外で大量培養ができないことです。ミドリムシは栄養価が高いため、自然界では食物連鎖の下位に位置し、他の生物に捕食されてしまう存在です。それゆえ他生物の混入を防げない屋外の培養槽は使えず、屋内の閉鎖的環境でしか培養できないと考えられていました。しかし、弊社はその常識を覆し、世界で初めて、屋外でのミドリムシの大量培養に成功しました。その手法は、他生物が生息できないよう培養方法を工夫することですが、特許技術ではありません。むしろ、技術とノウハウを組み合わせたシステムのようなものと考えていただいた方がいいでしょう。当初、我々はこの分野で、世界の企業や研究機関から周回遅れでスタートしましたが、今ではおそらく2周半はリードしていると自負しています。それができた最大の理由は、日本に発酵文化が根づいていたことです。発酵とは、微生物に働きかけて、必要な機能を人為的に発現させる技術であり、この研究分野で日本は世界をはるかにリードしています。ヨーロッパにも、ヨーグルトやチーズなどの発酵文化はありますが、研究者の層は日本とは比較になりません。こうしたバックグラウンドを活かした結果が、ミドリムシ事業でトップランナーになれた理由だと考えています。

ミドリムシ由来のジェット燃料について教えてください。

 ミドリムシから抽出・生成される油分は、軽質で燃焼効率が高いため航空機用のジェット燃料に適しています。現在、弊社のミドリムシの培養技術、日立製作所の培養等のプロセス技術、JX日鉱日石エネルギーの燃料化技術を活かした共同研究を進めており、2018年度の事業化を目指しています。2018年度という数値目標は、EU便を中心に航空機由来のCO2を10%削減する規制が始まることに対応するものです。この事業は、2010年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「戦略的次世代バイオマスエネルギー利用技術開発事業(次世代技術開発)」にも採択され、国家的なプロジェクトとして研究開発が進められています。

ミドリムシは、どのような領域で環境問題に貢献するのでしょうか。

 ミドリムシは、光合成により工場や発電所から排出されるCO2を吸収するとともに、バイオ燃料を生成することで化石燃料の使用量削減に貢献します。また、地球規模での人口増大が見込まれる中、飼料や栄養源として食料の不足と偏在を解消することに貢献します。弊社は「another future.〜ミドリムシが地球を救う〜」をスローガンに掲げ、環境問題と食料問題の解決に尽力することを目指しています。

後の展望をお聞かせ願えますでしょうか。

 ミドリムシ由来のジェット燃料開発において技術的課題は一切ありません。しかし、経営的課題は、少なくありません。たとえば、ミドリムシを安価に育てる大規模な培養槽が必要ですが、その土地を確保することが困難になっています。全国の耕作放棄地に培養槽を設置すれば、化石由来のジェット燃料に対抗できるほどコストダウンが可能だと試算しているのですが、農地法などに阻まれ実現できません。こうした課題をクリアしていくことが、今後のチャレンジになります。

 将来的には、国民が栄養失調で苦しんでいる貧しい国にミドリムシの培養技術を移転し、新たな産業と雇用を創出し、経済発展と健康問題の改善に貢献することを目指したいと考えています。

会社概要

社名
株式会社ユーグレナ
所在地
東京都文京区後楽2-6-1 飯田橋ファーストタワー31階
資本金
9億1,421万円
事業内容
微細藻類に関する研究開発および生産管理、品質管理、販売など
TEL
03-5800-4907
URL
http://euglena.jp/

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.101(2013年7月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。


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