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小水力発電が低炭素エネルギー社会の未来を拓く
今、小水力発電が脚光を浴びている。地球温暖化問題が深刻度を増すに従い、その利点が見直され、スポットライトが当たってきた。2003年に施行された「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)」で、太陽光発電や風力発電と並ぶ新エネルギーとして位置づけられたことに始まり、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の補助事業対象となり、2004?2008年度の5年間で68件という過去に例のない数の小水力発電開発事業が採択された。一部の専門家や技術者によれば、太陽光や風力よりもエネルギー品質が高いと評価される小水力発電。その普及に向けた課題、導入の現状、そして未来について検証する。

CO2排出量が最も少ないエネルギー、小水力発電

 日本では、地球温暖化問題やエネルギーセキュリティの観点などから、化石燃料に代わる純国産のクリーンエネルギーの必要性が長く叫ばれてきた。再生可能エネルギーといえば、市場では太陽光発電や風力発電が脚光を浴びているが、近年、発電出力1,000キロワット以下の小水力発電への注目が高まり始めている。なぜ、このご時世に小水力発電が注目されるのか。その理由は、CO2排出量と発電効率の優秀性にある。そもそも水力発電は開発から運用、廃棄までのライフサイクル全体を考慮した際のCO2排出量が最も少ないエネルギーである。また、水力発電は昼夜、年間を通して安定した電力が得られる点において、太陽光発電や風力発電より発電効率が優れたエネルギー源といわれている。

 一般に、小水力発電とは、数十〜数千キロワットの比較的小規模な水力発電の総称であり、落差1〜100メートル程度、流量が毎秒0.1〜10立方メートル程度の流水を利用して発電されることが多い(表1)。

 水循環を利用する点は従来の水力発電と同じだが、小水力発電は使用流量が少ないため、河川への水質汚染や水中生物に及ぼす影響が極めて少ない。また、設置時に地形を変形させる必要がほとんどないため、環境に優しいエネルギー源といえる。さらに、工期が短く、維持管理も容易という特徴を併せ持つ。環境への負荷が低く、設置が容易で、CO2をほとんど排出しない、しかも安定した電力供給が可能な小水力発電は、クリーンエネルギー普及の主役となり得る可能性を秘めている。

日本が包蔵する小水力エネルギー

 年間降水量が多い日本には、豊富な水資源があるとされている。経済産業省による発電水力調査によれば、日本の包蔵水力(技術的・経済的に利用可能な水力エネルギー量)の未開発地点は2,713地点、未開発出力の合計は約1,212万キロワットといわれている(表2)。この未開発地点のうち、小規模水力発電の適地は90%を占めており、合計出力は約675万キロワットと試算されている。あまり知られていないが、この数値は、原子力発電所数基分に相当する出力である※。一般に、日本はエネルギー資源のほとんどない国だと考えられているが、こと小水力発電に限ってみれば、この国には豊富なエネルギー資源が眠っていることになる。

※日本の原子力発電の平均出力は1基90万キロワット程度。2009年4月現在、53基、総出力4,794.5万キロワットの商業用原子力発電所が稼働中。

全国で小水力発電の開発が進む

 小水力発電は、基本的に適度な落差と流量さえあれば、どこにでも設置可能である。一般河川、砂防ダム、農業用水路、上水道、下水処理排水、ダムの維持放流はもちろん、近年では高層ビルのエアコン用冷却水を利用した小水力発電システムも開発されており、地方だけではなく都市の中心部までもがエネルギー供給地点となる可能性がある。

 このうち、近年、急速に小水力発電が普及している場所が上水道である。上水道を利用しての小水力発電にはさまざまなメリットがある。たとえば、流量予測が容易なため採算性を算出しやすいこと、水利権の申請手続きを改めて行う必要がないこと、ごみの流入の心配がないため設備利用率低下の可能性が低いことなどが挙げられる。

 しかし、こうした利点の一方で、上水道での取り組みは、飲料水への十分な配慮が欠かせないという課題がある。次亜塩素酸ソーダを含有する上水は、空気に触れると塩素が揮発化し、菌を繁殖させてしまう恐れがあるからだ。それゆえ上水道では、古典的な開放型水車を設置することはできない。こうした理由により、上水道はこれまで小水力発電には向かないと考えられていた。ところが近年、パイプの中にプロペラを組み込んだインライン型小水力発電システムが開発され、この問題は一気に解消された。こうしたシステムの改良と政府の補助金がきっかけとなり、神奈川県や千葉県、兵庫県、奈良県をはじめ全国各地で小水力発電の導入が進められるようになった。

年間約690トンのCO2排出量を削減した横浜市水道局

 横浜市水道局は2006年度に環境施策などを盛り込んだ「横浜水道長期ビジョン・10か年プラン」を策定した。同年、戸塚区の小雀浄水場から港北配水池までの送水管の有効落差約40メートルを利用した港北配水池小水力発電事業において発電所の稼働を開始した。従来は配水池への水量を調整するため、流量調節弁で水圧を下げていたが、この未利用エネルギーを発電に転じることで、最大出力300キロワットの水力発電を実現。CO2排出量を年間約690トン削減することに成功した。

 発電した電力は、事業を請け負う民間会社が電力会社に売却しているほか、横浜市水道局の港北配水池内の夜間照明や隣接する緑道の街路灯などに活用されている。同局の事業計画係長 鈴木雅彦氏は、「小水力発電事業を実施したことにより、これまで未利用だった送水管のエネルギーを、水道事業における環境負荷低減や地域貢献に役立てることができました。今後も小水力発電事業を推進していきたい」と同事業を評価する。同局では、上水道に潜む未利用エネルギーのさらなる有効活用を目指し、現在、川井浄水場と青山沈殿池の2カ所でも小水力発電事業の実施を計画中だ。

 環境保全やCO2排出量削減を目指す地方自治体における有効な環境施策として、今後ますます上水道を活用した小水力発電事業の導入拡大が予想される。

エネルギーの地産地消を目指して

 次に、農業用水路を活用した小水力発電の可能性に目を向けてみよう。農業分野では、機械化や施設化の進展に伴って電力利用が増加傾向にあり、農事用電力需要はこの30年間で2倍以上に増加している。そのため、農業水利施設の落差などを利用した小水力発電の設置は、地球温暖化防止に寄与するだけでなく、施設の維持管理費の負担軽減に役立つとして注目されている。

 栃木県北東部に位置する那須野ヶ原地区では、那須野ヶ原土地改良区連合がエネルギーの地産地消を目指し、農業・農村地域に無尽蔵に存在する自然ネルギーの開発支援をしている。太陽光発電や家畜排泄物などを活用したバイオガスの実証試験に加え、1992年から小水力発電事業にも取り組んでいる。同地区で最初に開発された小水力発電所は、国営土地改良事業として全国で初めて計画設置された那須野ヶ原発電所である。現在も稼働を続ける同発電所は、農業用水路の遊休落差約30メートルを利用し、最大出力340キロワットの発電を行っている。そのノウハウをもとに、2006年には百村第一発電所(最大出力30キロワット)と第二発電所(最大出力90キロワット)を稼働。両発電所は、河川の勾配調整のために築造されたわずか2メートルの段差を活用して発電を行っている。ここでは既存水路の構造をまったく変えずに発電所を設置することによって、設置コストの大幅な削減に成功している。また、水車発電機を工場から直送して短期間で据え付けたり、発電運転および維持管理を簡易化するなど、さまざまな工夫を凝らしている。さらに、同地区では、2009年に蟇沼第一発電所(最大出力340キロワット)と第二発電所(最大出力170キロワット)を稼働させ、小水力発電への取り組みを加速している。

 同地区で発電された電力は、水管理の操作・制御・監視などを集中して行う水管理センターや調整池、用水路の電動ゲートなどに使用されており、土地改良施設の維持管理費の軽減に貢献している。ちなみに、蟇沼第一・第二発電所は、合計で年間約180万キロワット時の発電量が見込まれており、一般家庭約490軒分の消費電力を賄える規模となっている。これをCO2削減量に換算すると、年間1,250トンに達するという。

 那須野ヶ原地区での一連の取り組みは、農業用水を活用したエネルギーの地産地消のモデルケースとして、全国の地方自治体や土地改良区連合、農協、農業従事者らから大きな注目を集めている。

水車によって未来が回りはじめた"水のまち"都留市

 小水力発電の導入に県を挙げて取り組んでいる自治体がある。50年以上にわたって公営電気事業に取り組んできた山梨県だ。現在、県内で18の発電所を運営しており、合計出力は11万9,220キロワット、県内需要の1割弱を賄っている。同県では、事業で培ったノウハウを活用し、県内での小水力発電の導入拡大を支援するため、2008年11月に「小水力発電開発支援室」を設置。地球温暖化防止に貢献するとともに、地域経済の活性化のため小水力発電を活用していくことを目指している。

 現在、山梨県には小水力発電の候補地点が約100カ所存在することが明らかになっている。支援室ではこの候補地点の情報を「やまなし小水力発電推進マップ」にまとめ、小水力発電の参入を目指す事業者に提供している。また、支援室は、市町村やNPO、民間企業などに対し、開発可能地点のデータ提供から、国の補助制度や融資制度の紹介、開発の許認可事務に関わる助言など、小水力発電事業実施に向けたさまざまな支援を行っている。支援室には、2009年11月現在で135件の相談が寄せられ、そのうち26地点で小水力発電開発に向けた準備が進められている。山梨県企業局電気課 課長 石原茂氏は「県内の豊富な水資源を活用し地球温暖化防止とともに、小水力発電を通じた地域の活性化につなげたい」と同事業にかける思いを語ってくれた。

 山梨県には、すでに小水力発電を核とした地域活性化の成功例が存在している。市役所庁舎前を流れる家中川(かちゅうがわ)で小水力発電に取り組む都留市だ。同市は、市政50周年の節目となった2004年に小水力発電所「元気くん1号」を建設した。建設費用の一部に市民から募集したミニ市場公募債を活用し、官民協力によって、直径6メートル、最大出力20キロワット(年間平均出力8.8キロワット)の開放型下掛け水車を導入。インライン型ではなくあえて古典的な水車型にしたのは、市民の環境意識啓発や子どもたちへの環境教育につなげる狙いがあったからである。

 この発電所の年間発電量は最大約10万キロワット時。発電した電気は、市役所内の電力に利用され、夜間や土日など使用電力が少ないときは売電されている。これにより、年間約170万円の電気料金と最大約80トンのCO2削減効果が得られている。ちなみに、2008年の総発電量は6万3,445キロワット時で市役所の年間電気使用量の約15.1%を賄った計算になる。

 さらに、都留市は、2002年度に「都留市地域新エネルギービジョン」を策定し、自然エネルギー導入促進の一環として「小水力発電のまち アクアバレーつる」構想に着手。この構想にもとづき、2009年10月から「元気くん1号」の環境価値をグリーン電力証書として販売開始した。「元気くん1号」が1年間に発電した電力をグリーンエネルギー認証センターが認証するグリーン電力証書として発行、これを企業に販売している。都留市は証書の発行で得た対価を、新しい小水力発電所の設置や市民活動の助成に役立てていく方針だ。すでに、2009年10月には、上掛け式水車「元気くん2号」の建設に着手しており、今後、「元気くん3号」の建設を計画、これらが完成すれば、市役所の電気をすべて小水力発電で賄えるという。これぞ、真の地産地消エネルギーの実現である。

 都留市が目指しているのは、小水力発電を通じた環境負荷低減だけではない。農業生産法人およびNPOなどによる小水力発電所の建設促進とともに、植物工場を含む未来型農業施設の整備促進も計画している。小水力発電によるクリーンエネルギーで未来型農業施設などに電力供給を行い生産コスト低減を図り、市場規模を拡大し「都留の無洗野菜」ブランドを確立することが目標だ。こうした都留市の取り組みは、小水力発電を核にした地域活性化のモデルケースとして全国の注目の的となっている。

小水力発電の未来を拓くために、望まれる政策による後押し

 ここまで見てきたように小水力発電は、環境保全はもちろん、地域経済の活性化、未利用資源の活用、エネルギー自給率の向上など、さまざまな面で太陽光発電や風力発電を上回る可能性を秘めていることがわかる。しかし、それにもかかわらず、ほかの新エネルギーより普及が遅れているのは、河川法、自然環境保全法、農地法、水産資源保護法など水にまつわる規制が障害となっていたためだ。近年では、発電用水利権に関する規制は緩和されてきたものの、今後の普及には一層の法改正が不可欠といえる。

 小水力発電の普及を遅らせているもう1つの理由は、採算性の問題である。発電出力が小さい小水力発電は、設置が比較的容易な上水道でも黒字化までに約20年かかるといわれている。機構がシンプルな小水力発電は、一般には50年以上の稼働が可能なため費用対効果は高いが、短期間で採算を取ることは難しい。そのため、現時点での事業化の動きは地方自治体や電力会社に限られており、一般企業からの参入は進んでいない。今後、小水力発電を普及させるには、高い発電コストを政策で吸収し、民間企業の参入を促すことが必要だ。

 再生可能エネルギーの導入促進策にはさまざまなものがあるが、大きく分けて「固定枠制度」と「固定価格買い取り制度」の2つが知られている。前者は電力会社に対して、供給電力の一定割合に当たる再生可能エネルギーの導入を義務づける制度。国内でも、2003年4月に「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)」が施行され、新エネルギーの導入拡大に貢献している。同法では、太陽光、風力、地熱、バイオマスとともに、小水力も新エネルギーとして位置づけられており、近年の小水力発電普及に一定の貢献を果たしたと評価されている(表3)。

 一方、「固定価格買い取り制度」は、電力会社に一定期間、固定価格で新エネルギーによる電力の全量を購入するよう義務づける制度である。ドイツが同制度(フィードインタリフ)を導入したことによって、世界一の太陽光発電利用国となったことは、環境の世界ではよく知られた事実だ。日本でも2009年11月から「太陽光発電の新たな買取制度」が施行されたが、同制度では買い取りの対象を家庭での太陽光発電における余剰電力に限定している。太陽光発電の出力が10キロワット未満の家庭であれば、1キロワット当たり約48円で売電できるが、残念なことに小水力発電をはじめ太陽光以外の新エネルギーは対象になっていない※。

※買い取り価格は、住宅用48円/kWh、非住宅用24円/kWh。自家発電設備等併設の場合、住宅、非住宅それぞれ39円/kWh、20円/kWh。

 全国小水力利用推進協議会 事務局長 中島大氏は、「制度が改定され、小水力の電力が固定価格で長期的に買い取られるようになれば、状況は大きく変わるでしょう。天候に左右されず安定的に電力を供給できる小水力発電に、民間の柔軟なアイデアや資本が流れ込めば、新たな発電ビジネスがブレークする可能性は十分にあります」と、「固定価格買い取り制度」の改定に期待を寄せている。

世界に広がる小水力発電の可能性

 小水力発電の活躍の場は、日本に留まらない。現在、東南アジアなどの国々では、経済発展に伴って、急ピッチで電力網の整備が進められている。ただ、都市部では高い電化率を実現しているが、地方の電化率はいまだに低く、その格差が社会問題となっている。この問題の解決策として期待されているのが小水力発電だ。未電化地域の多くは山岳地帯であるため、大型発電所や送電線の整備は難しい。しかし、雪解け水や落差を有効利用できる小水力発電であれば、山岳地帯はむしろ好適地になり得る。実際、インドネシアやラオス、ベトナム、フィリピンなどの未電化地域において、日本の小水力発電技術を生かして発電施設が設置された例もある。

 小水力発電の導入によって安定した電力が供給されれば、このような地域でも産業が活性化し、人々の生活が豊かになり、いずれは貧困や衛生、医療などの社会的課題の解決にもつながることが期待できる。

 小水力発電には、地球温暖化だけではなく、貧困や飢餓など、さまざまな社会的課題を解決する可能性も秘められているのである。環境の世紀を迎えた今、人々は小水力発電の可能性をもう一度見つめ直すべきではないだろうか。

<取材協力>
山梨県企業局電気課、横浜市水道局施設部計画課、全国小水力利用推進協議会、富士電機システムズ株式会社


コラム

時代のニーズに伴って進化を遂げる水力発電システム

 日本における水力発電の歴史は100年以上に及び、その基幹技術はすでに確立されている。しかし、近年では上水道やビル、ダムの維持放流など、100年前には想定されていなかった分野でも利用が進んだため、用途に合わせて小水力発電システムも進化を遂げてきた。

 たとえば、バルブ水車技術において豊富な実績を持つ富士電機システムズでは、新たな領域の小水力発電ニーズに応えるため、「富士マイクロチューブラ水車」を開発した。従来の小容量水流向けの水車は流量調整範囲が狭かったため、水車効率が急激に低下したり、振動が発生するなどの問題を避けられなかった。これに対し、同社はプロペラに取り付けられたランナベーンと呼ばれる羽根を可動式にすることで自動的に流量調整を行い、安定した電力供給や振動吸収を実現した。この改良により、これまで流量が不安定で不適格とされていた多くの地点で小水力発電を行うことが可能になった。

 同社エネルギーシステム統括部 エネルギー第二部 小水力担当部長 大和昌一氏は、同製品の有効性について以下のように語っている。「弊社独自の流量調整機構により、上下水道をはじめ農業用水路、河川などあらゆる場所で安定した小水力発電が可能になりました。今後、我々が注目しているのは、ダムの維持放流を利用した小水力発電です。年間を通じて一定量の流量が保持される維持放流水は小水力発電に適したエネルギー源ですが、まだ、ほとんど活用されていません。弊社の技術を生かし、流量変化が生じやすい維持放流水を最大限に活用できるよう支援していきたいと考えています。」

 今後、新たな技術開発や土木技術の発達、ITの採用などがさらに進めば、小水力発電の普及にますます弾みがつくに違いない。



この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.81(2010年1月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。

新しいウィンドウで開きます。 『SAFE』Vol.81(2010年1月号)



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