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eco japan cup 2010

eco japan cup 2010 カルチャー部門 エコデザイン受賞者

三井住友銀行 エコ・バンキング(銀行)オフィス賞 最優秀賞Bank in Forest

今回初の募集となった「三井住友銀行 エコ・バンキング(銀行)オフィス賞」で最優秀賞に選ばれたのは、アーキテクチャー・ラボが提案した『Bank in Forest』である。「都市に森を移設する」という斬新なコンセプトのもと、銀行店舗内に森のような快適空間を生み出そうというプランである。間伐材の円柱を林立させ、出入り口、窓口、待ち合いなど各コーナーを緩やかに分節する間仕切りとして使用することがデザインの特徴だ。

 設計上の最も重要なポイントは、音環境をテーマにしていることだ。円柱の間仕切りは音響材としての機能を有しており、良質な音環境を店舗内につくり出す効果がある。このプランが目指す音環境は、森の心地よさをつくり出すことだ。森林を伝播する音は、木々の間で乱反射を繰り返すことにより、平原や屋内空間とは異なる奥行きのある響きを生み出すといわれている。『Bank in Forest』では、長さ500〜3,000ミリメートル、直径30〜150ミリメートルの円柱を多層状に配置することで店舗内に仮想的な森林環境をつくり、木々の間で起きる乱反射音を再現することを目指している。 

 同プランのもう1つの特徴は間伐材の積極的利用を推進していることにある。ご存じのように、日本は国土面積の3分の2を森林が占める世界有数の森林国家でありながら、木材の利用が進まず森林の荒廃が深刻化している。間伐を進め適正な整備を促進しなければ、せっかくの森林資源も京都議定書で定めるCO2吸収源として認められることはない。京都議定書の約束期限が迫る中、日本にとって間伐材の有効活用は急務となっている。こうした課題を認識した上で、アーキテクチャー・ラボは間伐材を積極的に使用する『Bank in Forest』を提案したのである。同プランを採用して銀行の店舗を施工すれば約4,500本の間伐材を活用することができ、これは15ヘクタールの森林を整備した状態に相当するとアーキテクチャー・ラボでは試算している。

 さらに、『Bank in Forest』は、森の心地よさを都市空間で再現するため、空気や光をコントロールする設備にも工夫を凝らしている。空調には、床面からの吹き出し送風や天井面からの輻射式冷暖房を採用。緩やかな気流を起こして温度・湿度を効率よく調整する。また、吸湿剤によって空気中の水分を直接除去するデシカント外気処理機の導入や天井材として漆喰を利用することにより、エネルギーを使わず湿度を調整できる機能を持たせている。さらに、照明にはLEDを使用するとともに、天候や時間に応じて自然光を併用。設備面の工夫により、快適性の向上とCO2削減を両立させている。

『Bank in Forest』のアイデアが生まれた背景をお教えいただけますでしょうか。

 プランニングに当たり、まず我々が考えたのは、エコを押し付けるような建築ではなく、すべての人が「自然のよさ」を感じられる空間を生み出すことでした。これを実現するには高効率な省エネ設備を導入することよりも、店舗全体を心地よい自然の空間に変えることが重要だと考えました。このような思想を突き詰めていく中で生まれたのが「都市に森を移設する」という『Bank in Forest』のコンセプトでした。

『Bank in Forest』では音響が重要なテーマになっていますが、“音”に着目された理由を お教えいただけますでしょうか。

 「森林浴」や「森林セラピー」なる言葉があるように、森には人を癒す不思議な効果があるといわれています。その要素の一端を担っているのが、木々の間に響く音の効果なのです。森の中で発せられた中高域の音は、緻密な響きを持って耳に伝わってきます。これは手前の木々の幹で散乱する音、木々の間を通過して奥の幹で散乱する音、さらに木々の間で乱反射を繰り返しながら奥深く進んで戻ってくる音など、複雑な散乱が影響していると考えられています。室内ではこもりやすい低域の音も、森の中では癖のないナチュラルな響きを持つことがわかっています。さらに、木々や地面の吸音効果が加わることにより、森の中は人工的な音響空間とは異なる良質な音場を形成しているといわれています。

 我々がこうした森の音響効果に興味を持ったのは、弊社のパートナーである日東紡音響エンジニアリングとともに音響スタジオの設計を手掛けたことがきっかけでした。同社は、京都にある北山杉の森の美しい音場に着想を得て、音響をコントロールする研究を行ってきました。この研究から開発された「柱状拡散体・Acoustic Grove System(AGS)」は、密集する木々を模して多層状に円柱を配置させる音のルームチューニング機構です。私は同社の研究所内にある試聴室を初めて訪れたとき、AGSの特異な音響効果に出会い、驚きとともに感動を覚えました。室内であれば目を閉じていても音の反響から部屋の大きさを推測できますが、数千本のタモ集成材に満たされた試聴室はまるで屋外にいるのではないかと錯覚するほど広がりを感じられる空間でした。このAGSとの出会いがなければ、『Bank in Forest』というアイデアは生まれなかったかもしれません。

森の心地よさを生み出すために、音だけではなくさまざまな工夫がなされていますね。

 音環境は空間の質を決定する大事な要因ですが、これだけで森の心地よさを再現できるわけではありません。木立の織りなす風景や、木漏れ日の美しさ、風の抜ける気持ちよさなどの要素も取り入れなくては、森を感じられないと考えたのです。そこで『Bank in Forest』には、建材やデザイン、設備面などさまざまな面で森の快適さを取り入れる工夫を凝らしました。

 間伐の無垢材にこだわったのも、そうした工夫の一環です。あえて歪みや節を生かした無垢材を使用することが、木立のイメージを視覚的に再現する重要な要素になると考えたのです。森に欠かせない木漏れ日は、照明の工夫によって再現しました。照明を分散させて配置し、天候や時間に応じて明るさをやわらかく調整することで自然に近い環境をデザインしています。また、自然の風を再現する ため一方向から風を起こすエアコンを採用せず、床面からの吹き出し送風と天井面からの輻射式冷暖房を組み合わせて緩やかな気流を発生させています。こうした照明や空調などの設備は、森をイメージさせるだけでなく、省エネによる環境保全という効果も計算した上で採用しています。

実際に『Bank in Forest』を施工する際の課題についてお教えいただけますでしょうか。

 銀行の店舗は、ワンフロアの空間にさまざまな種類の音があふれています。たとえば、ATMの機械音や人工音声、呼び出しのアナウンス、話し声など、さまざまな音が常に混ざり合っています。心地よい音響空間をテーマとする『Bank in Forest』を、こうした複雑な音の空間に持ち込むには、いかに円柱を効果的に配置するかがポイントになります。日東紡音響エンジニアリングの研究によれば、奥行き60センチメートルの空間に円柱の直径を徐々に大きくしながら配置することで、森に似た美しい音響効果を得られることがわかっています(下図)。しかし、空間的制約のある店舗内で、すべての間仕切りに60センチメートルの幅を確保することは容易ではありません。場所によっては奥行き20センチメートルの空間しか確保できないことも予想されます。そのような状況でも、十分な音響効果が得られるようシミュレーション技術を駆使して円柱の配置方法を計算することが、美しい音響空間を生み出す重要なポイントになります。一方で、 商談スペースなど外部に声が響いては困るスペースには、円柱の後方にガラス壁や吸音材を使用して遮音性を高めるなどの工夫が必要になります。

 施工後のメンテナンスも設計段階から配慮しておく必要があります。一般的な考え方でいえば、建材も手入れをして長く使うというのがセオリーでしょうが、森林保護の視点に立つならば、あえて交換のサイク ルを早めて間伐材の利用を促進する方法もあるのかもしれません。

最後にeco japan cupが目指す「環境と経済の好循環社会」について、 建築家としてのお考えをお聞かせいただけますでしょうか。

 建築というのは、木材やコンクリート、金属などの素材をふんだんに使い人工物をつくり出す仕事です。そのような意味では、建築とエコは結び付かないと思う方もいるかもしれませんが、私は建築と環境の両立はそれほど難しくないと思っています。もともと日本には、近隣地域の資源を活用して住宅を建てるという文化が根付いていました。独特の色の瓦屋根が立ち並ぶ集落などはその名残といえるでしょう。輸送に膨大なエネルギーを消費する輸入材を使った建築から、地元の資材を積極的に生かす建築へ移行するだけでも環境問題に貢献できるのではないでしょうか。もちろん、昔の建築をそのまま踏襲するという意味ではありません。建築家は、日本的価値観を大事にしながらも住宅の快適性を向上させる先進技術を取 り入れる大胆さと緻密さを持ち合わせなくてはいけないと思います。

近年はシミュレーション技術が発達したため、設計段階から省エネ効果を正確に予測可能になり、今までにはないエコ建築の提案ができるようになりました。こうした技術の進歩が、自然の風や光を効率よく活用するパッシブデザインを採用した住宅や、風の流れ、温度・湿度のコントロール、季節に応じた日照の変化などを計算した建築物の実現を可能にしているのです。我々もシミュレーション技術をどんどん活用して、今までにはない快適で環境に優しい建築を手掛けていきたいと考えています。

 また、“音環境”というテーマは、今後シミュレーション技術の発達や導入事例の増加に伴って、さまざまな建築分野へ広がっていくことが予想されます。我々としても、今回提案させていただいた『Bank in Forest』のアイデアを、銀行店舗だけでなく他の分野にも展開していきたいと考えています。その結果として、都市の森が増え、全国の森林が整備されることにつながっていったらうれしいですね。


会社概要

社名
有限会社アーキテクチャー・ラボ
所在地
東京都台東区雷門2-13-3 清寿ビル2F
事業内容
建築設計・監理、インテリアの設計・施工、家具のデザイン・ 製作・販売など
TEL
03-3845-7320
URL
http://www.architecture-lab.com/


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