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宇宙から始まる環境イノベーション
今、人類は有史以来経験したことのない未曾有の環境問題に直面している。地球温暖化、生物種の絶滅などの問題は、もはや惑星規模で解決策を模索しなければならない段階にあるのかもしれない。そこで今号では、視点を大気圏の外まで広げ、宇宙から地球環境問題を考える特集を企画した。宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)が取り組んでいる地球環境問題に貢献する宇宙開発関連技術を中心に、大気圏を超えた宇宙レベルの発想や技術が環境問題の解決に寄与する可能性を探った。

 宇宙には、微小重力、高真空、良好な視野、宇宙放射線など地上では容易に得ることのできない特殊な環境が存在している。宇宙ではその特殊な環境を利用して、さまざまな研究や実験、観測などが行われている。本特集では、JAXAが取り組んでいる地球環境問題に関する数多くの研究や実験の中から、「宇宙からのクリーンエネルギー獲得」「地球環境の観測」「国際宇宙ステーション(ISS)で研究されている環境技術」という3つのテーマを紹介する。

宇宙からのクリーンエネルギー獲得に向けて

 I地球温暖化問題の解決に向けてCO2フリーのクリーンエネルギーの獲得が重要であることは、もはや説明の必要がないであろう。地上では太陽光発電や風力発電、水力発電、潮力発電などさまざまな取り組みが行われているが、これらのエネルギーだけで全人類が利用する総電力量を確保することは困難である。この難題の解決策として研究されているのが宇宙太陽光発電システムである。

 太陽光のエネルギー密度は地球近傍の宇宙空間で約1.35キロワット/平方メートルである。これは天候の影響を受ける地上と比べると約5〜10倍に達する。宇宙太陽光発電システムは、衛星軌道上で太陽エネルギーを電力に変換し、その電気エネルギーをマイクロ波やレーザー電力ビームなどの無線で地上に送電する電力システムである。地上では、無線送電された電力を受電し、商用電力に変換して既存の電力網を通じ家庭や工場など利用者へ配電する。このシステムは地上の太陽光発電と異なり無線で送受電を行うため、この過程での電力ロスを避けられないことが問題となる。しかし、技術的には送電時の電力ロスを50%以下に抑えることが可能であるといわれており、地上の太陽光発電システムと比較しても数倍以上のエネルギー取得効率を実現できるものである。重要な点は、天候や季節の影響を受けず安定したエネルギーを供給できることと、広大な宇宙空間から実質的に無尽蔵の太陽エネルギーを取得できることにある。まさに、地球温暖化対策に貢献する夢のクリーンエネルギーといっていいだろう。

 宇宙太陽光発電システムの構築には、宇宙での太陽光発電技術、電力管理技術、無線送電技術、大型構造物建造・姿勢制御・軌道維持技術、宇宙への大量輸送技術が必要である。これらの個々の技術は小規模レベルであればすでに実用化されており、原理的に新たな検証を必要とする技術はない。ただし、現在の宇宙技術でシステムを構築した場合、地上の電力システムと比べて約50倍以上の電力コストになってしまうため経済的に成立しないことが最大の課題である。この課題は、宇宙への輸送コストを大幅に下げるとともに、衛星構築に低コストの民生品や民生技術を取り込むなどの工夫をすることでクリアできる可能性がある。その希望があるがゆえに宇宙太陽光発電システムの研究は、長年にわたり続けられてきたのである。

 宇宙太陽光発電システムは1970年代に米国で盛んに研究が行われた。米国での研究は1970年代で一段落したが、1980年代後半に地球環境問題への注目が集まる中、現実のエネルギーシステムとして見直そうという気運が高まってきた。1990年以降、米国、欧州、日本でさまざまなタイプの宇宙太陽光発電システムが設計研究されるようになった。ここでは近年、日本で研究されている代表的な3つのタイプを紹介する。

地球環境を観測する 〜リモートセンシング〜

 リモートセンシングとは、人工衛星や航空機などに搭載した観測機器(センサー)を使い、対象物からの光・電波などの信号を測定する技術だ。人工衛星によるリモートセンシングは航空機とは異なり、全球的な観測が可能なため地球環境変動予測および対策の検証に効果を発揮する。JAXAでは、日本が得意とする電波センサー技術や光学観測の高分解能化・高精度化を活用して、さまざまな地球観測を行っている。ここでは環境問題に貢献する代表的な観測システムを4つ紹介する。

■1:「いぶき」による温室効果ガスの全球濃度分布測定

 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT)」は、主要な温室効果ガスであるCO2とCH4(メタン)の全球濃度分布と時間変動を観測することを主目的とした衛星である。これまでCO2やCH4の測定は、地上の観測点あるいは旅客機の定期便を利用して実施されてきた。しかし、データ提供を行っている観測点は2010年10月15日時点で324カ所、このうち1年以内にデータを更新したのは231カ所、さらにCO2データを提供しているのは89カ所、CH4に至っては55カ所と数が少ない。加えて場所が先進国に集中しており、南米やアフリカ、シベリア、海洋上には観測点がほとんど存在しない。これに対し「いぶき」は、全球にわたって均等かつ多地点の観測が可能で、高頻度でデータの取得・更新を実施できることが特徴だ。

 「いぶき」は2009年1月に打ち上げられ、同年4月から定常的に観測データの取得を開始、現在では観測データを一般公開している。「いぶき」の観測データは、主要な温室効果ガスであるCO2とCH4の挙動に関する科学的な理解を深めることに役立つとともに、気候変動予測の高度化や炭素排出削減施策など温暖化対策に関わる基礎情報として活用されることが期待されている。

■2:光学放射計・雲レーダーを用いた気候変動の把握

 気候変動観測衛星「GCOM-C」に搭載されている多波長光学放射計(SGLI)は、可視・近赤外〜熱赤外の波長で観測を行い、雲・エアロゾルの分布・植生・海色(海洋植物プランクトン)などのデータを全球にわたって取得することができる。また、情報通信研究機構(NICT)とJAXAが共同開発した雲プロファイリングレーダー(CPR)は、世界初の衛星搭載ドップラーレーダーであり、雲・エアロゾルの分布と上昇・下降を観測することができる。JAXAでは、GCOM-CとCPRの開発と運用によって得た観測データを気候変動予測や気象予測のモデル誤差解消などに利用することを目指している。

■3:衛星搭載降雨レーダー・マイクロ波放射計を用いた水循環の把握

 日本が開発した降雨レーダー(PR)は、NASAが運用する熱帯降雨観測衛星(TRMM)に搭載されており、軌道上から台風内部の降雨強度の立体分析や、水循環に関する新知見につながる観測データなどを長期にわたり取得し続けている。同じくNASAの衛星「Aqua」にはマイクロ波放射計(AMSR-E)が搭載されている。AMSR-Eは、大気の温度や湿度の鉛直分布、雲や降水、放射収支、雪および海氷、海面水温などを観測している。北極海氷分布が観測史上最小になった際の観測データもAMSR-Eが取得したものだ。今後は改良したマイクロ波放射計(AMSR2)を搭載した水循環変動観測衛星「GCOM-W」を打ち上げ、さらなる観測の継続・性能向上を目指す計画となっている。

■4:違法な森林伐採防止に役立っている「だいち」の陸域観測

 陸域観測技術衛星「だいち(ALOS)」には、大陸スケールの領域を短期間で観測可能なLバンド合成開口レーダー(PALSAR)が搭載されている。自然林の消失が激しいアマゾンの熱帯雨林地帯では、ブラジル環境省とブラジル連邦警察、JAXAが連携し、PALSARの準リアルタイム画像から新たな伐採域を検出し、即座に現地へ赴き、伐採者を取り締まるという取り組みが実際に行われている。


国際宇宙ステーションで研究されている環境技術

 本特集の最後に取り上げるのは、国際宇宙ステーション(ISS)における環境技術の研究開発である。ISSは、日本・米国・ロシア・カナダ・欧州11カ国の計15カ国が参加する人類史上初の大規模有人宇宙施設である。ISSの主な目的は、宇宙の特殊な環境を利用したさまざまな実験や研究を長期間行える場所を確保し、そこで得られた成果を科学・技術の進化に生かすこと、そして地上の生活や産業に役立てていくことにある。ISSに連結されている日本実験棟「きぼう」では、2008年8月に最初の科学実験が開始されて以降、さまざまな宇宙実験が行われてきた。「きぼう」は、複数のパーツで構成されており、このうち船内実験室では無重量環境を利用した物質科学や生命科学の基礎実験および実用化につながる応用的な実験が行われている。船外実験プラットフォームは、地球環境や天体の観測および先端的な技術開発のテストベッドとして利用されている。「きぼう」では、この船内外の実験環境を用いて地球環境の保全や監視に貢献する実験が行われている。

 その一例として挙げられるのが、タンパク質の高品質な結晶を生成する実験である。宇宙空間でのタンパク質の結晶化率は約80%と非常に高く、高精度な構造解析を行う際の貴重なデータとして活用することができる。この宇宙での実験技術により、植物や繊維の主成分であるセルロースを触媒反応で分解する酵素や、ナイロン合成時に生じる不要な副産物を効率よく分解する酵素を宇宙で結晶生成する研究が進められている。この分解酵素は、食糧原料を使わないバイオエネルギーの生産や、プラスチック(ナイロン製品)の分解に有効であることがわかっており、環境保全分野への応用が期待されている。

宇宙から始まる環境イノベーション

 地球温暖化などの地球規模で起きている環境問題は、人類が地上でどれだけ研究開発を重ねても解決は容易ではない。しかし、我々には、未来の世代へ美しい地球環境を引き継いでいく責務がある。その責務を果たすには、大気圏を超えた宇宙レベルの発想や技術を駆使する道筋も模索していかざるを得ない。

 この特集記事で紹介したように、宇宙空間における環境イノベーションはすでに始まっている。今後、宇宙空間での研究・実験がさらに進み、地球環境問題の画期的な対応策が生まれることに期待したい。

 取材協力:宇宙航空研究開発機構

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.89(2011年5月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。



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