環境ビジネス情報

印刷用ページを別ウィンドウで開きます



Topics

特集 熱利用から見直すエネルギーの未来
東日本大震災を契機として、風力発電や太陽光発電など新エネルギーへの期待が高まっている。こうした再生可能エネルギーの活用は、資源の乏しい日本にとって重要であるが、中でも注目すべきは太陽熱や地中熱、機械設備からの排熱などの熱資源の有効活用だ。日本には未利用の熱エネルギーがまだ多く残されている。その有効活用はCO2削減につながり、持続可能な社会に貢献できるだろう。本特集では、エネルギーの未来に新たな光をもたらす熱の有効性に焦点を当てる。

エリア価値を高めた熱利用

 東日本大震災で電力供給がひっ迫する中、停電の心配がないとして東京都港区の六本木ヒルズが注目を集めている。エリア内にはオフィスや美術館などが入る森タワーをはじめ、シネマコンプレックスやホテル、住宅などが林立するが、それらの施設で使用される電力が、森タワー地下にある自家発電設備で賄われているためだ。震災後、電力確保に走る東京電力に対し、余剰電力を供給したことは話題となった。こうした六本木ヒルズの「創エネルギー」が語られるとき、どうしても自家発電に目が行きがちであるが、もう1つの重要なポイントとして熱エネルギーの有効利用が挙げられる。

 六本木ヒルズでは都市ガスで発電すると同時に、発電で出る排熱を冷暖房や給湯にも利用しているのである(図表1)。エリア内で消費されるエネルギーのうち、熱エネルギーが占める割合は最高4割。その熱を電気やガスから新たにつくるのではなく、発電時の排熱を有効利用することで、6割程度という高いエネルギー効率を実現している。排熱を利用しない場合のエネルギー効率は3〜4割というから、熱利用がいかに効率化と省エネに寄与しているかがわかる。このように電気と熱を同時に利用する仕組みはコージェネレーションシステムと呼ばれており、家庭用では「エコウィル」や「エネファーム」の名称で知られている。

図表1:六本木ヒルズにおける熱電供給システムフロー図

 六本木ヒルズを運営する森ビルが創エネルギーに着目するようになったきっかけは、1986年に竣工したアークヒルズ(東京都港区)だという。民間企業が手掛けた日本初の大規模再開発事業であり、同社にとっては「都市と自然との共生・都市の低炭素化・資源循環」という現在の環境理念を築く第一歩となったエリアである。

 アークヒルズでは発電は行われておらず、熱エネルギーを利用した地域冷暖房のみが導入されている。それだけでも省エネルギー効果は高いのだが、アークヒルズ内にあるアーク森ビルに入居する主に外資系企業から、停電を心配する声が多く寄せられたという。企業にとって停電は、ビジネス機会の喪失を意味する。24時間動き続けられる安全・安心なビルは、構造的に堅牢であるだけではなく、電力供給が止まらないなど運営面での頑強さも必要である。そのことに気づかされ、ハードとソフトの両面で安全・安心を追求したのが六本木ヒルズであった。

 もともと六本木ヒルズは緑被率26.5%と都市ビルとしては緑が多く、人気が高いエリアであったが、そこに創エネルギーという価値が加わったことで、さらにエリアとしてのブランド価値が高まることが期待される。

伸び悩む太陽熱温水器

 六本木ヒルズが熱利用でエネルギー効率を高められた背景には、供給先に約2,000人が暮らす集合住宅が含まれていたことがある。

 家庭ではさまざまなものにエネルギーが使われているが、そのうち給湯、冷暖房で約57%を占めている(図表2)。つまり、家庭での給湯と冷暖房のエネルギー源を見直すことで、大きな省エネルギー効果が期待できるのである。

 しかし、家庭での最終エネルギー消費量2,037ペタジュール(1ペタジュール=1015ジュール)のうち、熱(温熱・冷熱)販売量から推計される熱供給によるものは0.1%、太陽熱を含む再生可能・未活用エネルギーによるものは約1%にとどまっている(図表3)。なぜ熱利用は普及していないのであろうか。

図表2:家庭でのエネルギー消費量|図表3:家庭部門におけるエネルギー種別最終エネルギー消費割合

 実は熱利用は、以前から継続して低迷していたわけではない。オイルショックで原油価格が高騰した1970年代後半には、熱利用設備の1つである「太陽熱温水器」の需要が急伸したことがある。太陽熱温水器とは、太陽のエネルギーを熱に変える集熱器と、この熱をお湯として貯めておく貯湯槽が一体となった設備のことで、屋根の上に設置して利用するものである(写真1)。

写真1:太陽熱温水器

 太陽熱利用設備を手掛けるメーカーで構成される社団法人ソーラーシステム振興協会によると、データが残っている1973年に6万4,000台であった太陽熱温水器の需要が、1980年には一気に80万2,516台と12倍以上に拡大した。しかし、この年をピークに需要は減少を続け、2010年には3万7,832台にまで落ち込んでいる(図表4)。

図表4:太陽熱温水器とソーラーシステムの設置実績

 需要減少の要因としては、1990年代に一部メーカーの不適切な販売方法が取りざたされ、普及に少なからず影響した面もあろう。また、大手メーカーが参入する太陽光発電に比べ、中小メーカーがほとんどの太陽熱温水器は積極的な広告・宣伝によるユーザーへの訴求力が弱いという面もあろう。

 また、太陽熱温水器は容量が約200リットルの貯湯槽が付いているため、屋根に設置したときの見栄えが太陽光発電より悪く、要するに「格好悪い」点がユーザー受けしない1つの理由となっている。太陽熱温水器は架台やワイヤーを使用して設置されるため、どうしてもかさ高くなって異物感がある。

 しかし、水を直接温める太陽熱温水器とは異なり、温めた熱媒体で間接的に水を温めるソーラーシステムは貯湯槽(蓄熱槽)を地上に設置できるため、屋根には集熱器を置くだけでよく、外観面でもより洗練された。屋根面への設置についても、太陽光発電と同じように直付け施工が可能で、ソーラーシステム振興協会では標準化を進めている。熱媒体と給水をポンプで強制循環させるための電力が必要だが、太陽電池でポンプを駆動させるタイプもあり、太陽エネルギーで賄うことも可能だ。

 また、以前は温度調整機能がなかったため、60℃以上に温まった湯は混合水栓等で温度調整をして使うしかなかった。それも今では補助熱源との接続により、ガスや電気の給湯器と同じように設定温度で使用できるタイプが主流になり、使い勝手は普通のシャワーや給湯器と変わらないという。

 太陽熱温水器やソーラーシステムは、太陽光エネルギーの40〜50%を熱エネルギーに変換することができる。家庭で使用するエネルギーの約30%を占める給湯(図表2)の半分を賄えるそうである。

補助制度を追い風に

 「太陽エネルギー」と聞いたとき、多くの人が「太陽光発電」を思い浮かべるのではないだろうか。それほど現在は、太陽熱利用より太陽光発電が主流になっている。その理由のいくつかは前述した通りだが、もう1つ加えておきたいのは、太陽光発電では余った電気を売ることができるが、太陽熱温水器では余ったお湯を売ることができないということである。設備に対する初期投資をできるだけ早く回収したいというユーザー心理を考えると、太陽光発電を優先するのも仕方がないところであろう。

 しかし、これまで見てきたように、太陽熱をはじめとする熱利用が、日本のエネルギー自給の一助となることは間違いない。とりわけ京都議定書の基準年である1990年と比べ、最終エネルギー消費量が23.1%増、CO2排出量が26.9%増と業務部門に次いで増加傾向にある家庭部門(資源エネルギー庁「2009年度におけるエネルギー需給実績確報」2011年4月26日公表)での利用促進は、今後のエネルギー自給とCO2排出量削減の実効性を高める上での鍵となる。

 家庭で利用できる熱エネルギーのうち、大きな伸び幅が残されているのはやはり太陽熱である。今後、家庭での太陽熱利用を促進するには、補助金などの助成制度が欠くことのできない施策となろう。

 東京都は、補助制度の導入にいち早く動き出した。2011〜2015年度の5年間で20億円の予算を確保している。実は東京都は2009〜2010年度にも、住宅用の太陽熱利用設備や太陽光発電設備に対する補助事業を実施したことがある。しかし、2010年12月末現在、補助申請があったのは太陽光発電の約1万4,000件に対し、太陽熱利用はわずか300件程度にとどまっている。おまけに、新規需要は少なく、ほとんどが更新需要であったという。

 そのため、2011年度から始まった新たな補助制度では、都内新築分譲着工戸数の7割を占める新築集合住宅に焦点を絞り、個人ではなくデベロッパーやハウスメーカーを補助対象にすることにした。

 また、認知度が低かったという反省を踏まえ、関連業界団体との連携強化を図るための「太陽熱利用促進協議会」も発足させた。これには大手デベロッパーやガス事業者なども名を連ねており、前出のソーラーシステム振興協会もこれまで弱かった広告・宣伝力が向上すると期待している。2011年1月に開催された太陽熱テイクオフ大会では、太陽熱メーカー各社が販売目標を相次いで発表し(図表5)、普及への意気込みを見せていた。

図表5:太陽熱メーカー各社・団体の目標

 また、2011年1月からは住宅エコポイントの対象が拡充され、太陽熱利用システムが対象に加わった。ただし、エコ住宅の新築またはエコリフォームに合わせて設置することという条件が課されており、一般ユーザーにとってのハードルは高い。太陽熱利用を本気で普及させるなら、もっと使い勝手のよい補助制度になるよう一層の工夫が必要であろう。

一人ひとりの意識改革を

 ここまで発電時の排熱利用、太陽熱利用について述べてきたが、そのほかにも地球上には多種多様な熱エネルギーが存在している。地中熱、雪氷冷熱、温泉などの熱源など、あらゆる温度差から熱エネルギーを回収できる。回収した熱エネルギーの使い方としても、ここで紹介してきた熱そのものとしての利用のほか、熱発電も可能である(コラム参照)。

 熱エネルギーなどを、動力を使わずに集熱?利用する手法は「パッシブ(受動的)」システムと呼ばれている。これに対し、熱エネルギーをポンプやファンその他の設備によって集熱?利用するものを「アクティブ(能動的)」システムと呼ぶ。一般に太陽熱温水器は「パッシブ」であり、集熱のためにポンプを利用するソーラーシステムなどは「アクティブ」といえる。

 日本では太陽光発電の普及が進みつつあるが、太陽エネルギーを熱に変換し、熱で利用する方が、効率が高い。また、電気に変換する場合でも太陽熱発電のエネルギー変換効率は、太陽光発電と同程度か若干高いとされている。電力需要がひっ迫している今こそ、パッシブであれ、アクティブであれ熱エネルギーの有効性を見直すべきであろう。とりわけ、家庭においては、給湯や暖房熱源に太陽熱利用が進むことを期待したい。

 今後、東京都のように家庭の太陽熱利用を促進するための補助制度を拡充する自治体が増える可能性はある。しかし、それだけで太陽熱利用が進展するわけではない。自然の力を取り入れた住まい方、暮らし方に変えていく個人の積極的な意志がなければ、補助制度も十分に機能しないであろう。自然エネルギーを選択するには個人のアクティブな行動が必要になる。

 ただし、再生可能エネルギーだけでエネルギー自給が達成されるわけではない。系統電力やガスなどの化石燃料も引き続き必要になる。肝心なことは今後できるだけ再生可能エネルギー利用の比率を増やしていくことではないだろうか。エネルギーのベストミックスといわれて久しいが、多種多様なエネルギーを組み合わせられるよう選択肢を増やし、導入を実現していくことが重要である。将来の持続可能な社会のエネルギー源として、重要な選択肢の1つに再生可能な熱エネルギーがある。

取材協力
社団法人ソーラーシステム振興協会、旭硝子株式会社、森ビル株式会社

コラム 世界市場で評価される太陽熱発電用ミラー

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.90(2011年7月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。



Topicsトップへ

印刷用ページを別ウィンドウで開きます

このページの先頭へ戻る