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特集 がれきのリサイクルから始まる環境共生型の「復興モデル」
東日本大震災による津波被害を受けた沿岸地域には、今も大量のがれきが積み上げられている。宮城県だけでも約20年分の処理量に相当するという膨大ながれきを、いかにして適切かつ迅速に処理するかが被災地の重要な課題となっている。本特集では、いち早くがれきのリサイクルに取り組んだ岩手県宮古地域のプロジェクトを中心に、現地の実情や課題、今後の展望について考察する。

がれきを再生した「復興ボード」に込められた願い

 2011年6月28日、岩手県宮古市の仮設住宅団地に木の風合いを生かした美しい木造建築の集会所が建設された。仮設住宅に住まう人たちに憩いの場を提供するこの集会所の床や壁、天井には、約160枚(3トン)もの再生パーティクルボード(以下PB)が利用されている。この再生PBは、東日本大震災で発生した木質系廃棄物をリサイクルしたものであり、通称「復興ボード」と呼ばれている。この名前には、再生PBの活用を通じて被災地の復興とがれき処理を両立させたいという思いが込められている。「復興ボード」の活用を提案したのは、岩手大学の関野登教授と岩手県立大学の内田信平准教授らが主導するグループである。

 3月11日、関野教授は盛岡市内にある岩手大学キャンパス内で震災に見舞われた。直接的な被害は少なく、ほっとしたのもつかの間、テレビ報道で沿岸地域の津波被害を知り、がくぜんとしたという。沿岸部には普段から親交の厚い製材工場やボード工場、工務店、設計事務所が数多くあり、彼らの状況が心配でならなかった。しかし、現地へ行こうにもガソリンを入手できず身動きが取れない。そんな中、岩手県立大学の内田准教授から給油ができたとの連絡を受け、一緒に被災地へ向かうことになった。津波被害を受けた沿岸部は目を覆いたくなるほどの惨状だった。美しかった街並みや田畑は壊滅状態で、辺り一面をがれきが覆い尽くしていた。盛岡へ戻る車中、「がれきの木材からPBを作れないだろうか」と内田准教授から相談を受けたが、関野教授は被災状況を目の当たりにしたショックで満足な回答ができなかったと、当時を振り返る。

震災がれきを生まれ変わらせ、復興の力に!

 盛岡に戻った関野教授は、あらためて内田准教授の提案を整理してみた。「当時、私の所属する日本木材学会でも震災による木質系廃棄物の処理や活用に関する意見交換が活発化していました。今回の震災で、東北太平洋沿岸に立地する合板工場が被災し、全国の合板生産量の約4分の1が供給不能状態に陥っていたのです。そのことが全国の住宅生産、さらに喫緊の課題である仮設住宅の建設に影響を及ぼすことは容易に想像できました。がれきをPBに再生し仮設住宅に活用できれば、がれき処理だけではなく、被災地復興に役立つかもしれない」。このような思いから、関野教授と内田准教授が主導する復興プランが生まれたのである。

震災廃木材を再資源化した「復興ボード」の生産・活用プロジェクトの概要

 この復興プランは、地元企業、大学、自治体などとの連携のもとで進められた。4月初旬、関野教授と内田准教授は宮古市内にある宮古ボード工業株式会社にPB製造を、株式会社ヤマウチに住宅用パネル生産の協力を依頼。5月下旬から再生PBの製造が始まった。しかし、最初に運び込まれたチップによるPB製造は難航した。異物が多く含まれていたため良質なPBを製造できなかったのである。良質なPBを製造するには、まず泥や砂にまみれた廃木材や、海水に長時間つかり塩分を含んだ廃木材を確実に除去しなければならない。その上で、倒木や住宅の柱や梁に使われていた断面の大きな廃木材を抽出し、金属や紙などの異物を除去しなければならなかった。この問題を解決するため、宮古ボード工業の坂下勝吾社長が自ら仮置き場に出向き作業者に直接指導を行うことで、徹底した分別を実施できるようになった。

 こうした努力が実を結び、現在、宮古地域(田野畑村・岩泉町・宮古市・山田町)では1日約70トンの廃木材をチップ化できる環境が整備されている(2011年8月時点)。宮古ボード工業への廃木材チップの入荷量は、5月65トン、6月260トン、7月1,000トン程度と順調に推移しており、8月からは宮古市内でも廃木材の分別とチップ化が本格化、さらに入荷量が増大する予定である。試算によると、宮古地域で発生した可燃系廃棄物39万トンのうちPBの原料としてリサイクルが可能な木質系廃棄物は約6万トン。関野教授は、今後、分別回収が軌道に乗れば、2年間で約4万トンのチップを「復興ボード」として再生できると見込んでいる。

「復興ボード」を雇用創出と地域経済の再生に役立てたい

 関野教授らが主導した復興プランの狙いは、がれき処理だけではなく岩手県沿岸地域の木材関連産業の復興と雇用創出にある。その狙い通り、宮古地域の仮置き場で行われる分別作業には震災で職を失った被災者が雇用され、宮古ボード工業やヤマウチにおけるPB生産の拡大、さらに宮古市荷竹農村公園と同市田鎖地区では「復興ボード」を活用した集会所建設の施工を地元業者が請け負い、産業再生と雇用創出という成果が生まれている。

 今後の課題は「復興ボード」の普及である。当初想定していた仮設住宅への「復興ボード」の採用はかなわなかったが、今後は本格的な復興住宅や各種公共施設での利用が見込まれる。現在、関野教授と内田准教授のグループは、「復興ボード」を使用した集会所の施工性やコスト等の検証を行う一方、地元の工務店と連携して「復興ボード」を活用した恒久住宅の技術開発や効率的な建築工法の開発に取り組んでいる。

震災がれきのリサイクルが進まない3つの要因

 宮古地域の「復興ボード」のような震災がれきのリサイクルはまだ緒についたばかりである。宮城県では7月にセイホク株式会社が石巻PB工場で合板原料やボイラー燃料の製造を開始、岩手県では太平洋セメント株式会社の大船渡工場が、今秋からコンクリート系廃棄物のリサイクルに取り組む方針を示している。しかし、被災地全体では、震災がれきのリサイクルは本格化していないのが実情である。

 環境省によると、今回の震災で発生したがれきの量は、岩手県約452万トン、宮城県約1,584万トン、福島県約228万トンで、3県の合計は約2,263万トンに及ぶ(2011年8月16日発表)。これは1995年の阪神・淡路大震災で発生した災害廃棄物約1,477万トンを大きく上回り、最も被害の大きかった宮城県のがれきは、県内で1年間に排出される一般廃棄物82.5万トン(2008年度)の約20年分に相当する。

 5月に環境省が発表した「東日本大震災に係る災害廃棄物の処理指針(マスタープラン)」では、木質系廃棄物はPBやボイラー燃料、バイオマス発電などへのリサイクル、コンクリート系廃棄物は土木工事に伴う復興資材としてリサイクルする方針が示されている。また、岩手県や宮城県でも震災がれきをリサイクルする方針を発表している。しかし、震災から5カ月を経た今もリサイクルはあまり進んでいない。その理由として考えられるのが、以下の3つの問題である。

 1つ目は、分別処理の問題だ。がれきを分別するには、リサイクルの用途を明確にし、それに合わせた適切かつ徹底した分別が必要だ。分別されている一般廃棄物であれば、中間処理施設の設備で比較的容易に処理できるが、震災がれきは木質系もコンクリート系もプラスチック系も混在しているため、リサイクル可能なものと廃棄するものを現場で見分けなければならず、そのまま処理施設に持ち込むことができない。作業効率化のために現地に廃棄物分別機を導入する案も検討されているが、ふるいや風力などによる自動選別を行うとアスベストなどの有害物質が拡散する恐れがあり、導入はあまり進んでいない。有害物質の拡散を防ぐため、分別時に大量の水を利用する方法もあるが排水による土壌汚染の問題も指摘されており、この方法にも限界がある。さらに、塩分や油分を吸着してしまった廃木材などは目視による分別作業が欠かせない。これらの課題が分別作業を困難にしており、リサイクルが進まない要因となっている。

 2つ目は、受け入れるリサイクル処理施設の問題だ。容量の大きな木質系廃棄物や重量のあるコンクリート系廃棄物は、搬送費用が高いため現地で処理しないとコストが見合わない。しかし、当初は現地のコンクリート工場や木材加工工場自体が被災してしまったり、電力事情や交通事情が不安定で稼働できなかったり等の事情があったため、リサイクルを進められなかったのである。今日では、徐々に工場が復旧しつつあり、現地でのリサイクルが進み始めている。しかし、がれきの量があまりにも膨大であるため、現地の工場をフル稼働しても処理が追いつかない可能性が高い。問題の解決には自治体を超えた広域処理が必要だが、搬送コストや放射性物質による汚染などが問題視されており、今後の見通しが立っていないのが実情だ。

 3つ目は、リサイクル材の需要に関する問題だ。環境省のマスタープランや各自治体の処理指針では、木質系廃棄物による再生PBの生産や、コンクリート系廃棄物を活用した路盤材や再生骨材などの活用方針が示されているが、その再生材をどこに使うのかという用途が具体的に示されていない。つまり、被災地における宅地造成や道路計画、防潮堤の整備など、町全体の復興計画が固まらなければ、PBや路盤材をいくら再生しても供給先がないのである。リサイクル材の需要を促し、雇用創出や経済復興を進めるためにも、一刻も早い被災地の復興計画の具現化が求められている。被災地でリサイクルした建材を復興支援の一環として全国の建設現場で利用促進するような支援策も必要とされてくるだろう。

リサイクルを超え、先進的なエコビジネスモデルの創出へ

 7月29日に東日本大震災復興対策本部が発表した「東日本大震災からの復興の基本方針」の中には、復興住宅や公共建築物、漁協等の共同利用施設等への熱電供給を推進するなど、木質系震災廃棄物を活用した先導的なモデルを構築することや、被災地域の大学等や公的研究機関、産業の知見や強みを最大限活用して、知と技術革新(イノベーション)の拠点機能を形成し、産業集積、新産業の創出を促進することが明記されている。今後の被災地の復興を考える際には、この基本方針に示されているように、震災前の状態に戻すだけではなく、先進的な知見や技術を積極的に取り入れて新産業を創出し、世界に通じる「復興モデル」を提示することが必要だ。震災がれきのリサイクルについても同様で、従来型のリサイクルより一歩も二歩も進んだ取り組みに着手し、新たな雇用の創出や世界に通じるエコビジネスのモデルを生み出すことが求められている。

 このような視点から、震災がれきのリサイクルを新たなエコビジネスにつなげうるものとして、以下の3つの新技術に着目した。


@再生PBに機能と付加価値を与える「磁性木材」

 「東日本大震災からの復興の基本方針」に、地域の復興を支える技術革新を目指し、「世界最先端の技術を活用した事業を興すため、東北の大学や製造業が強みを有する材料開発、光、ナノテク、情報通信技術分野等における産学官の協働の推進」と明記されているが、そのモデルにぴったりはまるのが岩手大学の岡英夫教授が開発した「磁性木材」である。磁性木材とは、その名の通り磁性を持つ機能性木材のことだ。製造方法は、木材に磁性流体を注入する含浸型、磁性粉体と木粉を混合・圧縮した粉体型、磁性体を含む塗料を木材表面に塗る塗布型の3種がある。中でも粉体型の製造法は、震災がれきの再生PBに付加価値を与える上で有効な策といえる。磁性木材は、温もりのある質感と加工容易性、低比重、調湿作用といった木材ならではの特徴に加え、磁性、発熱性、電波吸収などの機能を併せ持つ。こうした特徴を生かして、扉がマグネットボードになる木製キャビネット、磁石の吸着力で傾斜しても倒れない木製の椀や皿、電磁誘導加熱で座面が温まる木製椅子など、今までにないアイデアの製品が生み出されている。また、磁性木材にはギガヘルツ帯の電波を吸収する機能もあるため、電波吸収ボードとしての用途も期待できる。「ボートや飛行機、自動車など揺れを伴う移動体のインテリア材として、付加価値の高い木製家具として、さらに音楽ホールや病院での携帯電話の電波抑制材、機密を扱う企業の情報セキュリティ対策など、さまざまな用途での利用が見込まれます」(岡教授)。


A木材を何度でもリサイクル可能にする複合建材用接着剤

 建設業界では木質系の建築廃材のリサイクルが進んでいるが、昨今の住宅に多用されているキッチンカウンターや浴室パネルなどの化粧材を貼り付けた複合建材においては、木材の分離が困難なため廃棄せざるを得なかった。パナソニック電工株式会社は、この問題を解決するため、廃棄時に効率よく分離できる「接着・分離リサイクル技術」を接着剤メーカーのコニシ株式会社と共同開発した。同技術は、高温域で膨張する機能材料を接着剤に配合することで実現可能となった。この接着剤を用いた複合建材を高温加熱すると、機能材料が膨張し、その膨張力により接着力が失われ分離可能になる。従来から加熱により分離可能となる接着剤はあったが、融解後も高温のまま作業を行う必要があったため、実用的ではなかった。これに対し、新技術は融解後に常温で作業可能なため、人手で容易に分離できる。この技術を普及させるには、複合建材を集約処理するための回収システムと高温分離する設備が必要であるため、現在のところ利用は進んでいないが、木質系建築廃材の効果的なリサイクルの仕組みとして注目されている。今後、震災がれきの再生PBを活用して復興住宅や公共施設の建設が進められる際にこうした技術を併用すれば、世界に先駆けた住宅建築の循環型モデルを提示できる可能性がある。


Bコンクリートをもう一度コンクリートに

 震災がれきの中で木質系廃棄物と並んで、比重が大きいのがコンクリート系廃棄物である。現在、建築物の解体や改装工事で排出されたコンクリートのリサイクル率は約98%と高いが、その大半は路盤材や埋め立て用に再生されており、コンクリートに再生されるものはごくわずかである。しかし、近年、再生骨材コンクリートへの注目が高まりつつある。埼玉総業株式会社の馬場博子氏は、その理由を次のように話す。「全国的に道路整備事業が減少傾向にあり、再生路盤材の需要が鈍化しつつあります。その結果、コンクリート塊が余剰となり、処理費用の増加、不法投棄を引き起こす原因となっています。しかし、コンクリートからコンクリートへのリサイクルが普及すれば、需要の拡大と廃棄物の削減を両立できます。これは天然資源である砕石・砂利の消費抑制になるため、環境保全の面でも非常に効果的です」。再生骨材コンクリートの需要が高まる中、2005年以降、再生骨材コンクリートのJIS規格化が進んだ。しかし、このJIS規格を取得している企業は、まだ少ないというのが実情である。今回の震災により、東北地方でコンクリート系廃棄物のリサイクル需要が発生することは間違いない。この復興事業を契機に、再生骨材コンクリート技術が認知され、規格取得が進み、循環型社会づくりが促進されることを期待したい。

震災を悲劇で終わらせないために

 被災地に美しい自然を取り戻し、誰もが住みたいと思える町を築き、震災前を超える経済発展を実現するには、従来型の町づくりではなく、環境との共生や循環型社会の視点が必要だ。それを実現するには、まず目の前の震災がれきを復興資源として適切にリサイクルすること、そして、それを付加価値の高いエコビジネスに昇華させていくことが望ましい。

 こうした視点に立った廃棄物リサイクルや循環型社会づくりは、何も被災地の復興にとどまる話ではない。全国で日々行われている一般廃棄物や産業廃棄物のリサイクルにも、付加価値の高い新技術やシステムを積極的に取り入れれば、新たなビジネスの創出や雇用拡大、環境保全につなげられるはずである。被災地の復興を契機に、こうした取り組みを拡大し、日本全体にプラスの効果を波及させられれば、震災を悲劇で終わらせることなく未来の糧に転換できるのではないだろうか。

取材協力
岩手大学、埼玉総業株式会社、パナソニック電工株式会社

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.91(2011年9月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。



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