環境ビジネス情報

印刷用ページを別ウィンドウで開きます



Topics

特集 シェアリングの時代が始まる〜「所有」から「共有」へのシフト〜
近年、カーシェアリングに代表されるシェア型サービスがさまざまな分野に拡大している。環境負荷の低減につながる「所有」から「共有」へのシフトは、持続可能な社会づくりに欠かせない要素である。今、シェアが注目される背景、国内外の市場動向、今後の展望などを考察する。

レンタカーではなく、カーシェアリングを選ぶ人々

ケース1

家族旅行でカーシェアリング

 都内在住のAさんは、月末の3連休を利用して伊豆への家族旅行を計画中だ。以前、片道6時間もの大渋滞にハマって懲りたAさん、今回は電車での移動を家族に提案。すると、妻は「ガイドブックに載っていないお店で新鮮な海の幸を食べたい」、子どもたちは「公園とかじゃなく、もっと遊べる場所へ連れて行って」とせがむ。家族の要望を聞き入れるには、現地でのクルマの調達が必須だ。レンタカーも考えたが、最終的にAさんが選んだのはカーシェアリングだった。

 パソコンを立ち上げたAさんは、インターネットで「CaFoRe(カフォレ)」にアクセス。日にち、場所、車種、希望価格を入力して検索。条件に合うクルマを絞り込み、さらにレンダー(クルマの貸し手)のプロフィールと評価をチェック。「このレンダーは信頼できる」と見込んだBさんに、カーシェアリングをリクエスト。まもなく返信が来て交渉は成立。

 旅行当日、伊豆高原駅でBさんと待ち合わせ、操作方法や注意事項、キズなどの状態確認、運転免許証を提示し合い本人確認を済ませてクルマを借りた。その際、Bさんから地元ならではのグルメ情報や遊び場の情報も聞くことができた。クルマを選ぶ際、Bさんのプロフィールやブログを閲覧し、「食べ歩き」好きで、家族とよく遊びに出かけるというコメントをチェックしていたことが役立った。

 Bさんのクルマと情報のおかげで、2泊3日の旅行に家族も大満足。クルマの返却時にAさんはBさんに手土産を渡し、快適な旅行ができたことへの感謝の意を表した。

ケース2

クルマ好きが集うカーシェアリングの場

 群馬県に住むCさんは、Aさんとは違う視点でカーシェアリングを楽しんでいる。仲間内ではちょっと知られたカーマニアのCさん。しかも、今どきのクルマではなく1980〜90年代の欧州車が大好き。昔から乗ってみたかった往年の欧州車を「カフォレ」で見つけては、カーシェアリングを楽しんでいる。今週末は、若い頃、欲しかった90年代のシトロエンをシェアする予定だ。待ちに待った当日、ドライブを存分に楽しんだCさんは、レンダーのDさんとフランス車談議で大いに盛り上がった。「運転自体も楽しいけれど、同じ趣味を持つ人と交流できることがカーシェアリングの最大の楽しみ」とCさんは口にする。

C to C型カーシェアリングという新しいサービス

 これまでにはないカーシェアリングの仲介サービス「カフォレ」がスタートしたのは2009年のこと。同サービスを展開する株式会社ブラケットの代表取締役兼CEO・ 光本勇介氏は「国内で保有されている自家用車約6,000万台の平均稼働率は約2.3%しかないとの調査データに出合ったことが、このビジネスを始めるきっかけでした。駐車場に眠っている97.7%の“不動車”を生かす方法はないかと考えた末に立ち上げたサービスが『カフォレ』です」と事業開始の経緯を話してくれた。

 従来のカーシェアリングは、運営会社が会員にクルマを貸し出すB to C型で、そのビジネスモデルはレンタカーの延長線上にあった。これに対し「カフォレ」は個人間で車の貸し借りを行うC to C型であり、レンタカーや従来型のカーシェアリングと内容が大きく異なる。

 「カフォレ」は、レンダーのプロフィールや貸し出し条件などの情報をインターネットに掲載し、ボロワー(クルマの借り手)と結びつけるサービスである。サービスの肝は、万一の事故やトラブルが発生した際の「保証の仕組み」と、見知らぬ人同士の貸し借りをサポートする「信頼の仕組み」を提供することだ。「保証の仕組み」としては、ボロワーにドライバー保険への加入義務化、レンダーには保険会社と共同開発した補償プログラムの提供などを行い、車両の破損やトラブルに対応している。「信頼の仕組み」としては、会員登録時に運転免許証や車検証等の提示を義務づけ、本人確認および所有車両の特定を行うことに加え、貸し借りのルール構築、車両状態確認シート等の提供、利用者間による評価・レビューの公開などの方法を採用している。

 「個人間のカーシェアリングというサービスは前例がないので、当初は利用が進まないかもしれないと危惧していました。しかし、フタを開けてみたら予想以上に利用者が増えており、大きな手応えを感じています。確かに、最初は見知らぬ人とクルマを貸し借りすることに不安を感じる方もいます。ですが、一度利用すると、思いのほか簡単であること、信頼できる仕組みがあることなどがわかり、シェアの楽しさを実感してリピーターになる方が多いですね」と光本氏は利用者の傾向を分析する。

世界各国に広がるシェア型サービス

 新しいカタチのシェア型サービスは、国内より一足先に海外で話題となった。各国に数あるシェア型サービスの中で、特に大きな成功を収めているのは、アメリカを中心にカーシェアリングサービスを展開する「Zipcar(ジップカー)」だろう。ICカードで手軽にシェアできることが受け、現在約50万人以上の登録会員がいる。サービス拠点はアメリカだけではなくカナダ、イギリスなど170以上の都市に広がり、2011年4月には米ナスダック市場に上場を果たした。

 自転車のシェアも、各国で広がっている。その代表例は2007年にスタートしたパリの「Velib’(ヴェリブ)」だ。1,800以上のステーションと、2万台以上の自転車が配備され、通勤通学や観光客の交通手段として定着している。ほかにもドイツ、イギリス、オーストリア、スペイン、メキシコ、ブラジル、カナダ、韓国、台湾、オーストラリアなど各国で自転車のシェアサービスが普及している。

 シェア型サービスは、自動車や自転車以外に、家具、衣類、カメラ、DIY用品、家、庭、農場など幅広い分野に広がっている。中でも、アメリカを中心にサービスを展開する「Airbnb(エアビーアンドビー)」は、急成長を遂げ大きな話題を呼んだ。その内容は、部屋を貸したい人と宿泊したい旅行者を仲介するC to C型の典型的なシェア型サービスで、現在、186カ国 1万8,000以上の地域で物件を提供し、今も成長を遂げている。このように、シェア型サービスはさまざまな分野で世界的な広がりをみせている。

シェアとレンタルの違いは何か?

 モノを所有せず必要な時だけ借りて費用や手間を省くというのが、シェアを利用するメリットである。しかし、このメリットはシェアだけではなくレンタルにも当てはまる。では、シェアとレンタルは、いったい何が違うのか。

 最大の違いは、貸し手と借り手の関係性にある。冒頭で紹介した「カフォレ」の利用シーンを思い出していただくと理解しやすいかもしれない。家族旅行に出かけたAさんが、もしレンタカーを使っていたら、Bさんが持つ地元ならではの情報を得ることはなかったし、返却時に手土産を渡し感謝を表すような人間関係も生まれなかっただろう。カーマニアのCさんのケースも、同じ趣味を持つ者同士でしか成立しない楽しみがそこにあり、レンタカーで同様の満足を得ることはできないだろう。

 「エアビーアンドビー」とホテルにも同じ図式が当てはまる。「エアビーアンドビー」を利用して部屋を貸す人の動機は、小遣い稼ぎだけではなく、友だちづくりにあるという。国境を越えて人が出会い、部屋のシェアを通じてコミュニケーションが生まれる。人々の善意、温もりのある対応、生きた会話から得られるお互いの満足感は、ホテルでは味わえない。

 こうしたシェア型サービスに共通するのは、貸し借りに伴い、人と人のリアルな出会いがあり、そこにコミュニケーションが生まれることである。このコミュニケーションを楽しめる人たちが、シェアを選ぶユーザーなのである。逆に、コミュニケーションは煩わしい、費用だけ払ってモノが使えればいいと考えるなら、シェアではなくレンタルを選べばいいのだ。

 モノの貸し借りだけに焦点を当てれば、確かにシェアとレンタルの構造はよく似ている。しかし、そこに付随するコミュニケーションやコミュニティでの振る舞いに目を向けると、両者の違いが鮮明に見えてくる。

新しいシェア型サービスの実現に欠かせないITの力

 昔は、ご近所で電話やテレビを共有したり、農機具を貸し借りしたり、人手が足りないとき助け合うことが当たり前だった。そのような意味では、シェアという文化自体は特別新しいものではない。しかし、近年注目されているシェア型サービスには、旧来のそれと大きく異なる部分がある。

 その最たるものはコミュニティの範囲だ。旧来のシェアは、誰もが顔見知りという地域共同体、町内会レベルでしか成り立たないものだった。ところが昨今のコミュニティは、全国どころか国境を越えて広がっている。このような現象が生じた理由はITの発展、特にインターネットとソーシャルメディアの存在が大きい。今や、ポケットに入るスマートフォンひとつで世界の人々と緊密にコミュニケーションができ、GPS機能などを利用すれば、必要な時に必要な場所で必要なものを必要なだけシェアすることができる。

 ITの中でも、特にシェアの追い風となったのがソーシャルメディアである。「Twitter(ツィッター)」や「Facebook(フェイスブック)」「mixi(ミクシィ)」などのソーシャルメディアは、面識のない人同士を手軽につなぎ、緊密で信頼に足る情報交換を行うことを可能にした。特に実名の利用を推奨する「フェイスブック」は、匿名が当たり前だったインターネットの世界を大きく変え、仮想空間でも信頼に足る人間関係が構築できることを証明してみせた。

 しかし、ソーシャルメディアだけで信頼性を担保することは難しい。仮想空間で信用取引を行う際、重要な役割を果たすのは、利用者同士の評価機能だ。世界最大のオークションサイト「eBay (イーベイ)」では、取引を行った売り手と買い手に、点数とコメントで相手を評価する仕組みを提供している。マイナス評価を受けたユーザーは、信頼が損なわれて取引が成立しなくなり、自然とコミュニティから淘汰される仕組みとなっている。この仕組みが不正の抑止効果となり、仮想空間における取引の信頼性をつくり上げるのだ。昨今のシェア型サービスの大半が、「イーベイ」と同様の評価機能を採用し取引の信頼性を確保している。

国内で生まれた新しいシェアの芽

 国内で最もシェアが進んでいる分野は自転車だ。自転車のシェアリングは、放置自転車対策や環境負荷低減に取り組む地方自治体が主体となるケースが多い。東京都世田谷区も先進的な取り組みを進める自治体の1つだ。同区は、2007年からコミュニティサイクル「がやリン」を開始。私鉄4駅に4カ所のサイクルポート、自転車約1,100台を配備、1日に1,000人以上の利用者があるという。2009年度からは114台の電動アシスト自転車を導入。さらに、一部のサイクルポートに太陽光パネルを設置して電動アシスト自転車のバッテリー充電、夜間照明などに活用し、環境負荷低減を図っている。

 先進的なITでシェア型サービスを後押しする国内企業も現れた。モバイル通信技術を生かしサイクルシェアリングシステムを開発した株式会社NTTドコモだ。同社は株式会社ペダルと共同で、サイクルシェアリング用の汎用ターミナルシステムを開発した。同システムを導入すれば、ターミナル1台で最大30台の自転車を管理でき、FeliCa(フェリカ)カード、おサイフケータイ機能を持つスマートフォンや携帯電話をかざすだけで、会員登録、自転車の利用・返却が行える。現在、ペダルが同システムを活用したサイクルシェアリングサービスを提供しており、市民や観光客の足として普及拡大に取り組んでいる。さらに、NTTドコモは、シェア型サービスに欠かせないコミュニティ形成の仕掛けづくりもサポートしている。2011年5月、株式会社ウイングスタイルとの共同開発によりリリースしたスマートフォン用アプリ「cosoado Cycles plus(こそあどサイクルズプラス)」を利用すれば、おすすめのサイクリングコースや、近隣のショップ情報、消費カロリーなどの情報を投稿・共有することができる。このアプリをサイクルシェアリングと組み合わせれば、利用者間のコミュニティを形成することも可能だ。

 農業分野では、2011年7月にスタートした「ノウジョウシェア」が農場体験をシェアするサービスに取り組んでいる。同社は、消費者と生産者が直接触れ合う収穫体験の場を提供している。「ノウジョウシェア」を運営する株式会社アグリメディア 代表取締役社長の諸藤貴志氏は次のように語る。「日本の農業は、耕作放棄地の増加、後継者の不足、食料自給率の低下など、さまざまな問題を抱えています。こうした問題を解決するには、食や農産物に対する消費者の意識を高めることが大切です。そのために弊社では、単なる収穫体験ではなく、参加していただいた消費者の方に、生産者のこだわりや農産物の特徴を理解していただき、一緒に畑に入ったり、採れたての味を堪能してもらえる場を提供したりしています。現在は収穫体験がメインですが、これからは土づくりの段階から消費者と生産者が触れ合って農場体験をシェアできるサービスや、法人向けにCSRや福利厚生としての農地活用サービスに力を入れていきたいと考えています」

 国内では、ほかにもルームシェアやソーシャルアパートメントなどのサービスも始まっており、今後もシェア型サービスの市場が拡大すると予想されている。

シェアが新しいビジネスのキーワードになる

 シェアの普及は新しい産業を創出する一方で、製造業をはじめ既存産業に影響を与えるとの懸念があるのも事実だ。確かに、シェアが進むと個人の購買量は減るかもしれない。しかし、逆にこれまでにない需要が生まれ、市場が活性化するとの見方もある。たとえば、シェアハウスに暮らす5人が家電を共有する場合、一般家庭用サイズの冷蔵庫や洗濯機では全員のニーズを満たすことは難しい。必要なのは、細かな分割収納機能などを持つ超大型冷蔵庫や、洗濯と乾燥を別ドラムで同時に利用可能な洗濯乾燥機など、シェアを前提に開発された商品である。これらの商品には大容量、複合機能、省電力、長寿命などが求められるため、価格が一般家庭用より高額になることはやむを得ない。たとえ高額になったとしても、シェアの場合、多人数で購入費用を賄えるので価格自体は購買ネックにはならないであろう。このような理由から、シェアの普及は高額商品市場の拡大につながる可能性がある。

 また、自己の所有物をシェアした際の収入が維持管理費等の所有コストを上回ることにより、逆に購買意欲が生まれるので消費に影響はないとの見方もある。新しいシェアビジネスは、未知数な部分が多いため、今後の市場予測は難しいといわざるを得ない。しかし、ビジネスの世界的潮流として、シェアが重要なキーワードとなることは間違いないだろう。

人と人のつながりが経済的生産性を生む時代へ

 シェアの魅力は、モノの貸し借りという行為を通じて、人とつながる楽しさ、人から信頼され、人を信頼できる安心感、同じ価値観を共有する喜びなどを味わえるところにある。豊かさの指標は「モノ」から「心」へ、人と人のつながりが経済的生産性を生む時代が、今まさに始まろうとしている。

取材協力
世田谷区 交通安全自転車課、株式会社アグリメディア、株式会社NTTドコモ、株式会社ブラケット

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.92(2011年11月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。



Topicsトップへ

印刷用ページを別ウィンドウで開きます

このページの先頭へ戻る