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特集 海から始める地球温暖化対策
地球温暖化やエネルギー価格上昇を背景に、燃費効率のよい省エネ船(エコシップ)の開発が加速している。船舶からのCO2排出量削減を目指し取り組みを進める国際海運の動向を追う。

国際海運におけるCO2排出規制

 国際物流の9割以上を担う海上輸送。世界海上輸送量は年々増加の一途を辿っており、2010年に83億2,800万トンに達し、今後、新興国の経済成長によってさらに増加すると予想されている。鉄道、トラック、航空に比べ最も環境に優しい輸送手段といわれる海運だが、それでも国際海運のCO2排出量は年間約8.7億トン(2007年)に及ぶ。これは世界のCO2排出量の約3%を占め、ドイツ1国分に相当する。世界海上輸送量の増加に伴い、今後CO2排出量が増加することは確実で、国際海運におけるCO2排出規制が急務となっている。

 ところが、これまで国際海運にはCO2排出量を抑制する国際的な枠組みが存在しなかった。国境を越えて活動する船舶は、船主、運航者などの国籍が必ずしも一致せず、サービス受益国も多岐にわたる。このため、特定国にCO2排出の責任を問うことが難しく、国際海運は「国ごとの排出量割り当ての仕組みがなじまない」との理由から京都議定書の適用外とされていたのだ。京都議定書が合意された1997年から、国際海運におけるCO2排出対策は、海事分野を扱う国連の専門機関、国際海事機関(IMO)に委任され、国際的な枠組みづくりが進められてきた。

技術的・運航的手法でCO2削減

 世界有数の海運・造船国である日本は、2008年以降、条約採択に至る審議の過程で43本の提案文書を提出するなど、IMOにおけるCO2排出削減に向けた国際的な枠組みづくりを主導してきた。ここでテーマとされたのは、世界経済の動脈である海運の発展を妨げないよう、総量規制ではなく個船の効率改善を促進する手法である。省エネ性能の高い船舶を普及させる「技術パッケージ」と、燃料油課金や排出量取引(ETS)などのインセンティブを活用する「経済パッケージ」という二段構えで、全世界的な統一ルールの策定と運用を行うシステムを構築するための働きかけを続けてきた。こうした活動が実を結び、2011年7月に開催された第62回海洋環境保護委員会(MEPC62)で、まず技術面の規制が決定した。京都議定書と同様、先進国と新興国の間で「義務の差別化」が課題となっていたが、最終的に海洋汚染防止条約の一部改正案が採択され、船舶のCO2排出性能に関する国際ルールが誕生した。各国共通のCO2排出抑制スキームを適用するのは、国際海運分野が初めての例となる。

 新たに導入されるルールは、大きく2つに分けられる。1つは、2013年1月以降に建造契約を結ぶ新造船に対して、CO2排出指標の計算を義務づけることだ。これは「EEDI:エネルギー効率設計指標」と呼ばれ、「一定条件下で、1トンの貨物を1マイル運ぶのに排出すると見積もられるCO2グラム数」を意味する。自動車でいうカタログ燃費に相当するが、船舶の場合は受注生産のためすべて仕様が異なり、個船ごとにEEDIの計算が必要となる。対象となるのは、総トン数400トン以上の国際航海を行う船舶。さらに、ばら積み貨物船、タンカー船、コンテナ船、一般貨物船、冷凍船などの種類ごとにCO2排出規制値が設定され、規制値を満たさない船舶は市場に投入することができない。2013〜2014年に建造契約を結んだ新造船の場合、その規制値は既存船のCO2排出性能の平均値に設定されているが、その後段階的に強化される。2025年以降は30%以上のCO2排出性能改善が求められることになり、これによって船舶を燃費性能の優れたものに順次入れ替えていく計画だ。

 さらに、もう1つのルールとして、「SEEMP:船舶エネルギー効率管理計画」の作成が義務づけられる。これは新造船だけでなく現在運航中の船舶も対象としており、1計画、2実施、3モニタリング、4評価および改善、という流れを繰り返しながら、運航の効率化、CO2排出削減を図る。船舶が発揮できるエネルギー効率のポテンシャルを表すEEDIに対し、実際の貨物量、燃料消費量および航行距離から算出される「EEOI:エネルギー効率運航指標」がエネルギー効率を評価するための指標の1つとして用いられる。2つのルールの導入によって、設計と運航の両面でエネルギー効率向上に取り組み、何の対策も講じない場合に比べ、2030年には約20%、2050年には約35%のCO2排出量削減が期待されている。

 「技術パッケージ」の成立に続き、今後は燃料油課金制度や排出量取引などの「経済パッケージ」の審議が本格化すると考えられている。すでに、日本から燃料油課金制度をベースとして船舶の効率改善に一層のインセンティブを与える制度(EEDIの優れた船舶に対し燃料油課金を免除する制度)を提案するなどの取り組みが始まっている。

国際海運におけるCO2排出量の将来予測(出典:国土交通省発表資料)

日本が誇る船舶の省エネ技術を生かす

 国際条約づくりの一方、国内では船舶の省エネに貢献する技術の開発が進められてきた。国土交通省は、船舶からのCO2排出量30%削減を目標に、2009〜2012年の4カ年計画で「船舶からのCO2削減技術開発支援事業」を実施している。海運・造船・船用工業業界が連携した技術開発支援プロジェクト22件の中には、船体を気泡で覆って海水の摩擦抵抗を低減する「空気循環システム」をはじめ、プロペラ効率の向上や運航・操船の効率化、自然エネルギーを採用したハイブリッド船などのテーマがあり、2013年の法改正を前に開発成果が見え始めている。

 要素技術の開発に加え、国内の海運会社は、日本のお家芸といえる環境技術とこれまで蓄積した経験を生かし、燃費効率のよい省エネ船(エコシップ)の開発を進めている。商船三井が推進する「船舶維新プロジェクト」では、同社がこれまで開発・採用してきた技術を組み合わせ、環境に優しい次世代船の構想を打ち出している。同プロジェクトを開始した経緯について、同社常務執行役員の吉田清隆氏は次のように語る。

 「きっかけとなったのは、2005年の愛・地球博で北欧の企業が発表した次世代船構想でした。エコをテーマとした斬新なコンセプトは、海運業界で大きな話題となりました。これに加え、燃料油価格が上昇し続けていたことが、船舶維新プロジェクトの推進を後押ししました。2002年に163ドルだった燃料油消費単価は、2005年には280ドル、2008年には528ドルと急騰しており、船舶の省エネは経済性という観点からも重要な意味があると考えました」。

 世界の造船業をリードしてきた日本には、船舶の省エネに貢献する技術の蓄積がある。その中には採算性がネックとなり実用化が見送られた技術もあったが、燃料油価格の高騰により費用対効果が上がり、活用の可能性が出てきた。船舶維新プロジェクトの推進を目指す商船三井は、技術的に可能なもののまだ船舶用に商業化されていない技術を多数組み合わせることで、新しい次世代船の構想をつくり上げた。2009年から2010年にかけて同社が発表した次世代船構想「ISHIN」シリーズには、推進効率の最適化や摩擦抵抗低減など、さまざまな省エネ技術が盛り込まれているほか、自動車船、フェリー、大型鉄鉱石専用船の船種別に、港内でのゼロエミッション、LNG燃料の利用、排熱エネルギーの回収といった個別のコンセプトが掲げられている。さまざまな先端技術を組み合わせることで、3割以上のCO2排出削減を目指す。船体を大型化して効率性を上げた場合、CO2排出量50%削減も見込まれるという。

 すでに「ISHIN」の要素技術を採用した自動車船が2012年6月に竣工している。「EMERALD ACE」と名づけられた同船舶には、約160キロワットの太陽光発電システムと実力値約2.2メガワット時のリチウムイオン電池を組み合わせたハイブリッド給電システムが搭載されている。「船舶への自然エネルギーの採用は、蓄電設備による重量増加が推進力低下につながる可能性があります。しかし、水上部分がビルのように大きい自動車船は、荷物のあるなしにかかわらず船底にバラスト水を搭載することでバランスを取っており、そのスペースの一部に蓄電池等を設置することで、従来通りのバランスを維持しました。さらに、航海中に発電して蓄えた自然エネルギーを港内停泊中に利用することで、ゼロエミッションを実現しています。今回の取り組みは『ISHIN』シリーズ実現へのステップとして捉えており、引き続き船舶のCO2排出削減に取り組んでいきたいと考えています」(吉田氏)。

「ISHIN」シリーズの次世代自動車船イメージ図。これをもとに「EMERALD ACE」が設計された

次世代型風力推進船、ウィンドチャレンジャー

 エコをテーマとしたコンセプトシップの開発に取り組むのは商船三井だけではない。国内だけでも、三井造船、日本郵船、IHIMUなどが独自のエコシップ構想を打ち出しているほか、東京大学を中心として海運、造船、建設用クレーンメーカーといった異業種企業が協同する「ウィンドチャレンジャー計画」も進められている。

 ハイブリッド自動車船「EMERALD ACE」2009年にスタートした「ウィンドチャレンジャー計画」は、次世代型風力推進船の実現を目指す研究開発プロジェクトだ。風力を利用した商船の開発はこれまでも行われており、1970年代のオイルショックを受け1980年に自動操帆の硬質セイルを持つ「新愛徳丸」が世界で初めて竣工された。これ以降、同様の帆を搭載した船舶が相次いで建造されたが、初期投資が大きいことや、背の高い帆を支えるために必要なバラストタンクによって積荷量が制限されることなどが問題となり普及しなかった。最近では巨大な凧を利用したドイツの「Beluga SkySails」なども実用化されているが、従来船の場合、帆面積が相対的に小さく、実海域での省エネ効果は平均10%程度にとどまっている。これに対し、「ウィンドチャレンジャー計画」では、海上風を主な推進力とすることを目指し、新発想の三日月型断面形状を持つ硬翼帆の開発、そしてこの帆を搭載した商船の設計を行う。

 プロジェクト開始後2年間のフィージビリティ研究では、最大積載量18万トンの低速大型運搬船を想定して、大型硬翼帆の設計・運用方法が検討された。考案された帆は高さ50メートル、幅20メートルで、停泊時や嵐のときには縦方向に5分の1まで縮めることができる。さらに、大型硬翼帆とエンジン・プロペラを組み合わせたハイブリッド船とすることで、無風時でも従来と同等の定時性を確保できるように設計されており、実海域航海シミュレーション(横浜-シアトル航路等)を行った結果、年間平均30%程度の燃料消費低減が可能であるという試算が得られた。

 硬翼帆の技術的成立性は確認されたものの、新技術に対して保守的といわれる海運業界で実用化するには、今後、強度や機能、安全性、メンテナンス性を綿密に確認した上で、商船としての実用性を証明しなくてはならない。たとえば、コンテナ船の場合、船上に立ち並んだ帆がクレーンで荷物を積み込む際の障害となる可能性がある。また、石炭船の場合、荷下ろしや積み込みの際に落ちた石炭のかけらが海水と反応して腐食する恐れがあり、これが帆の駆動部分に影響を及ぼすことも考えられる。そのため、航海中だけでなく、荷物の積み込みから積み下ろしまでをトータルに考慮して、実用性を検討していくことが必要だ。現在、プロジェクトでは、フィージビリティ研究の成果をもとに、硬翼帆の大型スケールモデルの製作、陸上屋外実証実験などが進められており、商業化に向けたビジネスモデルの構築が目指されている。同性能のディーゼル推進船と比べCO2排出量を半減するという目標を達成できれば、日本の優れた造船技術を世界に示すことになるだろう。

 一般財団法人日本海事協会副会長の中村靖氏は「省エネ性能が高い日本船は、2013年の法改正で導入される規制値を現段階でクリアしています。CO2排出規制は、省エネ技術でリードする日本の海事産業の追い風になる可能性があります」と話している。

「ウィンドチャレンジャー(次世代帆船)計画」提供:東京大学 2012年8月現在、東京大学が中心となり、日本郵船、商船三井、川崎汽船、大島造船所、タダノ、日本海事協会が参画している

安全で効率的な海のエコドライブの推進

 これまで船体の開発などハードウェアの取り組みを見てきたが、船舶のCO2排出量を削減するには、運航方法の最適化も欠かせない。減速航行、最適航路の選択、積載効率の向上、適切な船体のメンテナンスなどさまざまな方法を組み合わせることで、燃費効率のよい「海のエコドライブ」を実現できるからである。特に、船舶が航行する際の燃料消費量は速度の3乗に比例して増加するため、船の速度を落とすだけで大きな省エネ効果がある。また、燃費は気象・海象の影響を大きく受けるため、航海上の風や波、海流を予測して航路を決定することも重要だ。たとえば、台風が発生しているところでは波が高く、船の推進力が落ちる。逆に、海流に乗ることができれば燃料消費量を軽減することができる。しかし、気象・海象予測情報だけに頼ってルートを決めると、蛇行航海となって距離が伸びてしまうため、航路の決定には、天候、燃料消費量、航行日数などの要素を総合的に検討しなければならない。そこで取り組まれているのが、ウェザールーティングだ。同手法は、気象・海象予測情報や船舶の航海性能などに基づき、決められた期間内に到着でき、かつ燃料消費量の少ない最適な航路を決定する。こうした手法は飛行機の運航においても使用されているが、1回の運航が10時間前後の飛行機に比べ、船舶の場合、1週間以上の航海も珍しくない。そのため、最適な航海ルートを決定するには、長期間における正確な海上気象予測が求められる。

 海運業界からのニーズを受けて、気象予報会社のウェザーニューズ社は天候に関する情報を提供するだけでなく、船舶に対してウェザールーティングに基づく最適航路の提案を開始した。国内に本拠を置く同社は、「安全性」「定時性」「経済性」「環境性」など、海運会社のニーズに対応した航海計画を提供する「Optimum Ship Routeingサービス」をコンテナ船、自動車船、ばら積み船、タンカー船など約1,000隻に提供している(2012年3月時点)。このサービスの一環として、2012年4月から提供されるシステム「Capt's DOSCA」は、船長、陸上オペレーター、ウェザーニューズ社の三者で最適航路、船速、エンジン回転数などのデータをモニタリングすることによって、航海計画の最適化を支援する。さらに、同システムには、航海計画による効果の評価指標となるEEOIを自動計算する機能も搭載されており、IMOが進めるCO2排出抑制にいち早く対応している。

 また、同社では民間企業として初となる超小型商用衛星「WINI衛星」の打ち上げを2013年秋に計画中だ。この衛星のミッションは、北極海の海氷を観測し、船舶が安全に通れるルートを探すことである。従来、欧州とアジアを結ぶ航路には、スエズ運河経由と喜望峰経由があったが、温暖化の影響と見られる海氷の減少で夏に船が北極海を通れるようになりつつある。北極海を通る新たな航路は、海賊問題に悩まされるマラッカ海峡経由のルートより治安がよい上、航海距離を半分〜3分の1程度に短縮できるため、安全性、効率性の改善が期待されている。2009年にBelugaグループの重量物運搬船2隻がヨーロッパ-韓国間を往復したのを皮切りに、2011年は商業運航として北極海航路が合計34回利用された実績がある。しかし、1年のうち使える時期が短い、船舶をエスコートする砕氷船の手配など、本格的に実用化するには障壁が多く、国内の海運業界から参入を示す企業はまだ現れていない。それだけに、海氷の監視サービスを提供するウェザーニューズ社の試みが注目を集めている。

 近年、造船市場でシェア拡大する韓国では、北極海航路が本格的に商業化する場合を想定して、輸送動向の予測やインフラの整備など具体的な検討を行っている。一方、国内では、国土交通省が2012年8月に省内検討会を設置し、第1回の会議を行ったばかりだ。北極海航路の持続可能な利用に向け政策提言を行う海洋政策研究財団の海技研究グループ長、加藤隆一氏は、日本でも必要な対応を早急に開始すべきと訴える。「北極海航路の問題は、将来の経済活動や安全保障などさまざまな分野に影響を与える可能性をはらんでいます。しかし、国の方針として取り組みを推進する韓国と比べると、日本は大きく出遅れた形です。将来起こりうるさまざまな変化に対応するには、国主導で今すぐ検討を始め、ソフト・ハード両面から取り組んでいかないといけません」。

日本の力を結集して国際競争力を

 経済活動に大きな影響力を持つ海上物流。国際海運の変化に対して戦略的に行動していく必要があるが、間近に控えたCO2排出規制導入は新たなビジネスチャンスを生み出す可能性も大きい。造船業にとどまらず、創エネ・省エネ技術を有する企業が連携し、オールジャパン体制を築けば、海運業界における国際競争力を向上させ、日本経済の活性化につなげることも期待できるだろう。

取材協力:一般財団法人日本海事協会、海洋政策研究財団、株式会社商船三井

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.97(2012年9月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。



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