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特集 パーソナル・モビリティがつくる未来のまち
新たな交通手段として脚光を浴びるパーソナル・モビリティ・ビークル(PMV)。移動に伴う環境負荷の低減、交通弱者への移動支援など、さまざまな効果が期待されている。従来の乗り物にはなかったPMVの価値とは何か。普及に向けた取り組みと可能性を探る。

新しい移動手段へのニーズ

 移動に伴う環境負荷について、1人当たりのエネルギー消費量で換算するという指標が注目されている。公共交通が環境に優しい乗り物と評価されるのは、大勢が乗ることで1人当たりのエネルギー消費量が少なくなるからである。逆に、乗車率が低ければ、エネルギー効率は悪くなる。電気自動車やハイブリッドカーでも、5人乗り車両にドライバー1人しか乗らないのであれば環境に優しいとはいえないだろう。

 近年、都市の交通手段に占める自動車分担率は増加傾向にあり、自動車依存が進行している。国土交通省によると、自動車による移動距離は10キロメートル以内が約6割を占め、乗車人数は2人以下が多いという。過度の自動車依存は、交通渋滞やCO2排出量増加の原因になるばかりか、市街地へのアクセスや回遊性を悪化させ、地域経済の空洞化や高齢者の外出機会の減少を引き起こす。今、PMVや超小型モビリティと呼ばれる小型移動機器が注目される背景には、こうした都市が抱える社会課題がある。

 国土交通省は、2009年度に「電気自動車等の導入による低炭素型都市内交通空間検討調査」を実施し、軽自動車未満の新型車両の普及可能性やCO2削減効果、走行空間などの検討を行った。これに引き続き、2010年度および2011年度、群馬県館林市や東京都千代田区、神奈川県横浜市、愛知県豊田市、福岡県朝倉市など全国各地で実証実験を行い、新型車両の利活用シーンや導入モデルを検証してきた。国土交通省が2012年6月に発表した「超小型モビリティ導入に向けたガイドライン」は、新しいモビリティの開発・活用を促すため、こうした調査で得られた知見を取りまとめたものである。その中で、これまで統一されていなかったPMVや超小型モビリティの概念が明らかにされた。それによると、「自動車よりコンパクトで小回りが利き、環境性能に優れ、地域の手軽な移動の足となる1人〜2人乗り程度の車両」として、「2人乗りの超小型モビリティ」「原動機付自転車(電動二輪車、超小型電気自動車)」「電動車いす」「移動支援ロボット(立ち乗り型)」の4つの分類があるとされる。以下、本稿では、これら4分類の機器を総称するものとして「PMV」を使用することとする。

PMV普及に向けた動き

 「超小型モビリティ導入に向けたガイドライン」は、全国各地での調査結果として、PMVは「身近な移動(日常の交通)や都市部・観光地における短距離移動において、利活用される意向が高い」と評価している。この結果を受け、国土交通省は、地方公共団体にPMVの試行的導入を認める「超小型モビリティの認定制度」を2013年1月より始めることを決定した。この制度では、高速道路などを走行しないとの条件で、車両走行の安全基準などを定める道路運送車両法の一部基準を緩和。さらに、市区町村ごとに協議会を設置し、地方運輸局の認定を受ければ、特定地域でのPMV走行を可能とすることとされた。しかし、ガイドラインの調査結果および認定制度には、「セグウェイ」などの立ち乗り型PMVは含まれていない。立ち乗り型PMVは、自動車や自転車などの従来の乗り物とは異なる構造を持ち、現行法(道路交通法、道路運送車両法)で明確な位置づけがされていないからだ。

キーワードは「スローモビリティ」

 こうした中、国内で唯一、セグウェイの公道走行が認められた茨城県つくば市に注目が集まっている。つくば市は、2007年から「ロボットの街つくばプロジェクト」に取り組んでおり、過去にはロボットの安全性を検証する試験機関の誘致や、全国から70の大学・研究機関が参加する自律型知能ロボットの実証実験イベントなどを行ってきた。こうしたプロジェクトの一環として、2009年、同市はロボット技術を活用したPMVを「モビリティロボット」と位置づけ、開発・普及に向けた取り組みを開始。まず、立ち乗り型PMVの社会的有用性を検証するため、政府に実験特区として公道走行の認可を求めた。その結果、内閣府、警察庁、国土交通省との1年間にわたる協議を経て、2011年3月に「モビリティロボット実験特区」として認定を受け、同年6月よりセグウェイなどを使った公道走行実験が始まった。

 現在は実験段階であるため、誰でも自由に立ち乗り型PMVを走行できるわけではない。公道実験が行える場所は、つくばエクスプレスのつくば駅と研究学園駅の周辺地域で、幅員3メートル以上の歩道に限定されている。また、実験で使用されるPMVは、道路運送車両法上、モーターの定格出力によって小型特殊自動車または原動機付自転車に区分され、専用ナンバープレートの装着が義務づけられている。これまでにセグウェイを利用した観光ツアーや防犯パトロール、通勤などの実験を実施しているほか、株式会社日立製作所による目的地まで自律走行可能な四輪PMVや、産業技術総合研究所が開発した立ち乗り型PMV、自動運転技術を利用した車いす型PMVなどの走行実験が行われている。

 公道実験のポイントについて、つくば市経済部産業振興課・主査の大久保剛史氏は次のように語る。「キーワードとなるのは『スローモビリティ』です。歩行者に近い速度域で走行するモビリティロボットは、移動に『ゆとり』と『余裕』をもたらし、周囲への気遣いや積極的なコミュニケーションを生み出します。安定かつ安心して移動できることが特徴で、『早く』『遠く』へ移動することを目的とした乗り物とは移動の質が異なります。スピードが歩行者と変わらないので、すれ違う人と気軽にあいさつや会話ができ、地域の人々と交流する機会が増えることがわかってきました。こうしたスローモビリティの特徴を生かせば、地域コミュニティの活性化や高齢者の活動意欲の向上、世代間交流の促進などにつなげられると期待しています」。

 現在、つくば市では、環境に優しいまちづくり、高齢者や交通弱者の移動支援、安全安心なまちづくり、観光活性化といった観点から、立ち乗り型PMVの社会実験を進めているが、将来的には、シェアリングシステムを導入し、地域住民が気軽に立ち乗り型PMVを利用できる環境を整備したいと考えている。

PMV=コミュニケーションツール

 まちづくりのコミュニケーションツールとして注目されている立ち乗り型PMV。その魅力とはどのようなものだろうか。セグウェイジャパン株式会社の取締役・マーケティング部部長の秋元大氏は、「セグウェイは乗り物というより、移動を支援するロボット」と説明する。2001年にアメリカで誕生したセグウェイは、これまでの乗り物とは異なる特殊な構造を持つ。二輪のボディに足を乗せると、搭載されたセンサーが搭乗者の姿勢を検出し、運行を制御する。ごくわずかな体重移動を瞬時に察知し、前進、後退、スピード調整を行い、身体動作と一体化した直感的な操作を可能にしている。2006年から販売開始された第2世代機では、それまでのハンドルグリップによる回転操作から、足元から伸びる棒状のステアリングを左右に傾けることで回転する機構へと変更され、より身体動作との一体感が高まった。さらに、電動駆動で静寂性に優れ、排気ガスを出さないといった環境性能も評価され、現在、世界各地で約7万台を販売し、警察や民間の警備会社、倉庫、コンベンションセンター、空港などさまざまな施設で利用されている。

 「コミュニケーションの活性化、これがセグウェイの魅力の1つです。セグウェイに乗ると、とても目立つので、すれ違う多くの人から声をかけられます。すると、乗車した誰もが社交的な気分になり、普段あいさつをしない人でも思わず手を振ったり、笑顔で会話を始めたりするようになります。現在、世界800カ所の警察設備に導入されていますが、パトロールにセグウェイを利用した結果、警察官と市民の会話が盛んになったと報告されています。特に、アメリカの都市部では、車からセグウェイに乗り換えた結果、自然にパトロールの回数が増え、離職率も改善されたそうです。これは住民とのコミュニケーションの増加が、職務に対するモチベーションの向上につながったと考えられています。また、セグウェイはツーリズム産業でも積極的に導入されており、世界250カ所で公認ツアーが実施されています。セグウェイツアーは、歩くよりも容易に街中を巡れるだけでなく、バスツアーでは知ることのできない土地の魅力を発見できると、参加者の満足度が高いそうです。移動という行為に『楽しさ』や『喜び』を感じられることが、セグウェイの大きな魅力です」(秋元氏)

 現在、千葉県柏市では、住民主体のサークル組織「柏の葉セグウェイクラブ」によるセグウェイの普及活動が進められている。試乗会や柏の葉キャンパス周辺のツアーを定期的に開催、2012年11月からは三井不動産住宅サービス株式会社、千葉大学環境健康フィールド科学センター、千葉県まちづくり公社と協力し、セグウェイの共同運用を開始した。今後、管理施設内の定期的な見回りなど日常業務での活用を検討している。こうした取り組みの狙いは、街に交流を生むコミュニケーションツールとしてセグウェイを活用することにある。

 今日、セグウェイのような立ち乗り型PMVには、移動手段という枠を超えた新たな価値が見いだされており、その価値や可能性を社会が抱える問題解決のために応用・展開させていこうという取り組みが進んでいる。

PMV活用社会の実現を目指して

 2012年10月、東京都世田谷区二子玉川でPMVとまちづくりをテーマにした新たなプロジェクトが始まった。二子玉川は、都心へのアクセスに優れた立地条件でありながら、緑地や河川などの自然が残り、「住みたい街」として高い人気を誇っている。近年は第一種市街地再開発事業が進められ、ビジネス都市としての発展も期待されている。この二子玉川をモデル地区として、2010年8月、新たな都市環境の創出を目指す「クリエイティブ・シティ・コンソーシアム」が設立された。その目的は、国際競争力のあるクリエイティブな産業の育成を図るとともに、新しい働き方・暮らし方を発信し、持続的に成長する街(クリエイティブ・シティ)を実現することだ。今、二子玉川では、未来の都市像を支えるインフラを検討するべく、同コンソーシアムを中心に民間企業や学術者、地域住民などがアイデアやリソースを出し合いながら、さまざまな社会実験を行っている。

 こうした背景のもと、2012年10月、新たな都市環境の社会インフラとしてPMVを活用するプロジェクト「QUOMO(クオモ)」が誕生した。設立に際し、“Quality of Life” と“Moving Mobility”の2つが合言葉として掲げられた。地域に暮らす人・働く人・訪れる人の移動をより気軽に楽しくすることで、地域に活気と活力を取り戻し、都市における生活の価値向上(Quality of Life)に貢献すること。そして、PMVの活用を通じて感動・ふれあい・交流といった生活者の心の動き(Moving)の創出を図ること。こうした2つの側面からPMVの可能性を追求することがプロジェクトの狙いだ。

 QUOMOの運営メンバーは、二子玉川東地区の再開発事業を手がける東京急行電鉄株式会社、セグウェイジャパン株式会社、次世代型車いすの開発を進めるWHILL株式会社、PMVのデザイン・調査研究などを行う株式会社グラディエ、新産業の創出を検討・分析する株式会社三菱総合研究所の5社。新たなモビリティの可能性を地域とともに検討していくため、町内会や商店街振興組合など、地元コミュニティとの協力を図る。地域参加型のオープンセッションや検討会の開催に加え、将来的なツーリズム開発、ショッピングセンターでのレンタル、移動弱者の街歩き支援、地域自警団やごみ拾い活動といった場面でのPMVの活用可能性を検証していく予定だ。

 同プロジェクトの目的について、東京急行電鉄株式会社およびクリエイティブ・シティ・コンソーシアム事務局の福島啓吾氏に伺った。「現在、二子玉川では東地区を中心に再開発事業が進んでいますが、旧来の商店街や多摩川河川敷まで含めた地域全体の回遊性を高めることが課題となっています。新しいまちづくりの中で、PMVは地域内の移動を促進するだけでなく、地元住民と新住民との間にコミュニケーションを図るツールになると期待しています。他地区から引っ越してきた住民の中には、地域とつながりたいと思っても、きっかけをつかめないという方が少なくありません。しかし、PMVに乗って街に出れば、地元の方々と言葉を交わすきっかけが生まれ、スムーズに地域コミュニティに溶け込めるのではないかと考えています。また、防犯パトロールなどを通じて、地域住民が世代を超えて顔見知りになれば、安心・安全なまちづくりという点でも大きな効果があり、生活の質向上にもつながるはずです。コミュニケーションツールとしてのPMVの可能性を追求し、新しい街の価値を創出することがプロジェクトの狙いです」。

立ちはだかる法規制の壁

 PMVの運動と制御に関する研究の第一人者として知られる東京大学教授の須田義大氏は、立ち乗り型PMVの普及に向けた最大の課題として法規制を挙げる。「立ち乗り型PMVの早期普及には、公道走行を規制する法の改正と、現行法の規格に合った車両開発という2つのアプローチがあります。法改正を促進するには、数多くの実証実験を重ね、安全性や利便性に関する数値を積み重ねていくしかありません。一方で、後者のアプローチを取るならば、『小型特殊自動車』や『原動機付自転車』などの既存規格を踏襲しなければならず、方向指示器や前照灯、ブレーキランプ、速度計などの保安部品が必要になり、免許の取得が必須となります。これらの規格に合わせてPMVを開発すると、重量やコストの増加を招き、利便性や気軽さという価値を損ないかねません。そのため、これらを解決する新たな技術開発が求められます。PMVの社会実装には、モビリティの設計・デザインおよび規制の在り方について総体的な検証を行っていく必要があります」(須田氏)。

 いち早く法律を改正して立ち乗り型PMV活用に乗り出した欧米に比べ、後れを取る日本。しかし、住友三井オートサービス株式会社が、セグウェイのリース販売を2011年2月より開始するなど、国内でも立ち乗り型PMV活用が進みつつある。同社からリースされたセグウェイは、これまでに新車・中古車を扱う販売施設内や福利厚生保養所内での移動に利用されているほか、大学やイベントホール、ゴルフ場、遊園地、リゾート施設などからの引き合いも寄せられており、今後、さまざまな場面での活用が期待される。さらに、国内では、こうした利活用の拡大だけでなく、トヨタ自動車株式会社の「Winglet(ウィングレット)」をはじめ、企業や大学などで新しい立ち乗り型PMVの研究開発も進行中だ。今後、利活用場面の発掘と技術開発の両面からPMVの普及モデルを確立できれば、PMVを活用した新たな都市の未来像を日本から発信できるのではないだろうか。

取材協力:東京大学、つくば市、株式会社グラディエ、住友三井オートサービス株式会社、セグウェイジャパン株式会社、東京急行電鉄株式会社

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.99(2013年1月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。



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