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バイオマス特集(第一部) バイオマスの活用が拓く未来社会
バイオマス(生物由来資源)には、エネルギーを生み出すとともに、自然環境を改善・保護し、持続可能な産業を生み出し、社会を豊かに変える力がある。本特集では、バイオマスをどう活用していくか、バイオマスがもたらす価値とは何か、世界の活用事例をひもとくとともに新たな技術の動向に迫り、その可能性を2号にわたって検証する。

バイオマス発電をめぐる期待と課題

 未曾有の被害をもたらした東日本大震災は、自然エネルギーや分散型エネルギーの重要性を日本社会に再認識させた。さらに、2012年7月より再生可能エネルギー電力全量固定価格買取制度(FIT)の運用がスタート。木質バイオマス発電については、燃料調達の態様やコスト、事業リスクを踏まえ、「リサイクル木材」「一般木材」「未利用木材」の3種類で買取価格が設定された。こうした状況を受け、日本全国で今、バイオマス発電に参入する企業や自治体が増加しつつある。

 政府が策定した「バイオマス活用推進基本計画」では、今後の利用拡大を目指すバイオマスとして林地残材や食品廃棄物が挙げられている(図1)。林地残材は賦存量が多いため、今後の利用拡大が期待される一方で、収集・運搬・管理にコストがかかりすぎるという難点が指摘されている。また、食品廃棄物は含有水分量が多いため、乾燥過程で多大なエネルギーとコストを要するという課題がある。そのため、これらのバイオマスは化石燃料と比べて経済効率が低く、補助金や優遇制度なしに活用を図るのは困難といわざるを得ない状況にある。

バイオマス利用のメリット

 しかし、経済効率だけでバイオマスに価値がないと結論づけるのは早計だ。なぜなら、バイオマスには、他の資源にはない有意義な社会的効果が数多く備わっているからだ。まず、バイオマスはカーボンニュートラルなエネルギー源である。木材は燃やすとCO2を出すが、その排出量は植物が成長過程で大気中から固定したCO2の量に等しい。つまり、ライフサイクルで考えれば、CO2排出量はゼロといえる。

 太陽光や風力などの再生可能エネルギーと比べても、バイオマスは身近で、扱いやすい資源である。植物は太陽からの光エネルギーを利用し、水とCO2から炭水化物を生成する。この炭水化物の化学的エネルギーこそバイオマスの源だ。自然界そして経済活動を通じた連鎖の過程で、このエネルギーは農作物や農業廃棄物、家畜の排泄物、廃材、生ごみなどの中へ転移していく。稲作地域では稲わらに、酪農地域には家畜のふん尿に、山間部では間伐材、剪定枝に、そして都市では生ごみや食品廃棄物、下水汚泥にと、世界中あらゆる場所にバイオマスは存在する(図2)。

 しかも、食料として利用した後の生ごみや、エネルギー抽出後の残渣を飼料や肥料に転換すれば、再び作物やエネルギー原料に生まれ変わる。そのような意味から、バイオマスは持続可能な循環型社会に最適な資源といえる。

 こうしたバイオマスの特性は、新興国が経済発展と環境保全を両立しながら循環型社会を築く礎になると考えられている。そこで本特集では、現在、アジアの新興国で実際に取り組まれている事例を紹介していく。

無電化地帯に光を

 国際エネルギー機関(IEA)は、2010年に発表した報告書の中で、今後、新たな政策が実施されなければ、2030年時点で世界中の14億人が電力にアクセスできないとの推計を発表した。中でもインドは最も多く4億人に及ぶ。ところが、インドではこうした予測を覆す新たな動きが始まっている。

 インド北東部のビハール州では、人口8,000万人のうち約85%が電気のない生活を送っていた。しかし、2007年、Husk Power Systemsが新しい発電所を稼働し、状況が一変した。社名のhuskとは「もみ殻」を意味する。発電所の燃料は、周辺地域の精米工場で発生するもみ殻だ。同社は原料価格を安定させるため精米工場と長期契約を結び、1キログラム1ルピー以下で購入したもみ殻を独自技術でガス化して発電している。米の栽培が盛んなビハール州では、年間180万トンのもみ殻が野積みのまま放置され、そこから放出されるメタンガスが社会問題となっていたが、もみ殻発電により廃棄物の処理が進んだだけではなく、温室効果ガスの抑制も実現した。これは、発電過程で発生するCO2の温室効果がメタンガスの21分の1と少ないことによる効果である。

 同社は電力網の敷設されていない地域へ供給するためゼロからインフラを整備し、家庭内の電化製品の数に応じて課金する独自の料金システムを構築した。基本料金は1カ月約80ルピー、各家庭では主に電球の点灯と携帯電話の充電に電力を利用している。従来、村人の多くはランプをともすのに灯油を使っていたが、もみ殻発電が導入されたため燃料コストが半減したという。

 現在、ビハール州では、出力25〜50キロワットの小型発電所が84基稼働しており、300の集落に住む20万人に電気を供給している。いわゆる地産地消の分散型発電の典型事例である。小規模分散型のもみ殻発電は、都市型の中央集権型発電に比べると効率的とはいえないが、一方で従来の発電事業にはないさまざまな効果を地域にもたらした(図3)。地域住民の健康や衛生の向上がその1つだ。農村部の貧困層は調理の際、薪や牛ふんを燃料とする直火や伝統的な「かまど」を利用していたため、不完全燃焼による室内の空気汚染被害が起きやすかった。こうした健康被害は、もみ殻発電の導入以降大幅に抑制された。ほかにも、商店が夜間営業できるようになったり、農業機械の導入で作業が効率化したり、家庭内で子どもたちの学習時間を確保できるようになるなど、地域の産業や暮らしにさまざまな恩恵がもたらされた。さらに、Husk Power Systemsは、“Husk Power University”という技術者やプラント経営者向けのトレーニングプログラムを実施して人材育成に取り組み、地域の雇用創出にも貢献している。現在、発電所の運営に地域住民350人が雇用されている。また、発電に使ったもみ殻の残渣を二次利用して線香を生産する工程では、地元女性500人が働いており、インドの中でも貧しいといわれるビハール州の貴重な収入源となっている。

 Husk Power Systemsは、2017年までに3,000基の発電所を稼働する目標を掲げている。これにより新たに7,000以上の雇用が生まれ、1,000万人に電力を供給する計画だ。近年、インドでは、耕作放棄地などをエネルギー農場に転換し、原料の生産から発電まで一貫して行うVana Vidyut Pvt. Ltd.をはじめ、バイオマスを活用した発電事業に取り組む地元ベンチャーが続々と登場している。こうした企業の台頭が、産業創出や循環型経済の確立、環境保全を推進する新しいモデルになると期待されている。

パーム椰子房やもみ殻など地域に根ざした資源の活用が進む

 バイオマスの利活用に取り組むのは、インドやインドネシアにとどまらない。世界有数のパーム油生産国であるマレーシアでは、パーム油の製造過程で発生する産業廃棄物を使った発電が行われている。マレーシア国内のパーム油生産量の30%を占めるボルネオ島サバ州には、2009年に出力10メガワットのバイオマス発電所が2基建設された。パーム油の原料となる実を取った後のパーム椰子房をプレス・裁断し、ボイラーで燃焼させる発電が行われている。発生した電力は、地元の電力会社に売却されており、エネルギーの供給が不足する同国の貴重なエネルギー源となっている。また、タイの穀倉地帯では年間約17万トンのもみ殻を活用した発電が行われている。このマレーシアとタイの発電事業はエネルギー自給率の向上と環境負荷の低減に資するものであり、ともに中部電力株式会社の参画によって実現したプロジェクトである。

 新興国におけるバイオマスの利活用は、廃棄物を資源化して衛生面を改善したり、山林や荒れ地の整備につながったり、貧困に苦しむ地域に雇用や産業を生み出すなど、社会を豊かに変える効果をもたらす。今、アジアでは、廃棄物とみなされていたバイオマスに新たな光が当てられ、それを活用する新たなビジネスが生まれつつある。一方、国内では、バイオマスを原料とする生分解性プラスチック、工業原料などの製品が開発されるなど、数々のイノベーションが起きている。少量のバイオマスを安価に資源へ転換する技術が開発されれば、今後、バイオマスの可能性はさらに広がるだろう。次号では、バイオマス利活用の促進に貢献する新技術を特集する。

取材協力:
東京工業大学、中部電力株式会社

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.103(2013年12月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。



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