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バイオマス特集(第二部) バイオマス利用と持続可能な社会
森林資源をはじめ、食品残渣、家畜ふん尿、下水汚泥など、未利用のバイオマスをいかに活用するか。持続可能な社会の形成に貢献するバイオマス利用の可能性を検証する。

ヨーロッパのバイオマス利用

 バイオマスは、世界の一次エネルギー供給の10%以上を占め、石油、石炭、天然ガスに続く第四のエネルギー供給源である。『自然エネルギー世界白書2013』によると、バイオマスから供給される総一次エネルギー量は2012年に約55エクサジュール(EJ:1EJ=1018J)に達した。この数字には薪炭材の調理・暖房などの伝統的バイオマスも含まれるが、発電・熱供給プラント、ガス、液体燃料といった近代的バイオマス利用も拡大しており、世界のバイオマス発電容量は83ギガワットに及ぶ。

 ヨーロッパは、31.4ギガワットのバイオマス発電容量を持ち、特に木質バイオマスの活用が進む。人口当たりの森林面積が日本の10倍以上もあるスウェーデンでは、バイオマスエネルギーの需要が、2012年、約140テラワット時に達した。同国では、冬季の地域暖房に必要となる膨大な熱需要を賄うため、バイオマスエネルギーが活用されており、2013年初めには地域熱供給施設における燃料需要の70%をバイオマスが占めることとなった。

 オーストリアの森林面積は日本の6分の1ほどであるが、素材生産量は年間約1,600万立方メートルで、日本とほぼ同量だ。エネルギー用木材の利用規模は、戸建て住宅や集合住宅のボイラー、地域熱供給など多岐にわたる。オーストリアでは、全世帯の約2割が薪やペレットによる個別暖房を取り入れ、別の2割が地域熱供給のネットワークに加入しているという。そのネットワークは大規模なものだけでなく、森林所有者や農家が集まりエネルギー事業組合を設立しているケースもあり、同国におけるバイオマス地域熱供給は大小合わせると1,000カ所以上に及ぶ。こうした需要を受けて、小型・中型のボイラー開発が進んでおり、数十社のメーカーがしのぎを削っている。

 ヨーロッパの中でも先進的に再生可能エネルギーの普及に取り組んできたドイツでは、バイオマスによる発電総量が2000年の4.7ギガワット時から2012年の40.8ギガワット時まで大幅に伸びた。大幅な増加の理由としては、大規模な発電事業に加え、農村部の電力と熱供給のすべてをバイオマスエネルギーで賄うプロジェクトを推進したことが挙げられる。人口約130人のトロイエンブリーツェン市フェルドハイム地区では、2008年末からバイオガス生成プラントを導入。家畜のふん尿や穀物、木材チップなど、地域で得られるバイオマスを、地域暖房と電力供給に活用している。ドイツには、こうしたバイオエネルギー村が、2013年時点で計画中のものも含めると、100カ所以上ある。

 ヨーロッパ諸国で再生可能エネルギーの利用が拡大している背景には、炭素税や再生可能エネルギー電力買取制度(FIT)、排出権取引などの導入がある。化石燃料の枯渇性や気候変動リスク、大気汚染の影響などの社会的負荷を価格に反映させる、すなわち外部経済性を内部化する制度が、世界に先駆けて取り入れられた。その結果、バイオマスの利用が促進されたのである。

バイオマスの利用を広げるには

 国際エネルギー機関(IEA)の統計によると、日本において一次エネルギーに占める木質バイオマスエネルギーのシェアは1%に満たない(2011年時点)。日本では1960年代にエネルギー革命が起こり、石油中心の社会構造が生み出された結果、薪炭材利用はほぼ駆逐された。先進国であっても、ヨーロッパでは暖炉や薪ストーブなどが改良を加えられながら連綿と使われ続け、それがペレットストーブなど新しいバイオマス利用のスムーズな移行に役立った。また、北欧などの寒冷地では従来から地域熱供給に取り組んでおり、既存のパイプラインを活用しながら化石燃料からバイオマスへの置き換えを進めてきた。しかし、日本でバイオマス地域熱供給に取り組む場合、設備をゼロから用意しなければならないため初期費用が高くなり、また林業の停滞などによる資源調達の問題も抱えている。

 2002年末に「バイオマス・ニッポン総合戦略」が策定され、国内では1,374億円以上をかけてバイオマスを普及させる政策が進められてきた。しかし、2011年2月、総務省は「バイオマスの利活用に関する政策評価」を発表し、バイオマス関連事業について「効果が発現しているものは214事業中35事業(16.4%)」と言及。当初の目標を達成できた事業は皆無で、多くの課題があることを明らかにした。NPO法人バイオマス産業社会ネットワークの理事長を務める泊みゆき氏は、次のように話す。「これまでのバイオマス政策では、研究助成、設備投資に対する補助が行われ、ランニングコストは対象になっていませんでした。利用可能な資源調達やエネルギー需要などの予測が不十分で、設備が完成したものの順調に稼働しないケースも少なくありませんでした。環境によいから、地域資源の活用になるからと『バイオマス利用ありき』で事業を行えば、次第にバイオマスを利用すること自体が目的化してしまい、経済性の得にくい事業になってしまいます。また、木質バイオマスのガス化発電や木質ペレット、バイオエタノールの製造など、新規性のある事業に対し重点的に助成金を配分した結果、実用化に至らなかったケースもあります。バイオマスの早期普及を考える上では、薪ボイラーなど従来技術の改良や、燃料調達システムの構築に重点を置くことが必要だと思います」。

 2012年から国内でもFITが導入されたが、バイオマス発電の買取価格については、規模別ではないこと、熱利用への配慮がないことなどが指摘されている(図1)。2000年からFITを導入するドイツを見ると、買取価格は発電規模によって異なり、燃料の種類、廃熱利用、発電技術などの条件に応じて割り増しされている。その結果、同国では発電と同時に熱供給でのバイオマス利用が進み、木質バイオマスの活用が広がったことで農山村に新しい富がもたらされた。日本版FITにも同様の仕掛けがあれば、国内のバイオマス利用拡大にさらなる効果を期待できるだろう。

 国内においても、一部の業界では、すでにバイオマスの活用は進んでいる。たとえば、製紙工場で発生する黒液はボイラーの熱源として、製材工場から出る木くずは製紙材料やエネルギー源として利用されており、経済性のあるものは企業が事業活動の中で有効活用を進めている。バイオマスの中には、食品残渣や家畜のふん尿、下水汚泥など、いまだ有効活用されていないものが残されているが、こうした未利用資源を価値あるものに転換し、経済性を持つ事業モデルを生み出すことができれば、バイオマスの利用範囲を大きく広げることができるだろう。

廃棄物から有価物を生み出す

 すでにバイオマスの活用拡大を目指した研究が進められ、低コストで資源化するための手法や、これまでにない新たなバイオマス製品が続々と登場している。その1つが、下水汚泥や生ごみなどの廃棄物から有機肥料を生み出す「水蒸気加熱処理」だ。現在使用されている肥料は、鉱物などの原料から化学的に合成してつくられる無機質肥料(化学肥料)と、家畜のふん尿や生ごみを発酵させた堆肥などの動植物由来の有機質肥料の2つに分類される。いずれの肥料も重要な栄養素として窒素、リン、カリウムが挙げられるが、化学肥料の場合、リンとカリウムの原料となる鉱物資源を採取できる地域が一部の国に偏っている。昨今では、世界人口の増大による食料需要を背景に、化学肥料の原料供給が逼迫する事態が起きている。国際価格高騰の影響を受け、原料を輸入に頼っている国内でも肥料価格が上昇傾向にある。財務省の貿易統計によれば、リン鉱石の輸入価格が2012年には2.5倍(1988年比)に、塩化カリは3倍(同)に達している(図2)。このような状況は世界的な傾向で、肥料の安定確保は各国の喫緊の課題となっている。こうした化学肥料原料の偏在に対する1つの解決策として注目されているのが、水蒸気加熱処理を使って生み出されるバイオマス肥料である。

 水蒸気加熱処理は、化合物が水と反応することで起きる「加水分解反応」により、廃棄物を新たなバイオマス資源へ変える手法だ。反応器に原料と高温・高圧の水蒸気を攪拌しながら注入し、圧力をかけて処理を行う。処理が終了したら、残留する水蒸気を抜き出し、生成物を取り出す(図3)。水蒸気加熱処理によって生まれた生成物は、優れた有機肥料となる。下水汚泥を肥料として利用する場合には、その中に含有する有害な細菌や重金属を除去しなければならないが、水蒸気加熱処理を行うと、細菌はすべて高温で死滅する。さらに、機械的脱水によって生成物から水分を取り除くと、窒素やリン、カリウムなど、植物の成長を助ける栄養分の多くが、脱離液中に移行する。重金属は固体残渣中に残されるため、重金属含有量の少ない有機液体肥料が生成される。

 また、水蒸気加熱処理は、原料の乾燥特性を向上させる効果を持つ。処理を行った直後の下水汚泥の含水率は処理前より若干増加するが、機械的脱水で固体残渣の含水率は50%以下になる。これを自然乾燥すると、その含水率は10〜20%まで下がる。こうして乾燥させた固体残渣は、重金属の含有量に応じて、有機固体肥料、あるいは石炭代替燃料として利用可能だ。従来、含水率が80%を超える下水汚泥は、加熱乾燥に大量のエネルギーを必要としていた。しかし、水蒸気加熱処理を使えば、乾燥にかかるコストを大幅に削減できるだけではなく、廃棄物の減量化、可搬性の向上、輸送コストの低減、商品化を容易にするなどのメリットがある。

 バイオマスの資源化技術を研究する東京工業大学の吉川邦夫教授は、産業廃棄物から生み出される有機肥料の可能性を次のように話す。「水蒸気加熱処理により、廃棄物の処理費用を削減し、なおかつ生成された有機肥料の販売によって収入を得ることが可能です。我々の試算では、高騰傾向にある化学肥料の市場価格と比べて水蒸気加熱処理で生成される有機肥料は、十分な価格競争力があると判断しています。リンやカリウムをめぐっては、レアアースと同様の国際的な争奪戦が起こることも懸念されており、そうなれば新たな有機肥料の需要がさらに高まるに違いありません」。世界の人口は2050年に91億人に達すると推計されている。それに伴い、食料需要が爆発的に増えれば、肥料確保はますます重要な課題となり、バイオマス由来の肥料の競争力はさらに高まると期待されている。

新型固形燃料、バイオコークス

 近畿大学の井田民男准教授が取り組むのは、石炭コークスの代替となるバイオコークスの開発だ。石炭コークスは、石炭を高温で蒸し焼き(乾留)にして生成される固形燃料で、発熱量が高いことから製鉄や鋳造などに高温の熱エネルギーを要する鉄鋼業では欠かせないものである。国内では年間約3,000万トンの石炭コークスが高炉や鋳造炉で使用されているが、その大部分を輸入に頼っている。

 バイオコークスは、原料となるバイオマスをシリンダーの中に充填し、10トン以上の圧力をかけて硬度を高めながら加熱と冷却を加えることによって生成される(図4)。加熱温度が高いと燃焼しすぎて炭になり、温度が低いとペレットになってしまう。ペレットは燃焼力が弱く、鉄が融解する高温度の炉内で簡単に崩壊してしまい、石炭コークスの代替としては使えない。井田准教授は約180℃という最適な加熱温度を見つけ出し、炭化・ガス化が生じる前の「反炭化前反応」を駆使して、高密度・高硬度のバイオコークスを生み出した。鋳造炉などで石炭コークスの代替として使うには、長時間安定した熱が得られることが条件となるが、バイオコークスは1,300〜1,500℃という高温でも強度を維持して形状を保つ。溶解炉メーカーの株式会社ナニワ炉機研究所と共同で行った実証実験では、小型鋳造炉で使われる石炭コークスの約40%をバイオコークスに置き換えても、鉄を溶かす熱量と熱効率が変わらないことが確認された。

 事前に乾燥・粉砕をすれば、どんなバイオマスも原料となりうる。実証実験により、木くず、樹皮、茶殻、コーヒーかす、もみ殻、そば殻、りんごやバナナの皮、焼酎かす、おから、葦など、さまざまな種類のバイオマスを原料とできることがわかっており、原料によってバイオコークスの性能に差が出ることはほとんどないという。

 大阪府森林組合は、大阪高槻市に年間1,800トンの生産能力を備えたバイオコークス加工場を設立、2011年6月より稼働開始した。この加工場で生産されたバイオコークスは、株式会社豊田自動織機の知多工場へ供給され、鋳造炉の燃料として利用されている。大阪府森林組合は、間伐材からつくられるバイオコークスを鉄鋼・鋳造業界に燃料として使ってもらうことで、林業の活性化につなげたいと考えており、バイオコークス加工場の運営と同時に、木材の収集効率を向上させるため森林作業路網の整備を進めている。

 間伐材の活用に加え、バイオコークスには、さまざまな環境への効果が期待されている。化石燃料の節約によるCO2削減、さらに石炭コークスより硫黄分が少ないことから酸性雨の抑制も見込まれている。また、製造中に残 が発生することもなく、原料中の揮発成分も含めて固化されているので歩留まり率は100%で、原料が保有するエネルギーをすべて有効利用できる。さらに、バイオコークスの比重は1.2〜1.4で、これは薪やペレットなどと比べると極めて大きく、輸送効率が高いというメリットもある。

 井田准教授は今後の課題を次のように話す。「バイオコークスの製造方法はほぼ確立できたと思うので、これからはどれだけ生産コストを下げられるか、エネルギー効率を上げられるかが課題です。現状では、バイオコークスで石炭コークスを代替できる量は炉によって異なります。100%代替を実現するには、バイオコークスの性能向上と同時にバイオコークスに適した炉の開発が重要なテーマになります」。産業用固形燃料としてバイオマス利用に新たな可能性をもたらしたバイオコークスへの期待は高く、井田准教授は海外を含めさまざまな共同研究に取り組んでいる。

バイオマスが導く持続可能な社会

 世界には、種類も性質も生産地もさまざまなバイオマスがある。廃棄物や有効利用されていないものを使うことで、環境負荷を低減しながら収益を得ることも期待されるが、泊氏は「よいバイオマス利用」と「悪いバイオマス利用」があると指摘する。「バイオマス利用はカーボンニュートラル(炭素中立)で温室効果ガスの抑制になるといわれますが、環境に及ぼす影響をきちんと評価するには、エネルギー収支や温室効果ガス収支、生態系への影響など、さまざまな視点から事業全体を検討する必要があります。また、近年、ランドラッシュあるいはランドグラビング(農地収奪)と呼ばれる問題が深刻化しています。バイオ燃料をはじめ食料、炭素クレジット獲得などを目的として、大規模な土地の買収が行われた結果、現地住民の生活が脅かされているのです。『よいバイオマス利用』は、『持続可能なバイオマス利用』と言い換えることができます。経済的、環境的、社会的に問題のない『持続可能なバイオマス利用』でなければ、バイオマスを使う意義が失われてしまいます」。

 技術開発によって、未利用のバイオマスを活用する新しい事業モデルが生まれつつある。経済性、環境性、社会性を兼ね備えたバイオマス事業の実現は、持続可能な社会を形成することに他ならない。国内で行われる事業は小規模なものも多いが、成功事例を生み出し、海外へと展開していけば、発展途上国の廃棄物削減や環境保全にも貢献することが期待される。

取材協力:
東京大学、東京工業大学、近畿大学、NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク


コラム

被災地におけるバイオマスの活用

 東日本大震災、これに伴う津波、福島第一原子力発電所の事故は、東日本太平洋岸に広く分布する水田に大きな被害を及ぼした。震災から約3年を経た今でも、福島県にはいまだ稲作を再開できない場所が残されている。被害を受けた水田の早期再生を実現するには、バイオマスをいかに活用するかが重要なポイントになる。

 東京大学の森田茂紀教授は、「稲作を再開できるところは速やかに再開することが前提ですが、被害の状況に合わせた対策案を講じることが必要です」と、被災水田の再生プランを提案する(図5)。被災水田は、陥没、隆起、液状化、塩害、放射能汚染など、さまざまな問題を抱える。再生プランでは、米に基準値以上の放射性物質が含まれる場合や風評被害のため食用にできない場合、バイオエタノールの原料として使用する。原料に放射性物質が含まれていても、バイオエタノールには移行しない。放射性物質は残渣だけに含まれるため、放射性物質の減容化につながり、処理が容易になるというメリットもある。また、灌漑設備の損傷などによって稲作が再開できない場合、エリアンサスやジャイアントミスカンサスといった多年生のイネ科植物を栽培して、エネルギー化を行う。これらの作物は環境適応性が高く、栽培に手間がかからないといった特徴を持つ。森田教授は、2012年と2013年に福島県いわき市でエリアンサスとジャイアントミスカンサスの試験栽培を実施。福島県を中心とする被災水田で両作物が栽培できることを実証した。

 「被災水田の再生には、時間を空けず使いながら保全していくことが必要です。エリアンサスとジャイアントミスカンサスなどを利用したセルロース系のバイオエタノールの技術開発はまだ十分とはいえないので、早期実現のためペレット化して熱利用することを想定しています。エネルギー利用のみでは収益が上がらないので、ペレットをハウスの冷暖房に利用して付加価値の高い作物を栽培し、地域にお金と雇用を生み出す仕組みをつくりたいと考えています」(森田教授)

 現在、森田教授は、福島県浪江町において、現地役場と連携しながら再生プランの実現に取り組んでいる。このプロジェクトを通じて、被災水田の再生だけでなく、バイオマスを活用した地域振興にも取り組み、世界に通用する新たなバイオマス活用モデルの構築を目指す。

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.104(2014年3月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。



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