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環境先進企業トップインタビュー

化学を核とした技術革新により先端材料を創造し環境問題に貢献します。 東レ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 榊原 定征 氏

先端材料の開発を通して地球規模の課題解決に貢献

御社は、長期経営ビジョン「AP-Innovation TORAY 21」におきまして、10年先を見据え、先端材料で世界トップ企業を目指すという明確なメッセージを謳っておられます。化学を核に技術革新を追求する御社にとって、環境問題は切っても切れない関係にあると思いますが、御社の環境経営のご方針について考えをお聞かせ願えますか。

 東レグループは創業以来、「研究・技術開発こそ明日の東レを創る」という信念に基づき、基礎研究・基盤技術の強化を重要な経営課題と位置づけ、新しい技術の創造と技術領域の拡大を行ってきました。現在では約4万4,000人のグループ社員のうち、約3,200人を研究・技術開発者として配置する研究・開発重視の組織体制を築き、高分子化学や有機合成化学、バイオケミストリー、ナノテクノロジーというコア技術をベースに、合成樹脂、ケミカル、高機能フィルム、エンジニアリング・プラスチック、炭素繊維複合材料、電子情報材料・機器、高機能分離膜、医薬・医療材など幅広い事業を世界21カ国で展開しております。

 そうした中で、21世紀の東レグループがさらなる飛躍と発展を遂げるための経営活動の統一指針として長期経営ビジョン「AP-Innovation TORAY 21」を策定するとともに、コーポレート・スローガンとして「Innovation by Chemistry」を掲げました。Chemistry(化学)を核に Innovation(革新と創造)に挑戦し、先端材料の開発を通して社会に貢献するというのが、東レグループの基本コンセプトです。

 環境経営という意味では「Innovation by Chemistry」のコンセプトのもと、3つの柱を掲げています。1つ目は、化学物質の大気排出量およびGHG(温室効果ガス)排出量の適切なコントロールと削減、2つ目は、環境配慮型製品・サービスの拡大、3つ目は、低炭素社会実現に向けた先端材料の開発強化です。

3つの柱の詳細をご紹介いただけますでしょうか。

 1つ目は、化学物質の大気排出量および温室効果ガス排出量削減です。現在東レグループでは、海外を含め大小100を超えるすべての工場において、化学物質の厳格な管理と大気への排出量削減を目指しています。具体的な数字でいえば、PRTR法対象の特定化学物質の大気排出量を、2010年度には2000年度対比で55%削減する目標を掲げております。これに対して2007年度時点で、すでに54%まで削減が進んでおり、今後いっそうの排出削減に取り組みます。

 温室効果ガスについて国内グループ全体では、2007年度で1990年度対比4%の削減を実現していますが、2020年には20%の削減(1990年度対比)を目標に掲げています。増産をしながらの数値ですので、これは大変チャレンジングな目標といえます。

 2つ目は、環境配慮型製品・サービスの拡大です。これは炭素繊維複合材料や水処理技術などを通じて地球環境の改善に貢献することを意味しています。

 弊社は世界市場で約35%のシェアを持つ世界一の炭素繊維メーカーです。炭素繊維は軽量で強度、弾性に優れ、しかも錆びない材料として、自動車、航空機、風車(風力発電用)、高圧ガス燃料タンク、ロボット、宇宙関連などさまざまな分野で活用されています。炭素繊維は、軽量・高強度という特性により金属の代替材料として使用されることで、省資源とエネルギー消費の削減に貢献します。また、橋梁や高速道路などの建築補強分野でも省エネルギー工法を可能とし、CO2削減に貢献します。水処理技術は、海水の淡水化や上下水道の再利用などを実現することにより、地球規模で深刻になっている水問題に貢献します。

 3つ目は、低炭素社会の実現に向けた先端材料の開発です。弊社は先端材料メーカーとして、石油化学由来の原料に依存しない繊維およびプラスチック製品の開発を行っています。具体的には、植物由来のポリ乳酸を活用した生分解性の繊維やプラスチックを石油由来の同製品に置き換えていくことを目標としています。また、太陽電池や燃料電池などの新エネルギーの開発に必要な先端材料の開発にも積極的に取り組んでいます。

21世紀の基幹材料として期待される炭素繊維

全体像をご紹介いただきましたので、次は各論として炭素繊維の話をお伺いします。炭素繊維を製造工程から廃棄まで含めたLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)で捉えた場合の環境への有効性についてお教え下さい。

 炭素繊維の環境への影響度は、LCAで考えることが非常に重要です。炭素繊維は、石油化学原料から製造したアクリル繊維を約1,000〜3,000℃で焼成、炭化して製造します。そのため、製造段階で大きなエネルギーを必要とします。炭素繊維協会の分析によれば、1トンの炭素繊維を製造する際に約20トンのCO2を排出することがわかっています。この数値だけを見ると、炭素繊維は環境に優しくない製品だと思われてしまうかもしれません。しかし、炭素繊維複合材料がさまざまな製品に使用される段階では、大きなCO2削減効果を生み出すことが明らかになっています。

 たとえば、最新鋭の新型航空機ボーイング787では、構造材の約50%に炭素繊維複合材料(CFRP)が使用されます。これにより従来機と比較して約20%の軽量化を実現し、燃費の大幅な向上が可能になりました。同協会の試算によれば、ボーイング787は、ライフサイクルCO2排出量において従来機に比べ10年間で約2万7,000トンのCO2削減が可能です。現在、日本の旅客機保有数は約430機(100席以上)ですから、すべての航空機をボーイング787と同じように炭素繊維で軽量化すれば、1年間で約120万トンのCO2削減が可能だという試算が成り立ちます。

 自動車に関しても同様です。仮に自動車の構造材の約17%を炭素繊維複合材料に置き換えれば、約30%の軽量化が可能となり、燃費の大幅な向上が期待できます。ライフサイクルで考えれば、10年間で約5トンのCO2削減が見込めます。現在、国内で走行する約4,200万台の自動車すべてがこれに置き換われば、1年間で約2,100万トンのCO2削減効果が期待できます。

 このように、国内で利用されているすべての航空機と自動車に前述のような形で炭素繊維複合材料が採用されれば、1年間で約2,200万トンのCO2を削減できることになります。日本の2006年のCO2総排出量は年間約13億トンといわれていますから、自動車と航空機だけで年間約1.5%のCO2削減効果が得られるということです。

 今お話ししたのは、国内における自動車と航空機によるモデルですが、これを世界規模で実施し、さらに風力発電や船舶などあらゆる領域に拡大すれば、大幅に石油消費量および二酸化炭素排出量の削減が可能になるのです。

 そういった意味で、炭素繊維複合材料は環境問題と経済活動の両面で、これからの時代の中核的基幹材料になると考えています。

炭素繊維の廃棄およびリサイクルについては、どのようにお考えでしょうか。

 これも非常に重要な問題です。現時点での世界の炭素繊維生産量は3万数千トンなので、問題が顕在化していませんが、今後は廃棄量の増加が想定されますので、リサイクルの体制をしっかり整えなければいけません。

 これについては炭素繊維協会が経済産業省からの支援を受け、福岡県大牟田市に炭素繊維リサイクル実証プラントを建設し、2008年春から実証実験を開始しています。ここでは炭素繊維製品を回収して、ミルド化(粉砕)し、プラスチックに混ぜて補強材として使うリサイクル方法を検証しています。この実験の結果を検証しながら、近い将来、有効な炭素繊維のリサイクル体制を構築していきたいと考えています。

世界規模の水問題に貢献する水処理技術

御社の逆浸透膜技術の進歩は目覚ましいものがあり、今では下水を浄化して飲料水化することまで可能とし、社会的課題の解決策として注目を浴びています。御社が世界に誇るもう1つの環境技術、水処理についてお伺いしたいと思います。

 今日、安全な飲み水を飲めない人は世界人口の約5分の1、適正な衛生施設にアクセスできない人々が約5分の2に達しており、これが原因で毎年約180万人の乳幼児が命を失っているといわれています。地球温暖化の影響や人口増加の影響で、水問題は今後ますます深刻化するといわれています。

 弊社では逆浸透膜(Reverse Osmosis;RO)を活用した水処理技術によって、この課題の解決に貢献しています。弊社は、まだ日本に「逆浸透膜」という言葉がない時代から研究開発に取り組み、国内初の逆浸透膜メーカーとして事業を展開してきた実績があります。現時点で、弊社の水処理技術は、世界トップレベルにあると自負しています。

 水に恵まれない地域で生活水を確保するにはいくつかの方法があり、弊社では逆浸透膜を利用した海水およびかん水(微量の塩分を含む水)の淡水化と、上下水道での水再利用技術に豊富な実績を有しています。

 海水の淡水化は、これまで石油を燃やす熱で海水を蒸発させて塩分を取り除く蒸発法が一般的でしたが、この方法は大量のエネルギーを必要とするためコストの問題に加え、CO2排出に伴う地球温暖化への影響が問題視されています。これに対し、弊社の海水淡水化装置は、一切熱を使いません。分離膜モジュールに海水を通す際に若干のエネルギーを必要としますが、蒸発法に比べエネルギー使用量はわずか5分の1です。運用コストも大幅に削減できます。この装置は、逆浸透膜に海水を通すだけのシンプルな構造なので、簡単に開発できると感じるかもしれませんが、実際には高度なノウハウや設計技術が必要です。なぜなら、太平洋、日本海、アラビア海、地中海など各地域の海水は、同じ塩水でも含まれる不純物の構成が微妙に異なり、それを除去するには、さまざまなノウハウや技術が必要とされるからです。弊社には、過去20年以上におよぶ膨大な研究開発の成果と、中近東、カリブ海、北アフリカ、スペインなど世界十数カ国で事業を展開し、海水淡水化や上下廃水処理などで日産約1,400万トン、約5,600万人の生活水を供給してきた実績とノウハウがあります。この長年にわたる実績とノウハウ、そして高度な設計技術を活かすことによって、弊社は地球規模の水問題解決に貢献できると考えています。

炭素繊維と逆浸透膜は、まさに「Innovation by Chemistry」を体現する製品であり、地球環境問題に直接貢献する事業といえますね。

 弊社における環境配慮型製品・リサイクル事業の規模は、2006年度において約1,750億円でしたが、2007年度には約2,300億円に拡大しています。今後はこの事業分野にさらに注力し、2010年には3,400億円に規模を拡大する目標です。環境配慮型製品は、地球規模の課題解決に直結する重要な社会的事業であると同時に、東レグループの事業拡大の重要な牽引車であると考えています。


【聞き手】
三井住友銀行経営企画部CSR室長 佐藤 耕司
日本総合研究所主席研究員 足達 英一郎

榊原定征(さかきばら さだゆき)

Profile

榊原定征(さかきばら さだゆき)
1943年生まれ。1967年、名古屋大学大学院工学研究科修士課程修了。1967年、東洋レーヨン株式会社(現、東レ株式会社)入社。2001年、代表取締役副社長、人事勤労部門全般担当・総合企画室長・技術センター所長に就任。2002年、代表取締役兼COOに就任。2004年よりCEOを兼任。2010年6月代表取締役会長兼CEOに就任。中央大学大学院総合政策研究科客員教授、日本経済団体連合会副会長、内閣府総合科学技術会議議員も務める。


会社概要

東レ株式会社

設立
1926年(大正15年)1月
本社
東京都中央区日本橋室町2-1-1 日本橋三井タワー
資本金
969億円 (2008年3月末現在)
代表者
代表取締役会長兼CEO 榊原 定征
代表取締役社長兼COO 日覺 昭廣
事業内容
繊維製品、プラスチック・ケミカル製品、情報通信材料・機器、炭素繊維複合材料、環境・エンジニアリング製品、ライフサイエンス関連製品の製造および販売
ホームページ
URL:http://www.toray.co.jp/

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.73(2008年9月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。

新しいウィンドウで開きます。 『SAFE』Vol.73(2008年9月号)


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