環境ビジネス情報

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環境先進企業トップインタビュー

環境に対するグローバルな責任を自覚し自然派のモノづくりで環境保全に貢献します。 サラヤ株式会社 代表取締役社長  更家 悠介氏

受け継がれてきた環境問題に対するDNA

食中毒事故の予防対策である手洗い用石鹸から事業をスタートされた御社には、創業当初から環境問題に対するDNAが流れていたのではないかと想像しております。事業の歴史を振り返っていただき、環境経営を推進されてきた経緯をご紹介いただけますか。

 更家は代々熊野の地で山林業に携わってきた家系で、私の父であり創業者の更家章太も、当初は熊野で木を切り、いかだを組み、木材を流す仕事を生業としていました。仕事をしながらも父は、ダムの建設によって水質が悪くなっていく様子を肌で感じていたそうです。もともと山林業は、自然との共生で成り立つ事業ですし、きれいな水の重要性については当時から強く意識していたようです。戦後、父は林業を離れ、いくつかの仕事を経て、1952年にサラヤを創業しました。戦後間もないころで、赤痢や疫痢などの伝染病が流行し、大規模な食中毒事故が頻繁に発生していたため、その予防策として、日本初の手洗い用薬用石鹸液や専用供給容器を開発し、これを販売したのが最初の事業でした。

 しかし、手洗い用の薬用石鹸液は、夏場の売れ行きはよいのですが、冬場は全然売れませんでした。というのも、今のように蛇口をひねればお湯が出る時代ではないので、水が冷たい冬場は手洗いの回数が少なくなってしまうからです。そこで、冬場に売れる商品が必要だということで、たどり着いた商品がうがい薬でした。当時は、企業による開発競争が激しい時代で、工場が次々に造成され、大気汚染が深刻化し、光化学スモッグや煤じんなどで、多くの人がのどを痛めてしまう状況が発生していました。そこで、弊社は事業所や工場にうがい器を設置してうがい薬を販売する事業を展開し、市場で市民権を得ることができました。

 次に目を付けたのは、学校給食の分野でした。学校給食の現場にヤシ油を原料とした中性洗剤を販売していたところ、学校給食に携わる職員やパートの方々から「この中性洗剤を分けてほしい」という声が大きくなってきました。その声をヒントに、この商品を一般市場で展開してみようと販売されたのが、ご存じの「ヤシノミ洗剤」です。

ヤシノミ洗剤が業務用の商品だったとは、知りませんでした。

ヤシノミ洗剤 当時は安価な石油系洗剤が市場の大半を占めていたので、値段が高い植物油を原料とするヤシノミ洗剤は、消費者にはなかなか受け入れてもらえませんでした。しかし、よい商品であることを信じ、地道に販売を続けていくうちに、販売が上向き始めました。洗剤による琵琶湖の汚染問題などがクローズアップされたこともあり、生分解性に優れ、環境に優しいヤシノミ洗剤のよさが、時代とともに理解されるようになってきたのです。この経験から、たとえ市場の逆風は強くとも、正しい商品を実直につくり続ければ、必ず消費者の理解を得られるのだという自信が生まれました。当時、多くの企業は、基幹分野への投資を最優先し、公害対策は後回しにする風潮がありましたが、我々は他社とは逆の発想で、環境に配慮した商品に投資し、これを基幹業務に育てようと決意したのです。

 振り返ってみれば、最初におっしゃった環境問題に対するDNAというのは、自然との共生を意識していた創業者の時代から、脈々と受け継がれてきたものだといえるかもしれません。

ボルネオ島の環境保全に取り組み始めた経緯

御社のビジネスのターニングポイントになったといわれる、テレビ番組に関するお話を伺えますでしょうか。

 テレビ朝日系の番組「素敵な宇宙船地球号」が「ボルネオ島 子ゾウの涙〜“地球にやさしい…”の落とし穴〜」(2004年8月1日放送)というタイトルで、現地の子象たちの苦境を紹介しました。アブラヤシのプランテーション(農園)拡大によって、野生動植物の生息地が侵食され、大食漢のボルネオゾウたちが餌を求めて人里に現れ、トラブルが頻発しているという内容でした。その番組の中で、住民の罠にかかり苦しむ子象の姿が映し出されました。成長とともに、鼻や足に巻き付いた罠のロープが肉に食い込み、感染症を引き起こし、苦しんでいる子象の実情が紹介されたのです。このような傷ついた子象の実情をどう思うかと、私は番組からインタビューを受けました。

 弊社は生分解性の高い植物系洗剤を販売し、省資源とゴミの減量のために日本初の詰め替え用パックを導入するなど、環境負荷低減のための先進的な取り組みをしているつもりでいたのですが、異なるアングルから、アブラヤシを原料とする洗剤を販売すること自体が「環境に悪い」と指弾されたわけです。それまでの弊社のアプローチは、消費者にばかり向かっており、サプライチェーンに対する意識が低かったのだと、あの番組によって気づかされました。

 すぐに、現地へ専門調査員を派遣し、ボルネオ島の実態調査を行いました。その調査によって、罠にかかる象が増え続けているという事実を確認しました。その後、関係機関と連絡を取りながら対策を模索する中で、マレーシアの政府機関であるSWD(サバ州野生生物局)から、予算さえあれば象を救出・治療する活動が可能だと伺い、即座に支援することを決断しました。

 さらに、WWF(世界自然保護基金)と、アブラヤシの生産、パーム油の加工、流通、消費などに携わる企業が集まり、国際的な非営利団体RSPO(持続可能なパームオイルのための円卓会議)が設立されたことを知り、2004年12月に国内に籍を置く企業として初めて加盟しました。RSPOはパーム油の生産環境に関わる8原則・39基準を定めており、参加企業は、その原則を守ることで持続可能なパーム油の生産を行っています。

そうした一連の活動が「ボルネオはあなたが守る!」キャンペーンにつながるのですね。

治療のためSWDにより捕獲された子象。前右足にロープが食い込んでいる。 キャンペーンは、「緑の回廊計画」を支援するために始めました。緑の回廊計画とは、ボルネオゾウ、オランウータン、テングザルなどレッドリストに記載されている絶滅のおそれのある野生動物の生息域が孤立・点在するキナバタンガン川とセガマ川の流域に、動物たちが行き来できる緑の回廊をつくる構想です。分断された森をつなぎ回廊をつくるために必要な流域の土地面積は2万ヘクタールにおよび、すべてを整備するには94億円が必要だと試算されています。この予算を確保し、計画を実現するための受け皿として、2006年10月にサバ州により認可を受けて発足したのがBCT(ボルネオ保全トラスト)です。消費者とともにこの活動に参加したいと考え、ヤシノミ洗剤の売り上げの1%をBCTの活動支援に使うことを明言し、始めたのが「ボルネオはあなたが守る!」キャンペーンです。



「自然との共生」を目指して

社長は、ゼロ・エミッション活動を推進するNPO法人ゼリ・ジャパンの理事長も務めておられますが、こちらではどのような活動をなさっているのでしょうか。

 ゼリ(ZERI)とは「Zero Emission Research and Initiative(ゼロ・エミッション構想)」の略です。これは、廃棄物を再利用して限りなくゼロに近づけ、物質が循環する生産・消費形態を実現するための研究機構です。発祥は、1994年にグンター・パウリ氏が提唱したもので、ゼリ・ジャパンは、日本でZERIの主旨を実践するために、パウリ氏を特別顧問として、私が理事長となり2001年1月から活動を開始し、同年11月にNPO法人として認可を受け、発足した団体です。ゼリ・ジャパンでは、産業関連の再構築を目指し、企業の生産活動に伴う廃棄物を他の企業の生産活動に利用したり、物質を循環再利用する生産システムを構築するために、企業間交流や情報発信、コンサルティングなどを実施しています。

ヤシノミ洗剤以外の環境配慮商品についても、ご紹介をお願いいたします。

 現在、酵母による発酵技術でつくり出される「ソホロリピッド」という易生分解性成分を使った製品の開発を進めています。ソホロリピッドは環境に優しいバイオサーファクタント(生物由来の界面活性剤)の1つであり、これを洗剤や化粧品などの開発に活かしたいと考えています。

 一方、弊社では、病院における感染予防などの高度消毒の分野でも環境に配慮した商品の開発を進めてきました。高度消毒剤は、熱などをかけられない内視鏡などの医療器具を消毒するために使われており、従来はアルデヒドという発がん性のある物質が使われていました。弊社では、これを代替する製品として、過酢酸を主成分とする「アセサイド6%消毒液」を開発し、2001年に日本で初めて発売しました。消毒後の排液は、酢酸と酸素に分解された後、酢酸は環境微生物により炭酸ガスと水に分解されるので、環境負荷が非常に少ない高度消毒剤といえます。

御社は、2008年5月にドイツのボンで開催された生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)において「ビジネスと生物多様性イニシアティブ」に、日本企業9社の中の1社として署名をされましたが、その意図についてお聞かせ願えますでしょうか。

 弊社の事業において生物多様性と最も深く関わっているのは、水と緑の問題です。水を汚さない洗剤、水をきれいにする洗剤を開発することは、我々洗剤メーカーが追い続けなくてはならない理想だと考えています。緑の問題に対しては、今後も引き続きボルネオ島で緑の回廊計画の活動を支援していきます。生物多様性を考えることは、企業だけではなく人類にとって大きな価値のあることです。企業というのは、従業員の生活を保障し発展するだけではなく、事業活動を通じて自然と共生を図っていくことも重要な存在意義だと考えています。

 環境の分野でいうと、生物多様性とともに、いかにして低炭素社会を実現するのかという問題も重要です。この2つの目標を達成するために、弊社ではビジネスを再編成しなくてはならないと考えており、今後は、それに向けた研究開発やスタッフィングに注力する予定です。また、低炭素社会は、1社の努力で実現するものではないので、環境保全技術を保有する企業や、CSR活動に注力している企業などが、パートナーシップを構築することも必要だと思っています。

 企業活動と環境保全の折り合いをどう取るかという答えは、まだ見えていないというのが実情です。しかし、答えが見つかるまで待っていたのでは、環境はどんどん破壊されてしまいますから、小さなことでも、まず始めることが重要だと考えています。始めてみれば、そこから芽が出てくるはずだと、私は信じています。「ビジネスと生物多様性イニシアティブ」についても、何か具体的な答えを得るためというより、答えを研究し求めていくというイニシアティブの姿勢に共鳴し、署名したのです。


【聞き手】
三井住友銀行経営企画部CSR室長 佐藤 耕司
日本総合研究所主席研究員 足達 英一郎

更家 悠介(さらや ゆうすけ)

Profile

更家 悠介(さらや ゆうすけ)
1951年生まれ。1974年、大阪大学工学部卒業。1975年、カリフォルニア大学バークレー校工学部衛生工学科修士課程修了。1976年、サラヤ株式会社入社。1993〜1997年、地球市民財団理事長を務める。取締役工場長を経て、1998年、代表取締役社長に就任。NPO法人エコデザインネットワーク副理事長、ボルネオ保全トラスト理事などを兼任。



会社概要

サラヤ株式会社

創業
1952年(昭和27年)
本社
大阪市東住吉区湯里2-2-8
資本金
4,500万円(単体) 1億5,000万円(連結)
代表者
代表取締役社長 更家 悠介
事業内容
家庭用および業務用洗剤・消毒剤・うがい薬などの衛生用品、薬液供給機器、健康食品等の開発製造販売、食品衛生・労働衛生のコンサルティングほか
ホームページ
URL:http://www.saraya.com/

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.74(2008年11月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。

新しいウィンドウで開きます。 『SAFE』Vol.74(2008年11月号)


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