環境ビジネス情報

印刷用ページを別ウィンドウで開きます



環境先進企業トップインタビュー

海運業と世界経済の持続可能な発展のため、環境効率の高い物流サービスを提供します。 日本郵船株式会社 代表取締役社長  工藤 泰三氏

CO2排出問題に脅かされる海運業

御社は、2009年2月のフジサンケイグループ主催の「第18回地球環境大賞」において「地球環境会議が選ぶ優秀企業賞」を受賞されました。これまでにも、2005年、2007年に同賞を受賞され、環境先進企業として高く評価されています。環境への積極的な取り組みの背景にはどのような企業理念があるのでしょうか。

 日本郵船グループは、海・陸・空にまたがる総合物流事業を展開しています。国際物流は、グローバル化する社会になくてはならないインフラであり、世界経済が潤滑に機能するための血管として重要な役割を担っています。

 一方で、我々が携わる物流業は、世界経済に対してネガティブなインパクトを与えてしまう可能性を含んでいます。それは環境問題です。自動車や航空機などに比べて燃費効率のよい船舶でも、貨物輸送時のCO2排出を避けることはできません。国際海事機関(IMO)の試算によると、2007年の国際海運におけるCO2排出量は、約8.5億トンで、これは世界のCO2排出量の約2.7%に相当します。昨今の社会的な環境意識の高まりを考えると、国際社会において「わざわざCO2を排出しながら貨物を運ばなくても、現地生産すればよいのではないか」という議論が起こらないとは限りません。こうしたことが現実に起これば、物流業を営む我々だけでなく貿易立国である日本の経済全体にとって死活問題となるでしょう。

 すでにこうした問題意識は社会の中で広がりつつあり、製品ライフサイクルを通じた環境負荷低減に取り組む企業が増えてきました。我々のお客さまの中でも、輸送時のCO2排出量を少しでも抑制したいというニーズが高まっています。自社の競争力強化を図るには、こうしたニーズに応え、物流業界に先駆けて環境配慮型の事業に体質を改善していくことが重要だとも考えています。

 弊社は、危機管理と事業発展という2つの側面から、環境問題を重要な経営課題として捉え、2008年に中期経営計画「New Horizon 2010」を策定しました。この計画では、「成長」「安定」に加えて「環境」を重要なテーマとして打ち出しています。これと同時に、社長直轄の「環境特命プロジェクト - NYK Cool Earth Project」を発足させました。このプロジェクトを中心として、CO2排出削減のための機器開発や、政府やIMOなどの政策討議への参加、環境関連の設備投資などに取り組み、2013年までに最低10%のCO2排出削減(2006年度比原単位)を目指しています。

海流を活用した航行と省エネ技術の確立

海運業におけるCO2排出削減対策についてご教示願えますでしょうか。

 弊社では、船舶からのCO2排出削減を地球環境保全活動の柱として位置づけ、運航方法や環境技術の開発など、ソフト・ハード両面から取り組みを推進してきました。

 ソフト面では、きめ細かな運航管理と最適航路の選定を行っています。従来は、最適航路として航路距離の短いルートを選ぶのが一般的でした。たとえば、アメリカ西岸と日本を結ぶ自動車運搬船は、最短距離の大圏航路を運航していました。しかし、最近ではホノルル近くを経由するルートに帰路を変更する場合もあります。あえて遠回りの航路を選ぶ理由は、北太平洋の荒天域を避けるのと、ホノルル近海に日本に向かって非常に強い海流が発生しているためです。この海流を推進力に活用すれば、エンジンを停止したままでも1,500マイルも運航することができます。船舶の運航状態や海流予測情報が確認できる最新システムの導入をきっかけに、こうした海流を生かした省エネ運航が実現できるようになりました。大型タンカー船を使った実証試験では、このシステムの導入により、従来と比べて最大9%の燃料油消費量とCO2排出量の削減が達成されています。

 ハード面では、船舶の推進効率を高める技術が研究されています。その1つが空気潤滑法です。これは、船底に空気を送り込むことで、細かい気泡によって船底を覆い、海水との摩擦抵抗を低減する技術です。この技術を活用することで、推進力低下につながる摩擦抵抗を低減し、エネルギーロスを抑制します。CO2排出量に換算すると、10%もの削減効果が見込まれており、2010年竣工予定のモジュール船でその効果を検証する予定です。

 運航時のエネルギーロスを引き起こす原因には、このほかにプロペラの旋回流が挙げられます。この問題に対して、弊社では二重反転プロペラに注目しています。これは、たがいに逆方向に回転する2つのプロペラを軸の前方と後方に配置する推進援助装置です。単独プロペラの場合、後流に残される旋回流の分だけエネルギーが損失してしまいますが、それを後方のプロペラで回収することにより推進効率が向上します。

 こうした環境技術を複合的に組み合わせることで、2010年以降に建造する船舶のトン・マイル当たりのCO2排出量を、コンテナ船で30%、自動車運搬船で50%削減することを目標に掲げています。

燃料油削減はコスト削減にもつながりますね。

 8,000個のコンテナを積む船が1日に消費する燃料油は約200トンです。昔は燃料油代が安く、1トン100ドル以下という時代もありましたが、現在、燃料油代は1トン400ドル程度まで上がり、1日約8万ドルの費用がかかっています。枯渇が危惧される化石燃料は、今後ますます価格が上がっていくことが懸念されており、これは事業の存続をも左右しかねません。船舶建造には多大な初期投資が必要となりますが、新型省エネ船の開発は、将来起こりえる負担を軽減するために、早急に取り組まなければならない課題であると考えています。

 新型船の開発と同時に、弊社では既存船における燃料油コスト低減にも取り組んでいます。その方策として注目しているのが、減速航行です。船舶の航行に必要な燃料油消費量は、速度の3乗に比例するという特性があります。逆にいうと、速度を下げれば、燃料油消費量を大幅に減少できます。従来の船舶は、自動車と異なり推進スピードのレンジが決まってしまっていたため、限られた範囲でしか減速できませんでしたが、電子制御エンジンの採用により、大幅な減速も可能になりました。コンピューターにより燃焼噴射をコントロールするこのエンジンは、噴射圧力や噴射量、排気弁開閉を最適化できるため、低速時における燃費向上だけでなく、煤煙濃度の低減や窒素酸化物の発生軽減という効果もあります。

 たとえば24ノット(時速約44キロメートル)を2割減速して20ノット程度で航行すると、1日当たりの燃料油消費量が200トンから一気に100トン近くまで減少します。燃料油代に換算すると、800万円から400万円という大幅なコスト削減効果が生まれます。

減速航行をすると航海時間が延びてしまうので、荷主の方にご理解をいただくのが大変ではありませんか。

自動車運搬船「アウリガ・リーダー」 以前は、とにかく航海時間は短くというのが世の流れでしたが、環境問題への関心が集まる中、CO2を排出しながら輸送することへの問題意識が高まり、減速航行をご理解いただける荷主さまが近年急速に増えてきました。

 また、弊社では、環境対策を通じて生まれたコスト削減効果を、輸送費の低減などの形でお客さまに還元する方針を掲げています。先ほどの電子制御エンジンによる減速航行の場合、確かに航海時間は延びますが、お客さまにとっては運賃が安くなるというメリットがあるわけです。

 こうした弊社の環境対策は、国内だけでなく、海外でも注目され始めています。最近、特に反響が大きかったのが、太陽光発電システム搭載の自動車運搬船「アウリガ・リーダー」です。このプロジェクトでは、新日本石油さまと新型船を共同開発し、自動車のライフサイクルにおける環境負荷の軽減の一環として、トヨタ自動車さまにご支援をいただいています。「アウリガ・リーダー」は、2008年12月から試験運航を開始しており、2009年7月にカリファルニアのロングビーチ港に入港した際、80以上のメディア関係者から取材依頼を受けるほど、多くの注目を集めました。太陽光を動力源の一部に利用する世界初の大型船舶として現地新聞でも大々的に取り上げられ、アメリカの企業、社会からも高い関心をいただいています。

未来の海運を担うスーパーエコシップ

御社の環境保全対策のシンボルとなっている「NYK スーパーエコシップ2030」についてご紹介願えますでしょうか。

 「NYK スーパーエコシップ2030」は、未来の海運を担うコンセプトシップです。同船は、船体の軽量化や摩擦抵抗の削減により必要とされる推進力を低減するとともに、液化天然ガスをエネルギー源とする燃料電池や、太陽光発電、風力から推進力を獲得することにより、1コンテナ当たりのCO2排出量を約69%も削減可能な次世代型省エネ船です。まだ船舶用に商業化されていない技術が盛り込まれているため、今すぐに建造することはできませんが、2030年には実用化させたいと考えています。

 世界に先駆けてこの構想を発表した理由は、海運業における環境への取り組みを世間に知っていただくためです。CO2を大量に排出する海運業のイメージを払拭するには、業界全体で問題意識を共有し、率先して先進技術を取り入れ、環境に配慮した取り組みをアピールしていく必要があります。「NYK スーパーエコシップ2030」構想は、海運業の未来を変えていくというメッセージを業界全体、さらには社会に向けて発信するプロジェクトなのです。

「NYK スーパーエコシップ2030」には、CO2排出削減に貢献する、さまざまな技術が搭載されている。日本郵船では、2030年の実用化を目指しロードマップを明確にしていくとともに、環境技術の開発・向上に取り組んでいる。

国際的な枠組みづくりへの参加

御社は、環境活動を促進する政策討議にも積極的に参加されていますね。

 京都議定書には国や地域別の削減目標が定められていますが、実は国境を越えたビジネスである国際海運はこうした規制から外れています。そのため、IMOを主体として海運業界全体でCO2削減に取り組まなくてはならないのですが、途上国の反発などがあり、具体的な方策はいまだ決定していません。キャップ・アンド・トレードの導入に対しても、途上国からは、自国の経済成長を阻害する要因になると反対の声があがっています。

 現実問題として、世界の人口が増加傾向にある中、資源の輸出入に総量規制をかけることは難しいでしょう。人々が生活を維持するには、資源や食料が必要であり、人口増加に伴って指数関数的に物量が増えることは避けられません。物量はGDP以上に急速に増えるといわれており、総量規制で輸出入を制限すると、人口増加傾向にある途上国の人々に負担を強いることになります。

 先進国と途上国が協調していくには、総量規制ではなく、原単位当たりのCO2削減やエネルギー効率の向上などに目標を変更することが必要でしょう。現在、弊社が日本政府や日本船主協会と共同でまとめている提言は、燃料油消費量に応じた課徴金を各船の効率改善の度合いに応じて一部還付する制度です。この課徴金を途上国がCO2排出を抑制するための技術支援にも活用できるようにすれば、途上国にとって受け入れやすい制度ができると考えています。

 今後、IMOなど国際的な政策討議の場で、このアイデアを提案し、全世界一律に適用する枠組みの構築を目指します。

技術力を有した人材の確保

今後は、海運業における“環境”というテーマが、今まで以上に国際社会で重視されるようになるのでしょうね。

 昨今の世界経済の悪化や事業に環境配慮を求める動きによって、海運市況が厳しい状態にあることは確かです。これは一見、我々にとって逆境のように思えますが、私はこうした状況に直面したことで、高い技術力を有する日本が生き残る道筋が見えてきた気がしています。

 今後も、技術開発や運航方法など、あらゆる面から事業活動を通じた環境負荷低減に取り組む必要がありますが、その基盤となるのは“人材”だと考えています。先ほどご紹介した海流予測情報を活用した省エネ運航なども、すべて社員のアイデアから生まれたものです。これからCO2排出量を削減し物流業を環境配慮型事業へ導いていくには、創意工夫のある提案力が欠かせません。まず、技術力の高い人材をどのようにして確保するか、さらに、環境配慮活動を競争優位の源泉とするために、社員一人ひとりがどこまで問題意識を共有できるか、この2つが鍵になると考えています。創意工夫によって事業に付加価値を与えられる人材の育成、それこそが会社の未来を切り開くのです。


【聞き手】
三井住友銀行経営企画部CSR室長 佐藤 耕司
日本総合研究所主席研究員 足達 英一郎

Profile

工藤 泰三(くどう やすみ)
1952年生まれ。1975年、慶應義塾大学経済学部卒業。同年、日本郵船株式会社入社。1998年、セミライナーグループ長、2001年、自動車船グループ長、2002年、経営委員、2004年、常務取締役、2006年、代表取締役・専務経営委員などを経て、2008年、代表取締役・副社長経営委員に就任。2009年4月より代表取締役社長・社長経営委員を務める。



会社概要

日本郵船株式会社

創立
1885年
本社
東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビル
資本金
885億3,103万3,730円
代表者
代表取締役社長 工藤 泰三
事業内容
国際的な海上運送業を主とした総合物流事業および客船事業、ターミナル関連事業、海運周辺事業、不動産業など。
ホームページ
URL:http://www.nyk.com/

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.79(2009年9月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。

新しいウィンドウで開きます。 『SAFE』Vol.79(2009年9月号)


環境先進企業 トップインタビュートップへ

印刷用ページを別ウィンドウで開きます

このページの先頭へ戻る