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環境先進企業トップインタビュー

「技術ストック経営」を推進し、環境問題の解決に貢献する高機能製品を創出します。 東洋紡績株式会社 代表取締役社長  坂元 龍三氏

「順理則裕」を基本理念にCSR活動を推進

「事業環境が大きく変わっても、CSR活動の理念を変えることはない」と明言されている御社のCSR活動についてご紹介願えますでしょうか。

 弊社は、創業者である明治の実業家、渋沢栄一が座右の銘としていた「順理則裕」を基本理念としています。これは中国宋代の朱子学者、程頤(ていい)の言葉で「道理に生きることが、すなわち繁栄につながる」という意味であり、企業経営における論理性・合理性と、企業の倫理的価値観の両面を説いた言葉です。弊社は、この「順理則裕」から出発し、企業行動指針である「CSR憲章」を定めました。この憲章の中で、積極的に社会的責任を果たすことと、健全で持続可能な社会づくりに貢献することを明言しています。

 私は、企業価値を1つのビルにたとえるならば、CSRはその土台に当たると考えています。CSRには「環境」「製品安全」「コンプライアンス」などさまざまな要素がありますが、その1つひとつがビルを支える重要な柱だといえます。従って、その一角が崩れることは、ビル全体を揺るがせることにつながります。そのような考えのもと、企業としての社会的責任を全うするため、法令および社会ルール順守、職場の安全衛生、環境負荷低減に貢献する製品・技術サービスの創出に努めています。

CSRという確かな土台の上で、企業価値を高める多様な事業を展開していらっしゃいますね。

 弊社は1882年に創立し、2010年で128年目を迎えます。しかし、その歴史は決して順風満帆ではありませんでした。創業時から主力だった繊維事業は、1970年代のニクソンショック、日米繊維交渉、二度の石油ショックという荒波に飲まれ、苦境を味わいました。その厳しい状況を打破するため、私どもが導き出した結論は、繊維分野で培った技術を生かして新分野へ進出することでした。そのときに進出した新分野が、現在の主要事業である機能性高分子、複合材料、環境保全・公害防止、ライフサイエンスという4つの分野です。

世界シェア20%を誇る海水淡水化事業

世界に誇る環境技術である海水淡水化逆浸透膜について、技術の優位性や事業にかける思いをお聞かせ願えますでしょうか。

 海水淡水化逆浸透膜の研究を開始したのは1972年、製品の販売は1976年のことでした。合成繊維の樹脂技術を応用した機能膜は、将来性の高い分野であり、社会の役に立つと信じて積極的な投資を行いましたが、事業化への道のりは非常に厳しいものでした。しかし、主力の繊維産業がままならない状況でしたから、事業化を諦めるわけにはいきません。危機感を抱いた社員は力を合わせ、この技術を普及させるために奔走しました。1981年からは、海水淡水化装置をトレーラーに積んでキャラバン隊を編成し、来る日も来る日も中東地域でのデモンストレーションに明け暮れました。地域のニーズに耳を傾け、何度も改良を行い、10年がかりでサウジアラビア政府の評価をいただけるようになりました。その泥臭い活動の成果が、現在、中東地域における弊社製品の50%強というシェアにつながっているのです。

 現在、中東地域では弊社の装置を利用して1日約100万トンの真水が生成されています。およそ1トンで約4名分の生活用水を賄えるといわれていますので、弊社の装置は、日々約400万人の生活用水を供給している計算になります。また、全世界における海水淡水化の造水量は、1日約500万トンと聞いていますので、弊社の装置は約5分の1を供給していることになります。

 この分野は、年率10%程度の成長が予想されている有望市場ですので、今後は現地に製造設備や販売機能を設けるなど積極的な戦略を展開し、さらなる事業拡大を目指す予定です。

技術の特徴について、ご教示願えますでしょうか。

 弊社の海水淡水化逆浸透膜モジュール「ホロセップ」の特徴は、天然素材であるセルロース系の膜を使用していることにあります。これに対し、他社はナイロン系の化学合成膜を使用しています。その原料の違いが、中東地域では大きな差となって現れるのです。中東地域の海水は塩分濃度が高く、微生物汚染が発生しやすいため、モジュールの目詰まりを防ぐには塩素殺菌などの前処理が欠かせません。この塩素を含む海水を透過させると、ナイロン系の膜は非常に傷みやすく耐久性に問題が発生しがちです。これに対し、弊社の「ホロセップ」は耐久性に優れ、微生物のトラブルが少ないため、高濃度海水の処理に非常に適しています。また、セルロースを原料とした天然繊維ですので廃棄後も自然に戻り環境に負荷を与えません。

 「ホロセップ」は環境対応型の製品として、CSRの視点からも高い評価をいただいています。こうした追い風を背景に、今後はエンジニアリングメーカーとアライアンスを組み、海水だけではなく下水処理の市場にも進出していく予定です。また、中東地域だけではなく、水問題を抱えている中国などの新興市場にも進出していきたいと考えています。

事業を通じた環境保全の取り組み

環境保全に向けた活動の具体的な内容のご紹介をお願いいたします。まず「エコレビュー制度」と「エコパートナーシステム」について、ご教示願えますでしょうか。

 「エコレビュー制度」は、研究開発段階から製品全体のライフサイクルにわたる環境影響を考慮・評価する制度です。設計開発から原材料、製造、流通、使用・消費、リサイクル・廃棄まで、すべての段階で環境負荷の低減項目を評価します。2006年度から、すべての製品開発、生産技術開発、インフラ設備開発のデザインレビュー前に、このエコレビュー制度を実施することを要件としています。

 「エコパートナーシステム」は、エコレビュー制度に基づいた点数評価をベースに第三者評価項目を加え、幅広く製品の環境影響を評価し、一定以上の評価が得られたものを登録する環境製品の統一ブランドです。自社製品の説明時に、性能、機能およびコストだけではなく、環境配慮の物差しを評価軸として加えるべきだと考え、この仕組みを取り入れました。

 エコパートナーシステムの登録製品は、現在、年に4、5アイテムずつ追加されており、2005年は売上規模で15%、2008年は18%を占めるまでになりました。2010年には20%となるよう、今後も継続的な活動を続けていく予定です。

 これらの制度の導入効果として、最も大きいのは従業員の意識改革です。一人ひとりが環境に対する強い意識を持つようになった結果、自社だけではなく調達先の製品に対しても環境汚染物質が含まれていないか厳しくチェックできるようになりました。また、自社製品をご購入いただけるお客様に対し、従業員が自信を持って環境配慮の説明を行えるようになり、そのことが信頼関係の強化につながったと考えています。

1993〜2008年度の間に12%強のCO2排出量を削減されていますが、どのような取り組みによって実現されたのでしょうか。

 大きく分けて2つの取り組みが挙げられます。1つ目は徹底した省エネです。できるところから徹底的にやろうという意識で、1993年以降、年率1〜1.5%ずつ消費電力量を下げ続けてきました。主となるのは、モーター類の高効率化やインバーター制御への切り替え、熱交換機の効率化、蒸気の再利用など、生産設備における省エネです。また、省エネ対策チームをエンジニアリング部の中に設け、全事業所を巡回しながら改善事例を他事業所にも紹介する方法を採用し、グループ全体で省エネを進めています。

 2つ目の取り組みはエネルギー転換です。ボイラーに使う石炭や重油をガスに転換することによって、CO2排出量の抑制を進めています。また、重油や石炭で稼働している自家発電設備を、夜間は買電に切り替えるなど、さまざまなエネルギー転換策を進めています。こうした管理方法の改善により、1993年比で5%弱のCO2削減を実現できました。

化学物質規制への対応策についてお話を伺えますでしょうか。

 欧州のREACH規制への最も重要な対応策は情報収集です。弊社ではEUの規制動向、対象物質の範囲などの情報を幅広く収集するために、複数の調査機関の情報を分析しています。同時に、特定の調査機関と契約して弊社製品のリスクとなり得る可能性など、個別の調査・提案も依頼しています。こうして得られた情報を生かすため、社内に「化学物質管理部会」を設けました。この組織を中心に、原材料、調達品に含まれる化学物質の情報を綿密に管理しています。また、社内では化学物質管理情報システムの整備も進めています。その目的は、原材料に含まれる外部情報の取り込みと、弊社製品に含まれる化学物質に関する詳細なデータを管理することです。これにより、規制が始まった場合でも、迅速に対応できる環境を整えることができます。

環境の時代に向けた成長戦略

今後の低炭素社会を見据え、事業経営の方針についてのご紹介をお願いいたします。

 リーマンショック以降、日本企業は非常に厳しいリセッションを経験しています。こうした状況を踏まえた上で、弊社としては、足元固めである守りの部分と成長への布石という両面を見据えた経営方針を掲げています。

 足元固めというのは、激変する市場のニーズに合わせ、弊社の製品構成を組み替えていくということを意味しています。日本市場は、今後右肩上がりの成長は期待できず、横ばいから減少へ向かうことになるでしょう。市場が縮小するに伴い、これまでに生産・販売してきた製品の価値は確実に減少していきますから、これからは生産システムそのものを市場評価に合わせて組み替えていかなくてはなりません。具体的には、徹底した固定費や変動費の見直しを行い、年間100億円のコストダウンを目指します。2009年上期で約50億円の削減を実現できたので、2010年はさらに70億円の圧縮を目指します。これが足元固めの戦略です。

 新たな成長への布石とは、主要事業である自動車、電子・情報表示、環境、生活・安全、ライフサイエンスという5分野における新技術や新製品の投入です。

 環境というテーマは、成長の布石に欠かせないキーワードです。環境というテーマには、環境配慮型製品への切り替えと、環境保全に直結する事業の2通りの展開が考えられます。環境配慮型製品の切り替えというのは、自動車分野においてバイオ由来の高耐熱プラスチックを開発したり、電子・情報表示分野において電子回路用の接着剤をバイオベースに切り替えていくといったことが挙げられます。環境改善・保全に直結する事業とは、海水淡水化や上下水用の機能膜事業が挙げられます。

 また、ライフサイエンスは今後大きな成長が期待できる事業分野です。当社のライフサイエンスは、レーヨンの製造プロセスで発生した廃液を微生物で分解する技術に端を発しています。ここで培った培養技術を生かし、現在では診断薬の酵素原料で世界シェアの20%を保有しています。この分野では、診断薬の原材料を製薬メーカーに提供するだけではなく、弊社独自の診断薬も製造しています。ライフサイエンスは、世界中の人々の健康増進に貢献できる事業として、今後ますます重要性が増すと考えています。

本日、お話を伺い、培ってきた技術をベースに新しい製品を開発し、事業を創造していくという一貫した姿勢が、御社の強みの源泉であることを改めて実感いたしました。

 私どもは、技術に根差すことにこだわり、技術のない分野には進出しない「技術ストック経営」を貫き通してきました。そのこだわりがあったからこそ、1970年代に繊維以外の事業へのパラダイムシフトという非連続的イノベーションを実現できたのだと考えています。今、ふたたび市場は劇的な変化の時を迎えています。この変化こそ、連続的イノベーションから脱却し、新たな非連続的イノベーションを起こす絶好のチャンスだと捉え、積極的にチャレンジしていきたいと考えています。


【聞き手】
三井住友銀行経営企画部CSR室長 佐藤 耕司

Profile

坂元 龍三(さかもと りゅうぞう)
1947年生まれ。1970年、信州大学繊維学部繊維工学科卒業。1972年、信州大学大学院繊維学研究科修士課程修了。1972年、東洋紡績株式会社入社。1998年、紡織加工生産技術部長、2001年、参与 短繊維織物事業部長、2002年、取締役を経て、2005年、代表取締役社長に就任。2008年7月〜2009年6月、日本化学繊維協会 会長を務める。



会社概要

東洋紡績株式会社

創立
1882年
本社
大阪市北区堂島浜2-2-8
資本金
433億4,120万3,166円
代表者
代表取締役社長 坂元 龍三
事業内容
フィルム・機能樹脂、産業マテリアル、ライフサイエンス、衣料繊維などの製造、加工、販売。プラント・機器の設計、制作、販売。各種技術・情報の販売。
ホームページ
URL:http://www.toyobo.co.jp/

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.81(2010年1月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。

新しいウィンドウで開きます。 『SAFE』Vol.81(2010年1月号)


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