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環境先進企業トップインタビュー

日本の豊かな自然と共生しうる新たなリゾート文化を創造したい。 リゾートトラスト株式会社 代表取締役社長  伊藤 勝康氏

美しい緑を次世代に引き継ぐために

御社は、環境対策を積極的に推進する業界のリーディングカンパニーとして高く評価されています。一般に、土地開発を伴うリゾート事業と環境保全の両立は難しいといわれる中、御社が環境対策を推進された経緯についてお聞かせ願えますでしょうか。

 私自身が環境問題の説明責任の大切さというものに向き合う1つのきっかけとなったのは、10年ほど前に数年間行った名城大学(愛知県名古屋市)での講演でした。リゾートビジネスをテーマにしたこの講演は、ビジネスの実態や経済価値、社会的役割などを講義するという内容でした。学生たちが、リゾートビジネスを正しく理解しようと努める一方で、もっとも大きな関心を寄せていたのが環境問題でした。たとえば、「リゾート開発で山を切り崩し、自然を破壊することについて、どのように考えているのか」「割り箸などを使い捨てることは自然破壊につながるのではないか」など、リゾートビジネスが環境に及ぼす影響について毎回必ず質問が投げかけられました。こうした学生たちの環境問題に対する意識の高さを目の当たりにし、リゾートビジネスを手掛ける企業として環境問題に取り組むことと、その説明責任の重要性について認識を新たにさせられたのです。

 リゾートビジネスと環境保全の両立という課題に取り組むに当たり、まず正しい情報を集め、先進国の実情を研究するなど、自分自身の目と足で環境問題の実情を学びました。環境問題に関する知識を学ぶ中で、私は改めて日本がいかに緑豊かで美しい国であるかを認識させられました。国土面積における森林面積の割合を森林率といいますが、現在、日本の森林率は約67%で30年間ほとんど減少していません。これほどの経済発展を遂げながら、この森林率の高さは世界でもトップクラスです。ところが、こうした事実は、国民の間でほとんど知られていません。

 そこで、我々が考えたのは、この豊かな自然という財産を一人でも多くの人に知ってもらい、森林保全に役立てていこうということでした。その取り組みの1つが「グリーンキャンペーン」です。これは、弊社が主催する日本女子プロゴルフ協会公式トーナメント「リゾートトラストレディス」において苗木を販売するとともに、その収益金とチケット販売売上げの一部を、地域の緑化事業推進団体に寄付する取り組みです。

 また、リゾート開発の現場では、その土地に植生していた木々を伐採せずに移植することで生態系を維持し、やむをえず伐採する場合でも同本数以上を必ず植樹するなど、常に緑の保全を意識した開発を行っています。日本の美しい緑を次世代に引き継ぐことは、我々企業における社会的責任だと強く意識しています。

 ほかにも、2005年にISO14001の認証を取得したこともあり、全社的に継続して省エネルギー、省資源、リサイクルの促進、環境保全啓蒙活動などの環境活動にも取り組んでいます。

サービス業の特性を生かした環境保全の取り組み

ホテル運営における環境配慮の取り組みについてお聞かせ願えますでしょうか。

 ホテル運営上の環境対策として、第一に挙げられるのが食品廃棄物のリサイクルです。静岡県熱海市のグランドエクシブ初島クラブにおける取り組みは、その代表例といえます。グランドエクシブ初島クラブには、食品廃棄物などの生ごみを堆肥に変えるプラントを設置しています。ここではホテルから出る生ごみだけではなく、熱海市の協力を得て島民が出した生ごみの回収も行い、堆肥へのリサイクルを行っています。ここでリサイクルした堆肥を地元の農家の菜園に提供し、堆肥で育てられた作物を利用することによって、島内全体での循環型社会づくりに貢献しています。

 また、弊社のホテルは地域の自然との共生を目指し、設計段階から環境負荷を減らす構造を取り入れています。たとえば、静岡県浜松市にあるグランドエクシブ浜名湖では、ホテル付帯のゴルフ場を造成する際に、敷地内から排水を一切外に出さない「クローズドシステム」を導入しています。ゴルフ場の芝生を維持するには農薬をまったく使用しないわけにはいきません。もちろん使用する薬剤は、環境に優しく安全なものだけにしていますが、その薬剤が土壌に染み込んだ後、将来的にどのような影響を及ぼすかについて科学的な実証データは存在しません。だからこそ、想定外の事態まで含めて地域の環境を保全するには、農薬の影響を一定範囲内にとどめる「クローズドシステム」が必要と考えたのです。このシステムを採用すれば、外部からの影響を受けることなく土壌の状態をモニタリングできるので、新しい環境技術の実証試験の場としての活用も期待できます。

北欧などの環境先進国では、ホテルそのものを環境学習の場として捉え、客室に最新のエコ商品を設置しているケースがあります。日本のホテルでも、今後このような取り組みが行われるようになるのでしょうか。

 おそらく日本のホテルもその方向へ進むことでしょう。弊社ではすでに一部の施設で詰め替え可能なシャンプー類の容器を使用していますが、客室の石鹸などのアメニティ類に関して、自然に還りやすい素材など環境負荷の小さいものの調達が重要だと考えています。ほかにも、省エネ型の液晶テレビや給湯システムなども随時導入しています。

 さらに、弊社ではエコライフを取り入れているお客さまへの優遇サービスにも力を入れています。環境問題への意識が高いお客さまの中には、自身の石鹸やシャンプーなどを持ち込み、客室のアメニティ類を使用されない方がいらっしゃいます。客室内のバスタオルやアメニティ類を節約していただけるこうしたお客さまに対し、一部のホテルにおいては、たとえば飲み物代の割引などの優遇サービスを提供しています。お客さまの満足度を高めるとともに、ホテル側のコストと資源の無駄を削減できるこのようなサービスを、今後はもっと充実させていきたいと考えています。

お客さまからのアンケートで寄せられた提案をホテル運営に生かしていると伺っていますが、エコに関する提案などもございましたか。

 会員制リゾートをはじめとした約13万人の当社グループ会員さまに対し「新しいホテルをどこに建てて欲しいか」「どういうサービスを望んでいるか」などのご要望を常にお伺いしながら事業を展開しています。おっしゃる通り、近年ではお客さまから寄せられる提案の中に“エコ”に関するものが多く見受けられるようになっています。我々としては、こうした声にお応えするべく、環境配慮型のサービスを積極的に取り入れていく予定です。しかし、13万人を超えるすべてのお客さまに同一のサービスを提供していくわけではありません。お客さまの多種多様な価値観やニーズを的確に捉え、一人ひとりの顧客満足度を高めていくことが、我々サービス業のもっとも重要なテーマだからです。そこで弊社の一部の施設では、環境に優しいサービスを新たに設け、お客さまご自身に選んでいただく方法を採用しています。アメニティ類の有無を選んでいただき、節約していただけるお客さまを優遇するサービスもこうした考えに則ったものです。

 製造業における工場の省エネ対策やCO2排出量削減など直接的な取り組みに比べると、我々の取り組みの効果はわかりにくいかもしれません。しかし、我々の取り組みには、お客さまの環境意識を目覚めさせる啓発効果があると考えています。環境問題というのは、劇的な対処法があるのではなく、一人ひとりの意識を変えることこそがもっとも効果的な解決策なのではないでしょうか。そのような意味で、環境対策におけるサービス業の役割というのは、非常に大きなものがあると、私は考えています。

環境配慮が企業の競争優位につながる時代へ

近年は消費者の環境意識が高まり、環境に配慮した製品・サービスが重視されるようになってきました。御社は、経営における意思決定の中で“環境”というテーマをどのように位置づけておられるのでしょうか。

 人々の価値観は時代とともに大きく移り変わります。弊社が創業した1973年当時は、田中角栄氏が列島改造論を提唱し、日本を新しい形で開発しようという機運が高まり、仕事中心からプライベートな生活を重視する価値観が生まれた時代でした。そうした機運の中で、我々は「人生を楽しむという輪を大きく広げたい」という思いのもと、リゾート事業に着手したのです。当時、一般的にリゾートといえば、カジノのような高刺激で刹那的な楽しみに重きが置かれていました。しかし、あれから35年以上を経た今、人々の価値観は大きく変化し、贅沢で豪華なものへの嗜好よりも、美しい自然と触れあうこと自体を楽しむといった“よろこび”の基準が変わってきたように思います。こうした価値観の変化を常に先取りしたサービスを提供していかなくては、リゾートビジネスは成り立ちません。逆の言い方をすれば、今後は、美しい自然が求められている現代のニーズを無視した施設やサービスを展開している企業は、ビジネスそのものが成り立たなくなるでしょう。自然を破壊して利益のみを追求するのではなく、環境の重要性にいち早く気づき、適切な対応ができる企業が競争優位に立つ時代となるのです。これまでは、環境対策はコストがかかるばかりで経済活動の停滞につながるといわれていましたが、今後は環境と経済を両立させることが企業存続の最重要条件になっていくと思います。

日本に新しいリゾート文化を

環境を軸とした今後のリゾートビジネスの夢や展望をお聞かせ願えますでしょうか。

 弊社では、環境を「かけがえのない商品そのもの」と位置づけ、美しい健全な環境を次世代に引き継ぐことを社会的責任と捉えています。長い目で見ますと化石燃料は有限ですから、今後は太陽光やバイオマスなどの自然エネルギーの導入にも取り組んでいくことになるでしょう。リゾートビジネスを展開する際には、必ず芝生や森林の管理が必要となり、その過程でバイオマスエネルギーの原料となる資源がたくさん発生します。この自然資源をバイオマス化してエネルギーの自給自足を実現し、いずれはリゾートホテルにおける循環型コミュニティが形成できればいいですね。

そのような優れたリゾートを積極的に受け入れる文化が日本にも育つといいですね。

 日本のリゾート文化を発展させるには、休暇制度の改善が重要だというのが私の持論です。長期休暇が定着している欧米諸国では、リゾートホテルに数週間滞在するスタイルが当たり前になっていますが、日本人のリゾート利用はせいぜい1〜2泊です。しかも、ゴールデンウィークやお盆など一定期間に休暇が集中しているため、客室の頻繁な入れ替えが発生し清掃や消毒の回数が増え、繁忙期と閑散期が生まれ施設利用の非効率が発生しています。日本でも欧米のような長期休暇制度が浸透すれば、ホテルは長期滞在客の清掃回数を減らし、環境負荷を低減することができます。さらに、豊かな自然の中で長期滞在すれば、鳥の声や波のさざめき、木々のささやきを感じ取れるゆとりが生まれ、人々の環境への意識も高まるでしょう。

 日本で新たなリゾート文化を育み、環境を保全していくには、休暇の在り方を見直さなくてはなりません。弊社は業界のリーディングカンパニーとして、理想的な休暇の在り方を提案するとともに、これからも我が国のリゾート文化の創造に貢献していきたいと考えています。


【聞き手】
三井住友銀行経営企画部CSR室長 條 晴一
日本総合研究所主席研究員 足達 英一郎

Profile

伊藤 勝康(いとう かつやす)
1943年、愛知県名古屋市生まれ。1967年、一橋大学卒業。1972年、不動産鑑定士・公認会計士開業。1973年、リゾートトラスト株式会社を設立し、常務取締役に就任。専務、代表取締役副社長、COO(最高執行責任者、現任)を経て、1999年から代表取締役社長を務める。



会社概要

リゾートトラスト株式会社

創業
1973年
本社
愛知県名古屋市中区東桜2-18-31
資本金
142億5,811万円(2010年3月末現在)
代表者
代表取締役会長 伊藤 與朗
代表取締役社長 伊藤 勝康
事業内容
会員制リゾート事業、ホテルレストラン事業、メディカル事業、ゴルフ事業など
ホームページ
URL:http://www.resorttrust.co.jp/

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.84(2010年7月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。


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