環境ビジネス情報

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環境先進企業トップインタビュー

環境を「創る」建設業を目指し、自然の恵みを享受できる都市づくりを提案します。 鹿島建設株式会社 代表取締役社長 中村 満義氏

独自の技術力によって環境貢献

自然環境を保全・再生・創造することは、都市づくりを生業とする建設業の大きな役割だと思います。まずは、環境問題と建設業についてお考えをお聞かせ願えますでしょうか。

 私が環境問題を意識し始めたのは、広報室長のときです。きっかけは、月報などの制作に携わる中でたびたび目にした「地球に優しい鹿島」というキャッチコピーでした。「地球に優しい」とか「環境に優しい」というのは、近年でもさまざまな広告や宣伝で見られる表現ですが、「『環境に優しい…』というが、我々の事業が本当に環境に優しいことをしているのか」と疑問に感じたのです。たとえば、人間は環境に依存しながら生きています。つまり、我々が地球で生きていることは、環境に多かれ少なかれ迷惑をかけることなのです。場合によっては自然を傷めることもあるでしょう。これは企業活動も同じです。特に、建設業は地域と地球の両面で環境への影響が大きい産業です。事業活動を行えば必然的に自然に影響を与えることになります。そのため、建設業に求められるのは、地球環境に少しだけ手を加えますが、ご迷惑を最小限にしますという姿勢です。

 弊社は高度な技術力によってサービスを提供する技術立社だと自負しており、独自の技術で環境影響の軽減に貢献することが使命だと考えています。しかし、我々の技術力を支えているのが「技術=人」だと考えれば、まず社員一人ひとりが同じように環境意識を共有することが必要です。たとえば、道に落ちたごみを拾うとか、照明をこまめに消すとか、身の回りの生活でそうした心遣いを怠っていては真の環境貢献は達成できません。弊社には社員が1万人程いますが、まず自分の姿勢をはっきりと築いてもらった上で、会社として取り組みを推進していくことが重要だと考えています。

環境負荷低減と快適空間の創造

建物の環境負荷低減には「企画・運営」「設計・建設」「保守・運用」など各段階における工夫があると思います。御社独自の「ご迷惑を最小限にする技術」をご紹介いただけますでしょうか。

 まず、解体現場での新しい取り組みとして「鹿島カットアンドダウン工法」が挙げられます。これは、騒音・振動・粉塵といった建設現場のマイナスイメージを一新する新しい解体手段です。これまでのように重機を建物の最上階に設置して上層階から解体した廃材を下ろすのではなく、だるま落としの要領でビル下層階から解体していきます。地上付近での解体作業となるため、騒音、振動、粉塵の飛散を抑制することができます。また、従来工法では、雨や粉塵の飛散を防ぐための散水が下階に流れ落ちてしまうため、内装材の分別収集が難しかったのですが、新工法では下層部での建物本体の解体と並行して上層階で室内において内装材の撤去を行うことで、この問題を解決しました。これによって工期を短縮するとともに、廃材の分別精度を高め、従来工法で55%だった内装材のリサイクル率が93%まで向上しました。

 実際に本工法を採用してみると、近隣の方から思わぬ反応がありました。2年前、弊社の旧本社ビルを解体したときは約1週間で1階分ずつ建物の高さが低くなっていったのですが、2、3週間ほどして近隣の方から「建物が小さくなっているようですが、なぜですか」と問い合わせがあったのです。従来工法のように騒音などがないので解体中だと気づかず大変驚かれたようでした。この工法によって近隣への騒音トラブルを解消できたことは大きな成果といえるでしょう。

 環境負荷低減とともに近隣の皆さまにご迷惑をかけないことも技術開発の重要な課題です。これに加え、ビルを実際に使用するお客さまへの配慮も欠かせません。我々が建設するビルは、そこをオフィスとして利用する企業の方々にとって、事業活動をする欠かせない場であり、いわば生産財です。弊社では、お客さまの生産活動をサポートするという意識のもと、快適な空間創造を目指しています。こうした思いから生み出したのが「エコ・モジュール」です。これは、人感センサーと温度・照度センサーを組み合わせ、人のいるところだけに快適な環境を創造する省エネ型システムです。具体的には、窓面に設置した照度制御装置でブラインド角度を自動制御し、太陽光を活用して室内照明を抑制します。また、自然換気を空調制御と連動させ、空調エネルギーを節減し、階段室を風の通り道として利用することで効率的な自然換気システムを構築します。「エコ・モジュール」は、こうして自然の光や風を有効に利用することによって、快適性を犠牲にすることなく高い省エネ性能を発揮し、平均的なオフィスビルに比べ約25%のエネルギー削減を可能にしました。現在、「エコ・モジュール」は弊社の新本社ビルや赤坂別館で採用しています。弊社が施工をさせていただいた三井住友銀行本店ビルディングでも、三井不動産さまや日建設計さまによる快適な執務環境や先進的な環境配慮の技術が多数実現されています。

環境を「守る」から「創る」へ

今や生物多様性は地球温暖化に並ぶ重要なキーワードです。御社は企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)に設立メンバーとして参加され、また生物多様性条約第9回締約国会議ではリーダーシップ宣言に署名するなど、先進的な取り組みをされていますが、事業活動の中で生物多様性をどのように捉えておられるのでしょうか。

 私はキリスト教系高校出身なのですが、当時受けた授業の中でいまだに忘れられない聖書の一節があります。それは『コリント人への第一の手紙』の第12章に出てきます。

 目は手に向かって「おまえはいらない」と言えず、また頭は足に向かって「おまえはいらない」と言うことはできない。それぞれの肢体はそれぞれの機能を持ち、“からだ”の一部をなしている。そして、もし1つの肢体が悩めば、他の肢体も悩み、1つの肢体が尊ばれると、ほかの肢体もみなともに喜ぶと、説くのです。

 私はこれこそが生物多様性の本質ではないかと思います。地球上の生きとし生けるものにはそれぞれ役割があり、相互関係を築きながら多様な生態系が形成されています。たとえ目に見えない微生物であっても土壌の形成や水の浄化など大事な役割を持っており、その損失は地球全体のバランスを狂わせてしまうのです。現在すでに環境に配慮を欠く経済発展の中で都市の生態系は毀損されつつあります。今後、自然との共生関係を維持していくには、社会の中に自然を尊重する心を育んでいかなければいけません。この自然を大切にする価値観は自然と触れあうことで生まれるものであり、これからの都市づくりに生物多様性の要素を組み込んでいくことは建設業の重要な役割だと思っています。

2009年に御社は第18回地球環境大賞にて環境大臣賞を受賞されました。受賞の対象となった「生物多様性に配慮した都市づくり」についてご紹介いただけますでしょうか。

 弊社は2005年に「鹿島生態系保全行動指針」を制定(2009年に『鹿島生物多様性行動指針』に改定)し、自然の恵みを体感できる「生物多様性都市づくり」に取り組んできました。我々が目指すのは、屋上庭園などの緑化をして緑の量を増やすだけでなく、価値のある緑化の提案をすることです。都市生態系にもたらす価値をよりわかりやすい形でお客さまや地域に提示することを心がけ、地域やプロジェクトの特性に応じて「鹿島ニホンミツバチプロジェクト」「エコロジカルネットワーク評価技術」「生物共生型カニ護岸パネル」などの指標生物を活用した提案を行っています。

都心でミツバチの住める環境づくりに取り組む「鹿島ニホンミツバチプロジェクト」は、地域を超えた波及効果も期待できますね。

 ミツバチは植物の受粉を助けるため生態系にとって重要な生物です。また、ヨーロッパではパリのオペラ座で飼われるなど、都市に馴染みやすい生物でもあります。我々は、2009年から東京都豊島区にある弊社の社宅で日本の在来種であるニホンミツバチの飼育に取り組み、植物の蜜源調査などのデータ収集を行ってきました。都市の生物多様性の回復にミツバチがどのように寄与するのかを調べることと、ミツバチを題材とした環境教育が「鹿島ニホンミツバチプロジェクト」の2つの大きなテーマです。

 環境教育を実施するに当たって、ミツバチは非常に優れた教材です。受粉を助け植物の結実を促進する働きを説明するだけでなく、蜂蜜によって自然の恵みを視覚的に見せることができるからです。子どもたちを刺すのではないかと心配されることもありますが、ニホンミツバチはすごく温厚な生き物なのです。実際、幼稚園で環境教育を行ったときは、ミツバチを巣箱から出し、子どもたちに触ってもらいました。巣箱で働くミツバチの姿を実際に見ることは、生態系サービスについて知るよいきっかけになると思っています。

 現在は地域の幼稚園でミツバチを活用した環境教育や地域産の蜂蜜を味わう「ミツバチカフェ」というイベントを行いながら、都市におけるミツバチの活用方法についてのソフトメニューを蓄積しています。今後は弊社が提案するプロジェクトに組み込みながら「生物多様性都市づくり」に生かしていきたいと考えています。

「エコロジカルネットワーク評価技術」は開発計画にどのように利用されるのでしょうか。

 これは計画地と周辺の既存緑地とのつながりを広域的に評価するシステムです。従来の(衛星データによる)近赤外線を使った方法では緑のある場所は測れても、緑の質まではわかりませんでした。新システムでは、地表面からの高さを測定するレーザー測地システムを使用することで、草地、灌木、立派な樹林帯など、緑の種類まで把握することができます。さらに、地域固有の生物を指標としてその生物の生育可能性を、地理情報システム(GIS)を活用しながら広域的に判断することで、都市開発プロジェクトの影響を評価します。たとえば、三井住友海上火災保険さまの本社別館では、この技術を活用し、コゲラの棲息域のネットワーク化を目指す緑化計画を提案しました※。コゲラという都市の生物多様性を代表する鳥の棲息範囲が広がることは、地域全体の生物多様性が高まることにもなると考えています。

「生物共生型カニ護岸パネル」を活用したプロジェクトでは水棲生物の生育域回復に取り組んでいますね。

 「生物共生型カニ護岸パネル」は東京・芝浦アイランドの運河部分の護岸に設置されています。このプロジェクトは、もともと倉庫街であった芝浦アイランドを都市型高層マンション街に生まれ変わらせるに当たり、運河の自然再生を望む地域の声を受けてスタートしました。水棲生物の中でもカニの幼生はハゼなどの餌となるため、地域の生態系の基盤となる生物です。しかし、近年のコンクリートによる護岸造成では、カニの住処が奪われてしまうケースが多く見られます。都市開発を進めながらカニが住める状態を取り戻すために「生物共生型カニ護岸パネル」は考案されました。これもコンクリート製ですが、表面に凹凸を施すことで、カニが歩行しやすい形状としています。また、表面は従来の白色ではなく、カニが好む日光の照り返しの弱い色調を採用、パネルの間にカニの隠れ場所となる隙間をつくるなど、さまざまな工夫を凝らしました。改修後行った生育調査では、カニだけでなくハマハゼ、ウナギ、ゴカイなどのさまざまな水棲生物が見つかりました。さらに、この地区では、毎年、「ハゼつり大会」が開催されており、カニの住む護岸が地域開発のシンボルとなっています。

生物多様性保全が地域のシンボルや新しいビジネスにまで結びついているんですね。

 従来の環境保全とは異なり、「生物多様性都市づくり」は受動から能動へ、まさに環境を「守る」から「創る」という表現に変わってきています。弊社のプロジェクトで生物多様性を実現し、成果を積み重ねていくことで、計画地の周辺だけでなく都市全体で自然の恵みが体感できる状況になることを願っています。

CO2排出ゼロのビルを目指して

御社は2009〜2011年度の環境中期目標で、建築設計におけるライフサイクルCO2発生量を1990年度比30%削減する目標を掲げています。これは大変意欲的な数値だと思います。

 建物の環境負荷を考えるには、施工段階だけでなく、事業計画や設計、運用、さらには修繕・更新・解体などライフサイクル全体を捉える必要があります。我々の中期目標は、2011年の設計施工のライフサイクルCO2発生量を、1990年に設計施工された同規模の建築物と比べ30%削減するというものです。模様替えや増築などの修繕・更新、解体の時期などは正確に予測することが難しいのですが、トータルで30%削減するには、運用段階での40〜50%の削減が必要になると見込まれています。これは相当厳しい数値ですが、あえて高い目標を掲げることで、切磋琢磨し技量を磨いていきたいと考えています。将来的には2020年までに運用段階でCO2発生量ゼロのビルをつくるのが目標です。

 地球環境の危機が現実化するなか、100年先を見越して人間と地球のよい関係をつくっていかなければいけません。今後も、「環境の世紀」にふさわしい社会をつくるため、私たちは未来のためにすべきことを考え抜き、それを具現化していきたいと思います。


【聞き手】
三井住友銀行経営企画部CSR室長 條 晴一
日本総合研究所主席研究員 足達 英一郎

Profile

中村 満義(なかむら みつよし)
1943年生まれ。1965年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。同年、鹿島建設株式会社に入社。1996年同社取締役広報室長、1999年常務取締役営業本部営業担当、2002年専務取締役営業本部長を経て、2005年より代表取締役社長を務める。



会社概要

鹿島建設株式会社

創業
1840年
本社
東京都港区元赤坂1-3-1
資本金
814億円余
代表者
代表取締役会長 梅田 貞夫
代表取締役社長 中村 満義
事業内容
建設事業、開発事業、設計・エンジニアリング事業など
ホームページ
http://www.kajima.co.jp/

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.86(2010年11月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。


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