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環境先進企業トップインタビュー

地球というステークホルダーと「向き合って、その先へ。」 株式会社三越伊勢丹ホールディングス 代表取締役社長執行役員 石塚 邦雄氏

「グループ企業理念の実践=CSR活動」

御社はCSR活動の重点分野として「環境改善」を位置づけ、事業活動の中で積極的に環境配慮に取り組まれています。まずは、百貨店業と環境配慮についてお考えをお聞かせ願えますでしょうか。

 弊社グループは、2008年に株式会社三越伊勢丹ホールディングスを設立し、三越と伊勢丹の両事業会社を中心に制度や組織など、さまざまな面で一本化を推進してきました。経営統合を機にそれまでグループ各社が定めていた企業理念を見つめ直し、2008年4月、企業理念を明確化したスローガンを策定しました。「向きあって、その先へ。」という新しいスローガンには、2つの意味が込められています。まず、経営統合によって結びついた2つの会社が向きあい世界随一の小売サービス業グループを目指すということ、もう1つはあらゆるステークホルダーの方々と我々がしっかりと向きあっていくということです。我々が念頭に置くステークホルダーとは、お客さまをはじめ、株主、取引先、従業員、地域や社会などですが、さらに広い意味では、地球全体が我々のステークホルダーだといえるでしょう。すべてのステークホルダーと真正面から誠実に向かいあい、個々のニーズや社会的要求を柔軟に受け止めながら、新たな価値の創造を追求していくこと、これこそが我々の基本姿勢です。これによって「将来にわたって、かけがえのない信頼関係」を築くことを目指しています。

 また、スローガンを掲げることによって、企業活動を通じて社会へ貢献することを約束しています。弊社グループでは、ここに示された基本姿勢を実践することは、社会の一員として企業の責任を果たしていくこと、つまりCSR活動そのものだと捉えています。こうした考えのもと、企業活動を通じて、さまざまな社会問題に立ち向かい、その解決に貢献することを目指し、CSR方針を定めました。特に「品質・安全性」「雇用・人材」とともに「環境改善」をCSR活動の重点分野として掲げ、地球温暖化防止をはじめとする環境問題の解決に対し、継続的な取り組みを推進しています。

 企業理念とCSR方針の実現は、企業としての姿勢を従業員一人ひとりの行動にどれだけ結びつけられるかにかかっています。過去に、環境政策について熱心に語る一方で、平然とタバコのポイ捨てをする人を見たことがありますが、目標を掲げるだけでは意味がありません。地球環境という対象に比べると、個人の行動は微力に思えることもあるでしょう。しかし、一人ひとりの努力はたとえ小さなものであっても、これを蓄積していくことで大きく実を結ぶことができるのだと私は思います。このような思いから、弊社グループでは、企業理念とCSR方針に合わせて倫理行動基準を策定しました。これによって、「お客さま第一」という不変の姿勢を明確にするとともに、従業員一人ひとりが独自に取り組みを進めていけるよう指針を示しています。

環境配慮型商品に付加価値をつける

グループの基盤整備や仕入れ構造の改革を目指し、独自の百貨店ビジネスモデルの構築に取り組まれていますが、環境配慮型商品は「独自性」や「収益性」を向上する切り札となるのでしょうか。

 最近では環境に配慮したライフスタイルに関心を持つお客さまが多く、こうしたニーズにお応えするため、弊社グループでは環境配慮型商品の販売に取り組んでいます。しかし、今はまだ"エコ"が消費者へのアピールにつながっていますが、長い目で見ると環境配慮型商品の販売は競合他社との差別化になり得ないと思います。そもそも環境への貢献は企業が事業活動を考える上で無視できないテーマです。近い将来、環境配慮型商品であることは、品質や安心・安全と同様、普遍的な要素になると思います。我々は目指すべき姿として「常に上質であたらしいライフスタイルを創造し、お客さまの生活の中のさまざまなシーンでお役に立つことを通じて、お客さま一人ひとりにとっての生涯にわたるマイデパートメントストア」という目標を掲げていますが、これを実現するには環境配慮型であることに加えて独自の価値をつけていく必要があるでしょう。社会の変化を注視しながら、お客さまにとって真に価値ある商品とは何なのか、常に追求し続けることが大切です。

店舗の舞台裏では、空調に利用しているターボ冷凍機を高効率の新型機器に更新するなど、省エネに取り組まれているそうですね。

 百貨店の役割は、お客さまに商品を提供することだけではありません。商品知識を持つ販売員、快適な環境・空間などといったさまざまな要素によって事業が成り立っています。そのため、環境配慮型商品の販売だけでなく、従業員への環境教育、設備の省エネや省資源、リサイクルなど、事業活動のさまざまな側面で環境配慮に取り組んでいかなければいけないと考えています。特に設備面では、新型ターボ冷凍機の導入に加え、老朽化したエレベーターを省電力タイプへ更新するなど設備改修に取り組んでいます。また、2011年5月に開業したJR大阪三越伊勢丹では、LED照明をはじめ最新の省エネ型機器を採用するなど、環境に優しい店舗づくりを目指しました。

今夏は環境配慮だけでなく電力不足の観点からも、節電が求められています。

 節電や省エネに対する意識が社会に浸透したことで、お客さまから「もっと照明を消した方がいいのではないか」「空調の設定温度を上げるべきだ」といった提案が多く寄せられるようになりました。これは、百貨店を運営する側にとっても、あらためて省エネに対する取り組みを見直す機会になったと思います。その一方で、お客さまの利便性と社会的要求のバランスをどのように取りながら節電対策を展開していくのかという課題に我々は直面しています。電気使用量を15%削減するだけなら、エレベーターやエスカレーターの動力、空調、照明など、施設のエネルギー管理を見直せば、容易に目標を達成することができます。しかし、来店されるお客さまの中には、視力の問題で照明が暗いと困るという方や、エレベーターを利用しないと移動が困難な方もいらっしゃいます。また、「ネオンサインが明るすぎる」というご指摘がある一方、「夜間に暗いと危ないので、ある程度明るくないといけない」とおっしゃる方がいるなど、さまざまなご意見があります。現場の従業員は、お客さまからこのような質問や指摘があったときに、節電への取り組みについて的確に説明できなければいけません。全国各地の店舗で働く従業員は、取引先からの派遣スタッフも含めると、グループ全体で数万人に及びます。節電対策を推進するに当たって、スタッフ一人ひとりが節電や省エネに取り組む意義を理解し、グループ全体の意思としてお客さまに伝えていくことが非常に大切だと考えています。

百貨店業の財産は「人」だということも耳にしますが、現場の方々の意識改革は重要な課題ですね。

 販売員が新しく店舗に派遣されてきたときに実施する入店前講習会や全従業員を対象にしたコンプライアンス講習会を通じて、環境改善に対する意識向上に取り組んでいます。また、6月の「環境月間」、10月の「環境にやさしい買物キャンペーン」に合わせた商品提案キャンペーンや環境関連イベント、全社運動なども展開しています。こうした取り組みの中で、従業員一人ひとりが環境改善活動の趣旨を理解し、環境に対する高い意識を持ちながら業務を遂行できるよう、現場マネージャーが中心となって日常的に指導を行っています。

 こうして従業員の環境意識を高めることが、店舗全体の環境負荷低減には不可欠です。なぜなら中央監視室での設備管理によってエネルギーを低減できたとしても、過剰包装などの課題は現場での取り組みによってしか解決できないからです。たとえば贈答品の場合、商品パッケージ、メーカーの包装紙、弊社の包装紙といったように、何重にも包まれることがあります。あるいは、商品が壊れないよう箱の中に詰め物をすることがありますが、実際にはすべてのお客さまがこうした包装・梱包を必要とされているわけではありません。お客さまの用途に応じて現場で接する従業員が臨機応変にエコのご提案をすることで、資源の無駄づかいを抑制することができると考えています。

百貨店で求められるマインドとハート

最後に、これから求められる百貨店の姿についてお考えをお聞かせ願えますでしょうか。社会における百貨店の存在意義とは、どのようなものなのでしょうか。

 オンラインショッピングの普及や小売業のグローバル化など、百貨店を取り巻く環境は大きく変わりつつあります。今後、我々が存続するためには、百貨店がどういう業態であり、どういう価値をお客さまに提供していくのかを考え直す必要があります。東日本大震災は、百貨店の存在意義をあらためて考え直すきっかけになりました。弊社グループでも、仙台三越が被災し、一時休業せざるを得ませんでした。4月後半に何とか営業を再開させたのですが、そのときはもちろん従来のような売り上げは期待していませんでした。5月には前年度の50%程度、9月ごろまでに前年度の売り上げまで回復することが当初の計画だったのです。しかし、実際の売り上げが計上されると5月は前年度の116%という結果でした。来店されたお客さまとお話しすると、「郊外に行くと、まだ瓦礫の山ばかりで目にするのが辛い。市内に行くところができてよかった」「百貨店は1つの建物の中にさまざまな店舗があり、館内を歩いているだけで1日楽しめる」と言って喜んでくださり、被災地での百貨店の存在意義を考えさせられました。

 百貨店で大事なことは、特定の地域や時代の中でお客さまのニーズを見極め、提供していくことです。ただコストパフォーマンスが高いというだけでは、商売は成り立ちません。私は、これからのマーケティングにはマインドとハートが必要だと考えています。お客さまの気持ちに訴えるような商売がどれだけできるかということです。お客さまや地域とともに将来のことを語り合える商売の在り方が百貨店の生き残りにつながるのだと思います。

地域の課題や将来像を考える上で「環境」は無視できないテーマだと思います。

 地域や環境との関わりという点では、屋上緑化が大きな効果を果たすと考えています。現在、伊勢丹新宿本店、三越銀座店、JR大阪三越伊勢丹の各店舗で屋上緑化に取り組んでいます。中でも、三越銀座店は、2010年9月の増床オープンを機に、9階に芝生広場や四季の草木が広がるテラスガーデン、屋上農園テラスファームなど、人と自然のつながりを実感できる「銀座テラス」を新たに設けました。建物全体の緑化率は30%を超えており、テラスガーデンの芝生面積は約400平方メートルに及びます。屋上農園テラスファームでは、地域の方々や子どもたちが農業体験できる交流の場としての活用が始まっており、店内から排出される生ごみを堆肥化して使用するなど、リサイクルにも取り組んでいます。こうした取り組みを通じ、銀座テラスが、都会の中にお客さまがゆったりとくつろげる公共空間を提供し、子どもたちが環境への関心を深めるきっかけの場となることを願っています。

 銀座テラスの計画当初、緑化ではなく、もっと商品を置いて利益を上げた方がいいという意見もありました。物販の観点だけから考えると、屋上緑化は無駄なスペースと見えるかもしれません。しかし、こうした無駄があるからこそ、お客さまから評価していただけることもあると思うのです。長い目で見れば、地域や社会、我々の商売にとって価値をもたらすものだと私は考えています。百貨店は、お客さまに単にお買い物をする場所を提供するのではなく、お買い物を通じて夢と感動をご提供する業態です。商品だけでなく、事業活動全体でどのような価値をお客さまに提供できるのか、これを追求していきたいと思います。

戦後復興期、百貨店は人々の憧れとなるライフスタイルを提案するプレゼンテーションの場として機能しました。震災から立ち直りを図る日本において、こうした役割を百貨店が再び果たすことに期待したいと思います。

 成熟期を迎えた社会に対し、どのような憧れを提示していくかは難しい課題ですが、たとえば百貨店は文化の発信基地として、商品を通じて芸術や文化の価値を問い直し、伝えていく必要があると思います。震災の影響によって不要不急の商品や嗜好品の購入は自粛すべきだという風潮がありますが、美術品の価値とは何かをあらためて考え直す必要があるでしょう。逆境にいるからこそ、美しい絵を見て人々が元気になったり、心が癒されたりすることがあると思うのです。我々は、芸術が本来持つ価値が見逃されないよう発信していくことを重要な役割として捉え、お客さまの心に訴える商売の在り方を考えていきたいと思います。


【聞き手】
三井住友銀行経営企画部CSR室長 條 晴一
日本総合研究所理事 足達 英一郎

石塚 邦雄(いしづか くにお)

Profile

石塚 邦雄(いしづか くにお)
1972年、東京大学法学部卒業。同年、株式会社三越入社。三越日本橋本店副店長、本社業務部長、営業企画本部長などを経て、2005年に代表取締役社長執行役員に就任。2008年、株式会社三越伊勢丹ホールディングスの設立を機に、同社代表取締役社長執行役員兼最高執行責任者(COO)に就任。2011年4月より、株式会社三越伊勢丹ホールディングス代表取締役社長執行役員と株式会社三越伊勢丹取締役会長執行役員を兼任する。



会社概要

株式会社三越伊勢丹ホールディングス

設立
2008年
本社
東京都新宿区新宿5-16-10
資本金
500億4,700万円(2011年3月末現在)
代表者
代表取締役社長執行役員 石塚 邦雄
事業内容
百貨店業、クレジット・金融業、小売・専門店業、友の会事業
ホームページ
URL:http://www.imhds.co.jp/

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.90(2011年7月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。


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