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環境先進企業トップインタビュー

環境負荷の低減は、公共資源たる生活道路を事業基盤として活用する運輸業者の責務です。 ヤマトホールディングス株式会社 代表取締役社長 木川 眞氏

環境への取り組みで業界のフロントランナーに

御社は宅配便という市場を切り開いたイノベーターであり、環境への取り組みにおいても、2011年度の物流環境負荷軽減技術開発賞受賞に象徴される先進的な取り組みをされています。まずは、御社の環境方針についてお教え願えますでしょうか。

 生活道路という公共資源を事業に活用させていただいている運輸業者として、社会的責任を果たすことは当然の使命です。特に、輸送車両が排出するCO2の削減は、運輸業者の責務だと考えています。ヤマトグループでは、環境対策においても業界のトップランナーとなるべく、車両の燃費改善やモーダルシフトなどさまざまなCO2削減策を推進しています。

 とりわけ保有車両がグループ全体の80%以上を占めるヤマト運輸株式会社では、宅急便が届くまでの輸送全体のCO2排出量低減を目指し、2013年までに宅急便1個当たりのCO2排出量を30%削減(2002年度比)するという高い目標を設定しました。さらに、ヤマト運輸ではこの高い目標を実現するために「使わない」「使うならエコ」「使い方」という3つの原則からなる輸送のCO2削減策を掲げ、取り組んでいます。

CO2排出量削減を目指す3つの原則

3原則の「使わない」とは、車両を利用しないということでしょうか。荷物の量が増えれば、多くの車両が必要になると思うのですが。

 確かに、以前は荷物の量に比例して増車していましたが、今はエリアごとに集配方法を工夫することで車両の使用を抑制しています。具体的な取り組みとしては、営業エリアを細分化してサテライトセンターを増設しています。このサテライトセンターからの配達は、台車や新スリーター(リヤカー付きの電動アシスト自転車)を使って行います。エリアが広域となる場合、近距離は台車や新スリーターでの集配、遠距離は車両を使いつつ、台車や新スリーターを組み合わせる「バス停方式」という方法を採用しています。この方法では、市内を走るバスのように、同じ場所(停留所)に停車し、その地点から台車などを使って集配を行います。集配後は次の停留所へ移動し、再び台車に荷物を積み替えて配達しています。これまで住宅地では、各家庭の前に集配車両を止めて配達していましたが、バス停方式を採用した結果、燃料使用量とCO2排出量の削減、さらに発進・停止時の交通事故のリスクを回避できるようになりました。そのうえ、複数の台車で一斉配達するので、お客さまがお受け取りしやすい朝10時までに午前の配達を完了できるという例もあり、環境負荷の低減、安全性の向上に加え、サービスレベルの改善にもつながりました。

もう1つの原則である「使うならエコ」とは、どのような取り組みなのでしょうか。

 弊社では、従来からハイブリッド車や軽自動車など低公害車の導入を進めてきましたが、これに加え、近年は電気自動車の導入に注力しています。電気自動車の導入を決断した2010年当時は、まだ軽電気自動車の商用化が進んでいませんでした。そこで、三菱自動車工業株式会社に相談を持ちかけ、試作車を使った集配実証走行試験に共同で取り組むことを決めたのです。この実証データを踏まえて開発されたのが、軽商用電気自動車「MINICAB-MiEV」です。弊社ではすでに100台を発注済みで、2011年度中に30台、2012年度以降に残り70台を配備する予定です。特に、最初の30台は、環境配慮事業を実施するエリアで重点的に活用し、新しい輸送システムのモデルをつくりたいと考えています。

 モデル地区としては、東京・羽田地区と京都・嵐山地区を計画しています。現在、東京・羽田地区では国内最大級となる総合物流ターミナル「羽田クロノゲート」を建設中です。徹底した環境配慮設計を施した新ターミナルは、従来と比べCO2排出量を約46%削減できると試算されています。しかし、ターミナル全体でCO2排出量を削減するには、輸送車両もできる限り環境に配慮したものでなくてはいけません。そこで、同エリアで日中の集配に使用する車両としてCO2排出量ゼロの電気自動車を採用することにしたのです。

 また、京都の嵐山地区においては、2011年5月から、京福電気鉄道株式会社が運営する路面電車「嵐電」を利用した低炭素型集配システムを開始しました。これは、トラック輸送距離を短くするために路面電車へとモーダルシフトして、駅からは弊社のセールスドライバーが台車・新スリーター・電気自動車で配達するという取り組みです。この新しい宅急便輸送により、従来のトラック輸送と比較して年間約30トンのCO2排出量が削減できると見込んでいます。

 弊社では京都だけではなく、札幌でも地下鉄と連携した低炭素型集配システムの実証試験を行いました。これらのプロジェクトのように公共交通機関と協働すれば、車両の使用抑制や低公害車の導入を推進することが可能です。しかし、旅客用に開発された路面電車や地下鉄を貨物で利用するには、運行計画の大幅な変更が必要であり、鉄道会社の全面的な協力が欠かせません。弊社では、今後も鉄道業界との連携を進め、低炭素型集配システムの普及を目指したいと考えています。

「使い方」に関する原則とは、エコドライブを推進する取り組みだと考えてよろしいでしょうか。

 物流における環境負荷というのは、車両の「使い方」次第で大きく変わると考えています。弊社が考える車両の「使い方」において重要な役割を果たすのが、物流環境負荷軽減技術開発賞を受賞したナビゲーションシステム「See-T Navi」です。「See-T Navi」は、日本電気株式会社との共同開発で実現した、環境に優しい安全運転を支援する車載システムです。最大の特徴は、これまで個人の判断に頼っていたエコドライブやアクセル初動、裏通りの低速走行などの運転操作を細部まで「見える化」することです。ドライバーは運転の癖や欠点、エコドライブの効果を自覚するようになり、環境意識が向上します。電子地図に危険エリアや走行禁止エリアを登録しておけば、現地で音声アナウンスによる注意喚起ができるので、事故の防止にもつながります。実験では、CO2排出量が1台当たり約8%削減できるという結果が出ました。また、運用管理者は車載機の記録データからセールスドライバーの運転状況を正確に把握することができ、具体的な指導を行えるようになります。今後は、この「See-T Navi」を全集配車3万2,000台に搭載し、さらなる安全性の向上と環境負荷の低減を目指します。

震災後に発揮されたヤマトのDNA

御社は、東日本大震災の発生後、「宅急便1個につき10円を寄付する」ことをいち早く発表されました。また、震災直後には、現場の方々が自主的な判断で救援物資輸送活動に動かれたとも伺っています。これは経営と現場の信頼関係があればこそだと思いますが、こうした御社の企業文化はどこから来ているのでしょうか。

 救援物資の輸送や寄付、ボランティア活動など、一連の震災対応は、長い間受け継がれてきたヤマトのDNAを語らずに説明することはできません。弊社には創業者である小倉康臣がつくった「ヤマトは我なり」という社訓があります。これは、一人ひとりの社員が会社の代表であるという思いを表したもので、創業以来、脈々と伝えられてきた企業理念です。歴代の社長は、お客さまのために、そして社会のために、よりよいサービスを提供し続けることを目指し、常にこの「全員経営」の精神を社員に説いてきました。私も就任以来こうしたヤマトのDNAを「為さざるの罪」という言葉で訴え続けています。日常業務での権限違反は組織として認められませんが、社員が正しいと思ってチャレンジした結果、間違いが起きたとしても、それをとがめることはありません。ヤマトの社員には失敗を恐れずまず行動を起こしてほしいと願っています。

 震災発生直後は、情報が遮断され状況の把握すらできず、現場へ指示を出しようがありませんでした。一方、被災地では、全国から救援物資が届いているにもかかわらず集積所の混乱により、必要な物資が被災者に届かないという事態が起きていました。この問題に現地の社員がいち早く気づき、自治体に救援物資輸送の協力を申し出たのです。本社との連絡が取れない状況ながら、彼らはヤマトのDNA、我々が考えてきた社会貢献の在り方や地域密着への思いを自らの行動で示してくれました。これは大変喜ばしいことです。こうした社員の取り組みがあったからこそ、後に社員500人、車両200台からなる「救援物資輸送協力隊」という組織的なサポートを実現できたのです。

 さらに、企業として何ができるかを考えたとき、私の頭をよぎったのは、創業者の後を引き継ぎ「宅急便の生みの親」となった小倉昌男なら何をしたかという思いでした。小倉さんが残した「全員経営」「世のため人のため」という企業理念をどうしたら実現できるのか。理念と実践のギャップとよくいわれますが、理念だけでないことを社員に示さなくてはいけない、と考えました。こうした思いから「宅急便1個につき10円の寄付を1年間継続すること」を決めました。復興支援への寄付は社会への恩返しですが、私の中では社員へのメッセージも込めたつもりです。

従来、日本での寄付というと1回限りで、支援先と長期間の関係性を継続する企業はほとんどありませんでした。今回の寄付は、無税化したこと、寄付額とその用途を公表した点が画期的だと感じました。

 1年間で約140億円に達すると見込まれる寄付額は、弊社の年間純利益の約4割に相当します。このお金をどこに寄付し、どう役立てていただくかは、非常に悩ましい問題でした。日本赤十字社に寄付すれば有意義に使っていただけるでしょうが、全国から寄せられた膨大な寄付金と一緒になってしまい、弊社の寄付金がどのような用途で使われたのかが見えなくなってしまいます。弊社のような営利組織が売り上げから多額の寄付金を供出した以上、その使途を明確に示せなくては、株主をはじめステークホルダーの理解が得られません。

 悩んだ末に辿りついたのが、公益財団法人「ヤマト福祉財団」へ全額寄付する方法でした。この組織が、すべての寄付金を被災地の生活復興と水産業・農業の再生事業に役立てることを明言し、第三者の専門家で構成する「東日本大震災 復興支援選考委員会」での寄付先の検討から寄付後のフォローまで、その過程を公開することによって、使途を透明化することができました。無税化にこだわったのは、最後の1円まで被災地復興に役立てていただきたいと考えたからです。財務省との調整は1カ月以上の時間を要しましたが、さまざまな方面から理解と支援をいただき、非課税で寄付できる「指定寄附金」として承認を得ることができました。今後、このスキームが広まり、日本に寄付文化が根づけば、今まで以上に民間企業による社会貢献が進むはずだと考えています。

これからの被災地復興や地域活性化の支援は、行政だけではなく民間の力がますます重要になってきますね。

 震災では、サプライチェーンの寸断や支援物資の滞留などが大きな問題となりました。これは、物流の担い手である我々が解決しなければならない課題です。現在、国内では業界が一丸となって、災害時の物流プラットフォームや支援物資の共同備蓄など、新しいネットワークづくりを進めています。また、弊社では、以前から過疎や高齢化が進む地域の生活弱者に生活用品を配達するサービスに取り組んできました。こうした仕組みを被災地でも普及させることができれば、復興のお役に立てると考えています。

 今後は地方自治体との連携を強化しつつ、民間の活力を生かした支援活動を続けていきたいと考えています。


【聞き手】
三井住友銀行経営企画部CSR室長 條 晴一
日本総合研究所主任研究員 井上 岳一

木川 眞(きがわ まこと)

Profile

木川 眞(きがわ まこと)
1973年に一橋大学商学部を卒業し、株式会社富士銀行へ入行。株式会社みずほコーポレート銀行常務取締役などを務めた後、2005年にヤマト運輸株式会社へ入社。2011年4月よりヤマトホールディングス株式会社代表取締役社長とヤマト運輸株式会社取締役会長を兼任する。



会社概要

ヤマトホールディングス株式会社

創立
1919年
本社
東京都中央区銀座2-16-10
資本金
1,272億3,400万円
代表者
代表取締役社長 木川 眞
事業内容
デリバリー事業、BIZ-ロジ事業、ホームコンビニエンス事業、e-ビジネス事業、フィナンシャル事業、トラックメンテナンス事業など
ホームページ
URL:http://www.yamato-hd.co.jp/

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.92(2011年11月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。


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