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環境先進企業トップインタビュー

化学の力を通じて、社会の持続可能な発展に貢献するサステイナブル・ケミストリーを実践しています。住友化学株式会社 代表取締役社長 十倉 雅和氏

持続可能な社会づくりに化学の力を

御社が提唱されている「サステイナブル・ケミストリー」という言葉、夢があってとてもよいですね。まずはこの言葉の背景にある思いからお聞かせ下さい。

 「サステイナブル・ケミストリー」とは、化学の力を通じて、人々の生活に有用な高品質・高付加価値の製品を、環境や社会により望ましい形(省エネ、省資源、低環境負荷)で継続して提供していくという考え方です。

 化学産業は、衣・食・住にかかわる多種多様な製品や幅広い産業に必要な製品を供給し、技術革新を通じて産業・社会の発展に貢献してきました。現在、私たちが抱えているエネルギー、資源、環境問題などの地球規模の課題を解決する上で、化学産業の果たすべき役割はいっそう大きくなっています。また、エネルギー・資源に恵まれない我が国の化学産業においては、エネルギー・資源投入の最小化は競争力の強化に直結するのです。

 「サステイナブル・ケミストリー」の実践には、科学に裏づけされた確かな技術が必要です。これに対し、弊社では「創造的ハイブリッド・ケミストリー」という考え方で、独自技術に大きな広がりと深い奥行きを持たせてきました。「創造的ハイブリッド・ケミストリー」とは、技術やノウハウ、個人の発想、価値観において、社内外を問わない連携・融合を図り、既存の枠にとらわれない新たな価値を生み出すという弊社独自の考え方です。

 この理念に基づき、最小限の資源・エネルギーの投入で、より効果的かつ効率的に製品を製造し、排水・排ガス・固形廃棄物などの環境負荷物質の排出を最小限に抑制する製造プロセス「グリーンプロセス」や、環境・安全・品質により配慮した製品「クリーンプロダクト」の開発に注力しています。

「創造的ハイブリッド・ケミストリー」の具体例を、ご紹介いただけますでしょうか。

 独自開発の触媒を活用し、強い競争力と低い環境負荷を実現したプラントを2例ご紹介します。

 合成繊維の原料、カプロラクタムを生産する愛媛工場のプラントは、従来の製法では、製品1トンあたり1.6?4.0トン発生していた副生品(硫安)を完全に抑制するとともに、大幅な原料の使用量削減と製造工程の短縮を実現しました。また、ポリウレタンなどの原料、プロピレンオキサイドを生産する千葉工場のプラントでは、従来の製法によればスチレンモノマーを併産していましたが、プロピレンオキサイドだけをつくり出す方法を確立するとともに、反応で生じた熱を有効利用して大幅な省エネを実現しました。

 これらはいずれも、弊社の高い保有技術が省エネ・省資源に資するとともに競争力強化にも寄与した代表例で、まさに「創造的ハイブリッド・ケミストリー」による「サステイナブル・ケミストリー」の具現化といっていいでしょう。

レスポンシブル・ケアを積極的に推進

御社がCSRの中心的な柱として位置づけている「レスポンシブル・ケア」とはどのような考え方なのでしょうか。

 「レスポンシブル・ケア」とは、化学産業に携わる事業者が自己決定、自己責任の原則に基づき、化学物質の開発から製造、物流、使用、最終消費を経て廃棄に至るすべての過程で、安全・環境・健康を確保するとともに高い品質の維持・向上を図る自主管理活動です。また、その成果を社会へ公表し社会との対話を図ることで社会の信頼を深めていく活動でもあります。

 「レスポンシブル・ケア」は、1985年にカナダで誕生し、現在では世界の50カ国以上の国と地域で活動が行われています。日本では1995年に日本レスポンシブル・ケア協議会が設立され、弊社は設立と同時に協議会へ加盟し、今日までグループを挙げて「レスポンシブル・ケア」の充実・推進に取り組んできました。

 実際の活動は「保安防災」「労働安全衛生」「環境保全」「化学品安全」および「品質保証」の5分野で行っています。分野ごとの重点事項を「レスポンシブル・ケア活動方針」として定め、この方針に基づき、毎年、全社ならびに各事業所で具体的な活動目標や計画を策定し活動に反映させています。

安全に安心して使える化学製品のために

「エコ・ファーストの約束」では、年間1トン以上製造・販売している御社の全製品に対してリスク評価を実施するとともに、リスクコミュニケーションにも積極的に取り組むと宣言されています。これは世界的にも画期的な取り組みだと思います。

 弊社では2008年に化学物質や地球温暖化に影響を及ぼすエネルギー等の管理に関して、チャレンジングな改善目標を設定した「エコ・ファーストの約束」を環境大臣と交わしました。その柱となる活動の1つが、化学物質管理に関する約束です。

 弊社は総合化学メーカーであり、取り扱う化学物質の数は、数量1トン以上のものだけに限定しても数百に及びます。生活を豊かにする化学製品は、その機能や性能に目がいきがちですが、それ以前に消費者の皆さまがより安全に、安心してお使いいただけることが何より大切です。そこで「年間1トン以上製造・販売している弊社の全製品の安全性に関する情報の再評価に努め、さらにリスク評価を行う」ことを環境大臣に約束したのです。

 具体的な安全性評価としては、先見的に2005年より既知見情報整備プログラム(通称、住化チャレンジ)がスタートしています。このプログラムは弊社が製造する物質について、自社で取得した有害性情報に加え、既知見も網羅的に調査して信頼性を精査し、取り扱う化学物質に関する有害性情報を整備、充実させるものです。さらに、この結果を自社製品のリスク評価に活用し、化学物質の自主管理に役立てています。現在、弊社が製造・販売する年間1トン以上の物質について、その半数以上の評価を終えました。

 リスク評価については、2010年度からICCA(国際化学工業協会協議会)の考え方に準じて行っています。現在、有害性の評価を終えたものから、順次、新たなリスク評価方法に基づく再評価を進めております。また、弊社は、国内トップレベルの安全性研究や防災研究を行っている生物環境科学研究所および生産技術センターを有しております。今後もこれら社内の豊富な知見や先端技術も最大限に活用し、化学物質の製造・使用が人の健康および環境にもたらす悪影響を最小化するための取り組みを進めてまいります。

農業を再生するためのソリューション

近年、農業分野でも環境保全型農業や有機農業への関心が高まっていますが、「トータル・ソリューション・プロバイダー」としての御社の具体的な取り組みを教えて下さい。

 弊社では農薬事業をはじめ、種子・苗、肥料、その他の農業資材の供給から、高付加価値の農産物を生産するノウハウや環境保全型農業を実現する技術や資材の提供まで、農業の「トータル・ソリューション・プロバイダー」として、日本の農業経営を総合的に支援すると同時に、農業経営を通じた社会貢献活動を推進しています。

その具体的な取り組みが、農業法人「住化ファーム」による農産物の生産・販売ですね。

 2009年に「住化ファーム長野(イチゴ)」および「住化ファームおおいた(トマト)」を設立したのを皮切りに、2011年には「サンライズファーム西条(レタスなど)」および「住化ファーム山形(トマト)」を設立。現在は「住化ファーム三重(ミツバなど)」を準備中です。

 「住化ファーム」の狙いは、自身が生産者として農業を牽引することではありません。新しい農業の実現に向けた実験・実証を通じて地域農業を活性化し、同じ志を持つ農業生産者とともにこれからの農業を活性化することを目指しています。「住化ファーム」各社は、工場で培われた工程管理を農業に応用することで高品質・高付加価値の栽培技術を確立するとともに、流通・販売の分野で新しいチャネルを作ることを目指しており、こうした成果を全国の生産者にノウハウとして還元していきます。農場経営は耕作放棄地の復活や雇用の創出にもつながり、課題となっている後継者不足の解消にも貢献するものと考えています。

収穫された作物は、どのようなルートで販売されるのですか。

 「住化ファーム」で育ったトマトやイチゴは、スーパーやデパートで「純果育ち(すみかそだち)」というブランドで販売されています。見た目や味ばかりではなく、天候などに左右されない安定した品質や供給体制が市場で高い評価をいただいています。今後は「住化ファーム」の取り組みをさらに拡大し、関係の皆さまと協力しながら日本各地へ展開していく計画です。

 弊社は、こうしたことを通じて地域農業のお役に立てればと考えています。

創業以来変わらない「住友の事業精神」を世界へ

多くの企業がグローバル化の中で事業の精神や理念の共有に悩まれていますが、御社ではどのような取り組みをされていますか。

 「住友の事業精神」を表す「自利利他 公私一如」は、「住友の事業は、自身を利するとともに社会を利するものでなければならない」という考えを示し、公益との調和を求めるものです。

 弊社の企業理念は、この「住友の事業精神」を根本精神としています。そもそも弊社の歴史は、1913年の「住友肥料製造所」設立に始まりますが、これは銅の精錬時に生じる有害な亜硫酸ガスを回収して肥料(過リン酸石灰)を生産し、環境問題(煙害)を克服するとともに農業生産性を向上させることを目的としたものでした。このように弊社は、創業当初から事業を通じて社会の持続可能な発展に寄与するという信念がDNAとして根づいているのです。

 一方、事業のグローバル化に伴ってさまざまな国籍のメンバーが増加しており、文化や価値観の多様化が進み、おっしゃるように事業精神や理念の共有が課題となってきました。この課題に対し弊社では、すべてのメンバーが目指すべき方向性を共有できるよう、住友の事業精神を踏まえた次のような経営理念を制定しました。

 『住友化学は、(1)技術を基盤とした新しい価値の創造に常に挑戦します。(2)事業活動を通じて人類社会の発展に貢献します。(3)活力にあふれ社会から信頼される企業風土を醸成します。』

 また、企業価値の向上や企業イメージを高めるコーポレートステートメントと、コーポレートスローガン「豊かな明日を支える創造的ハイブリッド・ケミストリー」も策定し、「ステートメント・ブック」と題した小冊子に取りまとめて全従業員に配布しました。こうして一人ひとりのメンバーが経営理念やコーポレートスローガン・ステートメントを共有することで、住友化学グループの一員であるという強い自覚を持ち、一丸となって業務に取り組むことができる、と考えています。

アフリカの自立的な経済発展に貢献

「オリセット® ネット」は、世界的に賞賛される素晴らしい取り組みです。単なる製品のよさだけでなく、現地に技術供与し、雇用創出に役立てるなど、ソーシャルイノベーションを生んでいる点が「世界を変えるデザイン」となっています。途上国の人々が本当に求めているのは、高い環境製品を買わされることではなく、このような日本の技術供与とセットになった雇用の創出なのだと思います。

 防虫剤を練り込んだ樹脂の糸で織られた蚊帳「オリセットネット」は、マラリア感染予防の決め手として注目されています。アフリカではサハラ砂漠以南を中心に、毎年80万人がマラリアで亡くなっているといわれており、このことが経済発展を阻害し貧困を招く大きな要因となっています。

 「オリセットネット」は、耐久性に優れ、洗濯しても防虫効果が5年以上持続する点が特徴で、経済的かつ効果的に、マラリアを媒介する「羽斑蚊(ハマダラカ)」から身を守ることができます。この点が高く評価され、2001年からWHOにより使用を推奨されています。これも、異なる分野の保有技術を融合させる「創造的ハイブリッド・ケミストリー」から生まれた製品であり、製品寿命が長く処理に伴う環境負荷を低減できる「クリーンプロダクト」の実現例といえます。

 現在、タンザニア、ベトナム、中国を拠点に年間6,000万張の生産能力を有しています。特にタンザニアでは、現地の蚊帳メーカーと協力して現地生産を行い、約7,000名の雇用を生み出し、地域経済の発展にも寄与しています。また、事業収益の一部を現地の学校建設や整備など教育活動の支援に充てることで、アフリカ経済の将来を担う子どもたちの育成にも努めています。

 アフリカ支援は、持続可能な成長を実現するため、国際社会が優先的に取り組むべき重要課題の1つですが、その中で日本の果たす役割にいっそう期待が高まっていると思います。弊社は、単なる一時的な技術支援や経済援助ではなく、本業を通じて社会に貢献することこそが企業の社会的責任であると考えており、「オリセットネット」の事業展開を息の長い取り組みとして継続することで、自社利益を追求するばかりではなく、現地アフリカの自立的な経済発展に貢献したいと考えています。


【聞き手】
三井住友銀行常務執行役員 三浦 芳美
三井住友銀行経営企画部CSR室長 條 晴一
日本総合研究所主任研究員 井上 岳一

十倉 雅和(とくら まさかず)

Profile

十倉 雅和(とくら まさかず)
1950年生まれ。1974年3月東京大学経済学部卒業、同年4月住友化学工業株式会社(現住友化学株式会社)入社。2003年執行役員、2006年常務執行役員、2008年代表取締役常務執行役員、2009年代表取締役専務執行役員を経て、2011年4月より代表取締役社長を務める。



会社概要

住友化学株式会社

創立
1925年6月(創業1913年9月)
本社
東京都中央区新川2-27-1
資本金
896億9,900万円
代表者
代表取締役社長 十倉 雅和
事業内容
基礎化学、石油化学、情報電子化学、健康・農業関連、医薬品、その他製品の製造・販売
ホームページ
http://www.sumitomo-chem.co.jp/

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.93(2012年1月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。


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