環境ビジネス情報

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環境先進企業トップインタビュー

公共インフラを支える企業の責務、そして経営戦略として、お客さまや地域に喜ばれる環境配慮型ビルの提供を目指します。 平和不動産株式会社 代表取締役社長 吉野 貞雄氏

公共インフラを支える企業として

近年、環境に対する取り組みに注力されていますが、その背景や経緯についてお教えいただけますでしょうか。

弊社は、証券取引所に施設を提供することを目的として1947年に誕生しました。過去60年以上にわたり資本市場のインフラを支えてきたという自負と、その公共性に見合う役割をしたいとの思いが、必然的に環境の取り組みにつながったといえるでしょう。地球温暖化防止やCO2排出量削減が世界共通の社会的課題となる中、公共インフラを支える施設が環境問題を引き起こす要因になってはならないと考えたのです。

現在では、公共インフラだけでなく、オフィスビルなど不動産の賃貸、住宅販売、REITのマネジメントまで事業を拡大していますが、こうした精神は事業全体に引き継がれています。

省エネ、CSRから環境経営戦略へ

ビルの環境性能を高める具体的な取り組みについてご紹介いただけますでしょうか。

特に環境性能を重視して開発した物件としては、「セントライズ栄」「平和不動産北浜ビル」「一番町平和ビル」が挙げられます。まず、弊社が本格的に環境配慮に取り組んだ第1号物件となった「セントライズ栄」を紹介しましょう。名古屋で同ビルの建設計画が始まったのは今から5年ほど前でした。当時、東京都が都内の高層ビルや工場に対してCO2排出量削減義務化の条例を打ち出していました。建設地は東京ではありませんが、今後ビルディング事業で"エコ"を追求していく必要性を強く感じていました。その折、同ビルのデザイン設計を依頼していた安藤忠雄氏より、多数の"エコ"をテーマとした環境技術の提案を受け、採用するに至りました。当時、国内ではほとんど知られていなかった外付けブラインドもその1つです。同ビルに設置した外付けブラインドには、太陽の動きに応じて日射量を自動制御できる機能があります。屋内にブラインドを設置するよりも、日射量を効率的に制御できるため、オフィスの省エネに貢献します。ほかにも日射侵入率を抑制するLow-E複層ガラス、共用部のLED照明、高効率空調機、外気導入装置やビル・エネルギー管理システム(BEMS)の採用、屋上・壁面緑化、雨水・井水の有効利用など、さまざまな工夫を施し、省エネ評価基準ERR(1次エネルギー消費量削減率)30%以上を達成しました。その結果、同ビルは名古屋市建築物環境配慮制度(CASBEE名古屋)で最高位のSランクに認定されたほか、SMBC環境配慮ビルディング評価融資でプラチナという高い評価を受けています。

大阪の「平和不動産北浜ビル」は、2011年10月に竣工しました。このビルは、コア(階段、エレベーター、トイレなどの共用部)を南側に配置することにより、南面の壁を増やして日射熱を遮り、冷房負荷を約20%低減しています。一方、貸室を北側に配置し北面に窓を大きく取ることで、南面の直射日光とは異なる心地よい自然光を室内に取り込めるようにするなど、プランニングの段階からエコを意識しました。同ビルの北側は、水と緑が多い土佐堀川に面しているため、「景色がよすぎて仕事にならない」と言うテナントさまもいらっしゃるほど、快適な環境を用意しています。

弊社初の東北拠点となった仙台の「一番町平和ビル」では、LED照明の全館導入や、Low-E複層ガラス、高効率空調機、BEMSの導入などを実施しました。これらにより、ERR30%以上を実現しただけでなく、NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助金認定を受けることができました。また、"節水"と"緑化"にも配慮しています。"節水"の核となるのは、株式会社木村技研が開発した最先端のトイレシステムです。これはアメリカの環境性能評価基準であるLEED認証の基準を充足した最新のエコ技術で、トイレ洗浄水のおよそ60%の削減が可能です。"緑化"では、環境配慮だけでなく、見た目の美しさにもこだわりました。最近では壁面緑化に取り組むビルが増えていますが、ほとんどの物件では1種類の植物しか使っていません。これに対し、同ビルは、22種類の植物を使ってエントランス付近まで緑化しました。仙台は「杜の都」と称されるほど緑を大事にする地域ですので、周辺環境まで配慮した同ビルは地元の方々から大変喜ばれています。2012年3月にグランドオープンしたばかりですが、今後、仙台の新たなランドマークとして、地域から愛される存在になると期待しています。

評価機関だけでなく、テナントや地域の方々からもご好評を得ている点が素晴らしいですね。

弊社では、環境への取り組みをCSRだけでなく、経営戦略として捉えています。たとえば、省エネの取り組みは、テナントさまの光熱費負担削減にもつながるため、これを理由に弊社を選んでいただくこともあると考えています。ちなみに、これまで紹介したセントライズ栄、平和不動産北浜ビルおよび一番町平和ビルはすべて高稼働率を維持しています。3件の取り組みを通じて、環境への投資は費用以上の評価を得られるとの思いを強くしました。

省エネの鍵となる「協働」

ハード面から建物の環境性能を高めること以外に、ビルオーナーとして注力されていることはありますか。

どのような建物を建設しどのように運用していくかという計画は、ビルオーナーが取り組まなければならない課題です。しかし、計画の実行には、さまざまな主体との連携が重要です。運用段階の省エネ対策として注目されるBEMSを導入しても、データを解析できる専門家がいなければ効果的な省エネ対策を見いだすことはできません。省エネ対策を見いだしたとしても、現場で実行されなければ何の効果も得られません。そのため、設備設計者や機器メーカー、テナント、ビルオーナーが連携して計測データを分析し、改善に向けた知恵を出し合うことが必要です。こうした協働の場をコーディネートし、省エネや節電レベルを計画的に引き上げていくことが、ビルオーナーの役割だと考えています。

弊社が保有する「東京証券取引所ビル」では、2008年度から株式会社東京証券取引所と協力しながら中期修繕計画を進めており、この計画に基づいて設備更新と運用改善に取り組んでいます。環境配慮型設備に置き換えることで東京都条例のCO2削減義務率(年8%)を上回る年11.3%の削減効果を見込んでおり、さらにBEMS導入による運用改善によってプラスアルファの効果を目指しています。一般に、既存ビルは、工事費用がかさんだり、テナントとの工事日程の調整が難しかったりするため、省エネ改修を進めることが困難だといわれています。築20年を超える同ビルでは、テナントである株式会社東京証券取引所との協力体制が評価され、SMBC環境配慮ビルディング評価融資でゴールドの格付けを得ることができました。既存ビルの改修で評価をいただけたことを、我々は大変うれしく感じています。これを励みに、全国各地の既存ビルへも省エネ化の取り組みを拡大していきたいと思っています。

不動産業が社会のためにできること

東日本大震災以降、建物には、今まで以上に防災や節電が求められるようになりましたね。

不動産業を展開する上で、防災や節電は以前から重要なテーマでした。一番町平和ビルが設計されたのは震災前ですが、当初から省エネだけではなく安心・安全を重要なコンセプトとして掲げていました。震災が発生したのは躯体ができあがり外壁に取りかかる矢先のことです。東日本大震災はマグニチュード9.0を記録する巨大地震でしたが、耐震設計法で必要とされる建物耐力(必要保有水平耐力) の1.25倍以上を確保し、さらに制震装置を備えた頑丈な構造が功を奏し、損傷はありませんでした。同ビルは、復興工事の影響で予定より半年遅れましたが、2012年1月、無事竣工することができました。

これまで快適空間の提供を最大の事業課題として取り組んできましたが、震災を体験したことで快適性は利用者の安心・安全が守られていればこそ確保できるものだと再認識しています。また、建物だけでなく、非常食の備えや帰宅難民への支援など、テナントに対する二次災害防止策の重要性も学びました。

震災後、電力供給の不安定な状況が続いたことにより、不動産業界以外の多くの経営者も考え方が変わったように思います。エネルギー問題は、夏場の節電だけではなくて、中長期で取り組まなくてはならない問題です。この分野で不動産業が果たす役割は非常に大きいと考えています。

時代のニーズを先取りし、未来を描く

人口減少や高齢化、災害の頻発など、さまざまな課題がある中、今後の事業展開について御社の描く未来をお教え下さい。

近年、国内でもスマートコミュニティをはじめとする新しい街づくりが始まっています。スマートコミュニティは、住宅や工場、ビル、交通システムなどをITネットワークでつなげ、地域でエネルギーを有効活用する次世代の社会システムです。これは不動産業の将来を示す取り組みになると考えています。エネルギーも、人とのつながりも1カ所で完結せず近隣と共有するというコンセプトは、大規模な街区だけではなく、我々が行うビルディング事業でも重要なテーマになるはずです。今後、BEMSなどを活用しながら、テナントさまとのコミュニティの充実をいっそう図っていきたいと考えています。

現在、千葉県柏市や愛知県豊田市などの地方都市を中心にスマートコミュニティの実証実験が進められていますが、この発想を東京などの大都市に持ち込み、建物の枠を超え近隣の方々と協力する仕組みができないかと考えています。新たな都市モデルをつくり出せれば、エネルギー問題だけではなく、人口減少や高齢化、都市化といったさまざまな社会的課題解決の布石を打てるはずです。証券取引所が所在する東京、大阪、名古屋、福岡などの大都市圏に拠点を持つ弊社の強みを生かして、都市に今までとは違う人の流れをつくりたいと考えています。

不動産業はまさに未来を創造する仕事なのですね。

不動産業の役割は、やはり快適空間の提供に尽きると思います。社会や経済の状況とともに快適性の中身も変化していきますが、この変化にどう対応できるかがポイントです。それは利用者のニーズに応えるだけではなく、利用者のニーズを先取りするという意味も含んでいます。新たな都市モデル創出は壮大な夢ですが、不確実な時代だからこそ夢を大きく持つことが大事だと、私は思います。夢の実現に近づいていけるよう、足元を固めながら将来の礎を築いていきたいと考えています。


【聞き手】
三井住友銀行経営企画部CSR室長 中村 研一
日本総合研究所主任研究員 井上 岳一

吉野 貞雄(よしの さだお)

Profile

吉野 貞雄(よしの さだお)
1967年3月明治大学商学部卒業。同年4月東京証券取引所入所。同所で常務取締役、代表取締役専務を歴任したのち、2007年平和不動産株式会社の代表取締役専務執行役員に就任。2010年6月より代表取締役社長を務める。現在、日本公認会計士協会の理事を兼任。



会社概要

平和不動産株式会社

設立
1947年
本社
東京都中央区日本橋兜町1-10
資本金
214億9,200万円
代表者
代表取締役社長 吉野 貞雄
事業内容
賃貸事業、不動産開発事業、住宅開発事業など
ホームページ
http://www.heiwa-net.co.jp/

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.96(2012年7月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。


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