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環境先進企業トップインタビュー

世界規模の課題である資源の安定供給に貢献することは、時代のニーズに応え、価値創造を目指してきた弊社の責務です。 三井物産株式会社 代表取締役社長 飯島 彰己氏

世界人口の増加と資源問題

持続可能性の鍵は、エネルギー、食糧、資源の確保にあります。御社は、いわば日本という国の持続可能性を支える事業をされてきたわけですが、今後については、どのような戦略を描かれているのでしょうか。

初代社長の益田孝が旧三井物産を1876年に創業した当初から、弊社は時代のニーズに応え、世の中に価値を生む仕事の創造に挑戦してきました。当時、日本の貿易は欧米の列強にほぼ独占されていましたが、これを日本人の手に取り戻し、日本を産業貿易立国へと発展させることが、時代の要請でした。創業後、米の国内流通網の整備や輸出を進め、石炭、綿花、そして機械等の貿易を営み、1930年代以降は注力ビジネスを軽工業から重工業へ転換しました。その後も、時代のニーズの変化に応じて業態を柔軟に進化させながら、新たな価値の創出に努めてきました。現在の弊社の姿は、長い歴史の中で、時代の要請、社会のニーズに応える仕事に挑戦してきた結果だと考えています。

今後、世界人口は増大を続け、2050年には90億人を超えると予想されています。人口増加に伴い、資源、エネルギー、食糧、水など、基礎的物資の供給確保が世界共通の課題となっています。特に、日本では震災以降、原子力発電から火力発電へのシフトが進み、エネルギーの安全保障への関心が高まっています。こうした状況の下、火力発電の中で環境への負荷が比較的少ないLNG(液化天然ガス)火力の燃料を日本に安定供給することは、時代のニーズであり、弊社の責務だと考えています。

コスト競争力に優れたエネルギーの確保は、今後、ますます重要になることが見込まれます。弊社では、中東、ロシア、オーストラリア、米国、アフリカなどさまざまな地域でエネルギー資源の開発に取り組み、供給源の分散化・多様化を進めていますが、その中で特に大規模なものとしてモザンビークでのガス田開発プロジェクトがあります。モザンビークでは、リスクの高い探鉱段階から開発に参画していますので、コスト競争力の高いエネルギー資源の確保が期待できます。

世界人口の増加は、食糧分野にも大きな影響を与えますね

新興国の経済成長に伴い、食糧の需要は量だけではなく、質にも変化が生じています。たとえば、米や野菜中心の食生活から肉食への転換が進むということです。量の拡大、質の変化により、飼料用も含めた食糧需要が爆発的に増大する一方で、食糧の産地は地球上に偏在しており、需給ギャップがいっそう広がってきます。世界の人口増加や新興国の経済成長に伴う食糧問題を解決し、食の安心・安全を担保することも、弊社の重要な使命です。

現在、弊社は、ブラジルでマルチグレインAG社を通じて、東京都のほぼ半分に相当する約12万ヘクタールの土地を保有し農業ビジネスに取り組んでいます。農業ビジネスは、天候や害虫などのリスクを伴いますが、リスクを乗り越えて経験を重ね、食糧問題の解決という世界規模のニーズに応えるべくノウハウを蓄積しています。

「時代のニーズ」といったとき、おおよそ何年先を見据えていらっしゃるのでしょうか。

たとえば、資源・エネルギー開発では、探鉱から商業生産まで20年以上かかることも珍しくありません。実際、サハリンのプロジェクトは1980年代後半に調査を開始しましたが、最終的にLNGを出荷できたのは2009年でした。ローブ・リバー(オーストラリア)の鉄鉱石開発事業は、1962年に検討を開始し、初出荷が1972年で、利益が継続して出るようになったのは1980年代前半です。資源・エネルギー関連のプロジェクトは、必要になったからといってすぐ手に入るものではなく、10年先、20年先を見越し、腰を据えて取り組む案件です。

震災復興と日本経済活性化への貢献

人口が縮小する日本では、食糧もエネルギーも需要は減っていくはずです。日本への供給確保を前提に進めてきたビジネスは、今後、どのように変わっていくのでしょうか。

日本の人口は縮小傾向にありますが、世界人口は増加の一途を辿っています。世界的視点に立てば、人口も市場も拡大するという潮流は何ら変わらないということです。そうした中で、日本市場への安定供給に事業の軸足を置き、一方で拡大する世界市場を見据えていく弊社のスタンスに変わりはありません。これまでに手掛けたサハリンのLNGもローブ・リバーの鉄鉱石も、当初は日本市場への資源供給を軸に事業開発を進めてきましたが、現在では、新興市場の拡大に伴い新興国への輸出も行っています。

今後は、海外での事業がますます増えていくと思いますが、海外での事業活動で得た利益を日本に還流させ、日本で新たな事業を興していくことが必要だと思います。

それが、国内ビジネス推進室とイノベーション推進室の設立につながったのですね。

海外の活力を取り込み、国内の潜在需要を掘り起こして次世代ビジネスを開拓し、日本経済を活性化することが重要だと考えています。その一環として、東日本大震災を機に、日本の経済活性化に向けた施策を推進する「国内ビジネス推進室」を設立し、2012年4月には次世代の新たなビジネスを世界中の研究機関などと連携しながら創出するために「イノベーション推進室」を立ち上げました。国内ビジネス推進室は、当初は震災復興支援が中心でしたが、今では、日本各地で地域を活性化させるビジネスにまで活動領域を広げています。日本全国には、環境・医療・介護・教育・観光など、新たな事業や産業を興す余地がまだまだたくさんあり、こうした潜在的な案件を掘り起こし、地域経済の活性化をお手伝いさせていただくことも、弊社の社会的使命だと思っています。

国内の新たなビジネス分野に農林水産業は入ってくるのでしょうか。

農林水産業も重要な分野の1つです。地域経済を支える農林水産業の活性化、関連地場産業の振興、そして農産物や農業の海外市場への展開等について、弊社として取り組んでまいります。国内ビジネス推進室、全国11拠点の国内支社支店が牽引役となり、さまざまな案件に取り組んでいます。たとえば北海道、九州における先進的な農業法人との取り組みや、東北における水産加工業の復興支援など、中長期的な視点で新たなビジネスをつくっています。先ほどお話ししたブラジルの大規模農業プロジェクトでも、ビジネスを通じて得た知見を国内の農業ビジネスに活かすことを視野に入れています。

地球環境保護と企業の社会的責任

震災復興では早い時期に支援金の提供を発表されました。

2005年7月に、地球環境問題の解決に向けてNPO・大学などの活動・研究を支援・促進する「三井物産環境基金」を立ち上げました。この基金を使って、従来の一般助成に加え、震災復興に関わる活動・研究に対する助成も開始しました。これまでに放射能除染の研究をはじめ、さまざまな活動に基金を活用いただいています。今後も地球環境保全の活動や研究を推進しながら、被災地のニーズに基づいた支援を続けていく予定です。

環境活動という点では、御社は広大な社有林をお持ちですね。どのように活用されているのでしょうか。

弊社は、全国74カ所、総面積約4万4,000ヘクタールの森林を保有し、すべての森林に対しFSC(Forest Stewardship Council)の認証を取得しています。森との関わりは100年以上に及び、環境保全と林業の両立を目指した森づくりに取り組んでいます。現在、国内の林業は厳しい状況にあり、弊社でも森林の管理費用は持ち出しになっていますが、徐々に赤字は減少しています。木材利用が減少し、事業の収益性は低下していますが、森林には事業だけでは測れない価値があります。それは、CO2の吸収や、水源涵養、土壌保全、生物多様性の確保などに代表される公益的価値です。営利企業である以上、採算を考えないわけではありませんが、森林が持つ公益的価値を評価することも重要だと考えています。

弊社は森林の活用に積極的に取り組んでいます。具体的には、子どもたちに森の大切さや自然とのつながりについて学んでもらう「森林環境プログラム」や「林業に関する出前授業」を開催しています。また、「三井物産の森」を使って被災した子どもたちの心のケアを行うキャンプなどを行いました。株主さんを招待する森林プログラムを年2回開催しているのですが、毎回応募が多すぎて対応しきれない状況です。ほかにも、森林活動を通じて新入社員の研修を行うなど、いろいろな形で森林を利用しています。

「人の三井」を支える人材教育

先を読むことが難しい時代の中で、グローバルにビジネスを展開するには、何よりも「世界を観る力」が求められます。「人の三井」と称される御社ですが、人づくりにおいてはどのようなことを心掛けているのでしょうか。

三井物産の最も重要な資産は人であると考えています。これから先、世の中がどう変化しようと、人さえ鍛えておけば、世の中の変化に合わせて業態を柔軟に進化させることができます。

弊社における人材育成の基本はOJTです。刺激と緊張感を与えながら現場で鍛えることが基本となります。元会長の橋本栄一が残した「人が仕事をつくり、仕事が人を磨く」という言葉に、弊社の人材教育の理念が凝縮されています。

旧三井物産時代の1891年から実施している海外語学修業生制度は、今も脈々と受け継がれています。これまでに25カ国で、2,000人以上の社員がこの研修を経験しました。この研修は語学を覚えるだけではなく、各々の国・地域の文化や習慣を学び、研修後も派遣された地域に深く入り込んだビジネスを展開することを目的としています。研修制度のおかげで、社内にさまざまな国の言葉を話せる人材が揃いました。このようなグローバル人材を分厚く擁していることが、弊社の武器であり、他社との差別化要因になっています。

最近始めたのは、ハーバードビジネススクールと提携したグローバルリーダー育成研修です。これは、国内採用の社員と、海外の現地法人や関係会社の社員、そしてダウ・ケミカルやヴァーレなどのパートナー企業の社員が参加し、日本で1週間、ボストンで2週間、寝泊まりしながら議論を交わし、切磋琢磨する次世代リーダーの養成研修です。国や文化の違う参加者が議論をぶつけ合うことで、社員は大きな刺激を受けています。研修に参加した社員が、自信あふれる表情で帰ってくることからも、その充実度がよくわかります。

人材育成においては、スキルとナレッジばかりを鍛えるのではなく、「心技のバランス」が大事です。倫理観や向上心、感謝する気持ち、謙虚さなどを身に付けさせる教育も、併せて実施しなくてはいけません。

「心技のバランス」はどのようにすれば身に付くのでしょう。

研修所に異業種や異なる経験を積んだ方を招き、話を伺う機会を設けています。これまでに、僧侶や自衛隊員の方、将棋の羽生善治さん、柔道の山下泰裕さんなど、さまざまな方をお招きしてきました。実は、こうした一連の活動は、過去の反省から始まっています。以前は、仕事だけ、ノウハウだけ、スキルだけに長けた人材を育成する傾向があり、その結果、いくつかのコンプライアンス違反が発生してしまいました。こうした反省を踏まえ、仕事のスキルだけではなく、哲学や教養、心の問題まで考える、いわゆるリベラルアーツ教育を取り入れるようになったのです。

そのような思いを社員の方にお話しされることはあるのでしょうか。

話しますね。社員とは重層的なコミュニケーションをするように心掛けています。月に1回、私を含め、500〜600人の役職員が地下食堂に集まり、アクティブトークというコミュニケーションの会を開催しています。また、年間15回ほど、十数名の社員を集めてランチを食べながらコミュニケーションをとっていますし、海外に行けば、現地法人の社員たちと積極的に話すようにしています。

近年のビジネスは効率重視で、コミュニケーションがおろそかになっている気がします。

一時のビジネスならば、効率重視でいいでしょう。しかし、長くお付き合いする場合、そうはいきません。大事なことは、お互いの価値観、理念を共有することです。私自身、新たなお客様とお付き合いするときは、必ずトップとお会いし、Face to Faceのコミュニケーションを心掛け、価値観・理念を共有するようにしています

GEのジェフリー・イメルトCEOや、マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOなど、さまざまな企業のトップとお会いしていますし、各国首脳とも機会あるごとに個別に面談しています。各国首脳との面談では、その国の役に立ち、その国・地域の発展に貢献できる仕事が何かというお話をするようにしています。その上で、その国の発展に資する意義ある仕事に取り組むように努めています。

私は、ある意味、人との出会いは本を読むことと一緒だと思っています。本を読むことは作者の体験を追体験することです。さまざまな経験をした人と会うことは、お互いの経験をシェアすることなのだと思います。重層的なコミュニケーションを通じて、経験をシェアし合えば、言葉や文化の壁を越えた信頼関係を築けるはずだと考えています。


【聞き手】
三井住友銀行経営企画部CSR室長 中村 研一
日本総合研究所主任研究員 井上 岳一

飯島 彰己(いいじま まさみ)

Profile

飯島 彰己(いいじま まさみ)
1950年、神奈川県生まれ。1974年横浜国立大学経営学部卒業後、三井物産株式会社入社。以来一貫して製鋼原料畑を歩む。1990年から英国三井物産に配属されたほか、海外では若手時代に研修員として南アフリカ共和国に短期間滞在したこともある。2006年に執行役員、2008年には6月に代表取締役常務、10月に同専務を経て2009年から現職。モットーは「礼儀正しく紳士たれ」。



会社概要

三井物産株式会社

設立
1947年
本社
東京都千代田区大手町1-2-1
資本金
341,481,648,946円
代表者
代表取締役社長 飯島 彰己
事業内容
世界規模で多角的な事業を展開する総合商社
ホームページ
http://www.mitsui.com/jp/ja/

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.99(2013年1月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。


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