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環境先進企業トップインタビュー

創刊100号記念 特別対談 「環境と金融」の現在と未来 国連環境計画・金融イニシアティブ 特別顧問 末吉 竹二郎氏×株式会社日本総合研究所 理事 足達 英一郎

環境と金融の関わり

末吉:1996年といえば、「持続可能性」という言葉さえそれほど普及していなかった時代です。その時代に「SAFE」を創刊し、100号まで続けてこられたことに、心から敬意を表します。

足達:過分なメッセージを頂戴し恐縮です。ただ、足かけ18年になりますが、その間、社会が地球の持続可能性を回復できたのかというと、必ずしも楽観できないとの思いがあります。末吉さんは、どのようにお考えでしょうか。

末吉:銀行や企業、社会すべてにおいて、環境対応は進んだと思います。その理由は明白で、地球温暖化をはじめ環境問題が顕在化し、やらざるを得なくなったからです。しかし、まだ十分とはいえません。第1ステージはうまくスタートしましたが、これから始まる第2、第3ステージこそが問題です。

足達:末吉さんは、日興アセットマネジメントで「エコファンド」の誕生に携わられましたね。あれは金融商品に"エコ"というキーワードを付けたエポックメイキングな商品でした。

末吉:2000年秋にフランクフルトで開かれたUNEP FIの国際会議で、僕はエコファンドの成果を「うれしい誤算」と紹介しました。エコファンド最大の成功は、投資未経験者、女性、若者という証券商品開発における一番重要なターゲットを開拓できたことです。このとき、僕はエコロジーが秘める大きなポテンシャルに気づかされたのです。  また、このとき参加した国際会議は、僕が環境と金融に携わる分岐点となりました。ホストを務めたドイツ銀行のブロイヤー頭取(当時)の話を聞いているとき、僕の脳裏には丸の内の風景が浮かんでいました。当時の日本は、いわゆる「失われた10年」の最中にあり、銀行の不良資産が増え、リストラが進められ、銀行員はみんな疲弊しきっていました。日本がこうした状況に置かれているとき、地球の裏側では、「金融機関は自己責任において環境問題に取り組む必要がある。環境問題に取り組むことが、銀行のビジネスを広げることになる」と、力強い議論が繰り広げられていたのです。その話を聞きながら、日本の金融界には環境をテーマに自分の言葉でこれほど語れる人がいるだろうか、この格差を早急に埋めないと日本の金融機関は欧米に1周どころか、2周も、3周も遅れてしまうとの思いに駆られたのです。

足達:その思いが、2003年にUNEP FI国際会議を東京へ招致する活動につながるのですね。

末吉:それまでUNEP FIの国際会議は、アジアで開かれたことがありませんでした。当時、国内の産業界では公害問題をはじめ環境への取り組みが進んでいましたが、金融界では、環境問題は自分たちの業務と関わりがないと思われていました。そのような状況下で、三井住友銀行や日本政策投資銀行が熱心にサポートしてくださり、東京会議を開催できました。あれが、日本で環境と金融を考える、1つのキックオフになったのではないでしょうか。

世界と危機感を共有する

足達:UNEP FIの活動に参加して驚かされたのは、とかく市場原理主義者などと形容される欧米の金融機関が、現状を放置した場合に生じる内部管理的なリスクや、市民社会から批判を受けるリスクに対して非常に敏感であるということでした。

末吉:これは金融だけではなく、社会の違いかもしれません。欧米社会は、地球や世界をどうするべきか考えることが、非常に得意です。言い方を変えれば、欧米が近代社会をリードしてきたとの自負があるため、自分たちが不利にならないように地球を経営したいという視点を持っているのです。そうした感覚に、日本は積極的になれていませんよね。今、日本社会あるいは金融機関に求めたいのは、世界と危機感を共有できるのか、しなくていいのかという問題意識ですね。しっかり危機感を共有し、そこにあるリスクを認識する。そうすれば、リスクの回避あるいは軽減のために、何をするべきか見えてくるはずです。そこにかかるコストは、当然、負担しなければいけません。このコストは、次なる世界への投資であり、それ自体がビジネスチャンスにつながるからです。

足達:日本は、危機感の共有も得意ではなく、高邁なビジョンも語らず、ビジネスの成否だけを追求してきたため、時代とのギャップが生じてしまったのかもしれません。環境や持続可能性を含め、健全なビジネスには健全な社会という土台が欠かせないことを認識するべきなのでしょうね。

末吉:2002年、UNEP FIは、「気候変動は世界経済にとって大きなリスクになる」と警鐘を鳴らすオピニオン・ペーパーを発表しました。あれから約10年が過ぎ、近年では、タイの大洪水やアメリカのハリケーン・サンディなどが発生し、懸念が現実になりつつあります。実際にアメリカでは、自然災害の影響で中小の保険会社が数多く倒産しています。
 金融に限らず、すべてのビジネスは、自然資本からのサービスなしにはあり得ません。自然資本を元本と金利に仕分けするならば、これまでは、金利の中だけでサービスを生み出すことができました。ところが、今は金利が不足し、元本を食い始めています。このまま、元本を減らし続けていったら、いずれ全損してしまうかもしれません。サービス、インタレストを生む資本そのものが毀損されている状況で、これからもビジネスを続けることができるのでしょうか。

足達:従来からWWFが、フットプリントや「宇宙船地球号」等で警鐘を鳴らしていましたが、それがビジネスそのものの効率性やコストに絡むところまで切羽詰まってきたということですね。

末吉:社会そのものの基盤に毀損が始まっているとすれば、それを見逃したままの銀行業に将来はないでしょう。以前、バンク・オブ・アメリカの会長は「病気の地域では、よい金融ビジネスはあり得ない。地域が病気になれば、銀行も病気になる」と話していました。

足達:そこまでの危機感というのは、さすがにまだ日本の金融機関から耳にすることはありませんね。

同時多発的に発生する地球規模の問題

足達:2002年のヨハネスブルグ・サミット以降、国際的な議論の場では「環境」という言葉から「持続可能性」にキーワードが移ってきました。

末吉:「持続可能性」がテーマとなり、議論の間口が非常に広がりました。これは象徴的な話で、近年、国際社会は、気候変動や生物多様性に加え、エネルギーや水、食糧などの資源問題、さらに貧困や格差といった社会問題も抱えています。自然界と社会の両面において、地球規模の問題が同時多発的に発生し、かつその問題の質も大きく変化しています。そういった問題に多面的に対応しなくてはいけなくなってきました。

足達:環境や持続可能性まで手が回らない状況をつくり出した責任の一端は、金融機関も負っていると認めざるを得ません。リーマン・ショックしかり、欧州の金融・経済危機しかりです。この数年、世界の持続可能性に向けた熱意は明らかに停滞しているように見えます。

末吉:持続可能な社会の構築には総力戦で臨む必要があります。社会の中で重要なインフラを担う金融がどのように対応すべきか。今はそれが問われているわけです。

規制は低きより高きに流れる

足達:国内の銀行、特にメガバンクは日本のマーケット縮小に対応して、アジアに向かっていますが、旧来型の感覚でアジアへ出て行くとすれば、問題はないでしょうか。

末吉:1980年代、僕がバンコクにいたころ、自動車や冷蔵庫は原料と技術がなければビジネスが起こせないが、金融ビジネスは紙と鉛筆さえあれば、一夜で起こせるという話をよく聞きました。つまり、現物ではなく情報を扱う金融ビジネスは、向き合う相手に応じて、容易に中身を変えられるのです。何を申し上げたいのかというと、ダブルスタンダードはあり得ないということです。三井住友銀行も環境基準をお持ちだと思いますが、「これはタイでは厳しすぎる」「タイではこうしよう」とか、そういった話ではないのです。世界のどこへ行こうと基本はワンスタンダード。それが、グローバルスタンダードでなければいけません。そういう時代に入ったんですね。中国などでは、トップクラスのグローバルスタンダードを持っていると言わないと、投資も集まりません。

足達:今の話はなかなか示唆的で、日本の場合、国内部門と海外部門で、リスク管理の在り方から分けて考えがちなところがあります。

末吉:水は高きより低きに流れます。しかし、規制は低きより高きに流れます。低い規制と高い規制があったら、どっちが生き残るかというと、高い規制が生き残るんです。よく規制緩和といいますが、緩和されるべき規制は、必要なくなったから廃棄されるだけなんです。

足達:大きな視野で見れば、規制の強化という流れは間違いないですね。

末吉:特に温暖化の問題については、地球は1つしかないという限られた資源の中で、結局我々ができるのは省エネ、省資源、新エネです。これらは、結局、エネルギーのコストカット、材料のコストカット、生産過程や流通を合理化し、利益を高めるという話なんです。利益の拡大=所得の上昇です。特に、日本は人口が減少しているので、国内で利益を拡大するには生産性の向上しかありません。つまり、生産性の向上=環境対策だと考えれば、むしろ規制が厳しい方が利益は高まります。厳しい規制をクリアできる企業こそ、同業他社に先んじることができるのです。これは経営の基本です。

アメリカと中国で進む環境政策

足達:世界が持続可能性に向けて進むには、やはりアメリカと中国という2大国の環境意識を高める必要があると思います。

末吉:今、アメリカでも中国でも変化が見られつつあります。アメリカでは、オバマ大統領が、2期目の就任演説で「気候変動の対応に失敗すれば、子どもや将来世代を裏切ることになる。いまだに否定する人もいるが、圧倒的な科学的証拠の前で、我々は誰も逆らえない」と話しました。特に、持続可能なエネルギー源の確保について、明確な意志が明らかにされています。

足達:中国では、2013年にUNEP FIの国際会議が開催されますね。そうした出来事が、中国の世論や金融機関の認識にポジティブな影響を与えてくれるとよいのですが。

末吉:今、中国は2つの問題を抱えています。1つはエネルギーや資源の調達が海外依存になってきたことです。資源の争奪戦が起きれば、自国の経済成長もままならない状況に追い込まれるでしょう。もう1つは、PM2.5による大気汚染をはじめ、中国国内の環境問題の深刻化です。環境問題を理由に発生する暴動は年間数万件に上るといわれています。
 こうした状況を受け、中国は、第12次5カ年計画の中で、社会と環境に調和した経済成長という目標を掲げました。2011〜2015年の計画期間中に、GDP単位当たりエネルギー消費量を16%、GDP単位当たりCO2排出量を17%、それぞれ削減すると決定したのです。

金融機関に求められる役割

足達:CO2を減らす「緩和」も大事ですが、これからは気候変動への「適応」がより重要になるのではないでしょうか。

末吉:さまざまな国際機関が気候変動の影響について警告を出し始めています。たとえば、UNEPが公表した報告書(Bridging the Emissions Gap)では、温室効果ガス排出量の将来予測と地球温暖化抑制のために必要な削減レベルとの間に大きな隔たりがあることを指摘しています。2020年までにこのギャップは80億〜140億トン/年に上るとされており、現在各国が掲げる削減目標の達成については悲観的です。温度上昇を2℃以内に抑える緩和策は依然として必要ですが、一方で起こりうる被害に対して適応することも考えなければなりません。すでにベネチアやニューヨークなど、「緩和」から「適応」へ焦点を移し、対策を進めている地域もあります。こうした地域に比べると、日本の適応策は後れを取っているといえるでしょう。

足達:「適応」が注目されると、「緩和」への熱意が削がれると懸念される方もいらっしゃいますが、両にらみで対策を取らないと、間に合わない状況になっています。銀行や保険会社は、企業が気候変動による物理的リスクを回避し、適応策を進めていくための助言者になることが求められています。

末吉:イギリスは、2012年に半官半民の「グリーン・インベストメント・バンク」を発足しました。彼らの主張が素晴らしくて、「イギリスを世界経済の最前線に置くためにグリーン産業を育てる。それが使命だ」というのです。僕は、日本の銀行にももっと自信を持ってほしいと思います。日本は第二次世界大戦後の灰の中から立ち上がり、GDP第2位の大国にまで成長しました。このサクセスストーリーを支えたのは、金融機関にほかなりません。金融機関が集めた預金を束ねて、当時の基幹産業である鉄鋼や石炭へ重点的に投入し、産業全体の拡大を図ったのです。金融に携わる人には、こうした歴史を振り返り金融が果たしてきた役割を認識し、自分たちの責任をしっかりと見直してほしいと思います。たとえば、地方銀行と都市銀行にはそれぞれの役割と責任があると思います。三井住友銀行のような都市銀行には、日本全国、さらに世界に広がるネットワークを活用して、その責任を果たしていただきたいと思います。

足達:最後は、金融機関に対して励ましの言葉をいただいたように思います。本日は誠にありがとうございました。

Profile

末吉 竹二郎(すえよし たけじろう)
東京大学経済学部卒業後、三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。1994年にニューヨーク支店長、取締役、96年に東京三菱銀行信託会社(ニューヨーク)頭取、98年に日興アセットマネジメント副社長に就任。2002年に退任後、2003年に国連環境計画・金融イニシアティブ 特別顧問に就任。2003年10月UNEP FI東京会議を招致、「東京宣言」の発表に尽力した。

足達 英一郎(あだち えいいちろう)
一橋大学経済学部卒業後、民間企業を経て、1990年に株式会社日本総合研究所入社。経営戦略研究部、技術研究部を経て、現在、株式会社日本総合研究所 理事 ESGリサーチセンター長。企業の社会的責任といった視点から産業調査および企業評価を手掛ける。金融機関に対し社会的責任投資や環境配慮融資のための企業情報を提供。

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.100(2013年3月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。


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