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環境先進企業トップインタビュー

「環境活動」ではなく、これからは本業のプロセスに環境問題を織り込む「環境経営」でないとダメだと思います。 アサヒグループホールディングス株式会社 代表取締役社長 泉谷 直木氏

環境活動から環境経営へ

廃棄物再資源化100%を実現するに当たって、どのような部分に難しさがあったのでしょう。

我々が工場の廃棄物再資源化100%を言いだしたのは1996年です。京都議定書が採択される前年ですから、比較的早い取り組みだったといえますね。当時、全国に9つの工場があり、まず茨城工場からスタートしましたが、当初は苦労しました。なにしろ当時は分別という概念なんてまったくなかったから、捨てるもの、残すもの、有価物となるもの、そこから教えなければいけなかった。それと、なぜ再資源化に取り組むのか、その意味を従業員にきちんと理解してもらう必要があった。ですから、なぜ取り組むのかという意義、そして具体的なやり方、この2つを全社に徹底することから始めました。

分別の具体策で印象に残っているのは、分別箱を工夫したことです。個数や見た目でケチってしまうと、それだけで分別がおろそかになってしまう。段ボールに模造紙を貼っただけの分別箱では社員の士気が上がらない。そこで、単なるごみ箱ではなく、見栄えのいい分別のための資源箱を設置しました。会社のやる気というのは、そういうところに表れるんです。ビジョンだ、理念だとか言っているだけではダメ。ごみを捨てに行ったとき、気持ちが緊張する、あるいは楽しくなる、そういった仕掛けが大事なんです。

消費段階での廃棄物削減に、メーカーとして貢献できることは何でしょうか。

メーカーにできることは2つ。1つは、製造段階で使用する原料を少なくすること。もう1つは、使用後のリサイクルを促進すること。たとえば、今のペットボトルは、キャップと本体を分離し、次に本体からラベルを剥がさなくてはいけない。こういう工程をもっとやりやすいように工夫するとか、リサイクルが容易になる仕掛けが必要です。たとえば、キャップとペットボトル本体を同じ樹脂で製造すれば、ラベルを剥がすだけになるので、お客さまの負担が減りリサイクルも簡単になる。そのような品質改良ができれば、消費エネルギーも原料も、処理のしやすさも、すべてプラスになるはずです。

私は、いつもR&Dという呼び方を変えろと言っているんですよ。これからはR&D&M&F、さらにいえばMのところにE(Ecology)をプラスするべきだと。つまり、商品の調査をして(Research)、開発して(Development)、マーケティングして(Marketing)、ファイナンス(Finance)、つまり利益を得て、初めて企業は生きていけるわけです。本業と関係ない分野での「環境活動」ではなく、これからは本業のプロセスに環境問題を織り込む「環境経営」でないとダメだと思います。

実践を通して環境の大切さを伝える

子どもや若者たちを対象にした環境教育活動にも取り組んでおられますが、次世代に伝えたいことは何でしょうか。

環境問題は全国民で取り組まなければ解決できない社会的課題です。その社会的課題の解決に向け、我々ができることは2つあります。1つは生産販売活動をどのように改善し環境負荷を減らすか。もう1つは我々の資産を使って環境問題の大切さを訴える啓発活動です。

啓発活動については、小学生くらいの子どもたちに難しい話をするのではなく、身体で実感する体験を持ってもらうことを大切にしています。こうした思いから、広島県庄原市と三次市に所有する山林「アサヒの森」を会場に開催しているのが「アサヒ森の子塾」です。小学生を森に招き、なぜ水源が大事なのか、なぜ森林保護がCO2削減につながるのか、実感してもらいます。こうした活動を原体験に育った彼らが、やがて大人になったとき、社会活動や経済活動のあらゆる面で環境への配慮が当たり前になる時代がくると考えています。

一方、高校生を対象にした環境教育活動が「日本の環境を守る若武者育成塾」です。この育成塾は、公募の論文審査で選抜された高校生グループを対象に、弊社工場や地域でのフィールドワークを中心とした合宿を行い、そこで学んだことを地元に持ち帰ってもらい、地域の環境活動として実践してもらう活動です。彼らには、社会の課題と向き合い、自ら解決法を考え、自ら感動する場を提供したいと考えています。これにより小学生の知識レベルから高校生の活動レベルへ引き上げることができます。こうした活動の参加者が増えれば、環境問題を考える人が増えるはずです。これが我々なりのリーダーシップの果たし方だと考えているわけです。

「企業市民」としての役割と責任

アサヒグループ芸術文化財団を通じた文化活動の支援、特にアートの支援は有名です。アートへのこだわりを支えているものは何でしょうか。

本来、企業は、世の中に存在させてもらう立場にあり、「企業市民」としての役割と責任があります。地域には、企業と社会、企業と市民などさまざまなコラボレーションがあり、多様性の中で役割と責任を果たしながら、共生することが求められています。アートへの関わりは、地域社会と共生する1つの方法です。

文化人だったアサヒビール初代社長の山本爲三郎は、企業は利益を還元して社会と共存するべきだと考えていました。メセナ(文化支援活動)はこの思いから生まれた活動です。その進め方は、大山崎山荘美術館や本社のアサヒ・アートスクエアを使ってダイレクトに行う活動と、アートの力で地域を元気にしようとする市民活動のネットワークを形成する、環境整備型支援がある。後者の具体的な活動として挙げられるのがアサヒ・アート・フェスティバル(AAF)です。AAFの主役は我々ではなく、地域あるいは市民です。我々は黒子に回って、世の中全体の豊かさや癒やしにつながる活動をサポートしています。

メセナは企業経営にどのような効果をもたらすとお考えですか。

私も経営者ですから、経営への還元を望まないわけではありません。しかし、文化で営業する気もありません。かつては企業が文化を売って見返りを求めた時代もありましたが、それは違うと思うんです。もちろん、大きな意味での企業評価や企業イメージ、レピュテーションの向上効果はあるでしょうが、目的はそこではなく、あくまでも地域社会への貢献にあるのです。

その感動を、わかちあう

復興支援にも積極的に取り組まれています。「環境・コミュニティ・経済」の3つの軸で復興を支援されているようですが、「環境」面での取り組み内容を教えて下さい。

我々は復興支援に環境問題を絡めることで、よりロングランな成果につなげたいと考えています。これまでに「未来へのメッセージプロジェクト」「アサヒグループふくしま福幸プロジェクト」「アファンの森震災復興プロジェクト」など、1つひとつの活動を積み上げてきた結果、すでに実施した施策は40を超えました。これらの取り組みは、地域と一緒に活動することに主眼を置いています。その原点は、先ほどからお話ししている「企業市民」としての役割をどう果たすかという思いです。高度成長期に企業は経済活動の行きすぎで公害などの問題を生み、そのことが企業の社会的責任として注目されるようになりました。その後は企業の社会的貢献が問われ、今、求められているのは地域との社会的協働です。これからも、地域の皆さまと協働して環境問題などの具体的な活動を息長く続けていきたいと思っています。

余談になりますが、フィリップ・コトラーは『マーケティング3.0』という本の中で、これからはお客さまと社会と企業が協働でモノをつくる「協働マーケティング」と、貧困や不公正の拡大、自然環境の破壊などを招かないように正しい価値判断を行う「文化マーケティング」、さらに金銭的価値に換算できない幸せや豊かさ、目に見えない価値を重視する「スピリチュアル・マーケティング」の3つが必要だと書いています。我々もそのような価値観に基づき、お客さまと接していかなければいけません。復興支援も単なる経済復興にとどまらず、環境や文化まで含めることが我々の果たす役割だと考えています。

近年、「その感動を、わかちあう。」というスローガンを掲げていますが、背景にはどのような思いがあるのでしょう。これからの社会において、飲料・食品メーカーにはどのような役割があるとお考えですか。

今、世界人口は70億人超といわれていますが、その中に安全な水源へアクセスできない人が7億人以上いるといわれています。天下国家を論ずるならば、我々飲料メーカーは、こうした世界の水問題に貢献していく責務があります。世界中すべての人々が安全で安心な水を手に入れられること、それを我々のビジョンにするべきだと思っています。

一方で、国内に目を向ければ、また違う視点を持たなければいけません。多くの会社が競争する市場で消費者から選ばれるには、より安全・安心なもの、それに加えて楽しみや幸せを提供することが必要です。つまり、飲料は生活の「必需品」であるだけではなく、生活に潤いを与える「必潤品」でなければいけないのです。これからはモノ&コト・マーケティングを実践し、お客さまに楽しさ、喜び、幸せを感じていただける総合価値を提案していかなければダメですね。

それを実践していくには社員の皆さまにも高い人間力が求められそうですね。

私は再三言っているのですが、「どうやって売るか」を議論するなと。この議論をすると、営業が悪いとか、生産がよいものをつくらないとか、広告が下手だとか、議論が内へ内へと向かってしまい、お客さまとの距離が開いてしまうんです。我々が議論するべきは、「どうやって買っていただくか」です。なぜお客さまはうちの商品を選ばないのか。なぜ他のブランドに市場を奪われてしまうのか。そこを調査することが、お客さまとの距離を縮めることにつながるんです。

「売り場」を「お買い場」と言い換えている百貨店がありますが、それと同じ発想ですね。

そうですね。私は「買い=かい」という言葉には、いろいろな意味があると思っています。たとえば、こころよいという意味の「快」、人との出会いを意味する「会」、生活ソリューションを提供するという意味での「解」など、「かい」という言葉はとても面白いと思って注目しています。

SSSの企業経営を目指して

これからの新しい取り組みについて教えて下さい。

企業価値には、財務的価値と社会的価値の2つがあります。財務的価値とは、事業を通して利益を上げキャッシュを増やし、株主の期待に応えること。しかし、実は社会的価値がないと財務的価値も上がらない。では、自社の社会的価値とは何か。それを知るには、我々の強みは何か、あるいは資産は何か、しっかり考えなくてはいけません。たとえば、我々にはいろいろな発酵技術があります。この発酵技術を、いかにして社会的価値へ変えるのかを考え、取り組み始めたのがバイオエタノールのプロジェクトです。

今もサトウキビからバイオエタノールをつくる技術はありますが、これは食料の砂糖と競合することが問題視されています。今後、人口爆発が続く中、糖分の必要性はさらに増し、一方でエネルギー需要も増大するのでバイオエタノールなどの燃料も増産が求められています。この相反する課題を、発酵技術で解決することが、我々の社会的価値になるのです。現在、九州沖縄農業研究センターと共同研究を進め、荒れ地でも倍の収量を確保できる「高バイオマス量サトウキビ」という品種を開発し、それを我々の発酵技術でバイオエタノール化する実証実験に取り組んでいます。これが実現すれば、いわゆる農工融合を実現できます。農業をやっている人も、工業をやっている人も、両方に利益が出ます。こうした事業を、我々だけで手掛けるのではなく、広くノウハウを提供して社会に貢献したいと思っています。

社会をよりよい場所にすべく、社会的課題の解決に取り組むことが企業に求められる時代ですね。

過去10年間、社会で求められる企業の存在価値はAAA(トリプルエー)だといわれていました。いわゆる「安心」「安全」「安価」です。しかし、これは私の造語ですが、これからはSSS(トリプルエス)の時代になると思っています。それは「信頼・信用」「親しみ・親近感」「新価値・新提案」という3つのSです。このSSSがあれば、お客さまは高い安いではなく、新たな価値に応じた適正価格、納得価格を払ってくれるはずです。その結果、企業の利益が上がり、お客さまも幸せや豊かさを得られ、双方に喜ばしい成果がもたらされ、社会もよりよい場所になるのではないでしょうか。


【聞き手】
三井住友銀行経営企画部CSR室長 中村 研一
日本総合研究所マネジャー 井上 岳一

泉谷 直木(いずみや なおき)

Profile

泉谷 直木(いずみや なおき)
1948年生まれ。1972年、京都産業大学法学部卒業後、アサヒビール株式会社へ入社。広報部長、経営戦略部長、取締役、常務酒類本部長、専務などを経て、2010年3月に代表取締役社長に就任。アサヒグループの持株会社制への移行に伴い、2011年7月よりアサヒグループホールディングス株式会社代表取締役社長兼COOを務める。



会社概要

アサヒグループホールディングス株式会社

設立
1949年9月1日(2011年7月1日商号変更)
本社
東京都墨田区吾妻橋1-23-1
資本金
1,825億3,100万円
代表者
代表取締役社長 泉谷 直木
事業内容
アサヒグループの経営戦略・経営管理
ホームページ
http://www.asahigroup-holdings.com/

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.102(2013年9月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。


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