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環境先進企業トップインタビュー

一人で考えるから「想定外」が多くなる。みんなで考えれば想定の幅は何倍にも広がるから、人とのコミュニケーションを大切にする。前田建設工業株式会社 代表取締役社長 小原 好一氏

ダム建設を機に芽生えた環境への思い

2009年に社長に就任されてから「環境経営No.1」を掲げておられます。なぜ、「環境経営」だったのでしょう?

私は東京生まれの東京育ちですが、1972年の入社以来33年間、ダム建設に従事したため、東京から離れていました。最初の赴任先は長野県信濃大町の高瀬ダム。緑豊かで本当に自然の美しいところです。当時、「ダム建設は自然破壊」と言われる方がいる一方、ダム建設は人々の生活を豊かにする手段として「必要悪」と表現する人もいました。ダム建設を希望して入社し、33年間従事してきましたが、常に、ダム建設と自然保護の関係が念頭にありました。そして、入社後、自分の人生観が変わる「3つの忘れられない風景」を経験しました。

1つ目は、32歳のとき、ボルネオ島のダム建設において未開の原生林を切り開いていたときに見た風景です。マレーシアの人々の生活水準を飛躍的に向上させるという事業に携わる「誇り」とともに、地球がつくり上げた景観を可能な限り守る大切さを、同時に感じました。

2つ目は、経団連の自然保護協議会でケニアに行ったとき、ナイロビの自然保護区で遭遇した景色です。インパラをハイエナが食べ、ハイエナが離れた瞬間、ハゲタカがついばみにいく。日常繰り広げられる生命のやり取りの光景から、生命とはエネルギーとして次の生き物に継承される連鎖である、と再認識しました。

3つ目は、ボルネオ島のオランウータンの生息地に行ったときの経験です。生息地の近隣にある世界最大級の露天掘り炭鉱の開発により、オランウータンの生息地がどんどん狭められました。そこで採れる高品質の石炭は日本でも資源として利用されていることから、私たちの豊かな生活はオランウータンの生息地を狭めながら享受されていると知らされました。

このような経験を重ねる過程で、入社以来感じていた思いが醸成されていきました。特にオランウータンの経験は、後述しますが、「地球への配当」が生まれるきっかけとなりました。地球が何千万年もかけてつくってきた石炭という資源を我々が利用する。これは地球が資源を提供してくれていることにほかならない。そうであるならば、我々は地球に何らかの配当をしなくてはいけない、と思った次第です。

そういう非常に根源的な問いを抱えてこられた中での「環境経営」だったのですね。

社長に就任したとき、ある先輩社長から「社長というのは、常に社員に課題を与え、集中して取り組めるものを提供しなければならない」と言われました。そして、今までの問題意識から企業経営に環境を組み込み、建設業において「環境経営No.1」の会社になりたいと宣言したのです。ほぼ同時期に、オバマ大統領がグリーンニューディール政策を提言し、さらに社会の「環境経営」に対する意識は高まりました。

社員と家族まで含めた環境活動を実践

「環境経営」には「事業」「企業」「個人」の3つのレベルで取り組むとおっしゃっています。これはどういうことでしょうか。

「環境経営No.1」を推進するには、「個人」レベルから手を付ける必要があると感じていました。当時の多くの企業で環境関連の一部の部署だけが活動しているように見えて、それは本質と違うのではないかという思いがあったからです。我々が環境経営を推進するからには、一部の社員だけではなく、全社員で取り組まなければならないだろう、社員が1万人や2万人の大企業では難しくとも3,000人の当社なら全員で取り組めるだろう、そのような話を当時の総合企画部とCSR・環境部にしていました。そして個人が取り組む仕掛けとして、MAEDAエコポイント制度「Me-pon(ミーポン)」を考えました。これは、社員とその家族が業務外で行う環境活動に対して、会社がポイントを付与して社員とその家族に還元する、当社独自のエコポイント制度です。今では、社員の9割以上が登録してくれています。

最初に個人ありきということですね。

そうです。その上で、「企業」としては、前田建設全体の環境に関する方針を考え、「事業」としては、現場で環境活動に取り組む流れをつくっていきました。本社からは、最低限これだけは全現場で取り組んで下さいという必須項目を決め、各現場では、必須項目に加えて各現場の特徴に合わせたプラスアルファ項目を定めて環境活動を推進しています。

現場での環境活動は、たとえばどんなことですか。

やはりエネルギー・資源の削減、特に、建設現場に不可欠なトラックなどからのCO2排出量抑制と廃棄物の分別・排出量削減が大きいですよね。さらに最近では生物多様性の保全活動にも積極的に取り組んでいます。ただ、生物多様性の取り組みを浸透させることは難しいですね。COP10の愛知ターゲットで示された生物多様性の取り組みも非常に広範囲にわたり、具体的に取り組むビジョンがはっきりしない。そこでまずは、活動のメリットを明確に示すべきと考え、前田建設にとってのメリットや具体的な行動を示した「生物多様性ガイドライン」を策定しました。今、このガイドラインを全支店に説明して回っているのですが、そこでは、建設業が少なからず自然を棄損していることを理解することを求めた上で、生物多様性の社会的要請について着実に対応できる力を付けていこうと呼びかけています。その成果として、新たな市場に対する技術力や提案力、企業ブランドの向上などのメリットにつながると説明しています。

地球からの投資に対する配当

「地球への配当」について詳しく教えて下さい。

我々の事業活動は鉄、石油、石灰岩(セメント用)などの資源を地球から投資してもらうことで成り立っています。「投資」をしてもらっているのだから、当然「配当」をしなくてはいけない。そうした考えから「地球への配当」が生まれました。具体的には、当社の連結純利益の2%を環境活動への支援に充てており、仮に赤字になっても最低3,000万円は計上すると決めています。この「地球への配当」から、エコポイント制度「Me-pon」の運用と、環境系のNGOやNPOの支援プランであるMAEDAグリーンコミットの活動に資金を拠出しています。このようにして、毎年、継続的な支援を可能にしました。

赤字になっても、というところがすごいですね。

逆に利益が上がると、2%とはいえ大きな額になります。たとえば年間5,000万円の拠出になると、先の3,000万円を使っても、まだ2,000万円余ります。利益が出たときだけ支援するというのでは、支援される側も困るでしょうから、この2,000万円は持続的かつ効果的な環境活動が見込める環境事業に取り組むベンチャー企業などへの投資に使うこととしています。そうすれば、ベンチャー企業は事業を推進でき、結果的に環境に優しい製品、システムが生まれることで社会の役にも立つ。さらにこれらの企業の成長は、社会的課題の解決に結び付くだけでなく、地域、社会、ひいては当社の持続的発展に寄与するでしょう。社会も企業も個人も、皆が喜ぶ仕組みであると思っています。

「環境経営No.1」が形になってきたというところでしょうか。

そうですね。少しずつ「環境経営」が根づき、形成されてきたと感じています。そして、最近、お客さまのところで「前田建設は環境への取り組みを一生懸命やっていますね」と言われることが多くなり、これが「No.1」の1つの指標になるのではないかと考えるようになりました。どの会社からも、この言葉をたくさんいただけるようになること、それが「環境経営No.1」ということなのではないかと思っています。

建設業の新たな流れをつくる「脱請負」を宣言

「環境経営」とともに経営の柱とされているのが、「脱請負」ですが、これは自らが事業主体となってプロジェクトを起こしていくという意味でしょうか。

建設業界は営業利益率がとても低い業界です。せいぜい2%。1%を割ることも珍しくありません。世界に目を向けると、1990年代初頭の欧米が今の日本の状況と似ていたことがわかりました。過当競争で建設会社の利益が上がらない。各社、利益を捨てて受注に走っていたのですね。こうした中、欧米ではPPP(Public-Private Partnership:官民パートナーシップ)やコンセッション方式など、建設業の上流側である「企画・設計」や下流側である「運営・維持管理」の部分で利益を上げて成功する企業が出てきました。

我々はこれまで施工だけで利益を上げてきましたが、こうした欧米での動向を知り、これからは上流から下流までの一気通貫で仕事をしなければいけないと考え、それを「脱請負」という言葉で表現することとしました。

3年前に「脱請負」と言い始めたころは、まだPPPやコンセッションという考えはあまり知られていませんでした。そのような状況で、私自身「脱請負」という言葉を使っていいのかとすごく悩みました。事実、社内で話したら、社員が「請負をやめるのですか」と問うわけです。頭の中ではPPPやコンセッションだと理解しているのですが、まだ社会にそのような具体的な動きがなく、どう説明したらよいのか、非常に苦労しました。そこで、最初の1年間は勉強しましたね。社員もヨーロッパへ派遣して現地で勉強させました。勉強すればするほど、我々自身が投資して事業主になり、利益を上げていくという道筋が見えてくる。「そういうことか、そういうことか」と言いながら、少しずつ「脱請負」の骨格ができ上がってきた感じです。

その流れを加速させたのが東日本大震災の復興事業です。これ以降、政府はPPPをさらに推し進め、空港や高速道路にコンセッション方式を導入するという動きとともに、風力や太陽光などの再生可能エネルギーによる発電事業を民間企業が担うという流れになっています。

我々の取り組みはこの2、3年でようやく方向性が見えてきたところで、利益が上がるのは5年後か10年後になると思います。そういう意味では、まだ「脱請負」の種まきを行い、やっと芽が出たくらいの状況です。

「脱請負」は、当社が事業者となってSPC(Special Purpose Company:特別目的会社)に出資し、配当などでリターンを得るビジネスモデルです。つまり、「脱請負」には投資が必要不可欠なのです。その資金獲得のため、本業の請負で着実に利益を確保しなければなりません。そして当社の力の源泉は、コア事業である施工請負にあるのです。中期経営計画では「国内の土木・建築事業で利益を上げる。同時にグローバル化、あるいは脱請負、環境経営を新たな収益基盤として育てていく」と話しました。

環境経営にしても、脱請負にしても、決断するのに勇気がいることですね。どうしてこのような決断ができたのでしょう。

最終的に決断するのは私ですが、周囲の優秀なスタッフと多くの議論を積み重ねたからこそできたことと思っています。人間一人の考えはたいしたことありません。よく「想定外」といいます。一人で考えると「想定外」の枠も大きいですが、多くの人間で考えれば想定の幅が何倍にも広がり、「想定外」の枠は小さくなるはずです。だから、私は多くの人とコミュニケーションをとることを大切にしています。「脱請負」への取り組みも議論を積み重ねて決めましたが、前述したように、「脱請負」という言葉が表現として適切かどうかは悩みました。2011年の年頭あいさつで説明しましたが、12月半ばから悩みに悩んで「よし、使おう」とぎりぎりで決断したのが本当のところ。ただ、今は使ってよかったと思っています。インパクトがあったし、わかりやすい。今では社員全員が理解してくれています。

「新たなことへの挑戦」を表すユニークな取り組み

「ガンダムの基地」など、アニメ世界の現実化を構想する「ファンタジー営業部」は御社のユニークな側面を伝える取り組みとして有名ですね。なかなかできない試みです。

「ファンタジー営業部」については、私が総合企画部長のとき、部下から「こういうことをやりたい」と提案されましたが、これがよいのか悪いのか、明確に判断できませんでした。しかし、「業務外に活動しますので」と食い下がられたため、「ではやってみるか」と許しました。

今も昔も、建設業に対する世間のイメージはあまりよくないと思います。公共事業を請け負うことで潤っているのではないか、建設業の職場はきつい・汚い・危険の3Kだ、というようにです。このような建設業のよくないイメージを払拭したい、また我々がどのような仕事をどのような姿勢で行っているのかを世間の方々にしっかりわかってもらいたい、と若い人が言いだした。それがすごいなと思いましたね。できるかどうか半信半疑ながら、こういう手があるのかとも感心しました。それが今では、想像できないくらい発展し、最初に出したマジンガーZの本は、韓国でも出版されています。

この活動は、想像以上に大きな効果をもたらしてくれたと思っています。「挑戦する社風」を体現できたこと、建設業に対する興味と理解を得られたこと、社員が自社に対する愛着や誇り、希望や夢などを少しでも持てたのではないかと感じたこと、などがあります。この取り組みを担当した社員においては、新たなことへの挑戦、モノづくりの面白さをあらためて感じてくれたでしょうし、確実に他の社員にもよい影響を与えています。

真の公共精神に基づくインフラづくり

財政的制約の中で、既存インフラをどう維持管理し、再構築していくかは、非常に重要なテーマです。この国のインフラ整備の今後について、どうお考えですか?

財政状況を考えれば、老朽化したインフラを維持更新することが大事だと思いますが、さらに、将来的な防災や生活の豊かさのためには、新たなインフラ整備も必要だと考えます。問題は、その費用をどう捻出するかです。結論は「脱請負」につながりますが、昨今、「公共」に対する考え方が変わってきたと感じています。今まで公共工事といえば、「官」が計画して費用を出して地域住民のために土木構造物をつくるという構図でした。しかし、東日本大震災を契機に、ボランティアの方々含め、国民一人ひとりが復興のために自分は何ができるかを考え、がれき撤去などを手伝ったように行動しましたよね。自分を取り巻く社会全体である「公共」に対し、請け手ではなく担い手であると認識することこそ、本当の公共の精神だと思うのです。

東日本大震災を契機にそうした土壌が生まれている気がします。つまり、「行政、民間、住民が、皆で責任とリスクを分担し、出資、企画、整備、運営していく新しい社会インフラ事業」へと変化するのではないでしょうか。

その一歩を踏み出せる企業の存在がカギですね。お話をお伺いし、御社はそのイニシアティブを取る存在になると感じました。

「新しい社会インフラ事業」を実現する場合、出資するのですから、その対価は相応のフィーで配分されます。このときに大事なのが、出資金の使い方を明らかにすることです。そこをクリアするため、我々は4年前から原価開示方式に取り組んでいます。この原価開示方式も、ある社員の提案が発端になり取り組みを開始しました。発注者とは守秘義務契約を結んだ上で、工事に関わるすべての原価を開示しています。パブリックな仕事をするからには、費用に関する透明性と説明責任も極めて重要になると考えているからです。

このように震災復興やインフラの整備事業などを通じて、建設会社の新たな携わり方を示す、そして人々とのコミュニケーションを大事にしながらその一歩を踏み出せる企業になることを、我々は目指していきます。


【聞き手】
三井住友銀行経営企画部CSR室長 中村 研一
日本総合研究所マネジャー 井上 岳一

小原 好一(おばら こういち)

Profile

小原 好一(おばら こういち)
1972年4月前田建設工業株式会社入社。国内外のダム建設工事に従事したのち、2003年に経営管理本部総合企画部長に就任。調達本部副本部長、経営管理本部長などを経て、2009年代表取締役社長に就任。日本経済団体連合会自然保護協議会副会長、日本建設業団体連合会会計・税制委員会委員長などを兼任する。



会社概要

前田建設工業株式会社

創業
1919年
設立
1946年
本社
東京都千代田区猿楽町2-8-8 猿楽町ビル
資本金
234億5,496万8,254円(2013年3月末現在)
代表者
代表取締役社長 小原 好一
事業内容
土木建築工事その他建設工事全般および付帯関連する一切の業務
ホームページ
http://www.maeda.co.jp/

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.103(2013年12月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。


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