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環境先進企業トップインタビュー

歴史は繰り返さない、アジア諸国は日本とは異なる道筋で発展を遂げる。アジア生産性機構(APO)事務局長 天野 万利氏

APOのミッションとエコプロダクツ国際展

2013年9月の事務局長就任から約半年がたちましたが、APOでのお仕事はいかがですか。

APOは、加盟諸国の相互協力により、生産性向上を通じてアジア太平洋地域の社会経済を発展させ、この地域の生活水準を向上させることを目的として1961年に設立された国際機関です。当時、日本は経済発展で他のアジア諸国をリードしていたので、日本の生産性運動をこれらの国に移転することを目的として設立されたものですが、あえて互いに学び合う国際機関としたことに、私はAPOの意義があると感じています。実際、今日では韓国、台湾、シンガポールなど、逆に日本の方が学ぶべきことの多い国も増えており、国際機関として非常によい活動をしてきたと思います。就任からまだ半年しかたっていませんが、アジアの国々の生産性に関わる仕事は、とても興味深く、大変やりがいを感じております。

2014年3月に台湾で開催された第9回エコプロダクツ国際展(EPIF 2014)の感想をお聞かせください。

事務局長就任後、初めて主催した国際規模のフェアでしたが、大変活気がある大々的なイベントで驚きました。EPIF 2014には、エネルギー、グリーンテクノロジー、スマートグリーン都市ソリューションなど、さまざまな分野から207の企業・団体が参加し、最初の2日間だけで約6,000人以上のビジネス関係者が参加し、一般来場者と合わせて通算1万7,000人を超えました。台湾企業だけでも百数十社が参加し、その企業の多くが来年以降も参加を考えているそうです。台湾では環境意識が高まっており、まさに機が熟したよいタイミングでの開催だったと思います。

EPIFは来年10年目を迎えますが、その役割をどのようにお考えですか。

APOは生産性運動の促進機関であり、各加盟国の生産性本部の強化や人材育成といった活動が主な事業です。年間約80回、100弱の研修コースを希望する各加盟国がホスト役となって実施し、参加者が帰国後に生産性のトレーナーとして、技術やノウハウを自国に移転していく。APOは、そうした活動を50年間続けてきた団体です。

そのような意味で、エコ製品の展示を主とするEPIFは、APOにとって、これまでにない活動といえます。10年前といえば、アジアでもエコブームといいますか、地球温暖化の機運が盛り上がってきた時期で、それに対応するためにエコ製品やエコ技術が必要ということになり、その分野で先行していた日本の技術や製品をアジアの国々に見てもらって、環境意識を広めていこうという啓発的な狙いがあったのだろうと思います。現在、APOでは、産業の緑化を生産性拡大につなげる「緑の生産性(Green Productivity)」を重点分野の1つに掲げており、EPIFはその事業の中心的プロジェクトです。

ところで、先に開催されたEPIF 2014の会場のところどころに「点緑成金」というスローガンが掲げられていたのですが、この言葉は「グリーン化」を推進することがビジネスチャンスになる、すなわち、「Green to Gold」という意味なのだそうです。台湾にはビジネスセンスの高い人が多いので、こうしたスローガンを掲げることで「ビジネスにおけるグリーンの付加価値とはそういうことか」「グリーン化は自社に利益を生み、同時に世の中にも貢献できるならやってみよう」といった行動喚起につながることを期待しているようです。

アジア諸国は新たな道筋で発展を遂げる

APOは、持続可能な「社会経済の発展」をミッションに掲げています。「社会経済」としているのは、「経済発展」だけでなく「社会の発展」も考える、ということでしょうか。

「経済」と「社会」は必ずしも対立的に捉えなくてもよいのではないでしょうか。私は、やはり経済発展なくして社会発展は難しいと考えています。教育制度が普及したり、寿命が延びたり、安全な町になったり、クリーンな環境になるといったことが社会の発展だと思いますが、経済発展のない中でこのような社会発展が先行して起きたケースは、現実にはほとんどないと思うからです。

戦後、日本の経済は急速に発展しましたが、経済を優先する中で、社会が犠牲になった部分もあったかと思います。今後、アジアの国々が発展するに当たって、日本が辿ったのと同じような道筋を辿るのでしょうか。

日本はめざましい経済発展を実現すると同時に、その中で社会的にも大変発展したのではないでしょうか。「日本が世界に提供できる価値は何か」を考えたとき、私は、その1つがそうした発展を可能にした原動力となった「生産性」だと思っています。生産性を通して得た経済の発展、それに支えられて発展した社会こそ、日本がアジアの国々とシェアできる価値じゃないでしょうか。

一方、アジアの国々には、後発者のアドバンテージがあると思います。今も有効だと思える部分は大いに日本を見習えばいいですし、悪い部分はよりよい方法に置き換えればいいのです。戦後日本が辿った成長の道筋は、その時代には有効でしたが、同じ時代は二度ときません。戦後経済は奇跡的に成長したといいますが、私は奇跡なんて何ひとつなかったと思っています。唯一あったのは、当時世界の市場で必要とされた高品質の鉄鋼材の供給者として、米国が日本に白羽の矢を立て、原材料の調達ルート、デトロイトの最新生産技術、市場アクセスなどをすべてオープンにしてくれたことです。これにより、日本は良質な鉄鋼を供給する有利な立場に立ち、鉄鋼輸出を通じて膨大な外貨収入を得て、それを傾斜配分で他の生産分野に回していった。これだけの話なんです。しかし、これからの世界で鉄鋼業から発展して日本のような工業国になることはないでしょう。歴史は繰り返さないのです。同じ状況は巡ってこないので、アジアの国々は、それぞれの状況下で考えていくことになるのでしょう。

いつの時代でも、我々を取り巻く市場は成熟し尽くして隙間がないように見えますが、世の中には驚くようなことを考える人がいて、必ず新たな産業やイノベーションが生まれてきます。これから出てくる国、これから発展する経済、今の条件の中でどうやって成功モデルをつかむのか、それは非常にチャレンジングなことですね。

生産性をめぐる考え方も、時代によって、国によって、変わってくるところがあるのでしょうか。

今後、日本では、女性がもっと進出する社会や、高齢化が進む社会における生産性について考えなくてはいけないと思っています。一般に、女性や高齢者が増えると社会の労働生産性は下がると考えられますが、それをどうやったらアドバンテージとすることができるか、社会が変化する中で現代的な切り口の生産性を追求しなければいけないと思います。

余談ですが、APOのロゴマークは、歯車(=工業の象徴)の周りを麦の穂(=農業の象徴)が囲む、ちょっと前時代的な雰囲気の図柄です。ところが、昨年、国際機関や外国政府、NGOの方が集まるグローバルフェスタで、ある若い女性がこのマークを見て、「かわいい」と表現したんですよ。50年もたっているものが、今の人には新鮮に見えるということが、私はうれしかったですね。生産性の観念も似たような話で、50年で陳腐化してしまうようなものではダメで、そこに現代的な解釈による魅力、価値、注目すべき点を見いだしていかなくてはいけないと思います。

20世紀の日本の工業社会は、女性や高齢者、子どもを「非生産的な存在」として排除してきましたが、今後、生産年齢人口が減る中、女性や高齢者を含めて生産性を考えていくというのは重要になりますね。

女性や高齢者を取り込んでいくしかないと思います。取り込んでいくことが経済に貢献するだけではなく、生きがいという意味でも必要になります。

10周年を迎えるEPIFへの期待

今後、アジアの発展において日本が果たしていくべき役割は何でしょう?

やはり“モノづくり”ですね。産業を興すためのインフラからシステムなどのソフトも含めた“モノづくり”に関して、日本はまだ優位性を持っています。たとえば、これからアジアでは、5,000ドル、3,000ドルといった安価な自動車が生産されると思いますが、その中に必ず日本の技術が入ってくると思います。日本で開発された技術そのものではないかもしれませんが、技術は継承されていくでしょう。そういう「原型」を提供していくことも日本の役割ではないかと思っています。

10周年を迎える来年のEPIFへの期待をお聞かせいただけますか。

日本の中小企業はよいものを持っているので、それを後押ししたいですね。もっと目に見える形で参加企業のお役に立てることや、日本が築いてきたエコ推進の枠組みとかインフラといったものを、アジアに移せる仕掛けをつくりたいと思っています。たとえば、Suica(スイカ)のような公共交通システムを広くアジアのスタンダードにできれば、駅でさばける人数が増え、社会全体の生産性向上につながるはずです。ほかにも、高度なごみ処理のプラントや、インフラに組み込まれた環境技術などを広めることで、アジアの社会経済の発展に貢献したいと考えています。

製品だけではなく仕組みやノウハウまで含めてということになると、「エコプロダクツ国際展」という名称も変えないといけないかもしれませんね。

そうですね、「プロダクツ」では矮小化してしまう恐れがあるので、考えた方がいいかもしれませんね。開催地はまだ決まっていませんが、来年も多くの日本企業に参加いただきたいですし、今回の台湾でも滋賀県や燕三条のように地域で出展されるケースもありましたので、来年もそのような参加者を増やしていきたいと考えています。


第9回 エコプロダクツ国際展 〜開催レポート〜

 2014年3月13〜16日、アジア最大となる環境配慮型製品・技術の国際展示会「エコプロダクツ国際展」が台湾で開催された。同展は2004年よりアジア各国で開催されているが、第9回となる今回は“Go Green, Act Greener”をテーマに、エネルギー、グリーンテクノロジー、スマートシティなどに関連する最新技術・サービスを紹介。15カ国・地域から207社・団体が出展し、過去最大の規模となった。また、同展に合わせて“Achieving Sustainability to Empower Future Generations”と題する国際会議が開催された。


開催概要

名称

第9回エコプロダクツ国際展(Eco-products International Fair 2014:EPIF 2014)

会期

2014年3月13日(木)〜16日(日)

会場

台北世界貿易センター、エキシビションホール(台湾)

主催

アジア生産性機構(APO)、台湾経済部国際貿易局

日系出展者(五十音順):株式会社アオヤマエコシステム、アクアシステム株式会社、エコパラダイス株式会社、花王株式会社、サラヤ株式会社、住友電気工業株式会社、セイコーエプソン株式会社(中華民国から出展)、一般財団法人燕三条地場産業振興センター、帝人株式会社、東レ株式会社、トクデン株式会社、合同会社トレスバイオ技研、日本経済新聞社、日本ソフト開発株式会社、株式会社日吉、びわ湖環境ビジネスメッセ実行委員会事務局、富士通株式会社、松尾バルブ工業株式会社、三井化学株式会社、三井住友銀行、株式会社ユビテック

馬英九総統は歓迎レセプションであいさつを行い、多くの国が経済成長の新しい原動力としてグリーン成長に注目していると述べた。

三井住友銀行は、環境に配慮した活動を行う企業に優遇金利で融資する「SMBC-ECOローン」をはじめ、本業を通じた環境への取り組みを紹介した。

出展数は、過去最高の207社・団体を記録。国を超えたビジネスマッチングの機会が創出され、1億米ドルを超える商機があったと推計されている。

開催地となった台湾からは166社・団体が出展。自転車のレンタルサービスを紹介した台北のほか、高雄や新竹など地方政府が数多く参加した。

国際会議の基調講演に登壇した三井住友銀行の北山禎介取締役会長。グリーン経済の普及を目指し、政府、産業界、個人が協力し合う必要性を訴えた。

再生可能エネルギーやグリーン調達、スマートシティなどをテーマとして、現地の政府関係者や学識者らによる講演やパネルディスカッションが行われた。


【聞き手】
三井住友銀行経営企画部CSR室長 中村 研一
日本総合研究所マネジャー 井上 岳一

天野 万利(あまの まり)

Profile

天野 万利(あまの まり)
1973年、外務省に入省し、イギリス、クウェート、タイ、アメリカなどの大使館に勤務。2004年に朝鮮半島エネルギー開発機関(KEDO)事務次長に就任した後、経済協力開発機関(OECD)事務次長、軍縮会議日本政府代表部特命全権大使を歴任する。2013年9月より現職。



組織概要

アジア生産性機構(APO)

設立
1961年5月11日
事務局
東京都文京区本郷1-24-1
加盟国数
20カ国・地域
事務局長
天野 万利
目的
加盟諸国の「相互協力」により、生産性向上を通じてアジア太平洋地域の持続可能な社会経済を発展させ、この地域の人々の生活水準を向上させること。
ホームページ
http://apo-tokyo.org/jpn/

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.105(2014年5月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。


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