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環境先進企業トップインタビュー

保険業の役割は、社会が抱えるリスクを的確に把握し、それにチャレンジすること。三井住友海上火災保険株式会社 代表取締役社長 柄澤 康喜氏

保険業と環境保全の深い関わり

御社は2002年に金融業界初となるISO14001の全店一括認証を取得されるなど、早くから環境活動に注力されています。保険業は製造業に比べると環境負荷の低い事業だと思いますが、早くから環境への取り組みを進めてこられた背景には、どのような思いがあったのでしょうか。

紙の使用が多い保険業にとって、環境負荷の削減は重要なテーマです。従来は保険の証券や約款、パンフレットなど、大量の紙を使用していたのですが、Web約款やeco保険証券、再生紙の利用など、さまざまな取り組みを進めてきました。2001年に合併して三井住友海上火災保険として発足した際、最初の取締役会で環境方針を決議するなど、環境問題に対しては、常に真摯な姿勢で臨んできました。

本業の面から見ても、保険と環境保護は切っても切り離すことのできない関係にあります。なぜなら、我々、保険会社にとって自然災害は脅威だからです。自然災害などのリスクに対し補償を提供し、国民生活や企業活動を安定させることは損害保険の役割です。しかし、自然災害が頻発し、保険金の支払いが膨らめば、保険会社そのものの経営を揺るがしかねません。我々が長期安定的に事業を継続していくには、自然災害の防止・軽減に取り組むことも重要なのです。今、地球温暖化による気候変動は、大型台風や豪雨、大雪などを誘発するともいわれています。地球の生態系には、大規模な自然災害から我々を守るだけでなく、被害を防止・軽減する機能もあり、長期的な視野で見れば、環境保全への取り組みは事業リスクの軽減と担保力の強化につながると考えています。

真のグローバル企業となるには

すでにインドネシアでは10年近くにわたって熱帯林再生プロジェクトに取り組まれていますね。

弊社では、環境保護を経営課題の1つとして捉え、「環境負荷の低減」と「生物多様性の保全」を軸に取り組みを進めています。インドネシアの熱帯林再生プロジェクトは、その方針に最もマッチする取り組みといえるでしょう。2005〜2011年のプロジェクト第1期では、現地の林業省と連携して、不法伐採によって劣化したパリヤン野生動物保護林の修復・再生に取り組みました。30種、約30万本を植樹した結果、350ヘクタールにも及ぶ荒廃地が森林へと生まれ変わり、希少動物のカニクイザル(オナガザル)をはじめ、野鳥や昆虫などが再び姿を見せるようになりました。

2011年から始まったプロジェクト第2期では、地域経済への貢献に重点を置いた活動を展開しています。ポイントとなる活動の1つが、地元農民の経済的自立を目的とした農業技術の指導です。現地では、在来樹種に加え、果樹やエシャロット、トウガラシなど、商品価値の高い作物を栽培しており、地域農民の収入向上を目指しています。一方で、不法伐採が繰り返されることを防ぐには地域の理解が欠かせません。そのため、地域の子どもたちや教師の方々に緑の大切さを教える環境教育なども併せて行っています。

緑を守りながら地域経済の発展を促す。経済が発展することで、環境負荷の低減が進み、さらに緑を取り戻す。このサイクルが回るようになれば、結果としてインドネシアにおける社会の安定的な発展につながると期待しています。

今、国内の大手企業の間では、「真のグローバル企業」となるには、環境保全やCSRの取り組みを海外へ広げていくことが重要だという認識が広がりつつあります。御社は早くから「真のグローバル企業」を目指してこられたのですね。

アジアの保険市場は、まだ黎明期を迎えたところです。日本の高度経済成長を損害保険と生命保険が支えてきたように、経済成長を加速させる新興国において、我々の持つ保険技術は、国民生活や企業活動を支える上で必ず役に立つだろうと考えています。

弊社はASEANの全10カ国に拠点を有している唯一の損保会社であり、同地域でのシェアはトップです。保険料の内訳を見ると、日系企業が3割に対しローカル企業が7割で、現地との結び付きはますます強いものとなっています。日本の三井住友海上ではなく、各国に根差した保険グループとして、現地で環境保全や寄付活動に取り組むことは、我々がその国とともにあるという思いを示すため重要なことだと考えています。

たとえば、2011年にタイで発生した大洪水は記憶に新しいと思いますが、弊社は、タイ政府が大洪水の後に立ち上げた「タイ自然災害保険制度」に対し計画段階から協力を行っています。我々が協力するのは、保険の制度づくりだけではありません。治水など、洪水による被害を防止・軽減するための施策についてもタイ政府へ申し入れを行っています。洪水対策はタイの安定的な発展につながるだけでなく、日系企業を含め、グローバルに影響するものです。タイにある工場が浸水してサプライチェーンが寸断されれば、事業活動に支障をきたす日系企業は少なくないですよね。そういう意味では、タイをはじめ新興国の健全な発展は、我々自身の課題でもあるわけです。日本には、長年培ってきた治水の技術のほか、環境問題に関するノウハウがたくさんあるので、こうしたものを提供することによって新興国の社会発展に貢献できると考えています。

相手国の社会の発展が御社にとってのテーマになっていることに感銘を受けます。

国民の生活や経済活動が正常でなければ、我々保険業はレゾンデートル(存在理由)を失ってしまいます。言い換えれば、社会の健全な発展なくして、自社の成長はあり得ません。こうした考えは、弊社の経営理念として「グローバルな保険・金融サービス事業を通じて、安心と安全を提供し、活力ある社会の発展と地球の健やかな未来を支えます」と明文化されています。日本には、100年、300年、500年、そして1,000年を超えて今なお続く企業が数多くありますが、こうした永続企業を見てみると、環境を含め社会に対してしっかりとした理念を持っていることがわかります。環境を顧みない経営がまかり通ったのは、公害という認識が生まれる以前のことです。今は環境保全にしても、生物多様性にしても、そこにまったく意を用いず利益のみを優先する企業は必ず淘汰される時代です。

地域に親しまれ、地域とともに栄える

国内での取り組みに目を転じると、本店のある駿河台ビル周辺の緑化が印象的ですね。この取り組みの背景を教えてください。

駿河台ビルは、学校や図書館などの文化施設が多く集まる文教地区にあります。そのため、駿河台ビルでは1984 年の建設当初から「地域に親しまれ、地域とともに栄える」「地域の付加価値を上げる」というコンセプトを掲げ、屋上庭園をはじめ緑豊かな空間の整備など、周辺環境に配慮した取り組みを進めてきました。2012年の駿河台新館の竣工、2013年の駿河台ビルの大規模改修を機に、緑地をさらに整備し、これによって緑化率は総敷地面積の4割以上になりました。

緑地の整備に当たっては生物多様性に配慮しており、野鳥や昆虫の好む樹木を選定しています。特に、駿河台ビルでは、ヒメアマツバメやシジュウカラ、ヒヨドリなど、10種以上の野鳥の飛来が確認されており、皇居と上野公園を結ぶ野鳥の中継地となっています。また、緑地はヒートアイランド現象の緩和にも大いに役立っています。盛夏の日中に行った調査では、周辺の道路と比べ緑化した場所の地表温度は約20℃低いという結果が得られました。

2013年の駿河台ビルの改修では、地域の方々にもっと利用していただけるよう、屋上庭園に道路から直通のエレベーターを設置しました。毎月2回、野鳥の観察会を開催したり、菜園や田んぼを整備して近隣の方々や小学校に無償で貸し出したりするなど、さまざまな形で地域の皆さまに活用いただいております。一方、駿河台新館の隣には、環境活動を象徴する建物として、自然や地域に関する情報を発信する「ECOM(エコム)駿河台」をオープンしました。「ECOM駿河台」では、弊社の環境活動や千代田区のまちづくり情報についてのパネル展示や、NPOの方を招いてのセミナーの開催をしており、地域の交流拠点となることを目指しています。2012年には駿河台の2つのビルは千代田区と協定を結び、災害が起きた際、周辺住民や帰宅困難者を一時的に受け入れる態勢を整えています。安心と安全を提供する保険会社として、災害などの非常時の対応に関する地域社会から弊社への期待は非常に大きいと感じています。

環境保全や地域社会に対する取り組みは、従業員の方々にどのような影響を与えているのでしょう?

ISO14001などのMS&ADグループの取り組みに加え、各部・支店が自ら計画した取り組みを年1回以上行うことを奨励し、全国の拠点では地域に根差したさまざまな活動が行われています。決して義務ではないのですが、史跡の清掃活動、海岸のごみ拾い、植林など、地元で必要とされている活動を社員一人ひとりが考えて実践しています。

私が社員によく言うのは、企業風土や企業文化が大切だということです。たとえば、今年2月の関東・甲信越地方を中心とした歴史的な大雪では、パン製造会社の社員が中央自動車道で立ち往生したドライバーたちのため、配送トラックに積んでいたパンを無償で提供した行動が賞賛を集めました。大雪の最中、現場のスタッフがこのような判断ができたのは、社会に貢献しようとする企業風土が醸成され、社員一人ひとりに根付いていたからだと思います。弊社には、社員一人ひとりの行動指針となる"5つのバリュー"があり、私は入社式で必ず「"5つのバリュー"を体現できているかどうか常に見直すようにしなさい」と話しています。"5つのバリュー"は、我々の経営理念を実現していくために欠かせないものであり、弊社の企業風土の原点となるものです。社会とともに成長・発展する企業風土を根付かせることによって、自ずと行動が決まってきます。その中で環境保護や生物多様性の取り組みについても、問題解決のための答えが出てくると考えています。

御社は合併を経験されていますが、企業風土にはどのような影響があったのでしょう?

2つの会社のよい部分を取り入れ、それを伸ばすことができたので、合併は企業風土をつくっていく上でも効果的に作用しています。今、「MS&ADみんなの地球プロジェクト」と題し、グループ全社・全拠点で一丸となって環境・社会貢献活動を推進しています。さらに、東日本大震災の復興支援でも、より大きく貢献することを念頭に取り組みを継続しており、宮城県南三陸町で津波被害を受けた水田の再生などを支援しています。

保険を通じて支える将来

これからの社会における保険業の役割について、どのようにお考えでしょうか?

保険という制度の誕生には諸説ありますが、一例としてラクダなどを使って商人が荷物を運び交易が行われていた紀元前の時代が挙げられます。商人の中には荷物を持ってそのままいなくなってしまう者がいたため、これを防ぐ目的で、運搬する間、商人の家族や財産を預かっておくということが行われていたようです。商人の家族や財産が担保になったというわけです。日本では、江戸時代末期に保険事業が始まり、船舶や積み荷の損害を補償する海上保険が最初だったといわれています。その後、火災保険や自動車保険などが続き、近年では、太陽光発電事業者向けの保険や、自転車の保険など、多種多様な保険商品が登場しています。保険の歴史は、時代の移り変わりとともに生まれるリスクにチャレンジすることで形づくられてきました。人間が活動する限り、必ず新たなリスクが現れます。サイバーテロやパンデミック、再生医療、農業の6次産業化など、社会の変化を的確に捉え、新たなリスクに挑戦していくことこそ、保険会社の存在意義であると考えています。

我々が注力しているアジアに目を向けると、やはり気候変動が最も大きなリスクといえるでしょう。昨年、フィリピンに甚大な被害をもたらした超大型台風を見てもわかるように、気候変動は自然災害リスクの巨大化につながります。今、世界で発生する自然災害の8割近くが太平洋沿岸地域で起きているといわれており、その被害の大きさが経済発展を阻む要因にもなっています。自然災害などの巨大なリスクに対応するには、備えを高度化していく必要があり、それは民間企業の力だけでできるものではありません。そこで必要となるのが、日本の地震保険制度のような官民の連携だと考えています。

すでに世界銀行やアジア開発銀行といった国際機関や各国政府機関、民間保険会社などが連携して、災害リスク保険制度や防災プロジェクトの構築に取り組んでいます。弊社が引受保険会社のうちの1社として参加する「太平洋自然災害リスク保険パイロット・プログラム」もその1つで、2013年1月に日本政府と世界銀行が協力して設立しました。このプロジェクトは、太平洋島嶼国に対して地震や津波、サイクロンのリスクを補償するもので、これによって、災害が起きたとき、迅速に復興資金を提供できるようになりました。

お話をお伺いして、リスクという側面から社会を見ることは、これからの社会を考える上でとても大事な視点になると思いました。

保険業の役割は、社会が抱えるリスクを的確に把握し、チャレンジを続け、不変的に社会を下支えすることです。それには大きく2通りの方法があり、1つは個人や企業を取り巻くリスクを把握し補償を提供すること。そしてもう1つは、被害が発生する前にリスクを軽減することです。この両方に地道に取り組み、"活力ある社会の発展"と"地球の健やかな未来"へ寄与することを目指していきます。


【聞き手】
三井住友銀行経営企画部CSR室長 山岸 誠司
日本総合研究所マネジャー 井上 岳一

柄澤 康喜(からさわ やすよし)

Profile

柄澤 康喜(からさわ やすよし)
京都大学経済学部卒業後、1975年住友海上火災保険株式会社へ入社。同社にて本店営業第一部次長、広報部長、社長室長などを務めたのち、2001年合併によって三井住友海上火災保険株式会社の経営企画部業務企画特命部長に就任。2010年4月より代表取締役社長・社長執行役員を務める。2014年6月よりMS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社の代表取締役社長・社長執行役員を兼任する。



会社概要

三井住友海上火災保険株式会社

設立
1918年
本社
東京都千代田区神田駿河台3-9
資本金
1,395億9,552万3,495円
代表者
代表取締役社長 柄澤 康喜
事業内容
各種損害保険の引受、損害の調査、保険金の支払、新保険の開発、再保険、資産運用など
ホームページ
http://www.ms-ins.com/

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.106(2014年7月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。


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