環境ビジネス情報

印刷用ページを別ウィンドウで開きます



環境先進企業トップインタビュー

ファブレスメーカーとしての強みを生かし、環境性能の高い商品の開発を推進します。 株式会社サンゲツ 代表取締役社長 安田 正介氏

新たなステージに挑戦する中期経営計画

2014年4月、創業家以外から初めて代表取締役社長に就任されました。その2カ月後には中期経営計画を発表されていますね。

中期経営計画の策定を始めたのは、私が社長に就任する前、2013年のことです。それまでサンゲツには事業戦略や将来ビジョンを明確に示したものがありませんでした。しかし、会社として将来の方向性を示すことなく、事業の成長や発展はあり得ません。私は2012年6月から社外取締役を務めていましたが、サンゲツの現状に危機感を持った前社長から新しい事業戦略をつくる手伝いをしてほしいと頼まれ、これからのビジョンや方向性を決定する協議に加わりました。そして完成させたのが、2014年6月に発表した"中期経営計画(2014-2016)Next Stage Plan G"です。実は、私が社長に就任したのは、この計画を実行する旗振り役を任されたからなんです。

中期経営計画には、どのような思いを込められたのでしょうか。

弊社の創業は1849年、表具師として暖簾を掲げたことに始まり、100年以上の間、家業として受け継がれてきました。1953年に株式会社化した後も、創業家のリーダーシップのもと事業を拡大し続け、自社で生産拠点を持たず協力企業に委託して製造を行う「ファブレスメーカー」として、世界でも稀有なビジネスモデルをつくり上げました。

しかし、近年は創業家メンバーの高齢化が進み、同族企業ゆえの内向き体質や、社員が上司の指示に従順なばかりで受け身の姿勢が目立つなど、企業体質の問題が顕在化していました。コンプライアンスの遵守、女性の活躍推進、ワークライフバランスの実現といった最近注目されるテーマについても、十分に対応できているとは言い難い状況でした。また、創業家一族の出資比率が下がる一方、海外投資家を含めた一般株主が増え、こうした点からも明確な事業戦略を内外に示し、「開かれた体制」をつくることが大きな課題となっていました。

自社の存続をかけて今までにない、新しいサンゲツをつくらなければならない。こうした危機感が中期経営計画の根底にあります。中期経営計画では、ターゲットとなる2014年度から2016年度までを「事業体制の再整備と強化を進め、将来の成長のための仕込みを行い、サンゲツの次のステージを切り拓くための3年間」と位置づけています。

社員が経営を担う

具体的にはどのような施策を進めていかれるのでしょうか。

中期経営計画の中では、「社員が経営を担う」ということを大きく打ち出しています。社員一人ひとりが企業活動における主人公となり、"経営者目線"を持って仕事をすることで、組織全体をよくしていく。これがサンゲツを新しいステージへ導く鍵となるのです。社員のレベルアップを図るため、人事制度や組織運営ルールの見直しを行い、社員が力を発揮できる環境の整備に取り組んでいます。

中期経営計画の最初の1年は、成長の礎となる事業基盤を整備するため、社員の変革とともに、物流体制の強化、事務所の新設・更新、ITシステムの再構築などを進めてきました。2年目を迎える今年は、事業戦略の再構築を本格的に実行する予定です。現在、弊社の仕入れ先は100社以上、商品数は1万3,000点以上に及びます。長い歴史の中で培った「ファブレス」というビジネスモデルをもとに、壁紙から床材、カーテンに至るまで幅広いラインナップを提供していることが弊社の特徴です。今後はその強みをさらに伸ばし、個人住宅・賃貸住宅を対象とした既存事業の拡張や、新領域での事業創出や海外展開に取り組んでいく計画です。

また、課題であった「開かれた体制」をつくるため、「ステークホルダーの評価向上」を図る施策も進めていきます。株主さまや社会からの評価を上げることはサンゲツのブランド強化につながるものです。2014年11月に資本政策を発表しましたが、これには今後の基本方針を明確に示すことで、株主さまの理解とサポートを得ながら中期経営計画を実現したいという思いがあります。さらに、社会から信頼される企業になるため、社員中心の社会貢献活動を推進すること、そして環境商品の開発をはじめとする「環境経営」に注力することを掲げています。

「4カテゴリ+1」による環境商品の開発

環境商品とはどのようなものですか。

弊社の環境商品をご紹介する前に、まず床材や壁紙の原料となる塩化ビニル樹脂(以下、塩ビ)に関する誤解についてお話ししたいと思います。1990年代の終わりにダイオキシン問題が騒がれ、塩ビ忌避の風潮が強まりました。ダイオキシンは構成元素として塩素を含みます。塩ビにも塩素が含まれるため、当時は塩ビがダイオキシン生成の元凶のようにいわれてしまったのです。しかし、現在は、科学的調査によって、ダイオキシンの発生は、燃焼させる物質によるのではなく、燃焼条件に依存することが明らかになっています。焼却施設とその運転方法の改善によって、ダイオキシンの発生量は劇的に減少しました。

本来、塩ビは環境保全に貢献できる素材です。塩ビは40%が石油、60%は塩からつくられます。そのため、ポリエチレン、ポリプロピレンなど石油100%でつくられるプラスチックと比べると、石油の消費量が少ない、省資源型のプラスチックといえます。弊社では、塩ビにさまざまな工夫を施し、デザイン性や機能性を高めた商品開発を行っています。たとえば、壁紙の中には、天然木の質感や金属の光沢感などを、特殊技術で精緻に再現した製品があります。マホガニーのような希少で高価な木材を模したものもあり、同製品を天然素材の代替として使うことは、森林の保護や生物多様性の保全につながります。また、ロングライフという観点からも、環境負荷の低い製品ということができます。

ほかにどのような環境商品がありますか。

弊社では、@省エネ、A省資源、Bロングライフ、C室内環境に、生物多様性を加えた「4カテゴリ+1」を掲げ、環境商品の開発に取り組んでいます。代表的なものとしては、まず厚さ2.5ミリを実現したフロアタイルが挙げられます。主に商業施設の床材に使用されているフロアタイルの業界の標準的な厚さは3ミリですが、弊社では耐久性や強度、装飾性を維持しながら厚さ2.5ミリのフロアタイルを商品化しました。このフロアタイルを使っていただくと、単位面積当たり約 17%の資源節約が可能となり、ライフサイクル全体のCO2排出量を約15%削減できます。

また、壁紙では、室内環境の安全をコンセプトに掲げた「ISM(イズム:Interior Safety Material)」というシリーズもあります。建築基準法では、シックハウス症候群の原因とされるホルムアルデヒドを発散する建材に対し、その発散レベルに応じて使用面積を制限しています。最も放散レベルの低い製品はF☆☆☆☆(エフ・フォースター)に分類され使用面積の制限はありません。弊社の壁紙はすべてF☆☆☆☆の条件をクリアしているのですが、ISMはさらにライフサイクル全体で徹底した品質管理に取り組むことを打ち出し、商品化したものです。製造段階における重金属類の規制に加え、流通・販売段階では保管・管理の徹底、施工段階では安全性に配慮した接着剤や副資材の使用、廃棄段階では可能な限りリサイクルに取り組んでいます。

このほか、主にオフィス等の床材として使用されているカーペットタイルについては、従来より再生塩ビ素材の利用を進めてきましたが、2008年からは使用済みのカーペットタイルを回収し、再びカーペットタイルに戻す循環型リサイクルも始めました。カーペットタイルは、表面の繊維層に塩ビのバッキング層を貼り合わせた2層構造を採用しています。この2層の分離が難しいため、従来は使用済みカーペットタイルの多くが埋め立て処分されていました。弊社のリサイクルシステムは、特殊技術で使用済みカーペットタイルをまるごと破砕・粉砕し、新たなバッキングシートを成形する仕組みです。これによって分離に要するエネルギー消費や廃棄物を削減できるため、リサイクル商品のローコスト化にもつながっています。

従来の建材にはない付加価値を提供

それら環境商品に対するマーケットの反応はいかがですか。

アメリカ発の建築環境性能認証制度「LEED」の認知が広がり、世界では"環境"の位置づけが近年着実に高まっています。国内でも「CASBEE(建築環境総合性能評価システム)」が導入されるなど、ビルの環境性能と企業の評価が結び付けられるようになってきました。こうした状況を受けて、お施主さまの意向で価格が少し高くても環境商品を選んでいただける物件は増えつつありますが、優先順位はまだ高くないようです。建設業界では、特有の下請け構造により、予算を優先したコスト競争が展開され、設計段階で環境商品が指定されていても、各段階でコストダウンが行われた結果、環境スペックを落として価格を合わせる状況が散見されます。

そういう意味ではまだマーケットが成熟していないのかもしれませんね。そういう中で、価格よりも価値を訴求していくには、どんなやり方があるのでしょう。

弊社は製造工場こそ持ちませんが、デザインや機能など、製品の企画・開発を行い、独自のサンゲツブランドで販売を行う「ブランドメーカー」です。ブランドメーカーとして、壁紙を例にとって見ても、さまざまなコンセプトの商品をラインナップしていますが、独自の付加価値を訴求できるものとしては、たとえば、光触媒を使った壁紙「ヒカリケア」があります。光触媒がLEDや蛍光灯の光に反応して、細菌やウイルスの繁殖を抑制したり、悪臭の原因物質を分解したり、さまざまな作用を発揮し、医療施設や公共施設でも安心してご使用いただける製品です。医療施設を対象としたものには、ほかにも「アート・イン・ホスピタル」という壁紙があります。これは、銅版画家の山本容子さんとのコラボレーション商品で、入院患者さんの心を癒やし、前向きになってもらえるような彩りあるデザインが特徴です。

多様なニーズに応える商品ブランディングは、我々の事業に欠かせないものです。弊社が扱う商品は単なる建築資材ではありません。環境性をはじめ、デザイン性や機能性など、付加価値の高い商品を開発することが弊社の役割であると考えています。

環境対応でインテリア業界を牽引

今後どのような分野に注力をしていきたいと考えておられますか。

近年、東京をはじめ都市部を中心に、既存建築物のリニューアル需要が拡大しています。リニューアルによって建築物の不動産価値を高めることは、ストックの有効活用につながりますから、我々としてもこの分野に積極的に取り組んでいきたいと思います。ただ、リニューアルを行う周期が短縮される傾向にあることを考えると、いかに環境負荷の低い建材を使うかが今後ますます重要になってくるでしょう。これまで以上にリサイクル率を上げていくことも、企業としての責任を果たすことにつながると思います。

業界トップシェアの御社がリサイクルなど環境の取り組みを進めることは、同業他社や関連企業によい影響を与えそうですね。

今まで以上に高い環境性能を持った商品を提供するには、今後、原材料・素材の開発にも踏み込んでいかなければなりません。そして開発した環境商品を業界のスタンダードにまで成長させることで、環境に貢献していきたいと思います。これを実現するには、何よりも現場の力が必要です。私は、サンゲツの強さは現場で働く社員にあると考えています。社員には、「生意気に仕事をしろ」といつも言っています。従順なだけでは、よい仕事はできません。互いの意見がぶつかったとしても、議論が生まれることで新たな道が開けると思うんです。経営者として、社員一人ひとりが力を発揮できる環境をつくることが重要だと考えています。


【聞き手】
三井住友銀行経営企画部CSR室長 山岸 誠司
日本総合研究所マネジャー 井上 岳

安田 正介(やすだ しょうすけ)

Profile

安田 正介(やすだ しょうすけ)
1973年一橋大学経済学部卒業後、三菱商事株式会社に入社。2004年4月に同社の執行役員機能化学品本部長に就任。その後、常務執行役員を経て、2012年6月に株式会社サンゲツの社外取締役に就任。2014年4月から株式会社サンゲツの代表取締役社長を務める。



会社概要

株式会社サンゲツ

設立
1953年4月(創業1849年)
本社
愛知県名古屋市西区幅下1-4-1
資本金
136億1,610万円
代表者
代表取締役会長 日比 祐市
代表取締役社長 安田 正介
事業内容
壁紙、床材、カーテン、椅子生地などインテリア商品の企画開発および販売
ホームページ
http://www.sangetsu.co.jp/

この情報は環境情報誌『SAFE』Vol.110(2015年3月号)の記事より引用しております。
内容については記事作成時のものとなりますので、ご了承ください。


環境先進企業 トップインタビュートップへ

印刷用ページを別ウィンドウで開きます

このページの先頭へ戻る