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経理
公開日:2022.06.29
IPOとは?IPOの条件や手順、メリット・デメリットを解説

コロナ禍の2021年には、IPOをした企業がリーマンショック前の2006年に次ぐ高水準となりました。さまざまな要件があるにもかかわらずIPOをする企業が多いのは、企業にとってそれだけのメリットがあるからです。
ここでは、IPOをするための条件や手順のほか、メリット・デメリットについて解説します。
IPOとは、株式会社が新規に株式を証券取引所に上場させ、誰でも売買できる状態にすること
IPOはInitial Public Offeringの略で、日本語では「新規株式公開」や「新規株式上場」と呼ばれます。具体的には、株式会社が証券取引所を通じて自社の株式を投資家に売り出し、誰でも自由に売買できる状態にすることを指します。
すべての株式会社は株式を発行していますが、上場していない会社の株式は「非公開株」や「プライベート・エクイティ」と呼ばれ、価格面で折り合いがつけば当事者同士での売買はできるものの、証券取引所を通じての売買はできません。
IPOの審査に通過することで「上場企業」となり、証券取引所を通じて株式を売買できる仕組みです。
なお、日本国内には、下記に挙げる4つの証券取引所に株式市場があり、それぞれが複数の市場を開設しています。
<日本国内にある証券取引所>
- ・東京証券取引所(東証)
- ・名古屋証券取引所(名証)
- ・札幌証券取引所(札証)
- ・福岡証券取引所(福証)
未上場企業と非公開会社の違い
「未上場企業」は証券取引所に株式を上場させていない企業のことですが、よく似た言葉に「非公開会社」があり、混同されがちです。
非公開会社は、株式の上場・未上場を表すものではなく、その会社が発行する株式を譲渡する際に制限があることを指します。第三者に会社の経営権を奪われるリスクをなくすために非公開としていることが一般的で、会社の許可なく株式を他人に譲渡することができません。
非公開会社は未上場企業ですが、未上場企業のすべてが非公開会社ではないことに注意が必要です。
IPOの条件
証券取引所に上場を果たすには、会社の株式を証券取引所(市場)に登録しなければならず、これには株主数や流通株式数、流通株式時価総額、売買代金、流通株主比率など市場ごとに定められた基準値を満たす必要があります。なぜなら、制限なく自由に上場できるシステムだった場合、経営基盤が安定せず上場してすぐに倒産したり、公開している財務内容や経営状況に虚偽があったりする企業も上場してしまう可能性があるからです。
もし、証券取引所の審査基準が緩く、財務内容や経営状況に虚偽がある企業が多く上場することができると、投資家は投資に値する優良な企業の見極めが難しくなります。すると、投資家は売買を躊躇し、市場が停滞する原因になるでしょう。厳しい審査基準を設けることで、安心して活発な売買ができる市場環境を確保することができるのです。
上場するための条件は、株式市場の種類によって異なります。代表的な株式市場における上場の条件は、下記のとおりです。
プライム市場の上場基準の概要
プライム市場における上場基準の概要を、「流動性」「ガバナンス」「経営成績・財政状態」の3つに分けて紹介します。なお、市場コンセプトを反映したこれらの基準のほかに、株式の譲渡制限や、証券代行機関の選定などの共通の基準が設けられています。
・流動性
プライム市場の流動性とは、さまざまな機関投資家が安心して投資対象とすることができるような潤沢かつ流動性の基礎を備えた銘柄であるかがチェックされることを指します。
■流動性の概要
項目 | 新規上場基準 | 上場維持基準 |
---|---|---|
株主数 | 800人以上 | 800人以上 |
流通株式数 | 20,000単位以上 | 20,000単位以上 |
流通株式時価総額 | 100億円以上 | 100億円以上 |
売買代金 | 時価総額250億円以上 | 平均売買代金2,000万円以上 |
※日本取引所グループ「市場区分見直しの概要」
・ガバナンス
ガバナンスにおいては、投資家との建設的な対話の促進の観点から、いわゆる安定株主が株主総会における特別決議可決のために必要な水準(3分の2)を占めることのない公開性が求められます。
また、上場会社と機関投資家とのあいだで建設的な対話ができるか、その実効性を担保する基盤のある銘柄であることも重要です。企業には投資家との建設的な対話における共通基盤といえる「コーポレートガバナンス・コード」の全原則を実施するか、実施しない場合はその理由の説明が義務化されています。
■ガバナンスの概要
項目 | 新規上場基準 | 上場維持基準 |
---|---|---|
流通株主比率 | 35%以上 | 35%以上 |
※日本取引所グループ「市場区分見直しの概要」
・経営成績・財政状態
プライム市場に上場する際は、安定的かつ優れた収益基盤や財政状態を有する銘柄であるかどうかも確認されます。
■経営成績・財政状態の概要
項目 | 新規上場基準 | 上場維持基準 |
---|---|---|
収益基盤 | 最近2年間の利益合計が25億円以上、または売上高100億円以上かつ時価総額1,000億円以上 | - |
財政状態 | 純資産50億円以上 | 純資産額が正であること |
※日本取引所グループ「市場区分見直しの概要」
スタンダート市場の上場基準の概要
スタンダード市場における上場基準の概要についても、「流動性」「ガバナンス」「経営成績・財政状態」の3つに分けて紹介します。なお、市場コンセプトを反映したこれらの基準のほかに、株式の譲渡制限や証券代行機関の選定といった共通の基準が設けられています。
・流動性
スタンダード市場に上場する銘柄の基準のひとつとして、一般投資者が円滑に売買を行えるような適切な流動性の基礎を備えているかが問われます。
■流動性の概要
項目 | 新規上場基準 | 上場維持基準 |
---|---|---|
株主数 | 400人以上 | 400人以上 |
流通株式数 | 2,000単位以上 | 2,000単位以上 |
流通株式時価総額 | 10億円以上 | 10億円以上 |
売買高 | - | 月平均10単位以上 |
※日本取引所グループ「市場区分見直しの概要」
・ガバナンス
上場会社としてガバナンスには、最低限の公開性が求められます(海外主要取引所と同程度の基準)。また、持続的な成長と中長期的な企業価値向上の実現のための、基本的なガバナンス水準をクリアしている銘柄であることも重要です。企業には投資家との建設的な対話における共通基盤といえる「コーポレートガバナンス・コード」の全原則を実施するか、実施しない場合はその理由の説明が義務化されています。
■ガバナンスの概要
項目 | 新規上場基準 | 上場維持基準 |
---|---|---|
流通株主比率 | 25%以上 | 25%以上 |
※日本取引所グループ「市場区分見直しの概要」
・経営成績・財政状態
スタンダード市場に上場するにあたっては、安定的な収益基盤や財政状態を有する銘柄が選定されます。
■経営成績・財政状態の概要
項目 | 新規上場基準 | 上場維持基準 |
---|---|---|
収益基盤 | 最近1年間の利益が1億円以上 | - |
財政状態 | 純資産額が正であること | 純資産額が正であること |
※日本取引所グループ「市場区分見直しの概要」
グロース市場の上場基準の概要
グロース市場における上場基準の概要を、「事業計画」「流動性」「ガバナンス」の3つに分けて紹介します。なお、市場コンセプトを反映したこれらの基準のほかに、株式の譲渡制限や証券代行機関の選定といった共通の基準が設けられています。
・事業計画
グロース市場における上場基準である事業計画は、「事業計画が合理的に策定されていること」「高い成長可能性を有しているとの判断根拠に関する主幹事証券会社の見解が提出されていること」「事業計画や成長可能性に関する事項(ビジネスモデル、市場規模、競争力の源泉、事業場のリスクなど)が適切に開示され、上場後も継続的に進捗状況が開示される見込みがあること」という、3つの要件いずれにも該当している必要があります。
また、高い成長可能性を実現するための事業計画を有しており、投資者が適切に投資の判断ができる銘柄が選定されます。なお、高い成長可能性の健全な発揮を求める観点から、下記の基準が設けられています。
■事業計画の概要
項目 | 新規上場基準 | 上場維持基準 |
---|---|---|
時価総額 | - | 上場10年経過後に40億円以上 |
※日本取引所グループ「市場区分見直しの概要」
・流動性
グロース市場に上場する銘柄の基準のひとつとして、一般投資者の投資対象となりうる最低限の流動性の基礎を備えているかも問われます。
■流動性の概要
項目 | 新規上場基準 | 上場維持基準 |
---|---|---|
株主数 | 150人以上 | 150人以上 |
流通株式数 | 1,000単位以上 | 1,000単位以上 |
流通株式時価総額 | 5億円以上 | 5億円以上 |
売買高 | - | 月平均10単位以上 |
※日本取引所グループ「市場区分見直しの概要」
・ガバナンス
グロース市場に上場する銘柄の基準のひとつとして、事業規模や成長段階を踏まえた適切なガバナンス水準にあることも重要です。なお、上場会社として最低限の公開性も求められます(海外主要取引所と同程度の基準)。
また、成長段階であることも踏まえ、投資家との建設的な対話における共通基盤といえる「コーポレートガバナンス・コード」の基本原則のみが適用され、これを実施するか、実施しない場合はその理由の説明が義務化されています。
■ガバナンスの概要
項目 | 新規上場基準 | 上場維持基準 |
---|---|---|
流通株主比率 | 25%以上 | 25%以上 |
※日本取引所グループ「市場区分見直しの概要」
IPOの手順
実際にIPOを行う際には、どのように進めれば良いのでしょうか。IPOを行う際の手順について、くわしくご説明します。

1. スケジュールを把握し、準備をする
上場を検討してから実現するまでには、下記のようなプロセスがあります。全体の流れと各プロセスを把握し、準備を進めましょう。
<上場を検討してから実現するまでのプロセス>
- ・上場の検討
- ・IPOに向けた社内プロジェクトチームを編成・発足
- ・監査法人、主幹証券会社を決定する
- ・経営管理体制の整備
- ・証券印刷会社の決定
- ・証券会社による引受審査
- ・定款変更
- ・取締役会決議
- ・上場申請
- ・取引所審査
- ・公募、売出
- ・上場
2. 形式要件をクリアする
取引所の審査では、申請時に提出する資料などをもとに、形式要件を満たしているかどうかが確認されます。
<取引所の審査において確認される形式要件>
- ・株主数(上場時見込み)
- ・流通株式(上場時見込み)
- ・事業継続年数
- ・純資産の額(上場時見込み) ※プライム市場、スタンダート市場の場合
- ・利益の額(利益の額については、連結経常利益金額又は連結経常損失金額に非支配株主に帰属する当期純利益又は非支配株主に帰属する当期純損失を加減) ※プライム市場、スタンダート市場の場合
- ・虚偽記載又は不適正意見等
- ・上場会社監査事務所による監査
- ・株式事務代行機関の設置
- ・単元株式数
- ・株券の種類
- ・株式の譲渡制限
- ・指定振替機関における取扱い
- ・合併等の実施の見込み ※プライム市場、スタンダート市場の場合
- ・時価総額(上場時見込み) ※プライム市場の場合
- ・公募の実施 ※グロース市場の場合
3. 実質基準要件をクリアする
取引所の審査の際には、上場会社としての適格性を証明するため、実質基準要件をクリアする必要があります。形式要件のような具体的な数値基準だけではなく、経営の持続性や適切性についても、書類審査やヒアリング、実地調査を通じて確認されます。
IPOのメリット
IPOを行うことにより、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、IPOの5つのメリットについてご説明します。

資金調達力が上がる
公募増資や社債の発行など、さまざまな方法で市場から資金調達ができるようになります。これによって自己資本が充実し、企業の成長スピードを加速させる基盤ができます。
信用力と知名度が上がる
日本取引所グループによると、国内にあまたある企業のうち上場企業は、2022年6月時点で約3,800社あると発表しています。国内企業全体の中でも限られた1社として知名度が上がり、金融機関や取引先の信頼度も向上すると考えられます。
従業員の士気が向上する
知名度のある企業で働いているという事実や、企業が成長している実感は、従業員にとって大きなモチベーションになります。採用にも良い影響が期待できるでしょう。
透明性が向上する
IPOを行う際には、事前に社内体制を整備し、ガバナンスの強化にも努める必要があります。そうすることで、透明性のある経営体質を作ることができます。
創業者利益が得られる
創業者は、上場時に株式を売却することで投下資本の一部を回収します。その際、創業者利益を得ることができます。
IPOのデメリット
IPOにはデメリットもあります。IPOを目指す際には、下記に挙げる4つのデメリットについて、よく検討することが大切です。
敵対的買収をされる可能性がある
上場すると、不特定多数の株主が株式を売買できるようになるため、常に買収されるリスクがあります。経営権の乗っ取りを目的とした敵対的買収への対応方法は、事前に検討しておくべきです。
上場を維持するためのコストがかかる
上場すると、証券取引所への年間上場料、監査法人への報酬、信託銀行への株式事務代行手数料といったコストが継続的に発生します。
情報開示が求められる
上場すると、投資家に対して適切に情報を開示する「適時開示」の義務が課せられます。適時開示を行うための体制整備にコストがかかるほか、競合企業にも情報を知られることになります。
株主とのコミュニケーションが求められる
上場後は、不特定多数の株主のニーズに対応した経営が求められます。最低でも年に1度の株主総会の開催に伴うコストが発生するほか、ダイバーシティやサステナビリティといった時代に即した検討事項について対策を進めなくてはなりません。
他社事例からIPO実現のヒントを探ろう
IPOの実現には、厳しい条件を満たす必要があり、その条件は上場する株式市場によって異なること、IPOにはメリットだけでなくデメリットも存在することについて解説しました。
IPOを目指す場合、まずは全体のスケジュールと必要な手続きを確認し、条件をクリアするための準備を着実に進めていきましょう。
なお、IPO実現には企業価値の向上が必要不可欠です。BtoBの優れたビジネスマッチングが、企業価値を高めるきっかけになることもあります。SMBCグループが提供する「Biz-Create」は、無料で利用できるビジネスマッチングサイトです。金融機関と取引のある企業だけが利用できるため、安心して販路・仕入れ先の拡大、協業パートナーの探索を行っていただけます。
また、「PlariTown」は、ビジネスに役立つ多様なデジタルサービスのほか、ユーザーに合った業界ニュースやレポートを、ワンストップで利用できるプラットフォームです。「PlariTown」を利用して、IPOを実現した他社の事例を研究することで、自社のIPOへのヒントを探すことができます。
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(※)2022年6月29日時点の情報のため、最新の情報ではない可能性があります。
(※)法務・税務・労務に関するご相談は、弁護士や税理士など専門家の方にご相談いただきますようお願い申し上げます。