経理

公開日:2023.10.06

リースの会計基準とは?新リース会計基準の変更点や必要な対策を解説

リースの会計基準とは?新リース会計基準の変更点や必要な対策を解説

2023年5月に新リース会計基準案が発表され、近い将来に適用される可能性が高いことをご存じでしょうか。
本記事では、リース会計基準の概要と新リース会計基準の変更点、企業に与えるインパクトについて解説します。企業に必要とされる対策も具体的に紹介しますので、ぜひお役立てください。

リース会計基準とは、リース取引の種類や会計処理を定めた基準のこと

リース会計基準は、ファイナンスリースやオペレーティングリースといったリース取引の種類や、会計処理について定めた基準です。ファイナンスリースとは、リース期間中に契約を解除できないリースや、借手がリース物件の取得価格や諸経費の概ね全額をリース料として支払うリースのことです。
オペレーティングリースとは、ファイナンスリース取引以外のリース取引を指します。
リース会計基準は、そういったリース取引の会計処理を行う上で指針となるルールと捉えてください。
そもそもリース取引とはどのような取引を指すのか、リース会計基準が見直される契機となった「IFRS」と併せて確認していきましょう。

リース取引の種類

種類 概要
ファイナンスリース 所有権移転 ・リース期間の中途において契約を解除できない
・コストは借主がリース料として支払う(フルペイアウト)・物件の所有権が借手に移転すると認められる
所有権移転外 所有権移転ファイナンスリース以外のファイナンスリース取引
オペレーティングリース ファイナンスリース取引以外のリース取引

IFRS:会計処理について、国際的なルールを定めた財務報告基準のこと

IFRSとは、国際会計基準審議会(IASB:International Accounting Standards Board)が策定する会計基準を指します。IFRSは、リース取引を含むさまざまな会計処理について、国際的なルールを定めた財務報告基準です。

日本の会計基準は、長らく国際基準とは異なる独自のルールを採用してきました。一方で、産業や商取引のグローバル化が進むにつれて、日本の会計基準を国際的な基準に近づける見直しが進められています。IFRSを採用した会計基準への見直しに対する議論は、長年にわたり続けられてきたのです。リース会計基準の見直しも、この流れの一環といえます。

リース取引に関する会計基準の主な変遷

リース取引に関する会計基準は、大きく3回にわたって変更や見直しが図られてきました。ここでは、リース取引に関する会計基準の主な変遷と、その内容について見ていきましょう。

2007年3月公開:リース取引に関する会計基準

2005年に、欧州連合(EU)域内の上場企業に採用が義務付けられたIFRSは、「企業の実態をより反映した基準」として、経済活動のグローバル化とともに世界各国へと急速に広がりました。

こうした動きを受けて、2007年3月30日、「リース取引に関する会計基準」が企業会計基準委員会(ASBJ)より公表されました。それまで、所有権移転外ファイナンスリースは、一定の基準のもとで「賃貸借処理」として、オフバランス処理(貸借対照表に計上されない状態)が認められていましたが、リース会計基準の変更に伴い、原則オンバランス処理(売買処理)とすることが義務付けられたのです。

なお、リース契約期間中のリース料が総額300万円以下の取引や、リース期間が1年以内の取引に関しては、これまで通り賃貸借処理とすることが認められていました。オペレーティングリースについては、従来と同様に賃貸借処理とされていたのです。
この時点では、日本の会計基準をIFRSにコンバージェンス(共通化)させる方針が示されたものの、実態としては国際的な基準とのあいだには隔たりがありました。

2009年6月公開:我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)

2009年6月、企業会計審議会企画調整部会の「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」※が取りまとめられ、同部会の中間報告として公開されました。公開された企業会計審議会の指針によると、国際的な財務・事業活動を行っている上場企業に関しては、連結財務諸表に「IFRSを任意適用するのが適当」とされました。
当初は2012年を目処にIFRSの強制適用の是非を判断するとされていたものの、東日本大震災の影響やアメリカのIFRSコンバージェンスが遅れていたこと等を受けて、強制適用は見送られることになります。結果として、日本の会計基準は4通りに分かれました。従来の日本基準のほか、米国会計基準、IFRS、修正国際基準(JMIS)が併存する状態となったのです。

リース取引に関しては、ASBJによるディスカッション・ペーパー「リース 予備的見解」において、リース契約に際して生じる収益の扱いが議題に挙がっていたことが公表されています。これを受けて、翌年2010年に公表された公開草案「リース」では、リースから生じる資産・負債・収益・費用およびキャッシュフローを、ほかの資産・負債・収益・費用およびキャッシュフローと区別して表示する日本基準の会計処理に合わせるべきとの提案がなされました。

※出典1:金融庁『「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」の公表について

2023年5月公開:リースに関する会計基準(案)

ASBJが2023年5月に公表した「リースに関する会計基準(案)」※では、借手のすべてのリースを原則オンバランスする方針が示されました。前述の通り、これまで長年にわたり会計基準を国際基準に近づけるための議論が続けられてきた結果、新基準案の公開に至ったのです。

新リース会計基準においては、リースの新しい基準である「IFRS16」を基礎とすることが方針として示されています。このように、リース会計基準は国際的な基準へのコンバージェンスを目指して紆余曲折を経てきたのです。

※出典2:企業会計基準委員会:『企業会計基準更改草案第73号「リースに関する会計基準(案)」等の公表

新リース会計基準の大きな変更ポイント

新リース会計基準の重要な変更ポイントとして、オペレーティングリースに関しても資産と負債の計上が求められることが挙げられます。従来、オペレーティングリースの対象となっていた物品には、たとえば自動車やオフィス家具等が含まれていました。これらの経理処理は、リース料の支払いごとに費用として計上するのみであったはずです。リース取引に伴って発生する経理処理は簡素であり、企業にとってさほど大きな負担にはならなかったのです。

一方、新リース会計基準が適用されることにより、ファイナンスリース取引とオペレーティングリース取引は区別されなくなります。原則すべての取引はオンバランスでの会計処理に統一され、資産と負債の計上が求められるようになるのです。

新リース会計基準が企業に与えるインパクト

新リース会計基準の適用は、企業に大きなインパクトを与える可能性が高いといえます。従来の処理に加え、契約時点での使用権資産とリース負債をバランスシートに計上する必要があるからです。企業はリース料を支払うごとに減価償却費と支払利息を区別して費用処理をしなければならず、さらにこの経理処理はリース契約期間の満了時まで続くことになります。

これにより、経理の仕訳パターンは、従来と比べて3〜4倍にまで膨張するともいわれています。それぞれのリース取引件数分、同様の経理処理が必要になることから、経理処理の負担が増すのは必至といえるでしょう。
しかし、全社のリース取引状況を、本社が漏れなく把握するのは現実的ではありません。リース契約件数や利用部門数が増えるほど、情報収集の網羅と適切な管理は困難を極めるはずです。

なお、従来はリース取引と見なされなかった不動産賃貸借契約等も、新リース会計基準の適用に伴い新たにリース取引の対象に含まれる可能性があります。今後、リース取引に関わる経理処理の負担は、従来と比べて格段に重くなる可能性が高いのです。

企業にこれから求められる新リース会計基準への準備

企業は今後、新リース会計基準の適用に向けてどのような準備を進めていけば良いのでしょうか。経理処理の負担が大きく高まることを前提に、下記に紹介する準備を着実に進めていくことが重要となります。

企業にこれから求められる新リース会計基準への準備

現状把握と影響分析

始めに取り組んでおくべきことは、現状のリース取引状況の整理・把握です。前述の通り、新リース会計基準においては原則すべてのリース取引がオンバランスでの会計処理に統一されることに加え、不動産賃貸借取引等もリース取引と見なされる可能性があります。対象となりえる取引を洗い出し、リストアップしておくことが求められるでしょう。

また、洗い出した取引がすべてオンバランスでの会計処理となった場合、経理処理にどの程度の影響が及ぶのか分析しておく必要もあります。
目安として、リースに関する仕訳のパターンが現状の3〜4倍に増大することを想定し、経理担当者の処理能力やマンパワーで遂行できる業務量を超えていないかを慎重に見極める必要があります。

対応方針の検討・決定

現状把握と影響分析の結果をもとに、今後の会社の対応方針も検討する必要があります。現状の人員や業務フローではキャパシティを超えてしまう可能性が高いようであれば、何らかの対応策を講じておく必要があります。検討したい主な対策は、下記の2点です。

・人員の増強

まず検討したい対策は、人員の増強です。新たな経理担当者を採用したり、派遣社員等を投入したりすることによって、経理作業の増大に備える方法です。
ただし、後述するように業務設計が整備されていなければ、人海戦術では対応しきれなくなるおそれがあります。安易に増員を目指すのではなく、業務フローを見直すことも併せて検討していく必要があるでしょう。

・業務設計の見直し

業務設計そのものの見直しも、検討の余地があるはずです。従来は経理担当者が1件1件入力していた伝票処理も、クラウド会計ソフトやRPA等の技術を導入することで、半自動化や省力化を実現できる場合があります。こうした仕組みを導入することは、担当者の負担軽減につながるだけでなく、ヒューマンエラーの防止にも役立つはずです。

業務設計・システム導入

決定した対応方針に沿って、導入すべきシステムの選定も必要です。その際、システムありきで検討するのではなく、自社にとって必要な機能や、自社の業務フローに適したオペレーションが可能なツールを選ぶことが重要です。
そのためには、新リース会計基準に適した業務設計を構築し、その業務設計が実現できるシステムを選定するという流れが自然でしょう。

導入するシステムが決定したら、見積もりや導入スケジュールをベンダーやコンサルタントと相談しながら詰めていきます。システム導入直後は操作感の違い等から従業員の混乱を招きやすいため、新リース会計基準が適用される前に、余裕を持って導入しておくことが大切です。

運用トライアル

システム導入後は、一定の運用トライアル期間を設けましょう。現場の担当者がオペレーションに慣れ、支障なく業務を遂行できるようになるまでにはある程度の期間が必要です。使い慣れないシステムへの移行は担当者にとって少なからず負担となるため、現場の状況を注意深く確認しながらソフトランディングを目指してください。

トライアル期間を通して、現場の担当者の意見を吸い上げていくことも大切なポイントです。定期的にヒアリングを行い、業務が進めにくい点がないか、操作方法は十分に理解できているか確認していきます。
また、新リース会計基準の適用後を想定したトレーニングを重ねておくことも大切です。必要に応じて業務マニュアルの策定や改訂を行い、新リース会計基準の適用後に慌てることのないよう、段階的に準備を進めていってください。

新リース会計基準に対応可能なシステムの導入は、早期に検討を

リース会計基準は、国際的な会計基準IFRSに即したものとなるよう、長年にわたり国内で議論が重ねられてきました。新リース会計基準への移行は、これまで抱えていた日本特有の会計処理を国際基準にコンバージェンスするために乗り越えなくてはならないフェーズとなります。
一方で、経理処理の大幅な負担増が懸念される事案でもあるため、できるだけ早めに移行を想定した準備を進めておく必要があるでしょう。新リース会計基準に対応可能なシステムの導入は、早期に検討しておくことをおすすめします。

<システム選定のポイント>

  • ・TOTALコストを抑えられ、比較的短期間で稼働できるSaaS型であること
  • ・リース契約管理システムとして実績のあるベンダーで信頼できること
  • ・貸手を問わず全リース契約を一元管理できること
  • ・データの一括登録など、業務効率化機能が装備されていること
  • ・リース会計に基づく情報開示に必要な管理帳票が標準装備されていること

リース資産管理システム スーパーネットリース

(※)2023年10月6日時点の情報のため、最新の情報ではない可能性があります。
(※)法務・税務・労務に関するご相談は、弁護士や税理士など専門家の方にご相談いただきますようお願い申し上げます。

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