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公開日:2022.03.30

みなし残業とは?メリット・デメリット、トラブルを招くケースを解説

みなし残業とは?メリット・デメリット、トラブルを招くケースを解説

働き方改革に伴う法改正で残業時間の上限が設定されたことに伴い、「みなし残業」制度を導入する企業が増えました。みなし残業は、企業にとってメリットがある反面、長時間労働や未払い残業につながるリスクもあるため、企業はその内容を十分に理解した上で導入する必要があります。
ここでは、みなし残業の導入を考える際に知っておくべきメリット・デメリットのほか、トラブルになる可能性が高いケースについて解説します。

みなし残業とは

みなし残業とは、一般的には、次の2つの意味で使用されていることが多いように見受けられます。

みなし労働時間制

みなし労働時間制とは、1日の労働時間を「みなし労働時間」としてあらかじめ定めておき、実際の労働時間の状況にかかわらず、「みなし労働時間」労働したものとみなす制度です。営業職など事業場外で勤務すること多く企業が当該従業員の実労働時間を把握しにくい場合(事業場外みなし労働時間制)や、クリエイティブの職種で業務の性質から業務遂行の手段や方法および時間配分等を大幅に従業員の裁量に委ねる必要がある場合(裁量労働制)に適用されています。
ここでいうみなし残業とは、あらかじめ定めたみなし労働時間が法定労働時間である1日8時間を超えて設定されていた場合に1日8時間を超過した時間のことを指して使われます。例えば、みなし労働時間が10時間だった場合には、2時間分がみなし残業に該当します。

固定残業代制

一定の残業時間を想定し、毎月の給与や年俸に残業代を含めて支払う制度を固定残業代制といいます。上記の労働時間制度に限らず、固定残業代制を導入している場合に想定する残業時間のことを指して、みなし残業といわれることがあります。なお、従業員がみなし残業時間を超えて残業した場合、使用者はその超過分を別途残業代として支払わなければなりません。

また、みなし残業として設定できる時間は、長時間労働抑制(安全配慮)や36協定との関係で限界があるため、注意しましょう。
労働基準法では従業員の労働時間を1日8時間、週40時間と定めており、それを超えて従業員を働かせる場合は労使間で36協定を締結することになっています。ただし、36協定で設定できる残業時間は、原則として1ヵ月あたり45時間、1年あたり360時間が上限と定められています。そのため、みなし残業として設定できる時間は、年間360時間÷12ヵ月=月間30時間を目安とするといいでしょう。

みなし残業を導入するメリット

企業がみなし残業を導入すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、4つのメリットについて、それぞれ詳しく説明します。

みなし残業を導入するメリット

残業代を計算する手間が省ける

個人に支払う毎月の残業代の算出は、時間外労働や休日労働の有無を調べ、ベースとなる賃金にあてはめる必要があり、社員数が多ければ多いほど手間がかかります。しかし、みなし残業を導入していれば、ベースとなる賃金にみなし残業代も含まれているため、賃金計算をある程度のところまで一律で行うことが可能です。この点で、労務や経理の業務の効率化につながるといえます。

ただし、実際の時間外・休日・深夜労働に対して支払われるべき割増賃金がみなし残業代でカバーされているかの確認は、必ず行わなくてはなりません。もし、カバーされていない従業員がいれば、その都度精算する必要があります。

人件費の見通しが立ちやすくなる

企業が安定した経営を維持していく上で、付加価値に占める人件費の割合は非常に重要な指標です。みなし残業の場合、人件費を事前に想定できるため、人件費のバランスを適正な状態で維持することができるでしょう。

従業員の業務効率がアップする

みなし残業では、想定される勤務時間より実労働時間が短くても、残業代を含めた賃金が必ず支払われます。例えば、半日で1日分の仕事を終え、残り半日は知識のインプットにあてたり、次のプロジェクトの準備をしたりして、定時で帰っても残業代が支払われるのです。
すると、社員は「できるだけ早く仕事を終わらせよう」「効率的に仕事をしよう」と考えるようになり、業務効率がアップします。

従業員が安定した収入を得ることができる

みなし残業で給与に一定の残業代が含まれるようになると、繁忙期と閑散期で残業時間に差がある職場でも、従業員は残業代に依存せず、安定した収入を得られるようになります。
生活費を少しでも増やすために残業をするといった考え方がなくなるだけでなく、従業員にとって生活の設計を立てやすくなる点でメリットがあるといえるでしょう。

みなし残業を導入するデメリット

みなし残業を導入することで、いくつかデメリットも発生します。続いては、みなし残業の3つのデメリットについて、それぞれ説明していきます。

みなし残業を導入するデメリット

残業がなくても残業代の支払いが発生する

みなし残業の最大のデメリットは、従業員が実際に働いた時間がみなし残業時間より少ない月が続いても、残業代を含めた給与額を支払い続けなくてはならないことです。結果として、支払う残業代の総額が、みなし残業制度を導入する前より増える可能性があります。

従業員の誤解を招く場合がある

みなし残業について従業員が理解していないと、「想定されている残業時間は必ず働かなければならない」といった誤解が生じることがあります。みなし残業について従業員が正しく理解できるよう、みなし残業のルールについてできる限りわかりやすく定めた上で、雇用契約締結や賃金改定などの機会に丁寧に説明するとよいでしょう。

サービス残業の原因になる可能性がある

みなし残業時間を超えて働いた時間分は、当然残業代を請求することができます。しかし、一部の企業では、「実際の残業時間にかかわらず、固定給に含まれる残業代以外は支給しない」といった、誤った認識で固定残業代制を運用しており、不当なサービス残業の温床となっているケースがあります。

みなし残業がトラブルに発展するケースとは?

みなし残業制度は、企業側にメリットがありますが、制度をうまく活用するためには、企業担当者が法的な知識を持ち、正しく運用しなければなりません。万一、誤った形で運用してしまった場合、従業員の反発を招いたり、トラブルに発展したりする可能性があります。
ここでは、みなし残業制度のよくあるトラブルついて解説していきます。

みなし残業時間を超えても残業代が支払われない

前述した通り、みなし残業を導入しているからといって「残業代を支払わなくて良い」というわけではありません。あらかじめ定めた残業時間を超えて働いた従業員に対しては、必ず追加で残業代を支払う必要があります。

しかし、実際には「規定の残業・労働時間を超えて働いているのに、残業代が支払われない」ことに端を発するトラブルが少なくありません。実際の労働時間・残業時間より短い時間をみなし時間として設定している場合やみなし残業時間以内の残業を強く命じることにより過小申告を誘発する場合などは、従業員の訴えでトラブルに発展する可能性があるでしょう。

固定残業代の支給条件が不明確

近年、募集要項や求人票に固定残業代を含めた賃金をあたかも基本賃金のように表示し、募集条件(基本賃金)と実際の賃金条件(基本賃金+固定残業代)が異なることによるトラブルが見受けられます。また、年俸制や歩合制を採用する場合に、固定残業代が含まれているか不明確となっており、残業代が支払われていないとして従業員が訴えるケースも見受けられます。

みなし残業のトラブルへの対処法

みなし残業のトラブルの背景には、企業および担当者の知識不足のほか、立場の差を悪用した企業側の不当な対応があると考えられます。従業員の泣き寝入りに甘んじていると、やがて労働基準監督署からの指導や裁判に発展し、法的責任が問われるほか、会社の価値を著しく低下させることにもなりかねません。
従業員が外に向かって声を上げなかったとしても、従業員から経済的利益を搾取する企業に対して、愛着を持って働く従業員は少ないため、モチベーションの低下や離職率の増加を招くことも懸念されます。

こうした事態を避けるため、下記の点に留意した上で、みなし残業制度を運用するとよいでしょう。

<みなし残業制度の正しい運用のために企業がチェックすべきポイント>

  • ・みなし労働時間制や固定残業代制の導入にあたって、労使協定や就業規則等に必要事項が明記されているか
  • ・設定したみなし残業の時間数が、36協定の限度を超えるほど過大になっていないか
  • ・固定残業代は、残業代の対価として通常の労働時間に対して支給される基本賃金と明確に区別されているか
  • ・従業員の勤務実態を確認し、固定残業代を超える残業が認められた場合に差額の残業代を支給しているか

みなし残業制度を正しく運用するためには、DXサービスを活用した人事・労務情報のデータベース化も効果的な場合があります。

人事労務サービスにご関心のある方は、こちらも合わせてご参照ください。

トラブルのないみなし残業の運用は、労働管理や就業規則の徹底から

企業がスムーズにみなし労働時間制や固定残業代制を導入するには、みなし残業制度を正しく理解し、適切に運用をすることが重要となります。

また、トラブルのないみなし残業の運用に向けて、DXサービスを活用した人事・労務情報のデータベース化をご検討中の方は、SMBCグループが提供する「PlariTown」をご利用ください。「PlariTown」では、労務管理や人事管理など、さまざまな業務を効率化するデジタルサービスや、企業の成長につながる情報をご案内しています。同業他社の成功事例などを参考に、企業価値の向上につながる、トラブルのない制度の導入を目指しましょう。

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(※)2022年3月30日時点の情報のため、最新の情報ではない可能性があります。
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