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公開日:2023.11.14

物流業界の2024年問題とは?法改正の内容や課題、解決への方策を解説

物流業界の2024年問題とは?法改正の内容や課題、解決への方策を解説

物流業界が直面する課題として「2024年問題」が注目されています。2024年問題とは何か、なぜ起きると言われているのか、具体的にどのような影響があるのか等、気になっている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、物流業界の2024年問題について、法改正との関わりや、物流業界が今後直面する可能性のある問題、取り組むべき課題についてわかりやすく解説します。2024年問題を解決するための方策にも触れていますので、是非参考にしてください。

2024年問題とは、トラックドライバーの時間外労働の制限によって生じる問題のこと

物流業界の2024年問題とは、働き方改革関連法に伴う時間外労働の規制強化が、物流業界にも適用されることによって生じる問題の総称です。具体的には2024年4月1日より、物流に携わるトラックドライバーの時間外労働の上限が、年間960時間に制限されると共に、事業者に義務付けられる改善基準告示についても改正され、トラックドライバーの拘束時間の上限規制も強化されます。

これを受けて物流業界は、トラックドライバーの労働時間が短縮されることで、輸送能力に不足が生じるのではないかと懸念しています。モノが運べなくなる・届けられなくなるリスク全般を表しているのが、2024年問題と捉えてください。

働き方改革関連法が制定された経緯

働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)は、働き方改革を進めるために各種労働関連法を改正する法律で、少子高齢化による労働力不足や長時間労働の慢性化、育児・介護と仕事の両立等の働く人のニーズの多様化等を背景として、2018年6月に成立し、2019年4月より段階的に施行されています。これにより、労働基準法、労働安全衛生法等、様々な法律が改正されました。
このうち、長時間労働の慢性化への対策として労働基準法が改正され、大企業では2019年4月、中小企業では2020年4月から、原則として1ヶ月の時間外労働を45時間まで、年間の時間外労働を360時間までとすること等を内容とする、長時間労働の上限規制が適用されることになりました。もっとも、物流業界に関しては、自動車運転業務の特性上、時間外労働をすぐに抑制するのは現実的ではないと判断されたため、2024年3月31日までの期間は、時間外労働の上限規制の適用が猶予されることになりました。
また、かねてより、トラックドライバーの労働時間については、国が自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)を定め、事業者に一定のルールを課していましたが、時間外労働の上限規制の適用に伴い改善基準告示も見直され、2024年4月1日から新たなルールが適用されることになりました。

物流業界の2024年問題をもたらす法改正の主なポイント

続いては、2024年4月から施行となる、物流業界に関わる法改正や改善基準告示の改正内容についてご紹介します。今回の改正により、多くの物流事業者が対策を講じる必要があります。

時間外労働は年間960時間の上限規制

2024年4月1日から時間外労働に上限規制が適用されると、年間960時間を超える時間外労働はできず、これに違反した場合は、事業者に6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰則が科される可能性があります。なお、トラックドライバー等の自動車運転業務に関しては、他業種で義務付けられている「月100時間未満の時間外労働」や「2〜6ヵ月平均の時間外労働が80時間以内」、「月の時間外労働時間45時間を超えることができるのは年6ヵ月まで」という規制は適用されません。

また、先行して2023年4月からは、中小企業にも、月60時間を超える時間外労働に関して50%以上の割増賃金を支払うことが義務付けられるようになった点にも留意が必要です。従来、原則25%以上の支払が義務付けられていた割増賃金ですが、時間外労働に関する規制がより厳しくなっているのです。

1年・1ヵ月・1日の拘束時間の制限

2024年4月1日から施行される改善基準告示の改正にも注意が必要です。この基準は、労働基準法では規制しにくい拘束時間・休息時間・運転時間の考え方やその上限等を定めたものです。なお、拘束時間とは、労働時間と休憩時間(仮眠時間を含む)の合計時間、すなわち、始業時刻から終業時刻までの使用者に拘束される全ての時間を言い、休息時間とは、使用者の拘束を受けない時間を言います。改善基準告示に違反すると、労働基準監督署から事業者に対して是正のための指導が行われると共に、道路運送法や貨物自動車運送事業法の運行管理に関する規定等に重大な違反の疑いがある時は、労働基準監督署が当該事案を地方運輸機関へ通報することとされています。

主な改正内容は、1年の拘束時間は3,300時間以内、1ヵ月の拘束時間は284時間以内、1日の拘束時間は原則13時間以内で上限が15時間以内という、新たな基準が適用される点にあります。
ただし、繁忙期の対応を考慮して、6ヵ月までは労使協定により1年3,400時間以内を超えない範囲で、1ヵ月310時間以内まで延長可能ですが、この場合には284時間超は連続3ヵ月まで、1ヵ月の時間外・休日労働時間数は100時間未満になるよう努める必要があります。また、宿泊を伴う長距離貨物運送(走行距離が450km以上)の場合、週2回までは1日の拘束時間を16時間まで延長することができます。

公益社団法人全日本トラック協会の解説によると、年間960時間の時間外労働の上限が適用されることを踏まえると、ひと月の拘束時間の上限の目安は、下記のような計算式に基づいて求められることになります。

<拘束時間の上限の目安>

  • ・時間外労働:年間上限960時間÷12ヵ月=80時間/月
  • ・法定労働時間:40時間/週×4.3週=172時間
  • ・休憩時間:1時間/日×22日=22時間

80時間+172時間+22時間=274時間/月

月の拘束時間の上限イメージ

休日労働を含まない時間外労働の上限をもとに算出すると、月間の拘束時間の上限は274時間が目安となります。実際には、休日労働が発生した場合や、休憩時間(仮眠時間を含む)を増加させる場合には拘束時間が増加しますので、これらの事項にも留意して運行計画を作成する必要があります。

勤務間インターバルの延長

従来の改善基準告示では、勤務間インターバル(前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に設ける休息時間)は、継続8時間以上確保すればいいとされていました。しかし、改善基準告示の改正に伴い、2024年4月1日より、勤務間インターバルは継続11時間以上与えるよう努めることを基本としつつ、継続9時間を下回らないように設定する必要があります。例外として、宿泊を伴う長距離貨物運送(走行距離が450km以上)の場合、週2回までは継続8時間以上にすることができます。ただし、その運行後は、継続12時間以上の勤務間インターバルが必要になります。

そのため、物流事業者は、トラックドライバーの休息時間が延長されたことを考慮して運行計画を策定しなければなりません。

物流業界が法改正への対応に苦慮している背景

働き方改革関連法の適用に際して、なぜ物流業界は対応に苦慮しているのでしょうか。そこには、物流業界の勤務実態と法改正の間に横たわるギャップがあります。

2024年4月1日以降は、時間外労働の上限が年間960時間になった場合、月の拘束時間の上限の目安は274時間以内(改善基準告示上の上限は284時間)です。一方、繁忙期における1ヵ月あたりの拘束時間が275時間を超える物流事業者は、2021年度の時点で全体の約34%を占めていました。
さらに、拘束時間が月間320時間を超える事業者は2.4%存在します(※1)。勤務実態を見る限り、2024年4月1日までに、労働時間や拘束時間を限度内に収められない事業者が存在するのは想像に難くありません。

(※1)出典:「自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果(概要)」|厚生労働省労働基準局

「2024年問題」の具体的な問題点

物流の2024年問題は、物流業界にどのような影響を与えるのでしょうか。主な問題点として、下記の4つが挙げられます。

「2024年問題」の具体的な問題点

営業用トラックの輸送能力が不足していく

国が設置した「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、2024年問題への対策を一切講じなかった場合、営業用トラックの輸送能力が2024年度時点で現状の14.2%(4億t相当)、2030年度には現状の34.1%(9.4億t)不足する可能性があるとの試算を示しています(※2)。慢性的な輸送能力の不足は、物流インフラに深刻な影響を与えかねません。

(※2)出典:「持続可能な物流の実現に向けた検討会 最終取りまとめ」|経済産業省 持続可能な物流の実現に向けた検討会

モノが運べなくなる・モノが作れなくなる

トラックドライバーの労働時間が制約されることにより、積み降ろしに時間を要したり、積み下ろしまでの手待ち時間の長い荷物の引受が敬遠されたりする可能性もあります。モノが運べなくなることは、製品(完成品)の輸送が困難になるだけでなく、製造に必要な原材料や部品の輸送も難しくなることを意味しています。物流業界が打撃を受けることにより、物流インフラを必要としている製造業者や消費者にも影響が及ぶのは避けられないでしょう。

運送・物流業者の売上、利益減少

従業員が運転業務に従事できる時間が制限されることにより、運送・物流業者の売上が減少する可能性があります。同時に、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金の基準が25%以上から50%以上となったため、事業者にとっては人件費の高騰に伴う利益減少に直結しかねません。売上・利益共に減少し、事業者の業績が悪化することが懸念されます。

労働時間減少でトラックドライバーの収入減少

時間外労働の上限規制の適用に伴い労働時間が減少することにより、トラックドライバーの時間外手当が削減されます。トラックドライバーにとっては実質的な収入の減少となるため、他の職種への転職を検討する従業員が現れることは考えられるでしょう。結果として、トラックドライバーの人手不足に一層拍車がかかる恐れがあります。

2024年問題の解決に向けて取り組むべき課題

物流業界の2024年問題は、社会全体に多大な影響を与える可能性があります。2024年問題の解決に向けて、どのような課題に取り組む必要があるのでしょうか。早急に取り組むべき主な課題には、下記の4つがあります。

トラックドライバー不足に対応する

トラックドライバー1人当たりの労働時間に関する上限規制が強化される以上、トラックドライバーの担い手を確保する重要性が増していくのは必然です。トラックドライバーの年間所得を全産業の平均と比べると、大型トラックの場合は26万円、中小型トラックの場合は58万円、平均よりも低くなっています(※3)。トラックドライバーの待遇を改善し、離職を防ぐと共に新たな人材の確保を強化していく必要があります。

(※3)出典:「統計からみる運転者の仕事」|厚生労働省

輸配送効率の向上や荷主企業への理解を促進する

限られた労働時間内に効率良く荷物を輸送するには、輸配送効率の向上が欠かせません。配車・配送計画を見直し、積荷の待機時間の削減や、空車率の低減を可能な限り図っていく必要があります。
また、やむを得ず待機時間が発生する場合には、別途追加料金の支払を求めたり、時間指定を見直してもらったりする等、荷主企業への理解を促すことも大切です。

勤怠管理の強化

トラックドライバーの勤怠管理を強化することも、重要な対策のひとつです。現状、デジタルタコグラフ(車両の運行時間や速度、走行距離等を記録する運行記録機器)を活用していたとしても、停車中の勤務実態については把握できていない可能性があります。従業員の勤務時間を過大・過小に評価することのないよう、正確な勤怠管理が求められます。

クラウド勤怠管理システムの導入をご検討の方はこちらをご参照ください。

輸配送形態を切り替える

輸配送形態そのものを見直していくことも有効な対策と言えます。例えば、複数人体制によるリレー運送を導入したり、幹線輸送と集荷・配達を分担制に変えたりするといった体制再編成が考えられるでしょう。
荷主企業が取り得る対策としては、鉄道や船舶による輸送も取り入れる方法が挙げられます。トラックによる輸送と比べてリードタイムは長くなるものの、コスト削減やCO2削減に繋がる施策として有効です。

2024年問題は、デジタル化の推進で解決を図る

これまで見てきたように、物流の2024年問題は、物流業界全体に大きな影響を及ぼす問題であり、トラックドライバーの雇用条件の見直しや雇用促進等、各事業者の個別の取組を超えた課題が存在しています。
もっとも、このような課題への対応だけではなく、トラックドライバーの時間外労働や拘束時間の上限規制に適切に対応することも不可欠です。こうした課題を解決する方法のひとつに、デジタル化の推進が挙げられます。デジタル化やシステム導入により、業務効率化を図る方法について見ていきましょう。

配車・配送計画(輸配送管理)のデジタル化

輸配送管理システムの導入により、配車・配送計画をデジタル化することで、配送ルートの選定や車両の割り付けを自動化できたり、積付計画をシステム上で策定できたりするため、業務効率化に繋がります。
配車・配送計画のデジタル化は、業務属人化の回避にもなります。担当者の不在や交代に備えるための対策としても有効です。

業界の実態に見合った勤怠管理システムの導入

物流業界で必要とされる機能を備えた勤怠管理システムの導入もおすすめです。労働時間をより正確に把握できるだけでなく、集計作業の負担軽減にも繋がるでしょう。
物流業界に特有の日またぎの勤務等、複雑なシフト管理に対応できるかどうか、拘束時間や勤務間インターバルを考慮した集計が可能かどうかといった点を重視して、勤怠管理システムを選定するのがポイントです。

クラウド勤怠管理システムの導入をご検討の方はこちらをご参照ください。

トラック予約システムの導入

トラック予約システムの活用により、バース誘導(積卸のための停車位置へ誘導すること)の効率化や、入退館に関する受付業務の省力化を図ることができます。結果として、トラックドライバーの待機時間を短縮でき、労働時間の無駄を省くことができます。

運送伝票や受け渡しデータ等をデジタル化

運送伝票や物流拠点間での受け渡しデータをデジタル化することにより、仕様の統一やデータ管理の効率化に繋がります。手書きの伝票やFAXで届いた伝票に関しても、文字認識技術のAI-OCRを活用することでデジタル化が可能です。伝票類のデータ化により、業務効率化を図ってみてはいかがでしょうか。

デジタル化を推進して物流業界の2024年問題に対応しましょう

物流業界においては、時間外労働の上限規制適用に伴う輸送能力の不足や売上減少を回避するためにも、生産性の向上が急務となっています。テクノロジーを活用して業務効率化を図ることが、2024年問題を乗り越える鍵となるかもしれません。

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(※)2023年11月14日時点の情報のため、最新の情報ではない可能性があります。
(※)法務・税務・労務に関するご相談は、弁護士や税理士など専門家の方にご相談いただきますようお願い申し上げます。

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