本当の自分を知ったうえで、新たな居場所を描くこと

定年後に自分の居場所がなくて、気持ちが落ち込むという話をよく耳にします。特に仕事一筋だった人に、その傾向があるようです。その理由の1つに、自分の思っている性格と客観的な性格にギャップがあり、自ら飛び込んだ新たなステージになじめず、思い悩んでしまうというケースがあるでしょう。

そこで、現役時代からやっておいてほしい作業があります。それは、自分の性格をできる限り正確に知ること、自覚することです。「自分のことは自分が一番分かっている」と思いがちですが、意外と自分に都合のよい、勝手な思い込みによって、本当の自分が見えていなかったりします。

ぜひ、配偶者や親、子ども、身近な友人に改めて指摘してもらってみてください。(他者からの客観的な指摘と自分自身が考えている自分像とのギャップが大きいと心が折れそうになるかもしれませんが、そんなときは笑い飛ばすような気持ちで。)

もしも、客観的な性格と、自分が頭の中で考えている自分像やビジョンが合っていない場合は、少し注意が必要です。例えば、自分は社交的だと思っていても、それはあくまで仕事上での話で、本来はひとりでいる方が好きで、こころが落ち着くという人もいます。そうすると、頭で考えていたプランを定年後に実行に移そうとしても、どうも楽しくなく、その場がむしろ苦痛になるということがあります。本来の自分の性格を把握したうえで、定年後のライフスタイルを描いてみましょう。

定年後は謙虚な気持ちで、まずはその場になじむことから

もうひとつ大切なことがあります。それは、多くの場合、定年後はこれまでのキャリアの延長ではなく、再「スタート」だということです。再就職する場合も、NPOに参画する場合も、地域のコミュニティで活動する場合も、基本はその組織へのNewcomer(新入り)。現役時代にどれだけ高い役職だったとしても、新しい場所では1年生ということです。

サラリーマンなら30〜40年勤めて慣れ親しんだ場所は居心地が良かったかもしれません。一方、Newcomerは新しい組織や共同体に受け入れられるように、まずはしきたりや風土になじむことからスタートすることになります。

まずは、謙虚な気持ちと傾聴の姿勢で新たな居場所を理解することから始めることが良いでしょう。

物理的な居場所とともに、心の居場所を持っておこう

定年後楽しく過ごすために、新たな居場所を見つけることは大変重要なことですが、老後の終盤は、体力も落ち、仕事や役割も減っていき、組織や団体に期待することがだんだんできなくなってきます。また、友人や家族との別れもあるかもしれません。そこでお勧めしたいのが、あらかじめ毎日ひとりでも楽しく過ごせる趣味や作業を開発しておくこと。万が一、新たな居場所で居心地が悪くなった際にも、モチベーションを落とさずに、日々過ごすことができるでしょう。老後はモチベーションが非常に重要です。ぜひ多方面から自分を見つめ、自分のモチベーションを高く保てる複数の方法を揃えておくことをお勧めします。

いど みえ

井戸 美枝(いど みえ)

CFP®、社会保険労務士。社会保障審議会企業年金・個人年金部会委員。経済エッセイストとして活動。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに、数々の雑誌や新聞の連載記事の執筆をはじめ、講演、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題を紹介。近著に『定年男子 定年女子』共著(日経BP社)、『100歳までお金に苦労しない定年夫婦になる』(集英社)、『届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)など。

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