遺産分割の内容によって
相続税負担が変わる?
事例から学ぶ相続のポイント
2026.1.26
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- 遺産分割の内容によって相続税負担が変わる?
遺産分割は相続人の間で話し合えばよい、そう考えていませんか?遺産分割の内容によって、相続税の負担が変わる可能性があります。遺産分割の内容を検討することは、相続人である配偶者が利用できる「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の評価減」といった税負担を抑える特例を適用するためにも重要です。
本記事では、遺産分割の基本的な知識から、相続税の負担軽減のための制度の活用、そして生前にできる準備を、事例を交えてわかりやすく解説します。
1.遺産分割とは
遺産分割とは、亡くなった方(被相続人)が残した財産を、複数の相続人同士でどのように分けるかを決める手続きです。
対象となる財産には、預貯金・不動産・有価証券等プラスの財産だけでなく、借入金や未払いの税金といった負債(マイナスの財産)も含まれます。遺産分割が完了しないと、不動産の名義変更や預貯金の解約、そして相続税の申告といった各種手続きを進められず、手続き全般に支障が生じます。
遺産分割の手続きには、主に二つの方法があります。
(1)遺言書にしたがって分割する方法
一つは被相続人が生前に作成した遺言書にしたがって分割する方法です。遺言書による遺産分割は法定相続分より優先されます。相続人間での遺産分割協議は不要となり、手続きがスムーズになる場合が多いです。しかし、遺言書の内容が相続人の遺留分を侵害していないことに留意する必要があります。
(2)相続人全員の話し合いによって分割する方法
もう一つが、相続人全員の話し合いによって相続財産を分割する方法です。相続人間だけで協議がまとまらない場合には、家庭裁判所の調停・審判を行うこともあります。
遺産分割では相続財産を相続人間でどう公平感をもって分割するかだけでなく、税負担の軽減や各相続人がその後の生活や納税資金を確保できるか、そして「争族」を避けること等、総合的に考慮することが大切になります。
2.遺産分割が相続税に影響する理由
遺産分割の内容によって相続税額が大きく変動する場合があります。これは、誰がどの財産を取得するかによって、利用できる制度や土地の評価の扱いが異なるためです。
まず挙げられるのが、配偶者の税額軽減(配偶者控除)です。これは、配偶者が取得した財産について、1億6,000万円または法定相続分相当額のどちらか大きい金額までは相続税がかからないという制度です。配偶者が遺産分割等で実際に取得した財産を基に計算されることになっているので、相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額控除の対象となりません。
もう一つが、小規模宅地等の評価減の特例です。これは、亡くなった方が住んでいた自宅の土地等、一定の要件を満たす宅地について、評価額を最大80%減額できる制度です。誰がその土地を相続するかを遺産分割で確定させることが条件となります。
3.遺産分割の内容によって税負担が軽減された事例
遺産分割の内容は、特例の適用だけでなく、相続財産自体の評価額が変わり、結果として相続税の負担が軽減される可能性があります。以下は、一筆の宅地を分筆した(土地を法的に分割した)ことで評価額が下がり、相続税の負担が軽減された事例です。
<一筆の宅地の分筆による評価減の事例>
| 前提 | 高評価の三方の道路に面した一筆の宅地(X土地)を、配偶者と子で相続。 |
|---|---|
| 分割内容 | 遺産分割協議において、この宅地(X土地)を二つの部分に分筆し、それぞれを配偶者(X1)・子(X2)が取得することを決定しました。 |
| 結果 | 分筆後の土地を個別に評価した結果、分筆された土地の一部が、接道する道路が減る等土地の形状や接道要件が変わり評価額が下がりました。 |
| 軽減額 | 宅地(X土地)の当初評価額1億2,000万円が1億円となり、評価額が2,000万円下がりました。結果として、相続人全体の相続税の課税対象となる財産総額が減り、相続税の負担が軽減されました。 |
<イメージ図>
遺産分割を検討する際は、「一次相続(今回の相続)」だけでなく、将来発生する「二次相続(配偶者が亡くなった際の相続)」にも留意する必要があります。一次相続で配偶者が財産を多く取得すると、配偶者の税額軽減で今回の税額は軽減されますが、二次相続で税金が高額になる可能性があります。トータルの税負担を考えて、長期的な視点を持つことが大切です。
なお、実際の評価減の可否や減額幅は個別事情により異なり、税務署や専門家の判断に基づくことをご留意ください。
4.遺産分割の方法
遺産分割の方法は、主に以下の4つがあります。
4.1.現物分割
遺産を個々の財産の「そのままの形」で分割する方法です。
財産の種類が多く、価値もほぼ均等に分けられる場合、思い入れのある不動産を特定の相続人が単独で取得したい場合等に向いています。
4.2.代償分割
特定の相続人が財産(不動産等)を取得する代わりに、他の相続人に対して代償金(現金)を支払う方法です。
相続財産の大部分がすぐに現金化できない不動産等(例:不動産9割、現金1割)であり、特定の相続人が引き続きその不動産を利用したい、または分割が難しい資産である場合に向いています。
ただし、特定の相続人は代償金を支払う必要があるため、十分な現金があることが前提です。
4.3.換価分割
相続財産(主に不動産や有価証券)を売却し現金に換えてから、その現金を相続人の間で分割する方法です。
公平性を重視したい場合や、すぐに現金が必要な相続人がいる場合に向いています。
ただし、譲渡所得税が発生する点に注意が必要です。
4.4.共有分割
一つの財産を複数の相続人が共同で所有する方法です。
例えば被相続人の自宅の敷地や建物を複数の相続人で共有登記し、所有する方法が挙げられます。
やむを得ない場合であり、将来的にトラブルの原因になりやすいため、可能な限り避けるべきとされています。
5.遺産分割の流れ
遺産分割は相続発生後に進める手続きですが、本来は生前の話し合いや遺言書の作成によって方向性を整理しておくことが望ましいものです。準備が不十分なまま相続が始まると、協議が長引き、相続税の申告期限までに分割がまとまらず特例が使えなくなる可能性もあります。そのうえで、生前に整理ができていない場合は、相続開始後に以下の流れで手続きを進めます。
5.1.遺言書の有無を確認する
遺言書がある場合は、その内容が分割の前提になります。自筆証書遺言は「法務局保管制度」を利用している可能性もあるため、家族の申し出だけでなく保管の有無も確認します。
5.2.相続人・相続財産を確認する
戸籍を取り寄せて相続人を確定し、預貯金・不動産・有価証券・負債等を一覧にまとめます。金融機関の残高証明書、不動産の登記事項証明書等、後の協議や申告に必要な資料を整理しておきます。
5.3.財産の評価・必要書類の準備
不動産の評価、有価証券(非上場株式を含む)の評価、生命保険金の受取確認等、財産ごとに必要な手続きを進めます。相続税の申告が必要な場合は、この段階で資料収集の負担が大きくなるため、早めの着手が重要です。
5.4.遺産分割協議を行う
相続人全員で話し合い、分割方法に合意ができたら遺産分割協議書を作成します。協議書はその後の名義変更手続きに必要となるため、財産ごとに記載内容を整理しておきます。
5.5.遺産分割調停を申し立てる
協議がまとまらない場合、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停では、相続財産の範囲や分割方法について第三者を交えて調整が行われます。
5.6.遺産分割審判が行われる
調停でも合意に至らない場合、裁判所が分割方法を決定します。審判まで進むと手続きが長期化することも多いため、相続開始後の負担を抑えるうえでも、生前から家族で話し合いの機会を持ち、準備を進めておくことが望ましいといえます。
6.遺産分割を円滑に行うためのポイント
相続発生後のトラブルや過大な税負担を避けるためには、生前からの準備と対応がとても重要です。
6.1.遺言書を作成しておく
被相続人の明確な意思を示すことで、相続人同士の協議負担を軽減し、被相続人の想いによる財産の承継を行うことができます。ただし、遺言書を作成する場合には遺言書の形式や、相続人間の遺留分侵害、納税資金の確保等留意すべきポイントもありますのでご注意ください。
6.2.生前に話し合う
家族間でお互いの意向を確認し合うことで、トラブルを防止します。併せて、生前に財産の分け方の方向性を確認しておくと、相続発生後の相続税の特例をどのように活用できるか、税負担を抑えられる可能性があるかといった点も検討しやすくなります。必要に応じて専門家を交えて整理しておくことが、相続発生後の負担を軽くする一助となります。
6.3.財産を正確に把握する
預貯金・不動産・有価証券だけでなく、負債や税金を含めた全体像を整理しておくことが、生前の話し合いの前提になります。どの財産を誰が受け継ぐのが自然かといった分割方針も、財産の内容が把握できていることで検討しやすくなり、相続開始後の協議を進める際の基礎となります。
6.4.専門家に相談する
遺産分割は、税務、法律、不動産が絡む複雑な手続きです。相続税申告や税務に関する相談は税理士、遺産分割協議の代理や争いが見込まれる場合は弁護士等の専門家に依頼することで、相続税の計算や遺言書の作成、そして税負担を抑えることができる遺産分割案について、正確かつ円滑な対応が可能になります。
(まとめ)事前の遺産分割の方向性を考えることが相続対策につながる
遺産分割は、相続税の特例の適用や、家族間の将来の関係を左右する非常に重要な手続きです。相続税の申告期限までに遺産分割を完了させ、特例を適用するためにも、そして何よりも家族の平穏(争族の防止)のためにはご自身のご家族にとって何が有効な選択肢となりうるのか、考えることが大切です。生前に遺言書を作成し、家族で話し合いの場を設ける等、できることから準備を始めることが、最も有効な備えにつながります。三井住友銀行では、相続や生前贈与等に関する一般的な情報提供や提携税理士の紹介等を通じて、お客さまの最適な相続対策の設計のサポートをさせていただきます。ぜひ、ご相談ください。
監修者:
河村 美佳(かわむら みか)
人員数1,000名超の総合型税理士法人山田&パートナーズのパートナー。
相続税申告を数多く手掛け、企業オーナーや地権者といった富裕層のお客さまに対する事業承継や資産承継に関するコンサルティング対応を得意としています。