高齢化に伴い、相続の発生件数は増加傾向に

相続とは、亡くなった人の財産を、配偶者や子どもなどの親族・関係者が引きつぐことです。

ご存知の通り、日本は高齢化が進んでいて、国民の4人に1人が65歳以上。死亡者数も増えており、2039年にピークを迎えるまで増え続ける見込みです。亡くなる人が増えたことで、相続の発生件数も増えています。相続に関する手続きは、誰にとっても他人事ではないと言えるでしょう。

また、財産を引き継ぐ相続人も高齢であるケースが増えています。ある日突然、高齢者が不慣れで煩雑な相続の手続きを行わなくてはならないという可能性も大いにあるでしょう。

いざというときに子どもや家族が困らないよう、できる限りの準備はしておきたいものです。

死亡者数の推移と将来推計

相続時には、どんな手続きが必要?

一般的に相続の手続きは、大きく3つに分けられます。

@相続財産を調べて分け方を協議

相続人が複数存在する場合は、相続財産を調査した後、相続人全員で、誰がどの財産を相続するか話し合い(遺産分割協議)をします。

遺産分割協議については、相続人全員の参加が必要で、相続人が1人でも欠けた状態で行うと、その結果は無効となります。そして、その協議の結果を「遺産分割協議書」として書類に残します。

遺産分割協議書は、民法上において「原因証書」と呼ばれ、金融資産の名義変更・換金時には各金融機関へ、不動産を相続登記する際には法務局へ提出します。相続税を申告する際にも、控えを添付する必要があり、重要な書類です。

自分たちで作成することもできますが、一度締結してしまうと、やり直しがきかないものとされているので、慎重な対応が必要です。

不明な点がある場合は、銀行や税理士、弁護士などの専門家に相談しましょう。後述するWeb遺産整理サービスでは、遺産分割協議書の文書化のサポートを行っています。

A相続財産の名義変更

遺産分割協議が終了すると、各相続財産の名義変更や換金といった手続きを行います。

預貯金や有価証券の名義変更・解約・換金などの手続きは各金融機関で、不動産の名義変更は、相続する不動産の所在地を管轄する法務局で、登記申請を行うのが一般的です。

B相続税の申告

相続する財産が一定額を超えると、相続税が発生します。相続税は、亡くなった人の遺産の総額から「基礎控除」を差し引いた金額に対して課税されます。

基礎控除は、「3,000万円+法定相続人の人数×600万円」という算式で計算します。 
たとえば、相続人が1人の場合は3,600万円未満、相続人が2人いれば4,200万円未満、3人いれば4,800万円未満まで相続税はかかりません。法定相続人が多いほど、基礎控除は多くなります。
また、亡くなった人の配偶者が遺産を相続する場合は、配偶者の相続税が軽減されます。

注意したいのは、相続税の納付には期限があるということ。相続人は、原則として、亡くなった日(相続があったことを知った日)から10ヵ月以内に、税務署に申告し納税しなければなりません。

この期限を過ぎると、配偶者の税額軽減等が適用されない場合があります。なるべく早く、手続きをはじめると良いでしょう。

相続税を申告する税務署は、亡くなった人の住所を管轄する税務署です。相続人の住所を管轄する税務署ではありませんので、注意して下さい。

加えて知っておきたいのが、「相続放棄・限定承認」です。遺産相続を一切せず、放棄することを「相続放棄」、積極財産のみを相続することを「限定承認」と言います。親の遺産を相続するかどうか、受け取る側にも選択する権利があるのですね。

たとえば、親に借金などがあり、負債が資産を上回っている場合は、相続放棄や限定承認の手続きを家庭裁判所で行います。期限は原則、亡くなった日(相続があったことを知った日)から3ヵ月以内です。3ヵ月を過ぎると、遺産や負債など、すべてを相続することになってしまいます。

相続放棄は、相続人が1人でも手続き可能ですが、限定承認は相続人全員が共同で手続きする必要があるため、時間に余裕をもって手続きを行いたいところです。

相続時の手間を省ける「Web遺産整理」とは?

一般的に、相続を何度も経験することはありません。どう進めていいか迷う人も多いでしょう。 

たとえば、銀行の預金を相続する場合には、所定の書類に法定相続人全員がサインをして、印鑑証明、戸籍謄本などを添えて金融機関に提出するといった手続きが必要となります。

大切な人を亡くして辛い状況の中、慣れない相続の手続きを行う負担は大きいかもしれません。

また、仕事が忙しかったり、家族が遠方に住んでいたりする場合、役所や金融機関に手続きに行くのは、かなり手間がかかります。

そういった場合は、「Web遺産整理」といったサービスを利用するのも1つの方法です。相続の相談や手続きの一部をパソコンやスマートフォンから行えるので、負担を減らしたい人にとってメリットは大きいでしょう。

たとえば、三井住友銀行の「相続手続らくらくサービス」では、Webサイトの手続きと郵送のやりとりのみで、遺産の調査、相続財産目録の作成、遺産分割協議書の文書化、預金や国内株式などの換金代行、遺産の分配などを依頼することができます。

ただし、遺産の分け方を話し合うのは、あくまでも相続人同士です。銀行が遺産の分割をとりまとめるわけではないことに注意しておきましょう。

基本報酬額は、385,000円(税込)からですが、相続人が手続きのために自宅と実家を往復する交通費(必要であれば宿泊費)、手間や時間を考慮すると、有効な方法の一つとして検討されるのも良いでしょう。時間や場所を選ばず、非対面で手続きを行えるため、新型コロナウイルスの感染リスクも低減させる効果にも期待できます。

「相続手続らくらくサービス」を利用するには、以下のような条件があります。

  • ご逝去後、4ヵ月以内であること
  • 不動産は、自宅のみであること
  • 相続人が配偶者と子どものみ(5名以内)であること

一般的な相続であれば、利用できる可能性が高いため、事前に条件をチェックしてみてはいかがでしょうか。

「相続手続らくらくサービス」の詳細はこちら

今のうちから、親子で資産を整理しておこう

相続は、遺産を遺す側がどれだけ準備をするかによって、その後の手続きは大きく変わるものです。財産を事前に整理しておけば、先述した「Web遺産整理」といったサービスも活用しやすくなります。

どういった財産があるか、あらかじめ家族と共有しておく、または一覧表を作っておきましょう。

亡くなった後だけでなく、病気になったり認知症が進んだりした際にも、どの銀行にお金を預けているのか、保険には加入しているのかなど、家族が分かるようにしておくことは大切です。

もちろん、具体的な金額を家族で共有しておく必要はありません。どの金融機関にどういった資産があるかが分かればOKです。

その際、使っていない銀行口座や証券会社の口座があれば解約するなど、ある程度整理しておくのも一案です。

また、財産の分け方を指定したい場合は、法的な効力がある遺言書を準備しておくことをおすすめします。自分でも作成できますが、弁護士や行政書士などの専門家に相談しておくと安心です。まずは、役所の法律相談窓口などで聞いてみるのも良いでしょう。

また遺言書というと、多くの資産を持つ人が書くものというイメージがあるかもしれませんが、一般的な家庭でも、準備しておくとスムーズに相続が行えます。

元気なうちから、亡くなった後の話をするのは気がひけるかもしれませんが、相続は家族とって大切な話です。何かきっかけをみつけて、親子で話をする機会を設けておくと安心です。お盆や年末年始に家族が集まったとき、親戚などの相続の話が出たときなどに、気持ちを伝えてみてはいかがでしょうか。

  • 2020年8月現在の情報です。今後、変更されることもありますのでご留意ください。

ファイナンシャルライター 瀧 健

『PRESIDENT Online』などの経済系Webメディアでも多数の執筆協力経験をもつ。ライフプランや資産運用の提案が得意。自らも株式・債券・投資信託などの運用を行っている。社会保障にも詳しい。

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