□人は思い込みによる事実誤認に陥りがちである □とりわけネガティブ思考にとらわれる傾向がある □一つの現象や数字に引っ張られ全体像を見誤ることがある

人は思い込みによる事実誤認に陥りがちである

著者のハンス・ロスリング氏はスウェーデン出身の医師で、経済発展と貧困・健康のつながりを研究してきました。
その中で、学歴が高く国際問題に興味がある人でも、大多数が世界の現状について誤った認識を持っている事実に気づきます。

世界を正しく理解するためには、データに基づく見方を身に付け、陥りがちな「10の思い込み」を払拭しなければならない。

著者のそんな思いから生まれたのが本書です。タイトルの「FACTFULLNESS」とは著者の造語で、「事実やデータに基づいて世界を見る習慣」という意味が込められています。

本書は世界の基本的な事実に関する13の問題から始まります。たとえば下記のような問題です。

「世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?」
A.約2倍になった
B.あまり変わっていない
C.半分になった

この問題の答えは、「C」です。世界銀行のデータによると、貧困率は低下し続けており、極度の貧困状態にある人の割合は過去20年で半分にまで改善しています。

しかし、正解率は、日本や欧米を含めた多くの国で10%以下という結果になりました。AもしくはBを選んでしまった方も多いのではないでしょうか。

著者は数十年間にわたり、何千人にもこのような世界に関する初歩的な質問をしてきました。
しかし、ほとんどの人が正解を答えられませんでした。なぜなら、現状よりも悪い状況をイメージしてしまっているからです。

たとえば「いくらかでも電気を使える人は、世界にどのくらいいるでしょう?」という質問の正解は80%ですが、およそ4分の3の人たちが20%もしくは50%だと思い込んでいました。

著者はその原因を、人は往々にして世界を「ドラマチック」に見てしまうからだと分析します。「ドラマチック」という言葉がピンと来なければ「深刻」と言いかえても良いかもしれません。

著者は世界の見方を歪ませる思い込みを、「世界は分断されているという思い込み」「世界はどんどん悪くなっているという思い込み」など10種類列挙します。

たとえば「豊かな国」と「貧しい国」の2つに分断されているという認識です。

「豊かな国」ではないが「貧しい国」でもない中所得国に全世界の75%の人たちが暮らしています。1日当たりの所得が2ドルに満たない極度の貧困状態の人たちはおよそ10億人で、世界人口の7分の1の割合です。

「世界は分断されているという思い込み」は、最も基本的な事実さえ見えなくしてしまっていると著者は言います。

とりわけネガティブ思考にとらわれる傾向がある

「世界はどんどん悪くなっているという思い込み」も強固です。暗いニュースばかりが目につき、悲惨な未来を想像して心を痛める人は少なくありません。

しかし「データを見れば、世界がだんだん良くなっていることは一目瞭然だ」と著者は明言します。

本書では「減り続けている16の悪いこと」と「増え続けている16の良いこと」を紹介しています。
それによれば1800年に44%にも達していた乳幼児の死亡率は、2016年には4%に減少しています。戦争や紛争の犠牲者もこの75年間で200分の1に減りました。

著者はこれらのデータを踏まえて、こう主張します。
悪いニュースの方が広まりやすいので『悪いことばかり起きている』と人は思いがちだが、世界には報じられていない良い変化もたくさんある。世界では常に『悪い状態』と『良くなっている変化』が同時に存在している──。

そして「世界はどんどん悪くなっているという思い込み」から自由になることで、人は未来に絶望するのではなく、可能性を切り開こうという勇気を得られるとも指摘します。

一つの現象や数字に引っ張られ全体像を見誤ることがある

世界を認識する上で、私たちが陥りがちな罠はまだあります。一つの現象や数字に引っ張られて全体像を見誤ってしまうことです。

著者は地球温暖化問題を例に挙げて、その罠を具体的に解説します。西洋では、地球温暖化について、インドや中国など新興国の責任を追及する論調が目立ちます。

その前提になっているのは、国あたりの二酸化炭素の排出量です。
中国はアメリカよりも、インドはドイツよりも排出量が上回っているデータをもとに、中国やインドに対して「責任を果たしていない」と非難する声が高まっているのです。

しかし、国あたりではなく、人口を踏まえた国民ひとりあたりの排出量を比較すると評価は一変します。
国民ひとりあたりでは、西洋など先進国に住む人々が、中国やインドのような新興国に住む人々よりもずっと多くの二酸化炭素を排出しているのです。
「カナダのひとりあたりの二酸化炭素排出量は、いまでも中国の2倍にのぼるし、インドと比べると8倍にものぼる」と著者は指摘します。

インドや中国の責任を追及しても地球温暖化は解決しません。全世界的な気候変動は、先進国に住む私たちのライフスタイルの持続性にも疑問符を投げかけています。

複雑な世界を正しく見るためには、その状況を産み出したシステム自体にも目を向ける必要がある、と著者は言います。

渋谷和宏のコレだけ覚えて

「10の思い込み」は投資で失敗する人にも当てはまる

本書が列挙する「10の思い込み」の中には、運用・投資をする上で気を付けなければならない「思い込み」も少なくありません。
「グラフは直線を描くという思い込み」「目の前の数字が一番重要だという思い込み」はその最たるものでしょう。

日経平均などの株価が右肩上がりの時、私たちはしばしば、この傾向がずっと続くのではと錯覚してしまいがちです。

しかし、上げ相場がずっと続くことはもちろんありません。長い目で見れば、株に限らず金融商品は必ず上がったり下がったりします。
そんな当たり前の事実を忘れてしまうのは、「グラフは直線を描くという思い込み」「目の前の数字が一番重要だという思い込み」が目を曇らせてしまうからに他なりません。

「短期の値動きだけでなく必ず長期的な指標をチェックすること」「常に複数の指標に気を配ること」──「ファクトフルネス」の考え方は運用・投資についても重要です。

  • 2020年2月現在の情報です。今後、変更されることもありますのでご留意ください。
渋谷 和宏

渋谷 和宏

しぶやかずひろ/作家・経済ジャーナリスト。大学卒業後、日経BP社入社。「日経ビジネスアソシエ」を創刊、編集長に。ビジネス局長等務めた後、2014年独立。大正大学表現学部客員教授。1997年に長編ミステリー「錆色(さびいろ)の警鐘」(中央公論新社)で作家デビュー。「シューイチ」(日本テレビ)レギュラーコメンテーターとしてもおなじみ。

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