「定年後は毎日が休日!」嬉しいのは束の間?

思い起こしてみてください。幼稚園や保育園に通いはじめる3∼4歳から、中学や高校を卒業する15∼18歳までは、朝の9時前∼15時、さらに部活動などがあれば17∼18時くらいまで、決められた時間のなかで過ごします。さらに、大学に入ってからも、就職して社会に出てからも、活動する時間帯はほぼ同じ。定年を迎えるまで、平日は朝起きて夕暮れまで、きっちりとした時間管理のなかで家の外で活動しています。だからこそ、自分の時間を自由にコントロールできる「たまの休日」は嬉しいものです。
ところが、定年後、完全にリタイアすると「毎日が休日」。60年以上にわたって続けてきた生活が、突然大変化することになります。平日に学び、働くからこそ、たまの休日が嬉しいわけですが、定年後はそれが日常になっていくのです。もちろん、働いているときのような厳しい時間管理からは解き放たれますが、定年後は自分で時間を管理しなくてはなりません。そして結局は、それまで続けてきた「朝起きて活動して日が暮れれば家で休息して眠る」という生活リズムをいかにキープしていくかが、老後の毎日を健康的に充実して過ごす秘訣になってきます。

管理されないからこそ、生活リズムに要注意

人は昔から、太陽が昇っている日中に活動し、太陽が沈んだ夜は休息して眠るという生体リズムを持っています。おそらく、現代でも大多数の人にとってはこのリズムが合っているのではないでしょうか。夜型を定義するのは難しいと思いますが、例えば夕方以降のほうが仕事や勉強がはかどる人は、定年後では趣味や読書などに夢中になって、就寝時間が深夜になってしまうようなことが想像されます。就寝時間が遅くなって起床時間が遅くなれば、朝食と昼食がブランチに。結果、昼食と夕飯では足りずに夜食を取ってしまって、また夜更かしになるという悪循環......。
もちろん、ご本人にとって不都合がなく、納得されているなら良いという考えもあります。夜型でも規則正しく、過ごせる方もいるでしょう。ただ、いずれにしても生活リズムや睡眠のリズムを整えることは、健康的に暮らすための基本です。
個人的には、社会は、朝型の人にとって有利にできているのではないかと感じます。小さなことですが、喫茶店のモーニングサービスや映画館の早朝割は、定年後の楽しみの1つになるのではないでしょうか。さらに先の話になりますが、介護が必要になって老人ホームなどに入居すると、起床時間や就寝時間は施設のルールに合わせる必要があります。朝型の人にとってはなんてことないことでしょうが、夜型の人にとっては大きな課題になる場合もあります。定年後は自由に時間をコントロールできるからこそ、これまで60年以上続けてきた早起きの生活リズムをキープするという意識を持つことが大切ではないでしょうか。

毎日外出する機会を自分で用意して、体内時計を調節!

完全リタイアされた方が「私の仕事は散歩です」とおっしゃっていました。ほぼ毎日のように、以前勤務していた街中に出て散歩し、趣味のパイプ好きの人と語り、音楽にまつわる活動をしてから自宅に戻るそうです。よく話を伺ってみると、実は現役のときから、仕事帰りや休日に、同じような日々を送っていたとのこと。定年後も同区間の定期を購入し続けて通い、仕事がなくなって時間ができた分、属するコミュニティが増えて毎日が楽しいということです。
やはり、毎日外出することが、生活リズムを崩さないための大切なポイント。定年後の準備期間として、現役時代から外出する楽しさを生み出してくれる趣味や活動の場を増やしておくのも良いでしょう。

いど みえ

井戸 美枝(いど みえ)

CFP®、社会保険労務士。社会保障審議会企業年金・個人年金部会委員。経済エッセイストとして活動。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに、数々の雑誌や新聞の連載記事の執筆をはじめ、講演、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題を紹介。近著に『定年男子 定年女子』共著(日経BP社)、『100歳までお金に苦労しない定年夫婦になる』(集英社)、『届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)など。

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