藤島大の楕円球にみる夢
(2025/04/07)

ゲスト/山内遼(東芝ブレイブルーパス東京の通訳)

三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供する番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
4月7日放送のゲストは、東芝ブレイブルーパス東京の通訳、山内遼さんです。

藤島今日は東京都府中市、今好調の東芝ブレイブルーパス東京のクラブハウスに来ています。ゲストはブレイブルーパス東京の通訳、山内遼さんです。よろしくお願いします。

山内よろしくお願いします。

藤島我々のような取材をしている人間はヘッドコーチの記者会見、その他でよく知っているんですけれど、一度見たら忘れられない髪の形をしています。そこに何かが現れていますね。やっぱりファッションとか髪型というのはその人の生き方が。
経歴を私の方から紹介します。1997年、北海道の札幌に生まれました。父親の仕事の関係で幼稚園ぐらいのときアメリカに。アメリカのどこですか?

山内サンフランシスコです。

藤島サンフランシスコで過ごして帰国後、小学校から高校1年まで東京で学校生活を送ります。東京都立三鷹高校2年のとき、そのときラグビー部ですね。

山内ラグビー部です。

藤島その2年のときに交換留学プログラムでアルゼンチンのサルタという北西のチリ近くの学校に行くわけですよね。帰国後もう1回三鷹高校に戻ってラグビーを続けます。卒業後、東京外国語大学へ進学します。ラグビー部に所属、キャプテンを務めました。在学中から日野レッドドルフィンズで通訳に従事、大学を晴れて卒業して、2023から24年シーズン、前年度に東芝ブレイブルーパス東京に移って、同じ仕事をしているということです。小学校から中学3年まではサッカー、中学3年からはラグビーを続けてきました。英語とスペイン語が堪能です。
(リスナーは)ちょっとお気づきだと思いますが、声がかすれているというかハスキー。それはなぜかということなんですけれども、これ私の方から話しますけれども、大学4年ですか?

山内そうです。

藤島キャプテンになって、東京外語大で練習しているときに。

山内僕がボールキャリーしていて。

藤島タックルが喉の気道に入って。それで一時深刻な状態になって、手術を数度乗り越えて、これリハビリっていうんですかね、声を戻した。

山内そうですね。

藤島そういう経験を持っています。つまり大学4年生の就職の活動をしたりするときにいわば闘病をしていたので、そういうこともあって在学中から通訳の道に入っていく良き道と出会ったと。
昨シーズンからブレイブルーパスが力をつけてきた、古いファンからは復活したというイメージがあるんだけれども、中に入ってみて、特に他のクラブから来て感じるところは?

山内大きくは二つあるかなと思って、一個はやっぱり選手の質が高いし、今夕方なんですけど、午前で練習終わっても残って練習していたり、練習後そのままジムに戻って筋トレしていたりというところ。それをスタメンで出ている選手たちも、毎週毎日やっている、その向き合う姿勢、根底に流れる何かが東芝にはあるんだなって感じました。
もう一個は、ホームページ見てもらうとコーチがたくさんいると思うんですね。なので、漏れている分野がない、ラグビーのあらゆる要素、穴になりうるあらゆる部分をしっかり潰しているのは大きいのかなと。

藤島一つの見方としては強力な監督がいて少数の腹心がいて意思の決定がスムーズで一つになって進んだ方が強いかなと思うこともあるんですけど、たくさんのアシスタントコーチがうまくまとまっているのはヘッドコーチの力が大きい?

山内と思いますね。簡単な言葉で言うと包容力って言うんですかね。下をのびのびやらせる力というのも出ているんじゃないかなと思います。

藤島トッド・ブラックアダーヘッドコーチですね。包容力とはどういうときに感じますか?

山内一つはプレゼンスというか、目力。トッドに目を見て話されるともううなずくしかないみたいな特別な何かがあるのかなと。

藤島オールブラックスのスタンドオフだったリッチー・モウンガ選手は?

山内僕が見ていて思うのは彼の中に蓄積された、きっと意図して蓄積していた部分もあれば、何十回何百何千回と似たような絵や違った絵をフィールド上で見ているから自然と覚えた部分もあると思います。だから相手がこうだったらこう、というところの答えが瞬時に出てくるんです。チームミーティングでも、全てが論理だっていて淀みないし、ラグビーの原理原則をしっかりおさえながら、チーム全体がどうプレーするべきかを瞬時に話せるところが彼のすごいところなのかなって感じます。

藤島そういう人ってやっぱり訳しやすいですか?

山内訳しやすいです。通訳は論理構造をある程度予想して、例えば接続詞が抜けていたとしても、ここは順接か逆接どっちだろうというのは論理構造を基に予測するので、ああいうふうに、論理立ててくれるとすごく訳しやすいですね。

藤島ちなみにトッド・ブラックアダーさんはどういう英語なんですか?

山内すごくポジティブな話し方をしてくれるのが基本にあるかなと思います。例えばどんな逆境も前向きに捉える術があるよねって捉え方の一つの例というのをいつもみんなに提示してくれるのかなと。

藤島ここからちょっと通訳とは何かって話をしたいんですけど、経歴を見ていると、幼稚園のときにアメリカにいたわけでしょう。それだけで英語がこんなに上手くなるのか、どういうカラクリなんですか?

山内幼稚園に行っていたときはもう完全に英語だけで、両親ともに英語ができたので家でもほとんど英語という生活をしていたらしいです。日本に帰って来てから日本語を使うようになって基本的にはアメリカで喋っていた英語は1回忘れてはいるんですけど、ただ、中学高校とそんなに勉強はしなくてもテストではそれなりに高い点数は取れるぐらいの得意教科で。大学でラグビー部に入って指導者がいなくなって、ラグビーの情報を集めるときに日本語じゃ限界があって、英語の必要に迫られてずっと英語で情報を入れるようにしていました。

藤島ちょっと話があちこち行きますけど、アルゼンチンを選んだのは高校のとき。

山内何となく英語はできるなっていうのがあったのと仲良かった同級生が留学に行くと言っていたのがみんな英語圏だったので英語圏に行ってもしょうがないなって思ったときに、言葉ができなくてもスポーツができれば友達ができるかと思いました。サッカーとラグビーができたので、どっちも強いのはアルゼンチン、どうせ行くなら家から遠い方がいいよなと思って決めました。

藤島ちょっと大雑把な聞き方だけどアルゼンチン人と接して、英語圏の人と違うんですか。もちろん1人ひとり違うのはそうなんだけど、あえてひとくくりにして申し訳ないんだけれども、自分の周りの人たちを見た感覚では生きる目的が違う?

山内特に長期的な視点もなく楽しみたい、例えば目の前で楽をすることかもしれない。でもそれをみんなで肯定するっていうのがあるのかなと思います。

藤島その流れで言うとね、スポーツの赤裸々な集団、同じ目標に向かって協力し合いながらも中に競争があったり、エゴをある程度発揮した方がうまくいく場合もあるし、そういう集団の中で、日本語と英語を行ったり来たりすると、言葉だけじゃなくて生き方とか背景の文化みたいな、衝突とは言わないけど行ったり来たりするような感覚ありますか。

山内ありますね。最近、通訳って一生通訳でしかないのかなって思っていて、例えばアシスタントコーチはヘッドコーチがあり今だったらダイレクターオブラグビーがあり、ステップアップの先がある程度見えている中で、通訳って通訳だし、基本的には日本のマーケットにしか存在しない。その中で僕が得ているものって何なんだろうと考えたときに、競争して、生活かけて日々ラグビーをしている人たち、それを例えば1年2年の単位の契約で、同じように生活かけてコーチングして結果に左右される生き方をしている指導者たちの生の感情だったり、対立だったり、ときには弱い部分だったり、そういう感情の機微を身近に感じられるというのがこの仕事をしていての財産なのかなと思います。

藤島つまり、通訳で仕事をしていることがすでに究極だってことですよね。
例えばね、ちょっと強引な仮説を立てて、一般的にヨーロッパ系の人は、はっきり自分の意見を示すことによって成り立っていく。日本の社会に育った人は小さな世間をそこに作って、その中の暗黙の了解とか、ちょっと我慢して、何となくうまくやっていくとかそういう違い、たぶんあるでしょう。

山内はい、あると思います。

藤島海外で見たらちょっともじもじしていて遠慮ばっかりしていると思われがちな集団、でもラグビーができる。

山内ラグビーのスタイルに反映されているかどうかは別として、連帯責任というものにさらされて育った日本人の特性として隣の奴をがっかりさせる1人に自分がなっちゃいけない、すごくネガティブなモチベーションという捉え方もできなくはないかもしれないですけど、ラグビーで体を張るってところに関して言えばすごく活きるのかなと。

藤島分かりますね。はたから見ていると、例えばブレイブルーパスなんかはうまく融合してるんじゃないかとだから強いんじゃないかと。

山内思います。特に今の東芝だと他のチームと比べても日本人の比率も高い方かなって思いますし、そういう意味では日本人の特性がうまく活きている部分もあるのかなとも思います。

藤島おそらく、ニュージーランドから来た、あるいはアルゼンチンでもいいですけど、優秀なコーチがいたら、今言った日本人のちょっとおとなしいところと、いや待てよ、これがなかなかいいぞって気づくんでしょうね。

山内そうですね。今年から来たフォワードコーチのジョシュア・シムズは、本能的に目の前の相手を食いに行かなきゃいけないっていう部分がもともと備わっている選手、そういう本能的な闘争心が出るのに時間がかかるかもしれない選手、日本人の僕がそれぞれの選手を見ているのと全く同じ感覚で完璧な分析をしているのでそういうのがあるのかなと思います。

藤島彼のインタビューを読んで、面白かったですね。つまり、コーチングっていうのは、その人と話すことだ。スポーツはプレッシャーという側面がある、プレッシャーにどう対応するかはその人がどこから来たかが大事だと。やっぱりいいコーチって世界中、どんなスポーツでも同じなんだなと思います。高校の名監督とか洞察力もあるし想像力もある。今聞いていて、一般的に日本人は目の前の敵を食っていかない、だけど行く奴はいる。ここですよね。つまり1人ひとり違うんですよね。そういう人間を見つけたらそこから突破口を、穴を開けていく。そういうことなんですよね。
通訳の話に戻って、緊張する存在はいますか?

山内リーチマイケルさんの通訳は、緊張はします。通訳って正解、100点っておそらく絶対になくて、誰にも基本的には採点されることのない仕事ではあるんですけど、マイケルさんはあの人なりに自分の今言った日本語はこの英単語っていうのがあるという意味で100点が存在して、かつマイケルさんという採点者がいるので、そこはやっぱり緊張はしますね。

藤島リーチマイケル選手が日本語で話すことを英語にすることもある?

山内どっちもあります。例えば試合前のロッカーでのハドルとか、英語で始まったと思ったら日本語になったり、その逆もあります。マイケルさんの言ったのと逆の言葉で、日本語で言ったら英語で、英語なら日本語で言って、たまに僕が英語で言って、それがお気に召さずにマイケルさんがもう一回英語で言う、みたいなのもあるにはあります。

藤島通訳としてさらにこうしたい、こうなりたいってありますか?

山内マイケルさんに直されることがなくなったら一人前かなと思います。そこが当面の目標でありもしかしたら最終目標かもしれないです。

藤島今日のゲスト、東芝ブレイブルーパス東京の通訳、山内遼さんでした。クラブハウスでお話をうかがいました。ありがとうございます。

山内ありがとうございました。

4月7日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣

ラジオ番組について:
ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。

4月7日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-250407.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0100786