藤島大の楕円球にみる夢
(2025/05/05)
ゲスト/塩崎太郎氏(「静岡ブルーレヴズ」チームドクター)

三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供する番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。
5月5日放送のゲストは、静岡ブルーレヴズのチームドクター塩崎太郎さんです。
藤島スポーツライターの藤島大です。本日のゲスト、静岡ブルーレヴズのチームドクター塩崎太郎さんです。よろしくお願いします。
塩崎よろしくお願いします。
藤島プロフィールを私の方から。神奈川県の富士見台小学校、これ川崎あたりですか?
塩崎川崎です。
藤島そこから桐蔭学園中学、そしてそのまま高校に進学をします。高校3年のとき、花園で全国大会準優勝、そのときのナンバー8です。相手は東福岡高校。そのときの30人、錚々たるメンバーが並んでいます。
卒業後、1年受験浪人をして国立の浜松医科大学に進学。卒業後2017年から順天堂大学医学部附属静岡病院、その後東京慈恵会医科大学附属病院などを経て、2023年から聖隷浜松病院に勤務をしています。そして2025年からは整形外科医長、要職にあるということです。その一方で静岡ブルーレヴズのチームドクターとして活躍。よく放送中継のときに誰かが倒れるとやや心配そうな顔をして寄り添う姿が映っております。
今日は桐蔭学園のナンバー8で花園決勝まで行った話、そして医師を志す。そして静岡のチームドクターになると、そういう諸々を聞いていきたいと思います。
今リーグワンで静岡ブルーレヴズ、好調ですよね。すでにプレーオフ進出を決めていますが、23年からチームドクターに?
塩崎はい。
藤島この数年間一緒に歩んできて、今季、どこがいいですか?
塩崎勝っているというのもあってチームの雰囲気は非常にいいんですけれども、とりわけ僕が思うのは、メディカルスタッフ、トレーナーの方の怪我人に対するアプローチが非常にうまくて、選手をプレーに戻すタイミングとか休ませるタイミングとかがしっかりしているので怪我人が少ないというのが好調な要因の一つなのかなと思います。
藤島関係している裏方のバックアップが。
塩崎リーグワンが始まってから、悔しい思いを胸に、チームのスタッフ、選手が反骨精神を持って日々挑んだ賜物なのかなと思います。
藤島横浜キヤノンイーグルスの試合で14番ヴァレンス・テファレ選手、私はびっくりしたんですけど、自陣のゴール前からほぼ100メートル走り切ってトライ。しかも何人も吹っ飛ばして、蒸気機関車が走っているような。体重110キロぐらいですかね。彼なんかドクターの目から見たら、身体能力どうなんですか?
塩崎ドクター目線というか、もう高すぎますね。あの体をあのスピードで前に進める足の太さ、筋肉のすごさ。太ももはおかしいくらいだと思います。
藤島なるほど。今、お医者さんとして話を聞いたんですが、まず花園の話を。手元に『高校ラグビー花園の記憶』という本を持ってきたんですけどそこに決勝のメンバーが出ています。2010年1月7日花園ラグビー場、東福岡対桐蔭学園、ナンバー8に塩崎太郎とありますけれども、チームメイト、学年は一つ下になるんですけど。小倉順平選手、松島幸太朗選手、竹中祥選手がいて、相手には垣永真之介選手、布巻峻介選手、藤田慶和選手などなど。
塩崎恐ろしいですね。
藤島そこにいたわけですよね。
塩崎はい。

藤島31対5で敗れるんですけれども、調べると、ナンバー8塩崎、前半途中で退場しているんですが。
塩崎28分に自陣でラックができて、ラックサイドでタックルをしたときに肩が亜脱臼してグラウンドを出ることになるんですけれども、ヒットした相手が今一緒に働いているブルーレヴズの西内勇人さん。
藤島法政から入ったフランカーでタックルが強い。
塩崎今は引退されてスタッフをされているんですけれども、まさかあの西内じゃないだろうなと思ったら。世界は狭いなと思いました。
藤島向こうは覚えていました?
塩崎覚えてないです。
藤島それがまたいいんですよ。花園、決勝まで行きました。さあ、勉強って切り替えたのはすぐですか?
塩崎いや、3月くらいまでは友達と思い出を作ったりしながら。
藤島何しろそれまでもあんまり遊んでないですもんね。
塩崎そうですね。その後4月1日からもう地元の塾に入るんですけど、どういうわけか勉強にすっと入っていけて、友達と遊んだのは3回くらいじゃないですか。もうあとはずっと勉強していました。
藤島つまり1年間浪人して、3日しか友達と遊んでない。
塩崎本当にずっと勉強していました。
藤島今これを聴いてくださっている方が、ちょっと待て、そこがなかなかみんなできないんだって思うと私は思うんだけど。
塩崎浪人している間も大学生になったみんなの楽しい話が聞こえてくる中、わざわざ浪人しているなら1年で決めるしかないと思っていたので。
藤島何て言うのかな、僕の想像ですけれども、決勝まで行った桐蔭学園の8番のジャージを着た、何か自負というのはあるでしょう?
塩崎あったと思います。1個自信がついていたのかもしれないですけど、自分でやるって決めたことをやり切れるっていうような何か自信を桐蔭学園でつけていただいたのかなと思います。
藤島でもそういうキャリアを持って医学部を志す。私の感覚、知識でいうと桐蔭学園で23人ぐらいに入っていると大学のラグビー部から声がかかったりして、そういう道もあったと思うんですけども。
塩崎ラグビーも考えたんですけれども、とにかくラグビーが好きになってしまっていたので歳を取っても関わり続けられる職業は何だろうかって考えたときにどこかのチームドクターになれたらいいんじゃないかと思いまして。
藤島ラグビーが好きだから強豪大学に行くと考えがちですけど、選手は引退があるけど、ドクターにはない。
塩崎はい。でも、大学に行って1年生、2年生になると、僕の同期たちが早稲田、慶応でテレビに出てくる。それを観ると、僕もいたかもしれないなってちょっと後悔はありました。かなり羨ましかったですね。そこで切磋琢磨できて、しかも花園で相手として戦っていた選手がチームメイトとして戦っている姿を見ると、いいなって。
藤島そうか。医大、医学部に入ってもやっぱり眩しいんですね。なるほど。
そもそもなんですけれども、何か他の道もありそうだけど、なぜドクターだったのか。
塩崎たしかに。地に足をつけて自分で選手を診て治せることにやりがいを感じるかなと思いまして。

藤島最初から、チームドクターになるために。
塩崎大きいことを言うと日本代表のチームドクターを目指していたんですけれども、入ってみるとそういうところに関われるっていうのはなかなか難しいことで。
藤島ブルーレヴズから声がかかったんですか?
塩崎ずっとラグビーをやりたいと周りに言っていましたが、僕の病院に対して、医療のサポートをという話になったときに、僕の上司はジュビロ磐田のチームドクターなので、僕は診られないけど、情熱を持った男がいるよと紹介していただいて関わらせていただくことになりました。
藤島念願かなって、今、思った道を来ていますよね。
塩崎本当にもう恵まれていると思います。
藤島例えば同級生それから1学年下の松島選手、小倉選手あたりだって、そろそろね、選手としては最後の方に来ている。でもこれからですもんね。
塩崎これから頑張らなきゃいけないです。
藤島病院に勤務しているときはどういう日々を過ごしているんですか?
塩崎僕は膝を専門としている整形外科医で、スポーツ整形外科を標榜しているところで働いているんですけれども、膝の大きな損傷でいったら前十字靭帯損傷とか、半月板損傷とかそういうのを日々治しています。プラス、おじいさんおばあさんの変形性膝関節症に対して人工関節を入れたりして幅広く膝の疾患に向き合っています。
藤島ラグビーではやっぱり膝を傷めることが多い?
塩崎肩とか多い印象を持たれることが多いと思うんですけど、膝は多いと思います。
藤島ブルーレヴズのクラブのカラーというか文化は、そばにいてどう思いますか?
塩崎どこでもあるとは思うんですけど、スクラム組んでる横で見ていたりすると、同じポジションで自分のポジションの下の人に、足をこうした方がいいとか緻密なアドバイスをしていて、脈々と受け継がれる何かがあるのかなって感じます。
藤島桐蔭学園で全国のトップに行くような体験を持っている身、目を持っている立場からして、今、レベルは違ってもブルーレヴズと何か共通するものはありますか?
塩崎あると思います。静岡ブルーレヴズの練習に行くたびに好きになっていくんですけれども、その一つとして、メンバー外の選手が次のチームの仮想、例えば、仮想東芝ブレイブルーパス東京さんとかをやるんですけれども、そこに対するチームへの貢献の情熱、メンバー外の選手で目が腐っている人が1人もいない、すごくいい雰囲気だなと思って外から見ています。
藤島桐蔭学園で良いチームができるときもそうなんですか?
塩崎そうだったと思います。
藤島まさに良いチームの核心だと思うんですけど、試合に出られない人たちの意欲、態度、桐蔭学園のときもそういう環境があったと。それはなぜだと思いますか?
塩崎桐蔭でメンバー外の時期も長かった僕が思うに、何かチームにしてあげよう、試合には出られないけどと考えると、自ずとそうなってくるのかなと。
藤島自分は何が貢献できるかを考える?
塩崎試合以外で活躍できるところが何かを探して率先してできる人が、桐蔭には結構いたかなと。
藤島静岡も似ている?
塩崎感じます。メンバーの人のメンバー外の人へのリスペクト、つまりレギュラー側の、メンバー外でチームのために貢献してくれている人へのリスペクトがすごくあるなと思っています。
藤島毎日が楽しいですね?
塩崎本当に楽しくしています。(コーチの)長谷川慎さんに「先生、すごく楽しそうな顔してる。病院がそんなにつまらないの?」と言われたことがあります(笑)。
藤島私は医学部のラグビー部だとか、ラグビー経験のあるお医者さんたちとビールを飲んだりしてよく言うんですけど、医師の仕事とラグビーって親和性があると思うことが多いですね。仕事だけど仕事じゃない。使命があって、ルールを守るだけじゃない、モラルとか、ときにそれを踏み越えても緊急事態に、とっさに判断して何かをしなきゃいけないときがある。ラグビーの試合中と似ているんじゃないかなって。
塩崎たしかにそういう一面、あるかもしれないですね。
藤島今後、自分の歩んでいく道で決めていることはあるんですか?
塩崎まずは目の前の静岡ブルーレヴズを優勝に導けるようにスタッフと一緒にやっていきたいんですけれども、最終的には日本代表のチームドクターとして、選手1人ひとりと向き合って信頼を得て貢献できたらなと思っています。
藤島そういえばこの番組のディレクターが調べたいい情報があって、浜松医科大学の学生時代に「第1回ミスタージャパン」で3位。要するに、個性を含めて総合的に、簡単に言うとかっこいい人を選ぶ。出てみようと思ったのは?
塩崎浪人に入る前くらいの段階で服のメーカーでモデルとしてバイトしていたことがあります。そこで働いていた人が、ミス・ユニバースジャパンでグランプリに輝いたんですけど、その人のFacebookで「男性版ができるから誰かやらない?」ってあって、勘違いして自分を。
藤島ブルーレヴズの人たちは知っているんですか?
塩崎一部、そうですね。それこそ長谷川慎さんが「知ってるで。一番いいタイミングでみんなに言ったるで」と。
藤島彼は情報を逃さない。現場でいいコーチングを見ているだけで、いいお医者さんになれる気がする。
今日のゲスト、静岡ブルーレヴズのチームドクターでかつて桐蔭学園のナンバー8だった塩崎太郎さんでした。ありがとうございます。
塩崎ありがとうございました。

5月5日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣
- ラジオ番組について:
- ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。
5月5日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-250505.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0100786