藤島大の楕円球にみる夢
(2025/09/01)

ゲスト/中矢健太氏(スポーツライター)

三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。9月1日放送のゲストは、スポーツライターの中矢健太さんです。

藤島スポーツライターの藤島大です。本日のゲスト、スポーツライター、私と同業であって、またその少し前までは上智大学のコーチ。ラグビーのコーチでもあった中矢健太さん、28歳です。よろしくお願いします。

中矢よろしくお願いします。

藤島この4月から大体4カ月中南米をラグビーの旅を続けて、帰国して間もないところで今日来ていただきました。
プロフィールを私から紹介します。1997年、兵庫県の神戸市に生まれました。ラグビーは8歳から芦屋ラグビースクールで始めて、甲南高校のラグビー部で、兵庫県の県予選は3年生のときに4強。報徳学園に7対38で敗れる。その後上智大学に進学、文学部の新聞学科というところですね。上智でもラグビー部に入る。上智ではセンター?

中矢センターです。12番です。

藤島卒業後、関西の放送局、毎日放送、MBSと言いますけれどもそこに入社をして総合営業局というところで力を発揮します。昨年の5月、退職して英語の勉強を始めて、今年の2月から3月にかけてオーストラリアのゴールドコーストにあるボンド大学、そこの女子ラグビー部のアシスタントコーチを務めたという異色の経歴ですね。
その後、中南米の旅へ出る。現在の予定ではまたこの9月にアメリカへ。どこに?

中矢ロサンゼルスのUCLAに行く予定です。

藤島ラグビーのコーチングを学ぶんじゃなくてコーチングもするんですね。

中矢学生として行くんですけど、その傍らで、ラグビー部のコーチをさせていただくことになりました。

藤島ざっと紹介しただけでも、ただ者ではない感じがします。中南米の話は「Just RUGBY」のコラムでも書かれていますが、国で言うとどこを周ったんですか?

中矢8カ国、メキシコ、キューバ、そこからまたメキシコに戻り南下していきます。エクアドル、ガラパゴス諸島、ペルー、ボリビア、チリ、イースター島、、アルゼンチン、ブラジルで帰国しました。

藤島私の知識だと中南米はサッカーをやっている。大衆的な、はっきり言えば貧しい地域の人たちも盛んに行う。ラグビーはどちらかというと、学校に行った人とか経済的に恵まれた人がやっている。概ねそうですか?

中矢そうですね。やっぱり英語が喋れるというのが一番だと思います。

藤島上智大学だからたぶん英語はある程度できて、その後も勉強を?

中矢上智には英語を喋れる人が入ってくるので、私は全く進歩がありませんでした。

藤島日本に馴染みがあるのは例えばアルゼンチンだと思うんですけど、サン・イシドロというブエノスアイレスの地域がある。芦屋みたいなところですよね。

中矢否定できません。

藤島そこに名門のラグビーのクラブがあって、まずそこに行けば、とっかかりができる。そういう感じじゃないですか。

中矢イングランド代表がテストマッチでアルゼンチンに来ていたんですけど、最初の練習施設がサン・イシドロのクラブでした。そこにいると、「お前は何で残っているんだ」と警備に声をかけられて、「私は日本人でラグビーの取材がしたい」と言うと、クラブの関係者に繋いでくれたのがアルゼンチン取材の第一歩でした。

藤島そこからどんどん人脈ができて。

中矢文字通りの数珠繋ぎで、まずスペインにいるおじいさんに電話をかけて、サン・イシドロ・クラブのレジェンドだったんですけど、その彼が今ノンフィクションのライターをしているセバスティアンさんという現地の方を紹介してくださったりという風に繋がっていきました。彼にはすごくお世話になったんですけど、最後にお父さんにお会いしてお話していたら、アルゼンチンラグビー協会の元会長でした。(元日本代表、元早稲田大学監督の)日比野弘さんとのお写真を拝見してびっくりしました。

藤島アルゼンチンも、大衆はみんなサッカーが大好きなんだけれどもラグビーの確たるコミュニティがあるんですね。

中矢熱狂的でした。情熱的でした。

藤島なるほど。アルゼンチンの刑務所で、服役している人がラグビーのチームを作っていて、そこに突撃取材を敢行する。簡単じゃないですよね?

中矢セバスティアンさんが刑務所の支援財団の大使を務めていて、その関係で話を持っていったらOKが出ました。

藤島「スパルタンズ」って言うんですよね。ブエノスアイレスにある刑務所の中の人たちが、塀の中でラグビーを練習している。写真で見て衝撃を受けたんですけど、人工芝なんですよね。

中矢はい。土じゃなくて人工芝。

藤島ラグビーを始めた囚人、再犯率が60%だったのが5%以下に下がった。本当なんですよね。

中矢65%から5%以下に下がったと。なぜなのかは分からないんですけど。その前にサッカーを導入したら暴動が起きたらしくて、ラグビーは不思議だなと思いました。

藤島一般的に、暴力を犯した人もいるかもしれない集団にあれだけコンタクトが激しいスポーツを入れると心配だという心理が働くと思うんですけどね。

中矢刑務所ってやることがないので、どうしても刑務所内の抗争が起きたりする部分はあるんですけど、そこにラグビーを持ってきてくれたのは刑務所所長からしてものすごくありがたかったみたいです。暴力的な場所に暴力的なものを持ち込むのはどういうことだって議論はあったみたいなんですけど、やってみると、参加する囚人が増えて、毎週火曜日の朝9時から練習するのが固定化されたと。「何でここに来たんですか」と聞くと、殺人未遂だったり、キャプテンは強盗だったり。色々聞いたんですけど、ただ彼らの円陣に入って肩を組んで、喋って、となると更生ということでは表せないぐらいものすごく温かい人たちで、それが衝撃的でした。

藤島刑務所に入る前はあまりラグビーの近くにいない人たちだったと想像できるんですけど、みんな楽しいと言うわけですか。

中矢すごく楽しそうでした。芝の上で思いっきり体あてて。不思議な空間でしたね。

藤島チリに行って、サンティアゴにラグビーショップがある。あのストーリー、読んでいて好きでしたね。ラグビーのジャージを売りたくてしょうがない人が現れて、そこに人が集ってきて小さいけれども強固なコミュニティがある。

中矢チリの情報は何もなくて、ラグビーショップだったらあるんじゃないかなと思って調べたら、私の泊まっていたホテルの4駅ぐらい隣にあったので、行こうと思ってその日の夕方ぐらいに行きました。

藤島店名は「LA OVALADA」(ラ・オバラド)って言うんですかね。「楕円」っていう店ですよね。そこのマスターは、外国のジャージを着て仲間のところに行ったら、どこで買ったんだってみんなに言われて。これは商売になると思ったと。

中矢直感を得たらしいです。

藤島そのお店にラグビー好きの人が来るわけですか。

中矢来ます。スーペルラグビーアメリカーナっていう向こうのスーパーラグビーですね、その準決勝の日も常連さんたちがみんな集まって、そこでお肉を焼いて。

藤島当然ビールを飲んで。

中矢僕もビールを持って行ったんですけど、全然足りないぐらいみんなよく飲んで。

藤島あのコラムで、モアイ像のあの島でもラグビーをやっていると。一般的にはイースター島だけど現地の人はそう言わない。

中矢現地ではラパ・ヌイ島です。ラパ・ヌイにラグビーが持ち込まれたのは今から17年ぐらい前。バイカワ・トゥギというラパ・ヌイ出身の学校の教師の人がサンティアゴに行ったとき初めてラグビーを見て衝撃を受けて、片っ端から体のいい人にラグビーやらないかと声をかけたそうです。

藤島都会の人が移住して来て広めたわけじゃない。チリのラグビーショップの人もそうですけど、1人の人間の異様な情熱とか愛情が、ものを変えるんだってよく思うんですよね。スポーツの人ってすぐ組織の話をするけれど、1人、深く動いてそこにいた人たちはまた無心になって、それが一番早い気がするな。

中矢南米のラグビーは1人ひとりの情熱によって守られてきたんだというのは4カ月を通じて感じました。

藤島南米の話をずっと聞きましたけれども、ラグビーは8歳から。誰かがやってたんですか?

中矢いや、家族誰もやっていませんでした。小学校の後輩のお父さんがラグビースクールのコーチをしていて、誘われたのがきっかけでした。

藤島よかったですね。

中矢私はすごく人見知りで、人に会うといつも泣いていて百人一首で女の子に負けて泣いたりしてたんですけど、ラグビーの体験に行くとみんなが拍手で迎えてくれたのがすごく嬉しくて。入ってからコーチの態度が急変して、びっくりしました。

藤島上智大学は新聞学科。これはラグビーをある程度頭に置いて選んだ?

中矢自分がラグビー選手として食べていけるかと考えると難しい。でもどうしてもラグビーに関わりたいなと思うと、文章を書くことだったり本を読むことが昔から好きだったので、メディアの方にすごく興味があるなと。

藤島卒業して、大阪の放送局に就職するけれども上智のコーチだったんですよね。

中矢当初東京支社に勤めていたんです。途中で大阪異動の内示が出て、断れないので大阪に行ったんですけど、これから夏合宿なのにどうなんだというのと、私も続けたかったし通うことにしました。週末、自費で新幹線で、先輩の実家に1部屋借りてそこで寝泊まりしてコーチをしていました。

藤島コーチは平気で自費で行きますよね。早稲田のやつもそうだった。週末に何万円も出て行く。でも何とも思わない。

中矢給料のほとんどがそこに。

藤島分かります。コーチに向いてるんですね。オーストラリアのボンド大学というところに行って、女子のラグビー部をコーチした。いきなり海外でコーチをした。この経験はどうですか。

中矢まず退社して、すぐ留学しようと思っていたんです。会社に残ったとしても外に出たとしても、英語の壁からずっと逃げ続けた人生なんですけど、やっぱりこれはいつまでも私のことを追ってくるなと。退職を決めて留学しようとしたら、「Number」を通じてこのラジオにも出演された釜谷一平さんと知り合って。

藤島東大のフランカー。

中矢はい。学校法人履正社を経営されているんですけど、そこに専門学校がありまして、そこの外国語学科で現ラグビー日本代表通訳の佐藤秀典さんがトップのマネージャーをしていて、入学しました。
佐藤さんの繋がりでボンド大学に甲谷洋祐さんという日本人のトレーナーがいらっしゃって、話が持ち上がりました。

藤島人見知りの人にしては広がっていきますね。

中矢ラグビーに変えてもらいました。

藤島スポーツライターとしても活動を始めていて、コーチングの経験を積んで、はっきりどちらかに決める必要はないんでしょうけれど、心はどんな感じですか。

中矢コーチに興味があるなっていうのが現状ですね。自分に全くルーツのないチームでコーチをした経験で自分の中で物の見方が変わって、自分はみんなと何かやるのが好きなんだと自認しました。自分の恩師が「早く行きたければ1人で、遠くへ行きたければみんなで」とよく言っていて、僕は早く遠くに行きたい性質なんですけど、遠くに行くにはやっぱり仲間が必要だなと。そう考えると、コーチというところをもうちょっと突き詰めていきたいと思います。

藤島予定では9月下旬、UCLAに。でも今はトランプ大統領のもとで留学生の問題がね。流動的ですか?

中矢絶賛翻弄されてます。面接の枠が取れなくて、それができないとビザが下りないので。でも9月下旬の渡米を目指して準備しています。

藤島今日のゲストは気鋭のスポーツライターにして、コーチ、中矢健太さんでした。ありがとうございます。

中矢ありがとうございます。

9月1日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣

ラジオ番組について:
ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。

9月1日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-250901.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0100786