藤島大の楕円球にみる夢
(2025/10/06)

ゲスト/佐藤優奈選手(日本代表/東京山九フェニックス主将)

三井住友銀行(SMBC)ほかがラジオNIKKEI第1で提供するラジオ番組「藤島大の楕円球にみる夢」は、スポーツライターの藤島大さんが素敵なゲストを迎えて、国内外のラグビーや日本代表などの幅広い情報を詳しく伝えています。10月6日放送のゲストは、日本代表で、東京山九フェニックスの主将、佐藤優奈選手です。

藤島スポーツライターの藤島大です。本日のゲストは日本代表、東京山九フェニックスに所属する佐藤優奈選手。サクラフィフティーンのロックですね。よろしくお願いします。

佐藤よろしくお願いします。

藤島プロフィールを私から紹介します。1998年9月11日生まれ、宮城県の大崎市で育ちました。小学5年から地元の古川ラグビースクールでラグビーを始めます。中学では陸上部、陸上は何を?

佐藤四種競技をしていました。東北大会、4位入賞までは頑張りました。

藤島陸上部に所属をして週末というか休みの日にスクールでラグビーを続けてセブンズアカデミーのメンバーにも選ばれました。宮城から石見智翠館、中国地方に進む。寮の生活ですよね。自分で行きたいと?

佐藤「行きたい」って言ってお母さんにも応援してもらって。

藤島中学3年でね、東北からあそこまで行くのは簡単な話じゃないですね。

佐藤入寮のときも荷物とかすごくいっぱいあったので、お父さんが車で、ノンストップで18時間ぐらいかけて送ってくれて。

藤島両親の愛情はすごい。18時間ノンストップ。考えられないですね。石見智翠館に進んでフォワードに転向する。それまで、スクールでは?

佐藤ウイングとかやっていたんですけど、高校2年生のときフォワードに転向しました。

藤島フォワードは楽しかった?

佐藤はい。「こっちの方が向いているわ」って自分で思って。もうそこからのめり込んでやっていました。

藤島高校3年のとき副キャプテンで全国高校選抜4連覇を果たします。卒業後、慶應義塾大学に進み、東京山九フェニックスでプレーしてどんどん力を伸ばして、15人制のジャパンの初キャップが2019年11月。ワールドカップも2大会連続で出場。これはぜひリスナーの方に伝えたいんですけど、二つのワールドカップ、ニュージーランドと今回のイングランド、プール戦3試合ずつあって、全ての試合にフル出場ですよ、80分間。なかなかいないですよね。男子なんかでもロックでなかなか聞かないですよね。疲れないですか?

佐藤最近は走り疲れることはなく、きついけど80分間はやれるゲームフィットネスがついたのでうれしいです。

藤島身長170センチで公式には体重76キロと発表されるけれどおそらく今見ていても相当鍛えて、もっと重いと思うんですけども。大体80キロぐらい?

佐藤そうですね。

藤島体重を増減させる話は後でゆっくり聞きます。
ワールドカップではスペインに勝った。女子が1勝したというふうには僕はあまり見たくなくて、ただのジャパンのワールドカップだという目で自然に見ていたんですけれど、その観点でいくと、アイルランド戦は勝てる可能性のある相手でしたよね。

佐藤そうですね。そこで絶対勝っていい流れで大会進めたいなって思っていました。

藤島やっぱり入りのところで、相手にのまれた?

佐藤感覚的にものまれていた部分があったし、個人的には試合が始まる前からいつもと何かちょっと違うなっていう部分もあって。

藤島あれだけ準備して集中して、でもそうなってしまう試合とならない試合があるじゃないですか。これ、説明できます?

佐藤今シーズン、ラインアウトとかで相手に競られてうまくいかないみたいなことがほとんどなく、基本的にやりたいことがやれる状況が続いていました。でもアイルランド戦は最初の入りの部分で思った以上に競られて、今日はうまくいかないって気持ちが強くなってみんなネガティブな方に進んじゃったのかなって思います。

藤島ハーフタイム、どうやって立て直したんですか。

佐藤フォワードに関してはコーチが「もっとモールを組んでやれ」みたいなことを言ってくれて。そこで自分たちはこうやったら勝てると全員同じ方向でできたので立て直せました。

藤島今回のサクラフィフティーンはモールという立ち帰るところがある。

佐藤そこが強みでしたし、そういう強みがあることが誇らしかったです。

藤島モールの練習は相当繰り返したんですか?

佐藤みんな涙出るぐらいやっていました。ユニットセッション自体がきつくて、1回のセッション、ラインアウトのジャンプとかだと1チーム50本以上は飛んでいるし、スクラムもバトルだけで20本以上は組むみたいな量をこなしてさらに精度を上げて、みたいなことをやっていました。やっている最中はもちろん泣かないんですけど終わった後にプロップの子とかは「なんか分かんないけど涙出てきた」ってぽろーって泣いている子がいたり。

藤島映像で観ていたんですけれど、次のニュージーランド戦の方がむしろ力をのびのび出していた。

佐藤負けたけれど自分たちがやりたいことを最初から出し切れて、悔しいけど何かやりきったというのはあったのかなって思います。

藤島やっぱり強いんですか。ニュージーランドは。

佐藤強かったですし、スペイン戦まで首周りの疲労が取れないぐらいずっと痛くて、タックルしたときも、岩にタックルしたんじゃないかっていうぐらい硬くて脳震盪になるかと思いました。

藤島それでも外から見ていると最後まで動けている感じはしましたね。結果としては少し差がついて19対62。最後はスペイン、1勝して帰るというイメージがはっきりした感じですか?

佐藤やってきたことを証明するという意味でも、小さい子たちの憧れの存在になるという意味でも、絶対に1勝して帰ろうと。

藤島後半20分ぐらいから攻め込んで、フォワードで勝負していく。ピックアンドゴーとモールと、あそこの体の切れとかプレーの正確性を見ると、相当しっかりしたチームだと分かりました。あのモールは素晴らしかったな。モール王国みたいなニュージーランドにもそこはもう負けない?

佐藤そうですね。分析上は強いけれどあまりうまくないっていうイメージだったので、モールとかは結構弱みがあるんじゃないかとやってきて、そこは思った通りというか、やりたいことをできたかなって思っています。

藤島まだまだこれからですけどあの黒いジャージを着た人たちを、いや、力はあるけど意外と下手くそだみたいなことを言えるようになってきた。これも一つの進歩ですよね。何もかも強い。あいつら化け物だって思う段階から、そうではないんだと。

佐藤3年前のテストマッチはもう何もしてないというか気づいたら点取られて80分間が長かったんですけど、今回はきついけれど楽しいシチュエーションもいっぱいあって、ちゃんと戦えている実感がありました。

藤島体重はプログラムには76キロ。ワールドカップは何キロで戦ったんですか?

佐藤82、3キロで臨んでいました。

藤島帰国して少しオフがあって、今は?

佐藤80キロぐらいです。

藤島練習がないと太るんじゃなくて、痩せるわけですよね。ジャパンのロックとしてエンジンであるために、意図的に体重を増やしている。何かで読んで、一つの食事に1時間かけるって本当ですか?

佐藤本当です。食べるのもゆっくりだし量を食べたいのもあって。

藤島ある日のメニューってどんな感じなんですか?

佐藤ご飯とスープ類入れて10品ぐらい食べたり、コーチに「今日は何品目食べるんだ? 12コースか?」みたいな感じで聞かれたりするぐらい、肉魚野菜を。

藤島本当にナチュラルにしているときはどんな感じですか。

佐藤何にもしなくていいと言われたら、60キロぐらいまで行くのは結構簡単かなと。

藤島それを82キロ、83キロで戦っている。ワールドカップも参加したアメリカのイロナ・マー、15人制でセンターですかね。178センチ、公称90キロ。ボディー・ポジティビティという言葉があって、昔は、女性は細い人がきれいだとか美しいと言われていたけれども、自分らしい体そのものが美しいんだっていうムーブメントというか思想、運動を牽引する人の1人なんですけど、そんな意識持っています? つまり、がっちりしていて、ちょっとこれはいやだなみたいな感じはない?

佐藤全くなくて、ラグビー選手であるうちは自分の限界まで攻められるように頑張りたいなって思ってやっているんですけど、ただ服が入らないことだけは困ります。

藤島ワールドカップを見ていても各国の1人ひとりのプレーヤーに個性があって、自分を伸び伸びと表現しているなっていう感じがします。

佐藤チーム内でも、一般の女性からしたら大きくても恥ずかしいって思うんじゃなくてそれぞれ自分のスタイルを武器にしているぐらいみんなきれいで自分のスタイルを楽しんでいて、そういう空気感って好きだしいいなって感じています。

藤島決勝戦もトゥイッケナムが本当にほぼ満員になる。今、女子のラグビーが世界的に上がっている。

佐藤すごくうれしいですね。大会中も結果とか国に関係なく、良かったプレーは良かったよって観客の人が言ってくれて、こんなに応援してくれている人がいるんだって実感できてうれしかったですし、もっともっとそういう人たちを増やしたいなって思いました。

藤島日本の女子の最初の頃の代表選手ってみんなアルバイトして自分で旅費を稼いで。並木富士子さんは魚屋さんのバイトをしていた。売るんじゃなくケースを運ぶ。あまりに働きっぷりが良くて隣の八百屋さんにスカウトされた。焦った魚屋さんの主人が帰りに刺身を持たせてくれて引き止めにかかったという話、好きなんですけど、そういう時代から始まったことを意識しますか?

佐藤国内合宿のときに、それこそ並木さんやレジェンドの方々が来てくれて、私達の時代はこうだったよとか、ジャージとか持って来てくださって、恵まれた環境にあるんだなって気付かされたし、そういう人たちのためにももっと頑張る必要があるんだなって感じました。

藤島例えば、東京山九フェニックスに入団をして、小学校のグラウンドを借りて練習しているとかそういう時代もあった。

佐藤2、3年は小学校や大学のグラウンドをお借りしたり。何曜日はここ、何曜日はここみたいな形で片道2時間かけて練習に行く日もあったりして、今と比べると全然環境は違うなって感じます。

藤島ここも一つ一つクラブとして充実してきて、楽しそうですよね。

佐藤楽しいですね。他のチームがやったことがないことに先にチャレンジしたりするチームでもあると思っていて、それがうれしいですし、楽しいからずっとフェニックスで続けたいって思います。

藤島社員なんですね。たまには出社するんですか。

佐藤今日も1日出社してきたんですけれど、普段は週に1.5日だけの出社でそれ以外はラグビーに集中できる環境をいただいていて。

藤島東京山九フェニックスではキャプテン。どうですか今季。

佐藤3連覇していて、もちろん4連覇を目指しているんですけど、一つ一つ積み上げてまた一からみんなでフェニックスのラグビーを作っていきたいと思っています。

藤島佐藤優奈選手のプレーを見ていると、この場合は男子になるけれど、90年代初頭ぐらいまでのジャパンのロックを思い出すんですよね。海外の選手と比べて10センチぐらい背が低いし体重も軽いけれど日本の中では一番強い選手で、この人たちがめちゃくちゃ先頭を切っていくから戦える、あれを思い出すんですね。モールなんかで仕事をして、ボールが動いて展開して、人間だからあれだけモールで仕事をすると一瞬疲れた雰囲気を見せるんだけど、数メートル先にラックができると吸い込まれる、あれでもうファンになったんですよ。ひと仕事したあと次の仕事に吸い込まれていく感じがいいなと。ジャパンのロックだなと。

佐藤自分は派手なプレーとか目立つプレーができないので、そういう細かいところを見てくれているのがうれしいです。

藤島起き上がって次に行くあの雰囲気。例えばディフェンスだと、次に行くときはきついことが待っているから義務なはずなのに、もういっぺん立ってタックルしたいんだって権利を行使している。

佐藤グラウンドに寝ていたくはないのでタックルしてもとりあえずすぐ起きようって思って。

藤島本日のゲスト、ラックにブレークダウンに磁石のように入っていく姿でおなじみの日本代表サクラフィフティーン、東京山九フェニックスの佐藤優奈選手でした。ありがとうございます。

佐藤ありがとうございました。

10月6日ラジオNIKKEI放送
「藤島大の楕円球にみる夢」
text by 松原孝臣

ラジオ番組について:
ラジオNIKKEI第1で放送。PCやスマートフォンなどで、ラジコ(radiko)を利用して全国無料にて放送を聴ける。音楽が聴けるのは、オンエアのみの企画。放送後も、ラジコのタイムフリー機能やポッドキャストで番組が聴取できる。動画版はU-NEXTで配信中。

10月6日放送分ポッドキャスト http://podcasting.radionikkei.jp/podcasting/rugby-radio/rugby-radio-251006.mp3
U-NEXTでは画像付きの特別版を配信 https://www.video.unext.jp/title/SID0100786