2026年度税制改正大綱を解説

資産管理・承継の「前提」はどう変わる?

2026.4.30

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2026年度(令和8年度)税制改正大綱が公表されました。今回の改正には、これまでの資産管理や承継のあり方について、考え方を改めて点検すべき項目がいくつか含まれています。特に次世代への円滑な資産移転や、働き方の変化に伴う税負担の見直し等、幅広い層に影響を及ぼす内容となっています。
本記事では、今回の改正がもたらす変化を整理し、今後の備えとして確認しておきたい重要な論点を解説します。

1.2026年度税制改正の適用時期はいつから?

税制改正大綱が公表された後、多くの方がまず気になるのが「いつから自分に影響が出るのか」という時期の問題です。今回の改正は、項目によって適用開始時期が異なるため、時間軸に沿った整理が必要となります。

1.1.各項目の実施時期(一例)

今回の改正案では、項目ごとに実施時期が分散しています。以下では、本記事で取り上げる項目について整理します。

2026年以後
  • 178万円の壁
  • 住宅ローン控除の延長
2027年以後
  • 貸付用不動産・不動産小口化商品の評価見直し
  • ミニマムタックスの見直し
  • NISAの拡大
  • ふるさと納税における住民税控除の上限設定
2027年以後のいずれかの時期
  • 暗号資産の課税方式の見直し

1.2.対策の「期限」と意思決定のタイミング

節税を目的とした直前のいわゆる駆け込み対策は、今回の改正において抑制される方向性が示されています。特に今後貸付用不動産を用いた相続対策を検討されている方は、5年先を見据えて対策を検討する必要があり、暗号資産を保有されている方は、新しいルールに合わせていつでも申告できるよう、準備を整えておくことが大切です。

2.相続・贈与:貸付用不動産・不動産小口化商品の評価見直し(案)

不動産を活用した相続対策は、多くの方が取り組まれている手法の一つです。今回の改正では、公平性の観点から「貸付用不動産(賃貸不動産)」の評価方法に新たな基準が設けられます。

2.1.貸付用不動産の相続・贈与時の評価額の見直し

これまで、貸付用不動産は相続開始直前の取得であっても、原則として通達に基づき路線価等により評価されてきました。路線価は地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定められているため、時価よりも低い水準となります。
今後は、相続開始前5年以内に取得した貸付用不動産については、「通常の取引価額(時価)」に相当する金額によって評価します。

【制度の概要】

  • 開始時期
    2027年1月1日以後に開始する相続、遺贈又は贈与
  • 対象資産
    相続等開始前5年以内に取得・新築等された一定の貸付用不動産
  • 改正内容
    通達評価額から時価による評価への変更(課税上弊害がない限り、取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の80%に相当する金額によって評価できる)

今後は、相続直前の対策ではなく、より長期的な視点での不動産保有が前提となります。資産のポートフォリオを分析し、現在保有されている物件の取得時期や、今後の取得計画を改めて見直すことが円滑な資産承継につながります。

2.2.不動産小口化商品の相続・贈与時の評価額の見直し

1口単位で投資可能な「不動産小口化商品」についても、相続や贈与時における評価方法が見直されます。貸付用不動産同様に、これまでは原則として通達に基づき路線価等により評価されてきました。今後は取得の時期に関わらず「通常の取引価額(時価)」に相当する金額によって評価します。

【制度の概要】

  • 開始時期
    2027年1月1日以後に開始する相続、遺贈又は贈与
  • 対象資産
    小口化された貸付用不動産(取得の時期を問わない)
  • 改正内容
    通達評価額から時価による評価(課税上弊害がない限り、事業者が示す適正な処分価格、買取価格等や定期報告書等に記載された不動産の価格等を参酌して求めた金額によって評価することができる)

従来、節税を目的として活用されてきた商品についても、税制改正により前提条件が変わりつつあります。制度環境の変化を踏まえ、今後の資産管理や承継を見据えて、お手持ちの資産が現在の状況に適しているかを一度見直しておくことが大切です。

<貸付用不動産・不動産小口化商品の評価見直し(まとめ)>

論点 現行の考え方 改正案(大綱ベース) 実務上の留意点
相続・贈与前5年以内に取得/新築した一定の貸付用不動産 通達評価 「通常の取引価額」相当で評価 相続・贈与直前の取得を前提とする設計は、前提条件の再点検が必要になり得る
不動産小口化商品(取得時期を問わない) 通達評価 「通常の取引価額」相当で評価 従来想定していたメリットが得にくくなる可能性がある

▼貸付用不動産を用いた相続対策についてくわしくはこちら

相続対策として貸付用不動産(賃貸不動産)を保有する考え方とは?
2026年度税制改正大綱のポイントとともに解説:三井住友銀行

3.ミニマムタックスの見直し:所得税の「負担の適正化」

高額所得者に「最低負担」を求める「ミニマムタックス」の仕組みが強化されます。これは2025年より導入された「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」であり、公平性の観点から算定式の見直しがされます。増税影響は、現行は所得約10億円超からだったものが、所得約3億円超からに拡大します(分離課税所得のみの場合)。住民税には影響しません。

【制度の概要】

  • 開始時期
    2027年1月1日以後
  • 改正内容
    次の所得税が通常の所得税計算に追加して課税される
    (基準所得金額−1.65億円(現行3.3億円))×30%(現行22.5%)

3.1.算定式の見直しと対象となる所得の範囲

ミニマムタックスの判定基準となる算定式が変更となります。

特別控除額の引き下げ:

現行の3.3億円から1.65億円へと大幅に引き下げられます。

税率の引き上げ:

現行の22.5%から30%へと引き上げられます。

対象所得:

合計所得金額(総所得金額・分離課税の各種所得金額の合計)から特別控除額を差し引いた金額が基準となります。

3.2.事業オーナー・個人投資家等における影響の一例

今回の改正により、これまで以上に影響を受ける人が増加します。例えば、以下のような所得が発生する場面を予定されている方は注意が必要です。

事業オーナー:

M&Aによる自社株式の売却

個人投資家:

上場有価証券や不動産の売却、あるいは多額の上場株式の配当(大口株主が受ける配当等を除く)等が発生する場合。

株式譲渡・不動産譲渡・役員退職金等の“所得が発生する場面”が重なる年に、税負担が想定より変動する可能性があります。向こう数年に発生しうる所得の時期、特に売却時期について、あらかじめ整理しておくとよいでしょう。

<ミニマムタックスの改正>

項目 改正前 改正案 確認ポイント
算定式(判定に用いる算定額) (基準所得金額 − 3.3億円)× 22.5% (基準所得金額 − 1.65億円)× 30% 「基準所得金額」に含まれる所得の範囲(金融所得の取り扱い)
適用時期 現行制度 2027年分以後(所得税) “所得が発生する時期の集中年”での影響試算

4.暗号資産の税制:申告分離課税への移行

今回の改正は暗号資産が一般的な金融資産と近い取り扱いとなります。資産ポートフォリオに暗号資産を組み込んでいる場合は、売却や組み換えが行いやすくなる内容となっています。

【制度の概要】

  • 開始時期
    2027年以後のいずれかの時期(金融商品取引法改正の翌年から)
  • 改正内容
    一定の要件を満たす特定暗号資産の譲渡等について、総合課税(最大55%)から分離課税(20.315%)に変更。損失が出た場合は、翌年以後3年間の特定暗号資産の所得金額から控除が可能。

4.1.課税方式の整理と利便性の向上

暗号資産の課税方式が、従来の雑所得(総合課税による累進課税最大55%)から、株式等と同様の「申告分離課税」(一律20.315%)へと移行します。これにより、所得の多寡にかかわらず一定の税率が適用されるようになります。

4.2.損益通算と損失の繰越控除

損失が出た際は、特定暗号資産の所得に限り3年間の繰越控除が可能になります。
購入や売却の際には、制度適用時期、自身の取引が対象範囲に該当するのか、「損失の通算・繰越」が適用されるのかを確認した上で検討するとよいでしょう。

5.教育資金贈与の終了と、NISA活用へのシフト

次世代への資産移転について、これまで活用されてきた時限的な特例措置から、恒久制度(NISA等)を通じた中長期の準備へと、制度の重心が移る方向性が示されています。

5.1.教育資金贈与の非課税措置の終了

1,500万円までの一括贈与が非課税となる「教育資金贈与の非課税措置」は、2026年3月末をもって終了となりました。まとまった資金を一度に移転できる手段として活用されてきましたが、今後は暦年贈与や、新たに創設される未成年層によるNISA枠を活用する等、他の制度利用を検討することが必要です。

5.2.未成年層におけるNISA「つみたて投資枠」の解禁

これまで18歳未満は利用できなかったNISAの「つみたて投資枠」について、新たに0歳からでも利用できるようになります。

【制度の概要】

  • 開始時期
    2027年1月1日
  • 投資枠
    年間60万円まで(非課税保有限度額は合計600万円)
  • 対象
    0歳〜17歳の未成年者(18歳以降は通常のNISAへ移行)
  • 払出し制限
    原則として12歳になるまでは引き出しができません。
  • 12歳以降は進学等の教育資金として、本人の同意があれば引き出し可能となる見込みです。
  • 運用益の扱い
    投資で得られた運用益(値上がり益や分配金)には一切税金がかかりません。

今回の改正により一括贈与による“点”の移転から、NISA口座を通じた“時間を味方にした”資産形成・資金移転へと、制度上の推奨行動が転換する方向性が示されています。検討にあたっては、資金の使途、引き出し要件、管理の実務を含めて設計することが重要です。

<教育資金の移転手法の変化(イメージ)>

項目 【終了】教育資金一括贈与の非課税措置 【新設予定】未成年層のNISA「つみたて投資枠」
資金移転の考え方 一括贈与による「点」の移転 継続的な積立による「線(時間)」の移転
金額の目安 1,500万円まで 年間60万円まで(合計600万円)
税制上の利点 一括の贈与税が非課税 運用益が非課税(投資リターンを享受)

6.生活・事業に関連するその他の注目項目

6.1.所得税「178万円の壁」と所得税の見直し

いわゆる「年収の壁」への対応として、基礎控除および給与所得控除の見直しにより、所得税が課税されない収入の範囲が160万円から178万円へと引き上げられます。この改正は、2026年より適用され、家族の就労・家計の設計に影響します。世帯構成や収入形態で影響度合いが異なるため、自分自身にどのような影響があるのか、を整理しておくことが大切です。

【制度の概要】

  • 開始時期
    2026年以後
  • 改正内容
    所得控除160万円→178万円(給与所得控除74万円、基礎控除104万円、どちらも9万円引上げ)

6.2.ふるさと納税:住民税控除の上限設定

ふるさと納税は、住民税の控除額に一定の上限を設ける方針となりました。2027年以後の寄附が対象で、2028年の個人住民税から適用されます。

【制度の概要】

  • 開始時期
    2027年以後の寄附
  • 改正内容
    都道府県民税+市町村民税 合計で193万円が上限

この上限は、たとえば給与収入がおおむね1億円以上の方から影響が生じる見込みです。
ご自身の収入に応じた最適な寄附額を試算しておくことがよいでしょう。

6.3.住宅ローン控除:適用期限の延長と「省エネ」重視

住宅ローン控除等の優遇措置は、期間が延長され、省エネ性能の高い既存住宅に係る借入限度額等が拡充されます。

【制度の概要】

  • 適用期限
    2030年12月末まで延長
  • 改正内容
    既存住宅のうち一定の住宅について借入限度額や控除期間等を拡大
    床面積要件の緩和措置及び子育て世帯への上乗せ措置の適用範囲を既存住宅にも拡充

カーボンニュートラル実現に向けた省エネ化の必要性、既存住宅ニーズの高まりに対応するため、省エネ性能の高い中古住宅について借入限度額及び控除期間が拡充されます。また、住宅価格、建築コストの上昇等により住宅取得環境が厳しい状況のため、合計所得1,000万円以下の者に限り、住宅区分に関わらず床面積の緩和措置(50㎡→40㎡)が設けられます。
子育て世帯の住宅取得支援の観点から、特例対象個人(子育て世帯等)に対する借入限度額の上乗せ措置について、省エネ基準適合住宅以上の中古住宅にも対象が拡大されます。

6.4.事業承継税制:特例承継計画の提出期限延長

「事業承継税制(特例措置)」について、入口となる計画書類の提出期限が緩和されました。しかし、「出口(承継の完了)」の期限は2027年12月31日と据え置きとなっている点に注意が必要です。
期限である2027年9月に計画を提出した場合、その3か月後の12月までに贈与手続きを完了させる必要があります。さらに株式を渡す(贈与する)には役員就任要件等を満たす必要があるため、前もっての計画的な準備が推奨されます。

(まとめ)制度の「使い方」よりも「前提の変化」を捉える

2026年度税制改正大綱からは、資産の評価や課税の考え方が、より実態に即したものへと変化している傾向がうかがえます。特に貸付用不動産の評価見直しやミニマムタックスの見直し等は、これまでの対策を再考するきっかけとなるでしょう。
「まだ先のこと」と捉えがちな論点も、今回の改正を機に現状を確認しておくことが、将来の安心につながります。三井住友銀行では、最新の改正内容を踏まえた現状分析や、個別の事情に即した資産承継のコンサルティングを承っております。ぜひ一度三井住友銀行にご相談ください。

杉林 遥(すぎばやし はるか)

監修者:
杉林 遥(すぎばやし はるか)

人員数1,000名超の総合型税理士法人山田&パートナーズのマネージャー。
一般事業法人、医療法人の事業承継支援、及び、法人オーナーの資産承継サポートに従事。