相続対策として貸付用不動産(賃貸不動産)を保有する考え方とは?
2026年度税制改正大綱のポイントとともに解説
2026.4.30
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- 相続対策として貸付用不動産(賃貸不動産)を保有する考え方とは?
次世代への円滑な資産承継を検討する際、「貸付用不動産(賃貸不動産)」は、これまで選択肢の一つとして取り上げられることが多い資産でした。
背景には、現金・預金は額面どおりに評価される一方で、不動産は相続税評価の仕組みにより、時価(市場での取引価格)と相続税評価額に差が生じ得るということがあります。
一方、2026年度(令和8年度)税制改正大綱では、貸付用不動産等の評価方法について見直しの方針が示されました。
ポイントは、「不動産が有利/不利」という単純な見方ではなく、評価の前提を実態に近づけ、課税の公平性を高める方向性にある、という点です。
本記事では、貸付用不動産が相続対策として検討されてきた理由を整理したうえで、税制改正大綱の示す方向性と今後検討する際に早めに確認しておきたいポイントを解説します。
- ※本記事では、現時点または今後貸付用不動産を所有する方を「資産を残す側」、将来引き継ぐ可能性のある方(配偶者・子等)を「引き継ぐ側」として説明します。
1.貸付用不動産(賃貸不動産)を相続対策として考えるときの基本
資産を次世代に引き継ぐにあたり、現金のまま保有するのではなく「貸付用不動産」という形を選ぶことには、税務上の評価だけでなく、相続後の運用・管理や家族内の役割分担まで見据えた設計が求められます。
1.1.「資産の形を残す」という選択
貸付用不動産(賃貸不動産)とは、第三者に貸し付けて賃料収入を得る目的の不動産を指します。相続対策としては相続時の評価額に目が向きやすい一方で、実務上は「相続後にどのように引き継ぎ、誰がどのように運営、管理していくのか」も重要な論点となります。
例えば、相続後も賃貸を継続するのか、一定期間後の売却も選択肢に含めるのか、修繕や空室対応を誰が担うのか等、相続が発生してから検討すると意思決定が難しくなるケースが少なくありません。
また、安定的に賃貸できていれば賃料収入が見込め、相続税の納税資金や、相続後の維持費・修繕費の原資になり得ます。一方で、空室・家賃下落・大規模修繕などのコストも伴います。そのため、評価だけでなく収支の安定性と、運営・管理の体制まで含めて判断することが欠かせません。
1.2.なぜ貸付用不動産が検討されてきたのか(相続税評価額の仕組み)
この論点を端的に言えば、相続税を計算する上で、現金・預金は額面どおりに評価される一方で、不動産は相続税評価の仕組みにより、時価より低い評価額になるという点にあります。貸付用不動産の場合は、主に次の要素を考慮し、評価額が算定されます。
- ※適用可否や影響の度合いは物件・状況により異なります。
(1)時価と評価額の差
相続税評価では評価の安全性を考慮し、一般的に土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基準に評価します。路線価は、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定められています。固定資産税評価額は築年数や構造等により異なりますが、新築時は建築価額の50%〜70%程度となることが多いです。そのため、相続税評価額は時価より低い水準となるのが一般的です。
(2)賃貸による評価の調整
第三者に賃貸している不動産は、所有者が自由に利用できないという制約があることから、土地(貸家建付地)では借地権割合(30%〜90%)×借家権割合(30%)を踏まえた減額、建物(貸家)では借家権割合を踏まえた減額を反映します。
(3)小規模宅地等の特例(要件を満たす場合)
貸付用不動産に関連して、相続税申告の際に一定の要件を満たす場合は「小規模宅地等の特例」を検討することがあります。たとえば、区分として「貸付事業用宅地等」に該当する場合、一定面積まで評価額を一定割合減額できる制度があります(例:限度面積200㎡、減額割合50%)。
(4)相続後の運営・管理まで含めた設計(上記と切り分けて考える)
ここまでが相続税計算における「評価額の決まり方」です。そのうえで、貸付用不動産は賃料収入を生み出し得る一方で、運営・管理に手間とコストがかかる資産でもあります。相続対策として検討する場合は、「評価額」だけでなく、相続後に誰が意思決定し、修繕や更新などの支出にどう備えるかといった視点を切り分けて整理しておくことが重要です。
2.2026年度税制改正大綱:評価方法の見直し(案)
2026年度税制改正大綱では、公平性の観点から、貸付用不動産等の評価方法について見直しの方針が示されています。以下は現時点で公表されている大綱(案)ベースの整理であり、今後の法令・通達等により具体的な取り扱いが調整される可能性がある点には留意が必要です。
2.1.相続開始前「5年」を意識した新たな考え方(案)
見直しの焦点は、相続(遺贈または贈与)の直前に取得・新築された一定の貸付用不動産について、評価の前提を実態(通常の取引価額)に近づけるという点にあります。
- 対象となる貸付用不動産(案):
被相続人等が、対価を伴う取引により取得または新築した一定の貸付用不動産のうち、相続(または贈与)開始前5年以内のもの
- 評価(案):
対象となる貸付用不動産は、課税時期(相続開始時または贈与時)における「通常の取引価額に相当する金額」により評価。
- ※実務上は、課税上の弊害がない限り、取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の80%相当で評価ができる。
- 適用時期(大綱ベース):
2027年(令和9年)1月1日以後の相続・贈与から適用される方向性(詳細は今後の法令・通達等により確定予定)。
なお、すでに貸付用不動産を5年以上保有している場合など、上記の「相続(または贈与)開始前5年以内」に該当しない場合は、原則として従来の評価方法となる見通しです(今後の確定内容に留意が必要です)。
この方向性が示唆するのは、相続対策を「節税を目的とした直前の手当て」として捉えるのではなく、時間軸を置いた計画として考える必要性が高まるという点です。貸付用不動産を活用した相続対策を検討している場合は、取得時期に加え、取得後の運営と相続後の管理まで含めて見通しを立てておくことが重要になります。
▼2026年度税制改正大綱についてくわしくはこちら
2026年度税制改正大綱を解説―資産管理・承継の「前提」はどう変わる?:三井住友銀行
2.2.不動産小口化商品への影響(案)
不動産小口化商品についても、評価方法の見直しが示されています。こちらは取得時期にかかわらず対象となり、課税時期(相続開始時または贈与時)における通常の取引価額に相当する金額で評価する方向性です。
その際、課税上の弊害がない限り事業者等が示した適正な処分価格・買取価格等、事業者等が把握している適正な売買実例価額、定期報告書等に記載された不動産の価格等を参照して評価する取扱いが示されています。
2.3.税制改正大綱を踏まえ「今」確認しておきたいこと
税制改正大綱の方向性が示すのは、「取得の時期」という時間軸をこれまで以上に意識して計画を立てる必要がある、という点です。特に影響を受けやすいのは、これから相続対策として貸付用不動産の取得・新築を検討するケース(相続・贈与までの期間が短いケース)や、不動産小口化商品を検討するケースです。一方で、すでに貸付用不動産を保有している場合も、取得・新築時期によっては今後の見方が変わる可能性があります。
まずは次の点を確認しておきましょう。
- 取得・新築を検討している場合:相続・贈与までの想定時期(「5年」の時間軸に入るか)
- すでに保有している場合:取得・新築時期の整理(いつ取得・新築したか)
- 借入の有無と返済計画、収支の見通し(相続後の負担を含む)
- ご家族内での承継方針(誰が運営・管理を担うか、売却も選択肢か)
3.保有・承継のための「7つの視点」(資産を残す側のチェックポイント)
貸付用不動産を次世代へ引き継ぐにあたり、資産を残す側が設計段階で整理しておきたいチェックポイントを7つにまとめます。ポイントは、引き継ぐ側(配偶者・子等)と一緒に、早めに会話して設計することです。
(1)承継の設計:誰が引き継ぐか
「引き継ぐ人」を具体化します。管理・運営の意思があるか、意思決定(修繕・更新・売却)を担えるか、遠方在住でも対応可能かといった観点で確認します。共有名義は選択肢の一つですが、意思決定が複雑化する場面があるため、以下の3点を事前に明確にしておきましょう。
- 1実務の窓口(代表者)
- 2意思決定のルール
- 3費用負担
(2)遺産分割:分けにくさをどう扱うか
不動産は現金とは違い、分割しにくい資産です。特定の方が引き継ぐ場合、他の相続人とのバランス(代償分割の検討等)を含めて準備が必要です。分割の設計は、相続税だけでなく、親族間の納得感にも影響します。
「不動産を渡す人」だけを先に決めて、「他の相続人とのバランスや納税資金をどう手当てするか」を後回しにすると、相続人間の調整が難しくなることがあります。手当ての原資(預金・保険・他資産の組替え・売却候補等)についても、分割方針とセットで整理しておきましょう。
(3)相続税以外の税金:保有と譲渡のコスト
相続後も保有を続ける場合、固定資産税や都市計画税等の負担が継続します。賃料収入がある場合の所得税・住民税、将来売却した場合の課税関係も論点になります。相続税だけでなく、保有と譲渡の両面でコストを把握しておくことが、相続後の負担軽減につながります。
「年次コスト」と「売却時コスト(手取りの目安)」を分けて試算し、保有継続・売却それぞれのシナリオを並べて確認すると整理しやすくなります。
(4)キャッシュフローと支出:収支の健全性
賃料収入が、管理費・修繕費・ローン返済等の支出を安定的に上回っているかを確認します。特に大規模修繕はまとまった資金を要するため、将来の修繕計画と資金手当ての見通しを持っておくことが重要です。収支が不透明なままだと、引き継ぐ側が状況把握に苦労し、意思決定が遅れやすくなります。
家賃下落・空室・金利上昇等といった変動要因も織り込んだうえで、収支の感度を確認し、修繕に備える資金確保の方法(積立の水準や借入余力の確保など)をあらかじめ整理しておきましょう。
(5)流動性:納税・生活資金の確保
相続税は原則として現金での一括納付です。不動産偏重の資産構成では、納税資金や将来の介護費用確保のために、売却や借入等の対応を迫られる局面が生じ得ます。資産を残す側も引き継ぐ側の納税資金まで勘案した資金計画を立てましょう。どの資産で、いつ、どの程度の現金が必要になり得るか、を時間軸で考えておくことが重要です。
「いつまでに、いくら必要か」を先に置き、現預金だけでなく、保険・売却候補・借入枠等、複数の方法で現金化の手段を持っておきましょう。
(6)借入の取扱い:返済計画の承継
融資を利用している場合、債務を誰が引き継ぐのか、返済の見通しは妥当か、団体信用生命保険の加入状況はどうか等を確認します。相続後の返済負担が重いと、資産としての価値が損なわれることもあるため、収支とセットで確認します。
返済条件・名義変更の要否・必要書類等、金融機関での手続きの全体像を事前に確認し、引き継ぐ側にも債務の状況を共有しておきましょう。
(7)名義・管理資料:情報の見える化
賃貸借契約書、管理委託契約書、修繕履歴資料、収支資料、入金口座、保険証券、ローン契約書等、関係資料の所在と内容を確認します。情報が不明確だと、引き継ぐ側が実態把握だけで負担を抱えやすくなります。
「一覧(台帳)」を作り、保管場所・連絡先・更新タイミングをセットで管理すると、引き継ぎがスムーズになります。
4.賃貸不動産の相続を行う際の実務フロー(引き継ぐ側の視点)
引き継ぐ側は、相続発生時に慌てないために、実務の流れを把握し、資産を残す側から情報共有をしてもらうことが重要です。ポイントは「相続が起きてから」ではなく、「相続が起きる前に」確認できるものを増やしておくことです。
- 物件収支(ローン・家賃収入等)の確認:家賃収入の実態、ローン残債、金利、返済期限を把握し、収支の見通しを持ちます。
- 管理状況の確認:管理会社との契約内容、入居率、修繕履歴、今後の大規模修繕の見込みを点検します。
- 引き継ぐ人の決定と役割分担:資産を残す側の意向と、家族内のバランスを踏まえ、誰が引き継ぐか、誰が実務を担うかを話し合います。
- 相続登記の準備:必要手続きや、司法書士等の専門家への相談ルートを確認します。
- 各所への連絡体制の整備:管理会社、保険会社、入居者への通知が円滑にできるよう、連絡先や手順を確認します。
資産を残す側が作った「資料の台帳(3の(7))」を起点に、引き継ぐ側は「連絡先」「毎月の入出金」「緊急時の判断(修繕等)」から優先して確認しておくと、相続発生時の管理負担を減らせます。
(まとめ)制度の「有利不利」よりも「前提の変化」を捉える
2026年度税制改正大綱が示しているのは、資産評価や課税の考え方を、より実態に即した形にしていく方向性です。
保有目的・取得時期・収支・承継方針といった前提条件を確認し、ご家族で共有しておくことが、安心できる相続対策につながります。三井住友銀行でも、制度動向を踏まえつつ、資産承継に関する一般的な情報提供や、状況把握及び分析のご相談を承っています。気になる点があれば、三井住友銀行へご相談ください。
監修者:
浅川 典子(あさかわ のりこ)
人員数1,000名超の総合型税理士法人山田&パートナーズの代表社員。
非上場オーナー企業や個人資産家に対するコンサルティングを行うかたわら、執筆・講演など幅広い業務に従事。