□稼いだ額の10分の1を貯金する □貯めた資金は寝かさずに増やすべし □元本を失わないように投資を行う

稼いだ額の10分の1を貯金する

バビロンは、古代オリエントのメソポタミア地方に存在した古代世界における最も裕福な都市の一つです。
文明の中心地として栄華を極め、全盛期の市内には巨大な王宮や寺院、空中庭園などの建造物が豪著さを競うようにしてそびえていたと言われます。

本書は、古代バビロンを舞台にした9篇の寓話を通して、現代の資産運用やビジネスにも通ずる蓄財・自己啓発の知恵を提示します。

私たちに知恵を授けてくれる主人公アルカドは、ごく平凡な商人の家庭に生まれながらも、「富を増やす法」を実践し続けることで巨万の富を得ました。

「なにゆえおぬし一人が選ばれ、良き人生に恵まれることになり、同じく恵まれてよいはずの我々は選ばれることがなかったのだろうか」。
問いかける旧友たちに身の上話をしながら、アルカドは「富を増やす法」を明かします。

アルカドが最初に就いた仕事は、市長の館の書記官でした。懸命に働いてもお金がいっこうに貯まらないアルカドに、ある日チャンスが訪れます。
資産家として有名な金貸しのアルガミシュに出会ったのです。

「どうすれば私も金持ちになれるか教えてください」。
教えを乞うたアルカドにアルガミシュは言います。
「稼いだものは、すべてその一部を自分のものとして取っておく。稼いだ金額がいかに少なかろうと十分の一より減らしてはならない」

毎月、最低でも収入の10分の1を貯めて運用する──この単純な習慣が富を増やす基本だとアルガミシュは言うのです。

それからというもの、アルカドはアルガミシュの教えを守り、稼いだお金の10分の1を貯め続けました。
そして4年後には、まとまったお金を事業に投資・融資することで多額の利益を得るようになりました。

貯めた資金は寝かさずに増やすべし

バビロン一の大富豪となったアルカドは、バビロン王の要請により、王が選んだ100人の市民を相手に自身の蓄財哲学を講義します。

稼いだ金額の1割を手元に残し、財布が膨らんできたら、次にやるべきは「貯めた貴重な財産を働かせ、増やす手段を考えること」だとアルカドは語ります。

「私が投資したもので初めて利益を生んでくれたのは、楯作りのアッガーという男に貸した金でした」。

アッガーは青銅を買うための元手資金をアルカドから借り、楯を売るたびに、たっぷり利息をつけて返してくれました。

「元手の親が働いてくれているうちにもその子供が、さらにその子供の子供が働いてくれます。それらの定期的収入のまとまりが大きなものになっていく。その金の流れこそが財産なのです」。

アルカドはお金を貯めた次の段階として、いかにお金を働かすか、つまり複利の力がいかに大事かという知恵を教えたのです。

元本を失わないように投資を行う

アルカドは、アルガミシュの教えを受けた後、順調に資産を増やしていったのでしょうか?
決してそうではありません。講義では、アルカドの失敗談からの学びも強調されます。

教えを受けた1年後、アルガミシュがアルカドのもとにやってきました。

「稼いだ金の10分の1をどのように運用したのか?」
アルガミシュの質問に、アルカドは「レンガ職人のアズムアが立ち上げた事業に投資しました」と得意げに答えます。

アズムアはフェニキアの商人から宝石を仕入れ、バビロンの市民たちに高値で売りさばいて利益を得ようとしていたのです。

アルガミシュは「馬鹿者はすべからく痛い目をみなければならんのだな。レンガ作りが宝石について知っているとなぜ信じたのだ」とアルカドを詰ります。
その後、アズムアは価値のないガラス玉をつかまされ、アルカドが投資したお金は戻ってきませんでした。

ここから学べることは、損失という災難から自分の財産を守るためには、元本を大きな危険にさらさないことです。

アルカドは言います。
「金を持っている者は誰でも、まことしやかな計画があると、投資して大きく儲けるチャンスかもしれないと誘惑されるものです。(中略)健全な投資について、第一の原則は元本を確保することです。元本まで失くす可能性があるときに、大きく儲けることに関心を注ぐのは賢明なことでしょうか。(中略)どの分野に投資するにしても、必ずつきまとう危険性について、よく調べておくことです」。

投資する時にはリスクを把握して、健全な投資と危険な投資の違いを見抜き、元本を失わないように常に注意深く行うこと。
それが富を守り、増やすことにつながるとアルカドは言うのです。

「稼いだ金の10分の1をとっておき、その金に子ども(利息)を生ませ、その子ども(利息)に稼がせる」「元本を大きな危険にさらすようなハイリスク・ハイリターンの投資は避ける」。

これらの蓄財哲学は単純かつ明快ですが、守り続けるためには自身を律しなければなりません。

レンガ職人の事業に投資してお金を失ったアルカドの失敗を通して、単純かつ明快ではあっても、決して簡単なことではないのだと著者は訴えたかったのではないでしょうか。

渋谷和宏のコレだけ覚えて

使う価値が100%あるものだけにお金を使う

本書の著者はなぜ古代バビロンを舞台にした寓話の形で自身の蓄財哲学を綴ったのか。
それは「富を増やす法」には時代を超えた普遍性があること、お金を持つとつい贅沢や危険な投資をしてしまうのは、昔も今も変わらない人間の性さがであることを伝えたかったからではないでしょうか。

アルカドの口を借りて語られる著者の指摘には、人とお金の本質を突いた言葉が少なくありません。
「私たちがそれぞれ必要経費と呼んでいるものは、自分で気をつけていない限り、必ず収入と等しくなるまで大きくなってしまうものなのです」。
この言葉もその一つでしょう。私たちは気をつけていないと、入ってきたお金を全て買い物などに使ってしまいがちです。

お金を使うときには、それが100%使う価値があるものかを見極める。
これもまた、資産を増やすための大切な知恵でしょう。

  • 2020年6月現在の情報です。今後、変更されることもありますのでご留意ください。
渋谷 和宏

渋谷 和宏

しぶやかずひろ/作家・経済ジャーナリスト。大学卒業後、日経BP社入社。「日経ビジネスアソシエ」を創刊、編集長に。ビジネス局長等務めた後、2014年独立。大正大学表現学部客員教授。1997年に長編ミステリー「錆色(さびいろ)の警鐘」(中央公論新社)で作家デビュー。「シューイチ」(日本テレビ)レギュラーコメンテーターとしてもおなじみ。

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