この記事では、退職金がいつもらえるのか、そしてどのような方法で支払われるのかを解説します。退職金の相場や受け取る際に知っておきたい税金についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

退職金はいつもらえる?

退職金制度とは、長年の勤労に対する報償的給与として、会社が従業員に支給する退職金についての取り決めのことです。

厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」によると、退職金を用意している企業の割合は74.9%と、おおよそ7割以上の企業が退職金制度を用意しています。

退職金がいつ、どういった形で支払われるのかについては、採用している退職金制度が企業によって異なるため、一概にはいえません。所属している企業によって「一度にまとめて支払われるタイプ」や「分割して年金形式で支払われるタイプ」があります。

退職金をいつ受け取れるのかわからないという場合は、自分の勤めている会社の退職金制度について事前に知っておきましょう。

一般企業の従業員

一般企業の退職金は、退職後1〜2ヵ月後に支払われることが多い傾向です。しかし、会社によっては個別の規定が定められている場合や、退職者が請求しなければならないケースもあります。

公務員

公務員の退職金は、国家公務員退職手当法に基づき、原則として退職後1ヵ月以内に支給されます。なお、地方公務員の退職金も国家公務員の制度等に準じることとなっているため、基本的に退職後1ヵ月以内に支給されます。

退職金の主な種類

退職金は、会社が導入している制度によって、受け取り方や請求方法が変わってきます。 ここでは、主な退職金制度の種類を紹介しますので、ご自身の勤め先がどのような制度を導入しているか確認しておきましょう。

確定給付企業年金(DB)

確定給付企業年金(DB)は、事業主が支給対象とする従業員と給付内容をあらかじめ定めておく制度であり、会社の規定に基づいた給付を確実に受け取れるため、「確定給付」と呼ばれます。支給開始時期は、一般的に定年年齢や規約で定められた受給可能年齢に到達した時点などです。なお、受け取り方法は年金または一時金、中途退職した場合は脱退一時金などがあります。

DBは、企業が生命保険会社や信託銀行など、外部の機関に掛金を拠出し、運用・管理を委任する仕組みです。基本的に、従業員は必要書類を自ら企業年金基金や保険会社などに送り、請求手続きをします。

企業型確定拠出年金(企業型DC)

企業型確定拠出年金(企業型DC)は、企業が従業員のために掛金を拠出し、従業員がその資金を自分で運用する制度です。運用結果によって、将来受け取る年金や一時金の額が変動する点が特徴です。企業の拠出額が確定しているものの、将来の給付額が確定していないことから、前述した確定給付企業年金に対して、企業型確定拠出年金と呼ばれています。

企業型DCは、原則として60歳以降に年金または一時金で受け取ることが可能です。基本的に、従業員は自ら運営管理機関に対して請求手続きを行います。

退職一時金制度

退職一時金制度は、企業が独自に積み立てた資金を、退職時に一括で支給する制度です。支給額は企業が定める退職金規定に基づいて決まり、勤続年数や役職、最終給与額などに応じて計算します。勤続年数が長くなれば長くなるほど、支給額は多くなるように設定されるのが一般的です。

退職一時金制度は企業独自の制度であるため、基本的には従業員が外部の機関に請求手続きをする必要はありません。ただし、最近は退職一時金の廃止や給付水準の見直しを進めるとともに、企業型確定拠出年金制度に移行する企業も増えています。

中小企業退職金共済制度(中退共)

中小企業退職金共済(中退共)は、単独で退職金制度を導入するのが難しい中小企業向のために設けられた退職金制度です。中小企業事業主の相互共済と国の援助によって、事業主が従業員の退職金を計画的に準備できます。

企業が中退共に対して毎月の掛金を納付することで、従業員が退職する際には、中退共から直接退職金が支払われます。

受け取れる退職金の相場

受け取れる退職金額は、勤務している会社ごとに違います。そのため、企業規模や退職理由ごとの相場を知っておくとよいでしょう。

勤続20年以上かつ年齢45歳以上の方の平均額(大学・大学院卒)

従業員数 定年退職 会社都合退職 自己都合退職
1,000人以上 2,191万円 1,906万円 1,928万円
300〜999人 1,662万円 1,499万円 1,118万円
100〜299人 1,347万円 1,495万円 793万円
30〜99人 1,282万円 694万円

【出典】厚生労働省「令和5年 就労条件総合調査 退職給付(一時金・年金)の支給実態」

ここで紹介した金額は、あくまでも目安です。業種や、会社が導入している退職金の計算方法でも退職金額は異なります。

例えば、近年では退職金の計算方法として、勤続年数や役職、企業への貢献度をポイント化して計算する、ポイント制を導入する企業も増えています。

自分の退職金額の計算方法は、就業規則や賃金規程で確認できるので、自分で計算してみましょう。

退職金の受け取り方法

退職金の受け取り方法は、企業の退職金規定や退職金支払いのために導入している制度の種類などによって異なります。

一般的には「一時金」「年金」「一時金と年金の併用」の3種の方法があり、それぞれメリットやデメリットがあります。

  一時金
(一括受け取り)
年金
(分割受け取り)
一時金と年金の併用
特徴 退職金をまとめて受け取る 一定期間にわたり、年金のように少しずつ受け取る 退職時に一部を一括で、残りは年金形式で受け取る
メリット
  • まとまったお金が手に入るため、住宅ローンの完済や車の購入など、大きな出費に充てることができる
  • 退職所得控除が適用され、税負担を軽減できる
  • 一括受け取りの場合に比べて、受け取り総額が多くなる傾向がある
  • 定期的に定額を受け取るため、お金の管理がしやすい
  • 各回の受け取り時(一時金・年金)の課税対象額が小さくなるため、税負担を軽減できる
  • 退職後の資金ニーズに対応させやすい
デメリット
  • 分割受け取りに比べて、受け取り総額が少なくなる傾向がある
  • まとまったお金が一度に入るため、管理が難しい
一括受け取りに比べて税負担が大きくなりやすい 一時金と年金の割合によっては、税負担軽減や退職後の資金管理などのメリットを活かしきれないことがある

一時金(一括受け取り)

退職金をまとめて一度に受け取る方法です。一時金で受け取る退職金は「退職所得」となり、「退職所得控除」が適用されます。また、他の所得とは分けて税金が計算される「分離課税」となるため、税負担の軽減につながるのがメリットです。

また、退職時にまとまった額のお金を受け取ることで、ローンの残債を完済するなど、セカンドライフに向けて資金的な準備をしやすくなる点もメリットです。

一方で、まとまった額のお金を受け取ることによって、無計画にお金を使ってしまいやすいリスクがある点には注意が必要です。

年金(分割受け取り)

退職金を分割して、一定期間にわたって年金形式で受け取る方法です。まだ受け取っていない退職金は金融機関等によって管理・運用されるため、総額では一時金で受け取るよりも多くなる傾向があります。また、定期的に安定した収入が得られるため、お金の管理をしやすいのもメリットです。

税金面では、年金で受け取る退職金は「雑所得」となり、「公的年金等控除」が適用されます。ただし、公的年金など他の所得と合算して税金計算されるため、場合によっては一時金の場合よりも税負担が大きくなる可能性があります。

一時金と年金の併用

退職金の一部を退職時に一括で、残りは年金形式で受け取る方法です。それぞれの受け取り額にもよりますが、一時金でローンの完済やセカンドライフに向けた生活準備、年金で退職後の生活費など、さまざまな資金需要に対応させやすいというのもメリットです。

税金面では、一時金部分は「退職所得控除」が、年金部分は「公的年金等控除」が適用されます。受け取る回数を分割することで、一度に課税される金額が縮小され、税負担の軽減につながるメリットもあります。

中小企業退職金共済制度(中退共)について詳しく解説

単独で退職金制度を準備することが困難な中小企業では、国の援助を受けられる中小企業退職金共済制(以降、中退共)に加入している場合があります。

ここからは中退共の制度について、詳しく解説します。

中退共の加入条件

中小企業が中退共に加入するためには、業種ごとの常時雇用する従業員数または、資本金の額・出資の総額の要件を満たしている必要があります。

中小企業退職金共済制度の特徴

原則、従業員は全員加入ですが、季節労働者、短時間労働者、試用期間中、定年が近く、短期間で退職することが明らかな者などは、加入させないことも可能です(加入することもできます)。

掛金は従業員1人あたり月額5,000円〜3万円で、掛金は会社の負担になります。

中退共の退職金額

中退共の退職金は、基本退職金と付加退職金の合計額になります。
基本退職金は、掛金月額と納付月数に応じて法令で定められた金額です。付加退職金は、運用状況などに応じて基本退職金に上積みするものです。

中退共の基本退職金額の目安

中退共の支給時期

中退共に加入している場合、会社が従業員の退職した月までの掛金を済ませていることを確認できなければ、退職金は支払われません。
会社の掛金納付方法によっては、2ヵ月以上かかることもあります。

また、退職金は「退職金(解約手当金)請求書」に基づいて、退職した従業員の預金口座に直接振り込まれるのが一般的です。
中退共で支払いの準備が整ったら、振り込み予定日の約2週間前に従業員宛に「退職金等振込通知書」が届くので、支払い明細や振り込み予定日を確認できます。

中退共の支払い方法

中退共は退職時に一括して受け取る一時払いで支払われますが、退職日に60歳以上で要件を満たしていれば、以下の支払い方法も選べます。

支払い方法

このように退職者の希望にあわせた受け取り方法が選択できます。

中退共の請求方法

中退共の受け取り請求は、退職者本人が行います。退職から退職金受け取りまでの基本的な流れは、以下のとおりです。

  • 会社に退職届を提出
  • 会社より「退職金共済手帳」を受け取る
  • 「退職金共済手帳」のなかにある「退職金(解約手当金)請求書」を記入
    • 口座確認欄に金融機関の押印を受けるか、普通預金通帳のコピー(金融機関名、支店名、口座名義人(カタカナ)、普通預金口座番号の全てがわかる部分)の添付が必要
  • 「退職金(解約手当金)請求書」および本人確認書類(マイナンバーおよび身元確認ができる書類)を中退共本部給付業務部へ送付
  • 退職金が口座に振り込まれる

退職金を受け取るうえでの注意点

退職金は退職後の生活を支える大切なお金です。退職金を受け取る際には、以下の点に注意しておきましょう。

退職金の受け取りに税金はかかる

退職金には所得税・住民税がかかります。ただし、通常の給与とは異なり、退職金の受け取り方によって、以下の税制優遇が適用されます。

  • 一時金で受け取る場合:退職所得控除
  • 年金で受け取る場合:公的年金等控除

特に、一時金で受け取る場合に適用される退職所得控除は、控除額が比較的大きいため、課税されてもほとんどの場合は少額です。

退職所得控除額の計算方法

退職所得控除額は勤続年数によって決まり、勤続年数が長くなるほど控除額も大きくなります。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数
  • 合計が80万円に満たない場合は80万円
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

具体的な例で計算してみましょう。

勤続15年で退職した場合:
40万円×15年=600万円

勤続25年で退職した場合:
800万円+70万円×(25年−20年)=1,150万円

受け取った退職金の額が、算出された退職所得控除額を下回る場合は、税金がかかりません。

申告書を出さないと源泉徴収される

退職金を一時金で受け取る場合の税金は、原則として退職金から源泉徴収されます。

ただし、退職金を受け取るまでに「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出しているかどうかによって、源泉徴収される税額が変わるため注意しましょう。

申告書を提出していれば、前述のとおり、退職所得控除が適用された税額が源泉徴収されます。退職金の金額や控除額によっては税金がゼロとなり、源泉徴収されずに退職金を受け取れる場合もあります。

しかし、申告書を提出していない場合は、退職金の全額に対して一律20.42%の税率で源泉徴収されます。

退職金の請求権は退職日から5年以内

退職金を自分で請求する必要がある場合は、時効に注意しましょう。退職金の請求権は、退職日から5年以内に手続きをしないと、時効によって消滅してしまいます。 せっかくの退職金を受け取れなくなってしまうことがないよう、退職後はできるだけ早めに請求手続きを行いましょう。

e-Gov 法令検索

退職金が支給されなかったときの対処法

もし、受け取れると思っていた退職金が支給されなかった場合、どうすればいいのでしょうか。

まず、会社に退職金を支払う義務があるかどうかを確認することが大切です。
退職金は、「長年の勤労に対する報償」、あるいは「優秀な人材に長年にわたって勤務してもらうための支払い」という位置づけです。

そのため、就業規則や賃金規程に退職金の定めがない、または、定められていても、勤続年数など退職金を受け取れる要件を満たしていない場合、企業は従業員に退職金を支給する義務はありません。

一方、就業規則や賃金規程で退職金の定めがある場合や、募集時に「退職金支給あり」などの文面が記載されていた場合、企業に支払い義務があります。

また、他の従業員に退職金が支給されていたことが証明できれば、退職金の請求が認められる可能性もあります。

所属していた会社に問い合わせる

企業に退職金の支払い義務があるにもかかわらず支給されない場合は、まず所属していた会社に問い合わせましょう。
それでも退職金に関して明確な返答がいつまでもない場合は、会社に請求書を送付します。

会社に請求書を送る際は、誰に差し出された文書か郵便局が証明してくれる内容証明郵便を利用すると、証拠として残ります。

退職金の請求権は退職後5年間行使しない場合、時効で消滅することが法律で定められています(労働基準法第115条)。退職金の支給が遅れている場合は、早めに状況を確認しましょう。

労働基準監督署に相談してみる

会社に退職金の請求書を送っても応じてもらえない場合は、労働基準監督署に相談してみましょう。相談時には、客観的な証拠にもなる就業規則や賃金規程など、退職金に関する定めがあることを証明する資料を持参してください。

その他、弁護士に相談するという方法もあります。
企業で退職金に関する規定が定められているにもかかわらず、支払われない場合は、自分だけでかかえこまず、第三者に相談をすることが大切です。

老後に向けて退職金の資産運用も検討しよう

退職金は退職後の生活を支える大切なお金です。退職金の支払い方法や、支払われるタイミングなど、勤務先によって異なるため、就業規則や退職金規程などを確認しておきましょう。

その際、税金のかかり方や管理の仕方なども、あわせて検討することが大切です。例えば、課税を抑えられるように一時金で受け取り、生活費や医療費など必要なお金は確保しつつ、一部を資産運用に回す方法もあります。こうすることで退職後の生活保障と将来への備えを強化できます。資産運用には、利益が非課税になるNISAを活用するのもおすすめです。

まだNISA口座をお持ちでない方は、三井住友銀行経由でSBI証券の口座開設を検討してはいかがでしょうか。SBI証券のさまざまな取引でVポイントが貯まりやすくなり、貯まったVポイントで投資ができるなど、退職後の資産強化に役立ちます。

SBI証券の口座を開設する
  • 2025年9月現在の情報です。今後、変更されることもありますのでご留意ください。

續恵美子

ファイナンシャルプランナー(CFP®、ファイナンシャル・プランニング技能士)。
生命保険会社にて15年勤務したあと、ファイナンシャルプランナーとしての独立を目指して退職。その後、縁があり南フランスに移住。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。
渡仏後は2年間の自己投資期間を取り、地元の大学で経営学修士号を取得。地元企業で約7年半の会社員生活を送ったあと、フリーランスとして念願のファイナンシャルプランナーに。生きるうえで大切な夢とお金について伝えることをミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などで活動中。

シリーズの記事一覧を見る

関連記事

NISA,つみたてNISA,投資信託,節税,経済