旭タンカー 株式会社

  • 代表者
  • 春山 茂一
  • 設立
  • 1951年3月1日
  • 所在地
  • 〒100-0011 東京都千代田区内幸町1-2-2
  • 従業員数
  • 298名(2023年8月時点)
  • 事業内容
  • 海運業

石油製品タンカーを中心に、内外航合計約150隻を運航する海運会社です。内航事業では大手石油会社や商社向けの石油/化学品等の国内輸送、外航事業では原油/ケミカルタンカー等の運航を展開しています。2022年3月には世界初のピュアバッテリー電気推進タンカー「あさひ」が竣工、同型の「あかり」も今年3月に竣工。6月にはハイブリッドEV貨物船「あすか」が竣工し、安心と安全を届ける海運会社として地球環境や社会課題の解決に取り組んでいます。

エネルギー効率の良い海運も
例外ではない

2015年に採択された、気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」。この達成に向け、日本は2030年度までにGHG(温室効果ガス)排出量を2013年度から46%削減するという目標を掲げました。
これを受け、海運業界においても、内航船については約17%の削減目標が定められました※。一方で、海運業界のCO2排出量削減に対する意識が高まってきたのは、実はここ最近のことではないかと考えています。
※ 外航船については、国際海事機関(IMO)が2023年に策定した目標に準じて、2030年までに少なくとも20%、努力目標として30%の削減目標が設定されている
というのも、海運はほかの輸送機関と比較して、少ないエネルギーでたくさんの貨物を運ぶことができる=エネルギー効率が良いという意識があり、加えて環境負荷の低い輸送モードとの思いもあり、運輸業界の中では危機感を持ち始めたのが遅かったように感じます。
しかし、ヨーロッパを中心に海運業界でもCO2削減の動きが活発化してくる中で、当社としても何かやらなくては、という問題意識が生まれてきました。具体的な動きとして始めたのが株式会社e5ラボです。これは当社と、(株)エクセノヤマミズ、(株)商船三井、三菱商事(株)との共同出資で、電気推進(EV)船の開発を目的に2019年に設立した組織です。このプロジェクトから当社はEVタンカー2隻を建造、東京湾内で船舶用燃料供給船として従事しており、今年6月にはハイブリッドEV船1隻が瀬戸内海で運航を始めています。

CO2削減のスタートラインに立つ
ための見える化

こうした活動と並行して、社内に「経営企画・環境サステナビリティ推進チーム」という組織を設立し、CO2削減に向けた具体的な施策を検討するための調査を開始しました。
重油や軽油を燃料として用いると消費量の約3倍のCO2を排出します。当社は年間約10万トンの燃料を消費しているので約30万トンのCO2を排出していることは認識していたのですが、当社が国内外で運航している120隻を超える船はサイズも航路もさまざまであり、削減目標を定めるにはまずどの船からどれだけのCO2を排出しているのかといった内訳を知る必要がありました。
そのときに初めてCO2排出量可視化ツールというものがあると知り、さまざま比較するなかで、Sustanaを選びました。
Sustanaに決めた理由は、何と言ってもユーザーインターフェース(UI)の良さです。船や事業所ごとにデータを入力しているのですが、それぞれのCO2排出量の推移が一目でわかります。社内会議でもSustanaの画面を投影しながら話し合っており、排出量や傾向を見ることでより具体的な議論ができるようになりました。当社の事業内容にも合っており、データの整理がしやすい点も気に入っています。また、費用対効果も非常に良いと感じています。

排出量で顧客から選ばれる時代が
いずれ来る

見える化をして初めて気が付いたのが、運航船以外のCO2排出です。たとえばオフィスビルや社員の移動用の自動車からも排出されている、考えてみれば当たり前なのですが数値化されて改めてそのことに気付かされました。当社が入っているビルは昨年4月にCO2フリー電力が導入されたのですが、これが当社のCO2排出にどう影響するのかということを数値として具体的に意識することの重要性を痛感しています。これは我々にとって新しい視点でした。
ほかにも、うみのまちづくり株式会社という瀬戸内海の藻場の再生を目的とする会社を設立しています。これは、当社が前述のEVタンカー等の取り組みを行っていることを知った方がお声がけしてくださり、参画を決めました。
近年、温暖化の影響で藻が減少しています。藻をはじめとする海藻が吸収するCO2は「ブルーカーボン」とよばれています。藻の成長は陸上の森林より早く、また漁場の育成にも役に立つと言われています。当社はもともと下関からスタートした会社でもあり、豊かな里海を取り戻し、CO2削減に貢献するとともに瀬戸内の活性化に少しでもお手伝いできないかとの思いで、活動を続けています。
当社は海運業なので、当社のCO2排出は、お客さま企業のScope3(※2)に入ってきます。現状、排出量を理由に取引が始まった、あるいは無くなったということはないのですが、近い将来必ずこれまでの安全や安定輸送という要素に加えてCO2排出量がサービス選択の重要ファクターになることは間違いなく、CO2排出量をより具体的に削減することが、そのまま当社のセールスポイントになるということを確信できたのが、見える化によって得られた大きなメリットだと考えています。
※2 Scope1:自社が直接的に排出した温室効果ガスの量、Scope2:他社から供給された電気等の使用によって排出された温室効果ガスの量、Scope3:Scope1、2以外のサプライチェーンから排出された温室効果ガスの量

Sustanaを新しく船を造る際の検討材料に

先日、経営計画を議論するためにマネージメント層で合宿を行いました。環境問題は最も重要な経営課題なのですが、Sustanaのデータを用いてCO2削減について具体的な議論をすることができました。たとえば、船の大型化(1隻が運ぶ荷物量が仮に倍になっても、燃料を倍使うわけではないからです。実際は港や航路の事情でここまでシンプルにはいきませんが…)のほか、船のサイズや移動距離によってはLNGやメタノール、アンモニア等、CO2排出量の少ない燃料の選択も俎上にあがりました。もちろん我々が先行しているEV船の活用についても議論しています。
今後は船を新しく造る際に、このように船型や大きさ、使用燃料等をどう工夫できるかという検討材料として、Sustanaのデータを活用したいと考えています。
貨物船は種類にもよりますが竣工後15〜20年は使います。そのため、私たちにとって日本がカーボンフリーを目指す2050年というのはそう遠くない未来。今の行動が2050年の世界を作ると思って動き出さなくてはいけないと思っています。
資料作りやデータ集計等が生業ではない私たちにとってSustanaは、効率的に合理的にCO2削減施策を考えるうえでの大きな助けとなるツールです。今後の施策を具体化する際にも、欠かせないパートナーとして一緒に歩んでいきたいと思います。

審査員コメント

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  • 磯和 啓雄
  • 三井住友フィナンシャルグループ
  • 執行役専務 グループチーフ・デジタル・イノベーション・オフィサー

旭タンカーさまには、Sustanaをリリース翌月の2022年6月より導入いただいています。多くの施設・組織を登録し、事業部門ごと、そして1隻あたりのCO2排出量の可視化を実現することでCO2排出量削減に向けた具体的な取組につながっています。EV船「あかり」は、三井住友ファイナンス&リース株式会社と内航船初の「サステナビリティ・リンク・リース」(CO2削減実績に応じてリース料を変動させる環境対応型リース)を締結する等、SMBCグループのソリューションとつながりながら事業収益の追求とCO2削減を両立しており、脱炭素社会の実現に向けて挑戦している点を評価いたしました。

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  • 山田 幸美
  • 株式会社日本総合研究所
  • リサーチ・コンサルティング部門 環境・エネルギー・資源戦略グループ マネジャー

Sustanaを早期に導入され、3ヵ年のScope1,2排出量を可視化されています。旭タンカーさまのScope1,2は海運をご利用されるお客さまのScope3となるため、削減活動の推進が喫緊の課題です。経年のCO2排出量を基に、Sustanaの削減施策レコメンド機能を活用され、2隻目のEV船導入、ブルーカーボン事業を目的とした新設会社立ち上げ等、いち早く削減活動を推進されています。今後は、全従業員がCO2排出量をリアルタイムで把握出来る環境を整える等、脱炭素経営の社内意識向上の施策をご準備されており、「Connect Solution賞」にふさわしいお取組であると考え、選定させていただきました。

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  • 茂木 龍哉
  • 株式会社日本能率協会コンサルティング
  • SX事業本部 本部長 シニア・コンサルタント

海運業者におけるCO2排出量算定、及び削減に向けた課題としては、船舶の種類やサイズ、燃費等の違いによるデータ収集の困難さ技術投資の判断や船舶の効率的な運航計画等が挙げられます。そのような環境の中で旭タンカーさまの取組は、Sustanaを活用し、事業部門ごとの排出量、さらには、1隻単位での排出量の見える化を実現し、EV船の導入等削減に向けた取組も具体的に進めておられます。
今後の課題としては、削減目標達成に向けた追加施策の積み上げ、効果試算の精度向上の為のSustana機能の更なる活用が考えられます。物流業界の先進事例となる活動を期待しています。