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公開日:2023.04.07

労務管理とは?具体的な業務内容や課題、システム導入事例などを解説

労務管理とは?具体的な業務内容や課題、システム導入事例などを解説

労務管理は、労働関連法令を遵守するだけでなく、職場環境の改善や従業員の健康管理など企業を運営する上で非常に重要です。近年、従業員が安心して組織の中でも自然体でいられる環境を指す「心理的安全性」を職場で確保するという考え方も広まっています。心理的安全性が高まると、チームのパフォーマンスが向上し、企業の業績向上に繋がります。心理的安全性を高めるには、労務管理を徹底することが大切です。
本記事では、「労務管理」として求められる具体的な業務内容や課題、業務効率化の方法などについて解説していきます。

労務管理とは?

「労務管理」は、一般に、従業員の労働に関連する事項を管理する業務を指します。具体的には、雇用契約書の作成、就業規則の作成・改定、労使協定の作成、勤怠管理、給与計算、福利厚生、社会保険の手続、安全衛生管理、職場環境・業務改善等が挙げられます。

労務管理を行う目的

労務管理の主な目的は生産性向上と法令違反等のリスク回避の2つです。適切な労務管理を通じて、職場環境の改善や従業員の健康維持を行い、心理的安全性の高い職場を構築できれば、従業員は、心身ともに健康な状態で業務に取り組むことができるほかモチベーションが上がり、生産性向上に繋がります。生産性が向上し企業の業績が上昇すれば、優秀な人材の採用に繋がり、更なる生産性向上や企業価値の向上が期待できます。
また、就業規則の整備や勤怠管理、給与計算を疎かにしてしまうと法令違反のリスクや従業員からのクレームにつながります。最近は口コミサイト等を通じて、各企業の労働環境が外部に公開されやすい社会となっており、一部の悪質な労働環境が公開されることで、企業価値の毀損や社会からの信頼失墜にも繋がりかねません。法令を遵守した労務管理の体制を整備し、これを運用することは、法令違反や信頼失墜のリスク回避に繋がります。

人事管理との違い

労務管理や人事管理は、いずれもバックオフィス業務にあたります。労務管理と人事管理の違いについては、各企業が採用している人事労務管理制度によってさまざまですが、一般的には、次のような違いがあるとされています。

  • ・人事管理:人事評価や人材育成、採用など、個々の人材に着目し、その処遇を管理すること
  • ・労務管理:従業員の労働に関連する事項など、組織の制度を管理すること

労務管理の具体的な業務内容

一般に、「労務管理」として求められる業務と、当該業務に関連する主な法令は以下のとおりです。

労務管理の具体的な業務内容 主な関連法令
法定三帳簿 労働基準法
労働契約の締結・管理 民法、労働基準法、労働契約法
就業規則の作成・管理 労働基準法、労働契約法
保険手続(社会保険、労災保険、雇用保険等) 労働者災害補償保険法、雇用保険法、健康保険法、厚生年金保険法
勤怠管理 労働基準法
給与計算 労働基準法、最低賃金法
福利厚生 労働基準法、労働契約法
安全衛生管理 労働安全衛生法
職場環境・業務改善 労働基準法、労働安全衛生法

法定三帳簿の作成

法定三帳簿とは、労働基準法により、企業に作成及び保存が義務付けられている帳簿のことです。具体的には、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿の3つが該当します。

・労働者名簿

労働者名簿は、氏名や性別、住所、雇入日、退職日など従業員一人ひとりの情報を集約したものです。退職(解雇を含む)又は死亡日から起算して3年間保存しなければなりません。

・賃金台帳

賃金台帳は、基本給や手当など従業員一人ひとりに対する給与の支払状況や労働時間数を記載したものです。賃金台帳も、最後の賃金について記入した日から起算して3年間保管しなければなりません。

・出勤簿

出勤簿はタイムカードの記録や労働日数など従業員の出退勤状況を記録したものです。出勤簿も、最後の出勤日から起算して3年間保管しなければなりません。

労働契約の締結・管理(雇用契約書)

労務管理として重要な業務の一つには、雇用契約の作成・締結とその後の管理があります。
雇用契約書とは、民法第623条に基づいて、企業と従業員の間で合意した雇用契約の成立を証明する書類のことです。一定の労働条件に関しては、労働契約締結時に書面や電子メール等で明示しなければならない旨が労働基準法第15条第1項、同法施行規則第5条で定められており(労働条件明示義務)、雇用契約書はこの義務を履行するための書面としても重要な意義を有します。

就業規則の作成・管理

常時10人以上の従業員を雇用している使用者は、労働時間や賃金、退職に関する事項等を定めた就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署に届け出ることが労働基準法第89条で義務付けられています。また、就業規則の作成にあたっては、当該事業場の従業員の過半数で組織する労働組合、当該組合がない場合には従業員の過半数を代表する者の意見を聴取した上で、従業員に周知しなければいけません(労働基準法第90条、第106条)。
周知の方法としては、次のような方法としなければなりません(労働基準法施行規則第52条の2)。

  • 1.常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
  • 2.書面を従業員に交付すること
  • 3.磁気テープ、磁気ディスク等に記録し、かつ、各作業場に従業員が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること

各種保険の手続(社会保険、労災保険、雇用保険など)

健康保険や厚生年金保険などの「社会保険」、「労災保険」、「雇用保険」などに関連した手続を行うことも、労務管理の重要な業務の一つです。従業員を採用したときは健康保険・厚生年金保険や雇用保険の資格取得、従業員が異動・退職したときには資格喪失、育児休業を開始したときには育児休業給付金など各種給付金の申請と様々なタイミングで手続が必要となります。

勤怠管理

従業員の始業時刻、終業時刻、遅刻・早退・欠勤などの勤怠管理を行います。厚生労働省が公表している「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によると、適正な始業時刻及び終業時刻の確認・記録のためには、

  • 1.使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること
  • 2.タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること
  • 3.自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行わざるを得ない場合には、次の措置を講ずること
    • ①自己申告制の対象となる従業員に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと
    • ②実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用等について十分な説明を行うこと
    • ③自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること
    • ④自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を従業員に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること
    • ⑤従業員が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、従業員による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと

が認められています。また長時間労働をしていないか定期的に監督し、必要に応じて業務分担を調整するなどして長時間労働の抑止に努めることも大切な業務です。

給与計算

従業員の給与、各種手当、時間外労働に対する割増賃金、賞与、社会保険料などの計算を行います。従業員の増加や雇用形態の多様化により、計算が複雑になります。複雑な計算をミスなく行うためには、労働基準法等の労働関連法令のほか、所得税法や地方税法等の租税法、企業独自のルールについて定めた就業規則などを理解する必要があり、多くの知識と経験が必要となる場合があります。

福利厚生

福利厚生は従業員とその家族に利益を供与するもので、これらの整備や管理も労務管理の一環と位置付けられることがあります。福利厚生を充実させることで従業員の満足度や心理的安全性が高まるため、非常に重要な制度です。なお、福利厚生は「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」に分けられます。

・法定福利厚生

法律で定められた福利厚生のことで、健康保険、介護保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険、子ども・子育て拠出金等が挙げられます。

・法定外福利厚生

企業が任意で導入する福利厚生のことで、社宅の提供、社員食堂の運営、育児支援など、企業が独自に導入するもので多岐にわたります。

安全衛生管理

安全衛生管理は、労働安全衛生法によって義務付けられています。具体的には、職場における安全衛生を確保するための措置、従業員の健康維持などが当てはまります。雇入れ時や年1回の健康診断の実施や従業員に対する安全衛生に関する教育のほか、職場の規模に応じて産業医や衛生管理者、安全管理者、安全衛生推進者等の選任を行う義務があります。適切な安全衛生管理を怠り、法令に違反した場合には、罰則が課されることもあるため、注意が必要です。

職場環境・業務改善

ハラスメントの防止や高齢者の活躍促進、障害者の雇用、女性の活躍促進など、従業員が働きやすい職場環境を構築することも労務管理の重要な業務の一つです。2019年の労働施策総合推進法の改正により、「パワーハラスメント対策」が事業主の義務となり、セクシュアルハラスメント等の防止対策も強化されています。厚生労働省の「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」を事前に確認することが望ましいです。

労務管理における課題

労務管理における課題は様々ですが、その中でも注力すべき課題を4つご紹介します。

労務管理における4つの課題

コンプライアンス(法令順守)

時代の変化に対応し、労働基準法をはじめとする「労働法」が改正されていきます。具体例として2019年には、いわゆる働き方改革に伴い法改正がされるなど、近時、重要な法改正が行われています。法改正に関する情報は定期的に確認し、コンプライアンスを徹底しましょう。

多様化する働き方への適応

近年、「働き方改革」が進み、「テレワーク」や「フレックスタイム制」、「みなし残業」、「副業・兼業」など人々の働き方が多様化しています。旧態依然とした労務制度や労務管理を続けていては、従業員の不満も溜まっていくでしょう。多様な働き方に対応するために就業規則の見直しや新たな福利厚生の整備に取り組むことが重要です。
なお、労務管理システムを用いて就業規則や規定の内容を更新することができます。時代の変化や従業員の働き方に合わせた規則や規定にしていくことで、従業員のモチベーションも向上し、優秀な従業員の確保と定着にも繋がります。また、リモート環境で利用可能な労務管理システムを用いることで、労務管理担当者が在宅勤務できるようになるというメリットを受けることも考えられます。

労務管理の効率化

企業の生産性向上を図るためには、労務管理を含むバックオフィスや間接部門の業務効率化を行う必要があります。単に現状の労務管理を維持・継続するだけではなく、どうしたら労務管理を効率化できるかを考えることが大切です。
なお、労務管理システムには、人材データとの連携により従業員の社会保険や雇用保険といった書類を自動作成する機能や書類をシステム上で電子配布する機能を持つものもあり、紙で作成する場合に比べ業務効率化を図ることができます。また、ペーパレスにより紙の紛失リスク低減にもつながります。

情報管理の徹底

労務管理では、従業員の氏名・連絡先・住所といった個人情報を扱いますが、最近は紙ではなく、データで個人情報を管理する企業も多いでしょう。情報管理やセキュリティ面で問題を起こすことは、企業の大きなイメージダウンに繋がるため、個人情報漏洩やセキュリティ対策に関する規定も策定しておくことが求められます。
なお、労務管理システムを導入することで、アクセス制限の設定などの情報管理やセキュリティ強化、さらには個人情報漏洩やセキュリティ対策の規定作りも強化可能です。

クラウド人事労務サービスにご関心のある方は、こちらも合わせてご参照ください。

労務管理システムの導入事例

前述のとおり、労務管理における課題に対し、労務管理システムの導入が課題解決につながることも多く見受けられます。
ここでは、企業の労務管理システム導入に関する事例を3つ紹介します。

日用品メーカーA社の事例:コロナ禍でテレワークが進む中、従業員だけでなく労務担当者も在宅勤務が実現

日用品メーカーA社は全国各地に事業所があり、人事労務に関する各種書類の郵送に要する時間が課題になっていました。また、労務担当者は郵送するために出社する必要がありました。労務管理システム導入後は、労務担当者は書類の郵送をする必要がなくなり、また家のPC画面上で書類の画像を確認できるようになったため、出社する場合と比較して作業時間が半減しました。

B市役所の事例:8000枚以上の紙を削減

B市役所では、多様な雇用形態の従業員を雇い入れており、8000枚以上の年末調整関連の書類の印刷・配布・回収に大幅な時間がかかっていました。そこで、労務管理システムを導入し、年末調整関連の書類を電子化しました。その結果、8000枚以上の紙の印刷・配布・回収の業務時間・コスト削減を実現することができました。

専門商社C社の事例:API連携で他のソフトと連携し、スピーディーなバックオフィス業務を実現

専門商社C社は、目的に合わせていろいろな会社のシステムを比較検討し、別々に導入していたため、各システム間の従業員情報等のデータ連携ができず、データの二重入力等の無駄な業務が発生していました。このような課題への対策として、API連携ができる労務管理システムを導入し、各システム間での従業員情報等の情報連携を可能にしました。その結果、無駄な業務が削減され、スピーディーに労務管理業務を遂行できるようになりました。

企業の業績向上や存続のためにも、労務管理の改善は重要

今回は「労務管理」の具体的な業務内容や課題、業務効率化の方法についてお話してきました。「労務管理」は、単に労働関連法令を遵守するだけでなく、従業員の働き方や職場環境などを改善し、従業員の心理的安全性を高めるために重要な業務です。心理的安全性が高まると、チームのパフォーマンスが向上し、企業の業績向上に繋がります。そのため、労務管理の改善は、企業が存続していくために非常に重要だと言えるでしょう。

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(※)2023年4月7日時点の情報のため、最新の情報ではない可能性があります。
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